俺が《六花》で二つ名で呼ばれるのは間違っている。 作:萩月輝夜
「はぁっ!」
クローディアは追手である甲影の短刀を起動している【パン=ドラ】の右の刃で受け流し、左の刃で切り裂いた。
「ーっ」
声もなく甲影は胸を切り裂かれ地面に突っ伏し血溜まりが広がるが死ぬほどの深手ではなく傷口は直ぐに復帰して追ってこれるほどの浅い傷でもなかった。
クローディアは直ぐに踵を返し倉庫街を走り出した。
身体の至るところに切り傷と制服が破れていたが幸いにして軽微であるが曇天が空を埋め尽くし今にも大雨が降りそうな天気はまるで今のクローディアの心情を表しているようである。
湾岸ブロックに有る一定間隔で設置されている監視カメラを避けつつ作業している無人重機が空のコンテナを搬入するためにゲートを開いたのを確認し巨大なコンテナが運び込まれるドーム型の大型倉庫に身を潜めた。
普通であれば都市部の湾岸エリアは作業員がいて警備員が巡回しているが各学園の倉庫街は徹底して無人化が施されているので人の気配は無く丁度良かった、と言えるだろう。
「ふぅ…流石に厳しいですね」
入り込んだ大型倉庫でクローディアは独り言のようにコンテナに背を預けて深い息を吐いた。
それもそうだろう早朝から今までの半日以上を刺客と命を賭けた鬼ごっこをしているのだ覚悟と想像していた以上の疲労と負傷をしている。
クローディアが逃げ仰せているのは
蜂也によって再錬成されたこの純星煌式武装の未来予知のストックは睡眠をとることで蓄積されるので悪夢にうなされなくなったことでその効果は数倍、”八百”ほど有ったストックは今”三百”程度に減っていた。
まだ、余裕があるといってもこの囲まれている状態では無意味な使用は避けなければならない。
「………」
携帯端末へ手を伸ばそうとするが今現在其れが使えないことを思いだし取り止める。
夜吹の一族に追われたその際に彼ら一族のみが扱える特殊な術、人避けの術や音や電波を遮断する結界を張ったりとするのだ。
厄介なことにそれは星辰力をほとんど消費しないためその兆候がわかりづらく対処がしにくい、というのがあるのだ。
「とは言え、状況的には概ね予想通りと言ったところですか…」
クローディアは双剣の発動体を握り締めて苦笑する。もう少しでクローディアの願いは叶う。
クローディア・エンフィールドが唯一抱いた夢。
それは決して他人には理解されず、自分勝手な望みである。漸く、其れが手に届きそうなのだ。
「…その為にも、こんなところで命を落とすわけにはいきません」
その決意を表明しているのにクローディアは自分自身の笑みを押さえることが出来なかった。
いつものような完璧な笑みではなくもっと純粋な…
「っ!」
刹那、クローディアは近くに有るコンテナに飛び乗るとその瞬間に連続して手裏剣がコンテナに突き刺さるが一歩クローディアの方が早く回避に成功する。
クローディアはコンテナの上を疾走し影と同化して迫り来る追手の数を数える。
「ひぃ、ふぅ、みぃ…と四人ですか。これはまともに相手などしていられませんね」
手裏剣が投擲される。
その瞬間クローディアはそう呟き後ろへ倒れるようにすると次の瞬間に壁が開いた。
彼女は攻撃を受けた瞬間に搬入口へ移動しタイミングを見計らって脱出路にしていたため素早く逃げ出し外へ着地すると同時に大雨降りしきる嵐の中を走り出した。
カウントは未だある、だがそれを使いきるには早すぎた。
夜吹の一族の頭領である夜吹撫塵斎が未だに姿を現していない為である。
命を繋ぐためのカウントを残すためにはひたすらに逃げ回るしかない。それが”夢を叶える道標”であるが為。
◆ ◆ ◆
「………」
「思いの外梃子摺っておるようじゃのう」
学園湾岸ブロックの自動制御の貨物クレーンの上にて撫塵斎は部下である甲影の一人より報告を受けその眼下に広がる景色を見下ろしていた。
雨に揺れる灰色の装束は何処か幽玄めいて不気味な光景だった。
「やはり初動で失敗したのが痛手であったか…あれ程までに控えろ、と釘を指した筈じゃが…あの馬鹿息子め。才覚がなければとっくに切り捨てていたものを…」
顎の撫で付けた髭を触りながら愚痴を溢す。
クローディアが逃げおうせたのは息子の英士郎がその情報を漏らしたことによるものだと感づいていた。
英士郎含む”影星”は今現在撫塵斎達のバックアップに動いているが息子が自分達の仕事を手伝うとは思いがたくそして部屋に入り込んだ時点で仕留めきれなかったことが失敗であり失態であったのだ。
夜吹の一族は暗殺や諜報戦が主体であり武力行使の部隊ではない…とは言っても相手は一学園の生徒会長で序列二位というそれだけの肩書きの少女で有るが決して侮っていたわけでは無かったが此処まで手梃子摺るとは思っても見なかった。
都市部に出さぬように囲い星導館学園の湾岸ブロックに追い詰めたのは良かったが今思えばそれは”誘い込まれたのでは”と考えてしまっていた。
「監視カメラにも映らぬ、甲影の者達を撒いて見せる…これは誘い込まれた、と判断した方が良さそうじゃな。が、あのお嬢ちゃんよりもその手にしているものの方が厄介かのう?」
クローディアのスペックは確かに高い、だがそれは甲影の集団に比べれば落ちる、となればそれを補って余りある少女が手にしている《
「(…しかし、それらを考慮にいれたとしても儂が想定していた段階より遅い…なにか別の要因が儂らの行動を阻害している…?)南に配置した連中はどうした?それと、斥候に出した者達の戻りが遅いのう?」
「それが少し前から連絡が…」
「ッ!?」
近くにいた甲影よりの報告を聞いていた撫塵斎はその瞬間にクレーンの上から大きく跳躍しその場を離れたと同時に先程まで会話をしていた甲影が入れ替わり守るように立ちふさがるとその者は突如として現れた人影に蹴りを食らい近くに有ったクレーンへ叩きつけられていた。
「……」
一切の音もなく忍び寄り攻撃を仕掛けてきたのは狼の面を被った女であった
護衛の一人を始末しクレーンへすたり、と着地すると撫塵斎と対峙しその正体は謎に包まれたままであったが相対する撫塵斎は看破していた。
「…誰かと思えば、界龍の小童か」
撫塵斎は目を細め顎髭を撫でながら着地した仮面を被った女に向けてそう告げた。
「湾岸ブロックとは言え白昼堂々星導館の敷地内に忍び込むとは…大胆なことをするものよ《醒天大聖》」
『…なぁんだい。やっぱりバレバレだったか』
撫塵斎の目の前に空間ウィンドウが開かれて文字列が羅列され女…アレマ・セイヤーンは狼の意匠を象った仮面を取りにんまりと笑みを浮かべた。
「嘗ての序列一位が今はこんな裏仕事に身をやつしておるとは…堕ちたモノよ《万有天羅》の狗が。」
『人間年取ると丸くなるって言うがありゃ嘘だね。』
撫塵斎はアレマに挑発を掛けるが乗ってこない。
「(流石に元序列一位…この程度の挑発では動かぬか…まぁ当然と言えば当然じゃがな?)それにしても良いのか?お主らの行動は明らかな星武憲章違反だろうに。これが露見すれば界龍のみならずあの二代目もただでは済まぬぞ?ましてや今回の一件でお主達が得るものなど無いであろうに。まさに狗死か」
嘲笑うような言葉にアレマは文章で笑いを表現した。
『くくくっ…かっかっか!今更何をいってるのかねぇ…あたしら睚眦は他所の腑抜け達とは違って統合企業財体の利益と学園の損得で動いてる訳じゃない。《万有天羅》が”こうしろ”と命じられたそう動くだけの手足だ。あんたらだってそうじゃないのかい?夜吹の一族の頭領さんよ?』
「…ふむ、小童が言いよるわい…じゃがその通りじゃのう。お前さん儂の息子より見込みがあるぞ」
『正直期待はずれだよ。まるで歯応えがない。これじゃ野良仕事しながらうちの学園の雑魚たちと遊んでいた方が未だ楽しかったな』
「なるほどのう、お主がうちの部下達を潰しておったのは」
アレマ・セイヤーンは界龍第七学園の元序列一位。氾星露にその座を譲ったとは言えその実力は本物であり撫塵斎率いる夜吹の一族は血統により発展を続けて精鋭化してきた集団であり個々の能力を比べればアレマがそれらを倒すのは不思議ではない。
だが、それでもたった一人の戦闘凶に倒されるほど脆弱なものではなかった。
「じゃが…お主に構っているほど儂らも暇ではないのでな」
撫塵斎がそう告げた瞬間に周囲に同じ背格好の黒装束がアレマを取り囲む。
『あれえ?おかしいね…あんたは向こうで倒して…そっちのあんた…向こうのお前…そっちのあんたは…今しがたあたしが倒したんだけどなぁ?』
「うちの連中は皆頑丈でのう」
そう言い終えると同時に取り囲む四人の甲影がアレマに飛びかかり押さえ込もうとするがそれを払い除け捌ききり先程まで囲んでいた影をクレーンへ激突させ無力化させた。
「ほぉ…やりおるな。」
『星露ちゃんに比べたら、あんたらの動きなんて止まってるみたいなもんさ』
そう述べるアレマは実際に息一つ切らしていない。
『さぁて…前菜はそろそろ食い飽きた…そろそろメインディッシュを食らおうとしようかねぇ?』
アレマの強烈な眼光が撫塵斎へ向けられると当の本人は天を仰いで頭をぽりぽり、と掻いた。
「はぁ…確かにお主は強い。それは間違いなかろうて…じゃが余り大人を舐めるでないぞ小童。」
『へぇ…?だったらどうするって?』
アレマはニタリ、と笑いを撫塵斎へ構える。
「…少しばかり教育してやるわ。精々感謝せい。」
そう言って撫塵斎は掌を上に手招きしてみてたのだった。
◆ ◆ ◆
大雨をその一身に受けながら蜂也は目的地へと飛翔していた。
英士郎によってもたらされたクローディアの現在位置である星導館学園の湾岸ブロックに向けてだ。
この湾岸ブロックに立ち寄るには通常の陸路は使用できず一つ運河のような水路を泳ぐが船舶で通るルートで二つ目はアスタリスク都市部から繋がる資材運搬ルートであり三つ目は星導館学園の内部から湾岸ブロックへ通る地下通路を通っていくのだが此処は地上のルートと同じく生徒会長や副会長が許可を出したものしか通れないルートであったが蜂也はその許可権を持っているのでカードリーダーを翳して鉄網格子のゲートを解放し走り抜け湾岸ブロックへ侵入をしていた…というのを無視して大空から直接湾岸ブロックへ向かう。
『主、気を付けろ。既に戦闘と何人かが待ち伏せをしているようだ。』
(ああ。敵意と殺気が混じりあって胸焼けしそうなレベルだが構ってる暇はない。)
飛翔し湾岸ブロックに近づくと『壊劫の魔剣』が知らせてくれているが既に周辺に入った瞬間に蜂也は感じ取っていた。一見平和に見える湾岸ブロック
『綺凛殿たちには連絡を入れたのか?』
(ああ。俺が通行許可をしたから学園の地下エリアから上がってくるだろうが…距離が距離だから直ぐにはこれないだろ)
『そんなことを言っているが本当は綺凛殿達を巻き込まぬようにした配慮であろう』
(………そんなんじゃねえよ)
ホルダーに潜む《壊劫の魔剣》がそう告げると蜂也は反応を見せる。
(俺一人で敵陣に突っ込んでクローディアを助け出す。それが最善で最速て一直線だからだ。正直、天霧は長く持たないしリースフェルトはこの天候で威力減少、綺凛ちゃんに至っては多対一は苦手と来た。だとしたら俺が一番動くのが早いに決まってる。)
『全く持って我が主は…天の邪鬼よな。なぁ主よ』
(…なんだ)
『主は普段からクローディア嬢の触れ合いを鬱陶しいと思っているのにどうして助ける?』
《壊劫の魔剣》の問い掛けに蜂也は迷うこと無く答えた。
(…決まってるだろ。アイツは俺の世話してくれた奴でその望みを叶えたいのなら其を叶えてやるのが俺の仕事だ…それに)
湾岸ブロックを見据えて蜂也が告げた。
(クローディアが”運命”なんて陳腐な言葉で全部諦めた表情を見るなんて…俺の精神衛生上宜しくねぇんだよ)
『ふっ…主は正真正銘天の邪鬼よな』
(やまかしいわ)
蜂也はホルダーの上から《壊劫の魔剣》を殴り付けた。
『ぬぅ…!全く純星煌式武装扱いの荒い奴よ…』
やり取りを終えて湾岸ブロックの入り口に到着し足を踏み入れると人の気配はなく閑散とした倉庫地帯は大雨に晒され立ち上るクレーン達、それらを照らす街頭は雰囲気も相まって巨大な怪物に見えるだろう。
不気味なほどに静まり返っていた。
「…音がしない。それに人の気配がしないのは認識阻害と人避けの結界が張られているみたいだーーーーッ!?」
言い終えるその前に蜂也はその場から飛び退くとその場に積み重なっていた大型のコンテナが雪崩のように降り注ぎ地面へ突き刺さった。
「こいつは…」
「生憎ですが此処から先に通すわけにはいきませんね…」
何処からともなく声が響いたかと思えば蜂也の進行方向に先ほどと同じようなコンテナが降り行く手を遮るように突き刺さって壁のように聳え立った。
「どうでしょう?此処は大人しくお引き取り頂けませんでしょうか?」
積み上がった壁の頂点にはフードを被った人影が見下ろしている。
目深に被ったそのフードは先ほどの英士郎と同じような格好をしていた。
「………」
「おやおや?驚いて声も出ませんか。《戦士王》」
「…誰だお前。」
聞いたことのあるような、だが覚えていないのはさほど重要な人物ではなかったのだと結論付けて動き出そうとした蜂也だったが頂上に立つフードを目深に被った男は怒声を上げフードを脱いだ。
「なッ…!?私ことを忘れたとは言わせませんよ《戦士王》ッ!私サイラス・ノーマンをお忘れですかッ!!」
「…」
フードを脱いだ男は痩せぎすの男で目をぎらつかせ真下に居る蜂也へ視線を投げるがそれを受け取った当人は頭に疑問符を浮かべていたが構わず話を続けていた。
「ふふ…貴方と生徒会長によって僕に永遠の自由はない…下手すれば一生幽閉されていたでしょうが実の事星導館から申し出がありましてね。」
「……」
芝居掛かっている話し方に蜂也は頭をポリポリと掻いている。
それに気がつかずにノーマンは話続けるその姿はまるでテープレコーダーのようだ。
「《魔術師》としての能力を買われて影星にどうか、と誘われたのですよ」
「………」
蜂也は得意気に大仰に語るノーマンを一瞥しもう一度視線を突き刺さったコンテナへ向ける。
話を聞いていない、と思ったノーマンは切れ出した。
「結局のところ僕は飼い殺しだ!なにせ星導館学園は僕を使い潰した所で痛くも痒くもありませんからね!僕としては不本意で不名誉!こんな屈辱的な扱いは真っ平ごめんですとも!」
「…………はぁ…未だ続くのかよ…時間がねぇ、ってのに」
蜂也はノーマンの演説を聞いて溜め息を吐いた。
「…ですがまぁ悪いことばかりではありません。こうして貴方と生徒会長へ復讐を果たすことが出来るのですからね。先ほどの警告ですがあれは建前です。本当に帰ってしまわれる方が此方としては不本意ですからね。」
そう告げるとノーマンは先程降り注がしたコンテナを左右に複数個浮遊させているのは《魔術師》としての”物体操作”の能力であった。
「……お前の能力で俺を仕留めよう、ってか?」
蜂也は上を向きノーマンを見ながら呟く。その瞳は濡れた前髪に隠れて見えない。
「いえいえ、幾ら僕だってこの程度の数で貴方を仕留めるなんて愚かしい考えはしていません。なにしろ貴方に《魔術師》としての実力を出さずに体術で圧倒された身ですからね…念には、念を入れて。ですよ…?」
そう告げるとコンテナの上に続々と新たな人影が出現する。
その数はざっと見ても数十名を越えており同じようなフードを目深に被りその顔は窺い知れずそれらが蜂也を囲むように配置された。
「………………」
その様子を見て蜂也は声を出さずに頭を地面へ向けた。
余裕綽々の態度でノーマンは自慢げに胸を張った。
「あはははっ!《戦士王》ともあろう貴方を相手取るにはこのくらいの人数が必要でしょう?…それに此方の方々は僕よりもずっと手練れですからね。」
「…確かにお前よりも随分と上質な星辰力を持ってるみたいだな。…お前からして見れば俺の実力はその程度のこと、ってのは…」
もし仮にその実力が英士郎並みであれば確かに厳しい状態だ。
”名護蜂也がその程度で止まるような人間であれば”という話であれば、だが。
「舐めすぎだろ」
瞬間、天を裂くような嘶きと共に豪雷が降り注ぎ蜂也を取り囲んでいた数十名の影星のメンバー達がコンテナの上から立つことすらままならず地面へ激突し水しぶきを上げていく。
豪雷をまともに喰らった影星達は黒焦げになり痙攣し肌が焦げタンパク質が溶け出すような異臭を放ち呻き声が辺りを支配する。
手にしている《壊劫の魔剣》が一層励起し攻撃的な見た目へと変化し紫電が飛び散る。
《壊劫の魔剣》を媒体として《雷電波動》を発動し広範囲に落雷を発生させたのだ
「なッ…!?」
先程まで余裕の表情を浮かべていたサイラスだったが一瞬にして味方がやられたことによりその表情を失う。
眼下に捉えていた武器を構えていなかった筈の蜂也が”既に《壊劫の魔剣》を抜刀していたことに”気がつかなかった。いや気がつけなかったのだ。
「時間がねぇ、って言ったのに無駄にご高説垂れやがって…」
「ひいっ!?」
サイラスを睨み付けるように濡れて目を隠してた前髪から蜂也の眼光が射貫く。
その蜂也の瞳は少しずれた伊達眼鏡から覗き見え《黄金色》の瞳が覗かせておりそこには怒りと殺意に満ちた剣呑な光が満ちていた。
サイラスは呑まれていた。蜂也が発する《殺気》に。
だが、影星の残った者達は蜂也へ短刀で切りつけようとするもの手裏剣を投擲するものがいたがまさに一瞬だった。
「……邪魔だ」
切りつけてきたものを空いている左手で殴り付け骨を砕き背後から迫ってきた者の攻撃を回避し前方より迫る影星にぶつけ二人同時に切り捨て死角より迫る者は返す刃、ではなく柄で鳩尾を殴り付け吹き飛ばす。
切られたもの殴られたものは悶絶する声を上げて無様に濡れた地面へ転がったままであった。
「この…っ!!このこのこのぉ!!」
サイラスは呑まれていた恐怖から立ち直りコンテナを蜂也へ味方の被害も関係なく射出するが全て切り裂かれていた。
「なッ?!」
「………」
無造作に払った一太刀が前を塞いでいたコンテナの壁をバターのように切り裂く。
道が拓けたことを確認した蜂也はゆっくりと歩き出す。
「行かせないといっているでしょうが!!」
しかし、それまた蜂也の道を塞ぐように投擲されたコンテナからわらわらと虫の大群のように這い出る擬形体が穴を塞ぐように現れ得意気に笑い出す。
「ふはははっ!どうです!僕も昔のようなままではありませんよ!今の僕が操れる人形の数は《叢雲》と対峙したときよりもその倍以上その数ー」
「…未だわからねぇか?”邪魔するな”って言っただろ」
蜂也へ自慢げに語るサイラスの言葉を遮り軽く地面を蹴ると前方を塞いでいた蠢く擬形体を通り抜けた次の瞬間。
「ば、バカな…」
《壊劫の魔剣》が振り抜いた残光を撒き散らしながら塞いでいた三百の雑兵が一瞬にして両断された。
すれ違いざまに《影技・月堝美刃》を発動し周りに有るコンテナを切り裂き壁の意味を無くす。
「あ、ああ……ひぃっ!!!??」
先程まで高みの見物をしていたサイラスだったが蜂也の攻撃によりコンテナは崩れ落ち地面へ無様に突っ伏し頭を押さえながら上を向くと見下ろされていた。黄金色の瞳が完全に怯えきったその姿を捉え先程と立場が逆転していた。
「ま、まちなさっ」
「………」
「あ、あああああっ…!」
怯えきり完全に腰が抜けてしまったサイラスから視線を切り切り踵を返し開かれた道へ歩みを進める蜂也を引き留めることは叶わなかった。
周囲に広がるのは”数百の影星”と三百の擬形体の残骸、そして蜂也の瞳を見て戦闘不能になったサイラスだけがその場に残っていた。
それらを無視して蜂也はクローディアの元へ急いだ。