俺が《六花》で二つ名で呼ばれるのは間違っている。   作:萩月輝夜

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師匠(銀髪美少女)会長(金髪美少女)

先の決闘から数日が経過して蜂也は星導館学園の序列一位へと変わった、がしかし蜂也は綺凛との純粋な剣術修行をしている最中に誤って決闘をすることになり結果として三日天下ではないが序列一位は綺凛へと返上されることになり蜂也は序列三位へと戻ることになった。

 

その結果に綺凛やクローディアからは総スカンを喰らって「早く序列一位になってください!」と怒られたのは蜂也的には腑に落ちなかったようだ。

 

 

「お義兄ちゃん、か…。いや悪い気はしないんだけどなんか微妙な気分になるんだよなぁ…。あ、そういやまだ《次元解放(ディメンジョン・オーバー)》の変換エネルギー貯まってないな…いや、全くというわけじゃないんだけどよ…。」

 

此方の世界に飛ばされてから数週間が経過しているのだが未だに《次元解放(ディメンジョン・オーバー)》を使用することは出来ていない。まぁ、問題は…無いのだが

 

この間、綺凛ちゃんに『お義兄ちゃん』といわれて向こうの世界にいる小町ちゃん達が恋しくなった。

まさかホームステイ?じゃなかったホームシックになるとは思わなかった。この俺が。

 

「あ…?なんでこんなに人が…。」

 

生徒会室での仕事を終えて自分の部屋へ戻るがその道すがら人だかりが出来ていた。事故でもあったのかと付近でみていると一人の男子生徒が此方に気がつき視線を向けてくる。

 

「《戦士王》だ…。」

 

「副会長…」

 

「くそう…どんだけ美少女にモテるんだよあの男…」

 

「修羅場か?修羅場なのか?」

 

それは全員に連鎖しその視線は妬みと好奇心、そして尊敬の眼差しが入り交じっていた。

 

「あ?」

 

無意識に威圧感を出して通路を塞いでいた野郎共を退かすとその学生達の間から俺とリースフェルトと綺凛ちゃんの試合を中継していやがったマスゴミのたしか、夜吹と言ったか…が此方に気がつき顔を出した。

それはもう楽しくて楽しくて仕方ないといった様子だった。

 

「よう、大将。遅かったな。お客さんが来てるぜ?」

 

「客?俺にか?」

 

「おうよ。男子寮の応接室に通してあるから行ってきな。」

 

「一体誰だ…?」

 

夜吹に急かされるがままに男子寮の共用エリアにある応接室へ向かった。

道中の視線が鬱陶しいものだったが威圧感を飛ばすとスッと視線を反らしていた。

 

てか男子寮ってこうなってたんだな…こっちの世界に来てからクローディアの部屋に住んでいたから内装は分からなかったがめちゃくちゃ綺麗だった。

金が掛かってるなという印象だ。

 

そんな感想を思いつつ通路を進み突き当たりの奥の部屋にある応接室に到着しノックする。

 

「あ…ど、どうぞ。」

 

ん!この天使のように愛らしい声は…!

俺はこの声を聞いて確信した。

 

ドアを開くとそこには応接室のソファーにやはり性格なのか端っこにちょこんと座り待っていたのは我ら星導館学園序列一位『疾風刃雷(しっぷうじんらい)』俺にとってのマイシスター、刀藤綺凛が待っていた。

 

 

「先日はごめんなさいでした!」

 

応接室に入るなり、綺凛ちゃんはあたふたとソファーから立ち上がり、ぺこりとお辞儀をした。

俺はその光景をみて何故謝られてるのかが理解出来なかった。

 

「なんで綺凛ちゃんが俺に謝罪してんの…?」

 

「いえ、それは前日の伯父様の件で…本当にごめんなさい!」

 

頭を上げたかと思えば再び綺麗にお辞儀をしてしまったので俺は慌てて上げさせた。

 

「いや綺凛ちゃんが気にする必要ないって。あれは俺のためにやったゆえの行動だし…だから綺凛ちゃんが気にする必要はないから。」

 

「ほ、本当ですか…?」

 

今にも泣き出しそうな様子で瞳を潤ませている様子をみた俺は綺凛ちゃんの頭にポンっと優しく手を乗せて撫でる。

 

「あぅ…。」

 

「大丈夫だから、な?」

 

優しく撫でると潤んでいた瞳は鳴りを潜めて気持ち良さそうに目を細めている。

正直綺凛ちゃんを撫でている間はめちゃくちゃ心が落ち着く。

どうやら綺凛ちゃんは癒し効果があるようだ。ずっと撫でていたかったが綺凛ちゃんがこの男子寮に来たのかを聞く必要があった。

 

「あっ…」

 

俺が頭から手を引くと名残惜しそうにしていたのは印象深かった。

 

「それで、なんで綺凛ちゃんはここに?」

 

「え?」

 

「わざわざ俺に謝罪をしに来た訳じゃないだろ?」

 

「いえ、そのために来たのですが?」

 

もちろんといわんばかりに答えてくれた。

どうやらこの子はかなり真面目な子らしい。その事に思わず気持ちが悪い笑みを浮かべそうになったがそこは自重して薄く笑みを浮かべる程度に抑えた。

 

「あ、でもそれだけじゃなくて、」

 

そこで言葉を切って此方に深々とお辞儀をした。

謝罪ではなく感謝のお辞儀だった。

 

「あの、ありがとうございましたっ!」

 

「え?」

 

今度は感謝と俺は見当が付かなかった。感謝される覚えもないのだが。

純粋に俺は聞き返す。

 

「なんで感謝するんだ?」

 

「お義兄さんは、私を伯父様から庇ってくれただけじゃなく『望み』の別方向からの考え方も教えてくれて…本当に嬉しかったのです!」

 

顔を真っ赤にして声を張った。

頑張っている姿をみて微笑ましいと思った。

だがそこは訂正しておく。

 

「『望み』の叶える方向を他人を頼らずに見つけ出せたのは綺凛ちゃん自身だろ?俺は…たまたまその切っ掛けになったに過ぎないし。」

 

「いえ、お義兄さんが居なかったら…。」

 

このままだと蒟蒻問答になりそうだったので再び綺凛ちゃんの頭に手を乗せると大人しくなった。

…何となくだが綺凛ちゃんの弱点が分かった気がする。

 

「あぅ…。」

 

顔を紅くした綺凛ちゃんに若干イケない気分になり掛けたが目の前にいる女の子は妹だ、と言い聞かせて雑念を振り払った。

再び頭を撫でようとする前に扉の前に野次馬がいるのを《瞳》で確認して綺凛ちゃんの頭から手を話し人差し指で「静かに」のポーズを取ると察したのか綺凛ちゃんも従ってくれた。

 

扉を勢い良く解放すると。

 

「「「うわぁ」」」!!!

 

此方の会談を盗み聞きしようとしていた連中がなだれ込んできた。

その先頭は当然というべきか夜吹が先導しており。俺は威圧感を飛ばす。

 

「取材熱心だな、夜吹…」

 

「は、ははは…まぁな。大将。」

 

「…」

 

威圧感が殺気へ変わった瞬間外にいた野次馬達は蜘蛛の子を散らすように解散していった。

 

「ったく…綺凛ちゃん。遅くなってきたから女子寮まで送るよ。話の続きは外でしよう。」

 

「は、はいっ」

 

綺凛ちゃんは素直に頷いてくれた。

 

◆ 

 

「まだ肌寒いな…霜が降りる…いやそこまでじゃないか。」

 

夕暮れ時の春の空はもう夜の帳が近づいてきていた。

点灯したばかりの街頭が二人の道筋を照らしてくれている。

俺が車道側で綺凛ちゃんが歩道側を二人並んで歩いていた。

気温が少し低いので寒いのだろうか。頬を紅く染めていた。

 

「寒くない?大丈夫?」

 

「え?あ、は、はいっ大丈夫です…へくちっ」

 

風が吹いて一瞬冷え込み可愛らしいくしゃみをした綺凛ちゃんの周囲に保温魔法を掛けてやると驚いていた。

 

「あ、あれ寒くなくなりました。」

 

突如快適な外気温になったことに驚いている。

 

「寒そうだったから綺凛ちゃんに魔法を掛けたんだよ。」

 

人差し指を突き立てタクトのように見立てわざとらしく振るうとその光景が面白かったのかクスりと笑みがこぼれていた。

 

「お義兄さんは本当に『魔法使い』みたいです。」

 

「みたいじゃなくて、魔法使いね。」

 

そう指摘した後に沈黙が続き気まずい雰囲気になるかと思いきや…というわけでは無く所所で会話が発生していた。

 

女子寮までもう少し、というところまで来たところで綺凛ちゃんから切り出された。

 

「…実は家族以外の男の人と一緒に歩くのは緊張していたんです。こういう風に歩くのは初めてで…。」

 

照れたような笑みを浮かべ恥ずかしそうにカミングアウトしてきた。

まぁ、分からなくもない。

綺凛ちゃんのような年頃の女の子が女子一貫校にいたとしても不思議ではないが。

 

「お父さんが厳しい人で…我が家は『刀藤流』の宗家でしたので。」

 

「なるほどな。」

 

と思ったが違ったようだ。まぁ彼女のように可愛い娘がいれば野郎の目に触れさせたくないのは分かるが。

武家一家は教育には厳しいようだ。

ん?ちょっと待ってほしい俺は大丈夫なのだろうか?

ああ、俺は男じゃなくて兄として見られているのかならば良し!(現場猫)

 

「お義兄さんはなにか武術を嗜まれていたのですか?」

 

唐突に俺に質問してきた。

 

「え?なんでそう思ったんだ?」

 

「先日の試合中の動きが武術者の動きだったで…。」

 

「…ああ。実は地元の道場、一応だけど継承者なんで嗜むっつーか…。」

 

一応と言うか小町も『四獣拳』を習っているが奥伝は俺しか習得していないので一応の継承者になるのか?

婆ちゃんには面と向かって言われたことはないが…。

 

「そうだったんですね!やはりそうだと思いました。あの体捌きと足の動きはみたことがない動かし方で…」

 

テンションが上がって此方に抱きつきそうになるくらい接近してきており夢中になってしゃべっていたが途中でハッとなり口をつぐんで、バッと俺から離れ顔を赤面させている。

その様子に抱き締めたくなるような衝動に駆られたが自重した。

 

「す、すみません!つ、つい…お、お義兄さんは兄妹とかはいるのです?」

 

突然の話題変更に驚いたが『俺、別世界から来た人間でもといた世界に妹がいるよ』とはいえない。

なので必然的に…。

 

「え?いるけど今は逢えないかな。」

 

「え?それはどういう…。」

 

「ここじゃない遠くの場所にいるんだ。」

 

「あ…ごめんなさい…です。」

 

表情に陰りが見える。回答を間違ったかも知れない。

ここは話題を変えなければ。

 

「ま、まぁでも今は綺凛ちゃんみたいな妹がいるから寂しくはないかな~…なんて。」

 

俺が苦し紛れに放った一言に綺凛ちゃんはなにかを勘違いし覚悟を決めて宣言した。

 

「わ、わたしお義兄さんの義妹になりますっ!だからわたしを本当の妹のように接してくださいっ!」

 

その宣言をされて蜂也は気押された。

しかし、その発言をした綺凛は『妹としてみてください』といったのは間違いだったと後日気が付くことになる。

 

 

翌日。

 

高等部校舎前で何時ものように待ち合わせ二人はランニングをしながら公園へと向かった。

蜂也と綺凛は当然のように制服ではなくトレーニングウェアを着用し俺は手足それぞれに十キロの荷重魔法を掛け腰には無造作に《壊劫の魔剣(ベルヴェルク=グラム)》の発動体を無造作にぶら下げており、綺凛は大きめのウエストポーチに重りと腰には日本刀を差している。

雑談しつつランニングを行い公園に到着し二人で柔軟体操を行った。

一人で出来ない柔軟運動を行えることが綺凛にとってはありがたかった。

 

「んしょ、んしょ…」

 

しかし、蜂也的には柔軟運動を行う綺凛が体を揺らすごとに、その胸がぽよん、と弾むのについつい目が引き寄せられそうになったがその度に荷重魔法を強め痛みによって視線を逸らすことにした。

これで十三歳というのだから末恐ろしいと思ってしまった。

うちの妹達は負けてるなぁ…としみじみ思ってしまった。

 

二人で組み合う柔軟運動では柔らかいものが当たってしまい蜂也は魔法使いではなく賢者にならざるを得なかった。

クローディアはからかいで当ててくるのでなんとも思わないが綺凛は無自覚で無邪気に当ててくるので一番叡知なのは綺凛で間違いない、と確信していた。

 

「?どうかしました。」

 

「いや、世界は広いなって」

 

「?」

 

キョトンとした顔で両足を開き前屈運動をしていた綺凛が首を傾げるがその度に「ぽよんぽよん」と揺れ動き脳内でZ○RDの『揺れる思い』が流れ始めた。

あとトレーニングウェアが体に密着するような作りなので体のラインが出てしまうというのもあるのだろうが。

これで小学生と言うのだから驚きだろ?

将来が怖いです。

 

 

場所は変わって早朝の野外。

人の影はなく春先の肌寒い空気が肌に纏わりつくが師匠と弟子には関係がなかった。

体は温め終わった二人は獲物を構え修練を始める。

 

「参ります」

 

「っ!」

 

普通は木刀などで打ち合いをするのだがそこは星脈世代(蜂也は普通の人間だが)なので星辰力を込めていない攻撃では少しの痛みしか感じないので真剣で切り合う。

 

一飛び足で蜂也の間合いに飛び込むと閃光の速度で斬りかかり袈裟懸けを斬り下ろす。

対して蜂也は《壊劫の魔剣(ベルヴェルク=グラム)》の構え方を変えて無造作持ちから両手で保持し型から切っ先を地面に向けるような構え方に変更していた。

斬り下ろされた白刃を横薙ぎで斬り払い押し退けた。

 

しかし、斬り払われた綺凛の刀は空中で弧を描いて即座に横薙ぎを繰り出してきた。

その斬り返し速度はとてつもない。

蜂也は避ける選択をせずに大剣の腹で受け止めて弾き返すが次の瞬間には切っ先が此方の太股を切り裂こうとするが拳法の応用で摺り足で回避と同時に今度は防御にしようした大剣を既に攻撃の準備は整っていたので上段から振り下ろす。

綺凛が回避をするために大剣の反対側に回避を取ろうとするが振り下ろし地面にぶつかる前に無理矢理に逆袈裟に斬る方向を切り替えると綺凛はハッとなって刀の峰部分でスライドさせるように回避し再び蜂也から攻撃を仕掛けるが先手を綺凛が取って再び攻撃を受ける。

しかし、最初期の修練では防戦一方だったが今では隙を付いて攻勢に転じられるまでに蜂也の技量が上がっており綺凛は楽しくなってきていた。

初めて出来た弟子の成長と一緒に訓練をしてくれる少年の技量が上がっていくのは嬉しかった。

 

ただ一方で修練をしている蜂也は途切れなく続く連続攻撃に《瞳》の力を使わずに捌ききるのは至難の技だった。

正直勘弁してほしいとは思ってはいるが綺凛、師匠が楽しければいいかとさえ思っていた。

 

「精度が上がっていますねお義兄さん!」

 

「当方が師匠にそういわれるとは…そろそろかもしれぬな…!!」

 

実際に軽口を叩きながら綺凛が繰り出す刀藤流、四十八の型を繋ぐ奥義『連鶴(れんづる)』を捌いている。

連鶴(れんづる)に果て無し』と言われている攻撃を数日しか師事を受けていない蜂也が被弾無く捌く才能に綺凛は恐怖すら覚えていた。

 

(たった数日で『連鶴(れんづる)』を攻略されるとは恐ろしいです…。)

 

打ち合うほどに技量が上がっていく兄弟子に綺凛の好感度が爆上がりしていた。

 

(そろそろ当方から仕掛けるか…。)

 

袈裟懸けを最小の動きで弾き返すと蜂也が動き出す。

 

隙を与えないように切り落としから袈裟懸けにスムーズに移行してさらには右薙ぎ、右切り上げそして逆風を綺凛に叩き込む。その太刀筋を確認した綺凛は驚愕していた。

 

(まさか…!もう『巣籠』、『花橘』、『比翼』、『青海波』、『風車』の形まで習得したです!?)

 

連鶴(れんづる)』と不完全な『連鶴(れんづる)』がぶつかり合った。

 

◆ ◆ ◆

 

「今日はここまでにしましょう。」

 

「綺凛ちゃん修行するのはいいんだけど本気で斬りに掛かるのやめてくれない…?こっちは死にかけなんだけど…。」

 

早朝の修行は薄暗かった公園は日が昇りきろうとするぐらい明るくなっていた。

流石に授業がありシャワーを浴びたいので切り上げることになったのだが…。

 

「お義兄さんの成長スピードが早すぎて自信無くしちゃいそうです…。」

 

「いや、全然だろ。見よう見真似だしな…。」

 

「そんなこと無いです!お義兄さんは才能の塊ですよ!」

 

「まぁ…綺凛ちゃんがそういうなら…。」

 

「それにお義兄さんがつよくなってくれればわたしも嬉しいです。」

 

「そっか…まぁ期待に答えられるように頑張るよ。」

 

「えへへ…。あ、そうです。お義兄さんはどうしてあの武器を持つと一人称が変わるんです?」

 

無意識に撫でやすい位置にあった綺凛の頭を撫でてしまっているが嫌がる素振りは見せず逆に嬉しそうにしているのでやめようとはしなかった。

そんな最中、蜂也の一人称が変わっていることに質問した。

 

「え?変わってた?」

 

「はいです。俺から当方に。」

 

「まじか…全然気が付かなかった。」

 

「そういえば純星煌式武装は副作用があるんですよね?『その子』は一体どんな副作用が…。」

 

「不明なんだよなぁ…一応は『破壊衝動と激痛に苛まれるが圧倒的な破壊力を持つ』としか…全然その影響無いし。」

 

「そうだったんですね…でも一人称が『当方』のお義兄もかっこいいです!」

 

「そっか、ありがとうな。んじゃ、帰ろうか。」

 

「はい、お義兄さん。」

 

思わず抱き締めたくなるほどの愛らしさを持つ綺凛だったがそれをやってしまうと嫌われてしまうので自重した。

ひとしきり頭を撫でて満足した二人、蜂也と綺凛は学園の《冒頭の十二人(ページ・ワン)》の特権であるマンションへ途中まで一緒に向かい分かれた。

 

 

「最近楽しそうですわね蜂也?」

 

「…藪から棒になんだよクローディア。ほい、判子押してくれ。」

 

生徒会室で仕事をしているとクローディアから不機嫌なオーラをぶつけられた。

何故不機嫌なのかは俺には全く皆目見当が付かない。

あれか?女の子が不機嫌になる日なのだろうか…何てことを言うと彼女の持つ双剣で斬り殺されそうなので言わないでおく。

書類を手渡そうとするが此方を微笑を浮かべたまま受け取らない。瞳は笑っていないので怒っているのだろう。

仕事が進まないのでやめてほしいのだが…。

 

「てか、早く受け取ってくんない…ってなんで俺の近くにいるんだお前…」

 

「…」

 

気がつくとクローディアが俺の近くに座席を持ってきて…というか隣に座って此方をジーっとみている。

 

「私は寂しいです。最近は義妹が出来てそちらの方に掛かりっきりでお昼も一緒に取る始末…私はもうお払い箱ですか?」

 

ジーっとみていた瞳は次第に潤み始め此方を見据えており俺は非常にリアクションに困った。

 

「お払い箱って…お前を無下に扱ってねーじゃねえかよ。こないだだって夕飯お前の部屋で食ったし…。」

 

「刀藤さんには隙あらば頭を撫でているのに?」

 

「お前にやったら俺が捕まるわ。綺凛ちゃんの場合はやっても嬉しそうにしてるからやってるだけだ。」

 

「蜂也にならされてもいいです。というか今すぐやってください。」

 

クローディアがそう発言した瞬間俺が座る座席に跨がってきた。

 

「ちょ!お前何してんだよ!っ…お前…疲れてるのか?」

 

端からみるとオフィスでおっ始めているカップルにしか見えないが俺はクローディアをそういう目で見たことはないしそんな趣味は無い。

 

「…これだけされて興奮されないと貴方の不能を疑うか女としての魅力がないのかと疑ってしまいますわ。」

 

「いや、十分ドキドキはしてるんだが…。ったく、ほらこれで満足か?」

 

もう何を言っても聞かないような気がしてきたので俺は仕方なく綺凛ちゃんにしているようなことをしてやった。

 

「はうっ…//////」

 

頭に手を重ね優しく撫でる。

非常に丁寧に手に伝わるクローディアの髪質は非常に滑らかで何時までも撫でていたいと思わせる感触であった。

生徒会室には時刻を示すアナログな時計の針の音だけが響く。

 

「もういいか?満足したろ?」

 

「も、もう少し…」

 

もうかれこれ10分以上はクローディアの頭を撫でていた気がするのだがまだ満足していないらしい。

困ったもんだと呆れつつ耳元で聞こえるように「もう終わりだ」と近づけて息が耳に掛かった瞬間だった。

 

「ひんっ…////」

 

ガクリ、と力が抜けたように俺に跨がっていたクローディアが俺の胸元に倒れ込む。

…俺変なところさわってないよな?

 

「…」

 

うるうると此方に訴え掛けるような表情を浮かべている。

どうやらクローディアは耳が弱かったらしい。これは新たな発見だ(白目。)

って言ってる場合じゃねぇよ!

 

「も、もういいだろ。離れろ。」

 

「え?きゃっ、は、蜂也?」

 

俺は急いで飛行魔法を使ってクローディアを宙に浮かせた後に移動と停止の単一魔法を使用し椅子に着席させた。

 

「むぅ…。」

 

どうやらまだ満足していない様子だったがどうしたらいいのか分からなかった。

 

「どうやったらお前の機嫌が収まるんだ?」

 

「今のように私が望んだタイミングで頭を撫でてくれたら許して上げます…。」

 

「なんじゃそれは…年頃の女の子が頼むお願い事じゃねぇぞ?」

 

「…。」

 

ジッと此方を見据えているクローディアの意思は固いようだ。

俺からの頭撫で撫でにどんだけ価値があるのか分からんがそれでこいつの機嫌が収まってくれるなら。

 

「わーったよ…」

 

「はい」

 

その事を認めると機嫌が良くなった。

最近の女子は…というより女子は分からない。

そんなことを考えていると声が聞こえた。

 

『我が主よ…女心を理解せぬとは…相手方も難儀であるな。』

 

唐突にやたらといい男の声は聞こえた気がした。

その声がした方向に顔を向けた先にはホルスターに入っている《壊劫の魔剣(ベルヴェルク=グラム)》の発動体があった。

 

(まさか…。)

 

気のせいだと思いたかった。


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