俺が《六花》で二つ名で呼ばれるのは間違っている。 作:萩月輝夜
『女心が理解できぬとは…相手方も難儀であるな。』
脳内に低く渋い声が轟くがこの場には俺とクローディアしか居らずその声に反応していないところを見るにこれは幻聴じゃない…?
『主は何時刺されても可笑しくはないな…』
ああ…気のせいじゃなかった…。《
「?どうしました蜂也。」
俺が頭を押さえていると気になったクローディアが再び近づいて来ていた。
「ああ…実は。」
『あ、因にだが主よ。私の声は他の者には聞こえぬから主が不審な目で見られるか痛い奴扱いされるぞ。』
話しかけてきたんだがコイツ…!
そりゃそうだよな…いきなり『《
『いや、予測に基づいての発言であるから主の思考を読み取っているわけでない。適当に誤魔化すのがよかろう。』
まさか自分の武器に諭されるとは思わなかったがその通りだったのでクローディアには誤魔化して発言した。
「いや、少し疲れただけだ。」
「そうですか、それでは私で残りの仕事を…。」
「いや、あと少しの量だけだろ。終わらせて帰るぞ。」
「はい。」
そういってクローディアの仕事をぶんどる…というわけでなく優しく奪い去り定位置で仕事をし始めると何故か嬉しそうに仕事を終わらせようとするクローディアがいた。
『なるほど…これが捻ねデレというものであったか。』
やかましい!
思わず叫びたくなったがそんなことをするとクローディアが心配そうな表情を向けてくるに違いないので黙々と生徒会室にはペンが紙面を走る音とキーボードを叩く音だけが響いていた。
◆ ◆ ◆
仕事が終わり夕飯はクローディアの部屋で何故か俺がパスタを作ってご馳走するという流れになりスーパーで買い物してから待たしても女子寮の個室に忍び込む形となった。
因みに作ったのはボロネーゼで提供するとクローディアは満足していた。
…ワイングラスに赤い液体を注いで飲んでいたのはぶどうジュースだと思いたいが顔を紅くしていたので確信犯だろう。お前未成年だった筈だよな?この世界では十五歳以上で成人扱いなのだろうか?
やたらと絡んできて鬱陶しいので頭を撫でてやると気持ち良さそうにして眠ってしまった。
「しょうがねぇなこいつは…。」
俺はため息をついて食器を全部片付け終わった後にソファーに気持ち良さそうに寝ているクローディアを抱き抱え(所謂お姫様抱っこ状態)ベットまで運びシーツを掛けてやるとそのまま静かに眠りに就いていた。
「…おやすみ。」
俺は静かにクローディアの個室から認識阻害の魔法を使用し自分の個室へと戻った。
◆ ◆ ◆
「さて……それで?なんでお前の声が聞こえるようになったんだ?」
自室に戻りシャワーを浴びてラフな格好になった俺は問いかける前に部屋全体に遮音フィールドの魔法を掛けて今現在使用している
なにも聞こえないのなら俺の疲労で幻聴が聞こえていた、と言うことで全てが片付くのだがそう簡単ではないようできっちりと回答が返ってきた。
『うむ。その件なのだが実は主が適合率試験を受けたであろう?』
当然室内に声が二人分ではなく俺一人だけの音声だけが室内に響く。
「ああ…受けてたな。」
『主が触れた瞬間に想像も絶する激痛を与えたであろう。』
「ああ。くっそ痛かったな。」
『我の代償は『使用者の星辰力を簒奪し我が肉体にする』という行動を取るのだ。』
代償が思った以上に物騒だったんだが!?
「マジかよ…だから封印された『
『主が初めてであった……まさかあの激痛に耐え抜きあまつさえ起動状態の我が刃に拳を当てて仰け反らせるとは…ふふふ…我を屈服させて使いこなすまでに至るのは主が初めてであった。それに我を手にしたことで周りの破戒を躊躇わないのだが…だからこそ我はこのタイミングを逃せば主のような人間を失ってしまうと思ってな…素直になることにした訳だ。』
俺が電撃での体が激痛に襲われ、心配して此方を見ているクローディアに対して俺は『壊したい』と思ったのはこいつのせいだったらしい。
だが、こいつを殺気で黙らせたことが功を奏したようで助かった。
しかし、ふと気になることがあったのでこいつに聞いてみた。
「そういや、お前の武装特徴って何なの?抽象的にしか聞いてなかったんだけど。」
『主よ…我を手に取ったにも関わらず特徴を理解できないとは…さては残念なのか?』
《
気にしないことにする。
「…いいから教えろよ。」
『我の力は凡庸な徒が手にするれば只のナマクラだ。だが中途半端に才覚を持つものが持てば廃人と化す。…主のように様々な能力と”運”を持つものが手にすればその者に【万物破壊】の概念を付与する。だからこそ我は【封印”されてしまった”魔剣】なのだ』
【万物破壊】…かそれはまた随分とまぁ物騒な能力だな。
「シンプルイズベスト…ってか…。」
俺がそう告げるとまるで胸を張っているような幻視がした。
当然というように《
『我にそんな小細工は要らぬ。あったとしても主が細工するであろう。こう、うまい具合に。』
「アバウトだなお前…。」
機械…なのか?と思えぬ反応に俺は呆れた。
「そういえば…」と言う切り口で聞き逃せないことを呟く。
『む、忘れておった。我を所持することで主の周りに存在するの万応素を効率的に取り込み活性化して主が使っていた技を使うための『想子』だったか?…すまぬが我と契約した際に随分と消費してしまった。旨そうだったのでな?大半を食いつくしてしまったので回復には時間が掛かる。だが安心してほしい。それを効率良く取り入れる《
「それは便利だな…ん?今お前何つった?」
今、聞き逃してはいけない単語が聞こえた気がして聞き返す。
『《
「違う。その前だ。」
『『想子』と言ったが…。』
「行きすぎだバカ。そのちょっと前だ!」
『む…注文が多いな。では今一度。『すまぬが我と契約した際にお主が体内に留めていた【想子】を随分と消費してしまった。旨そうだったのでな?大半を食いつくしてしまったので時間が掛かる。』と言ったのだが…どうした我が主よ膝をついて。』
何てこった、と俺は自らの不覚を恥じた。
今までのコイツの話を聞いていれば予測出来ることだった。
なんの代償無しにこの純星煌式武装を扱える筈がない。
万応素を想子に変換できているかと思っていたらそれ以上に保有量を削り取られる勢いで消費しているだけでちっともたまっていなかったと言うヲチはあまりにもお粗末だった。
「マジかよ…次元の壁を越えるのに一体どれだけ溜めりゃいいんだ…。」
椅子から思わず立ち上がり膝をついてしまう。
これではいつまで経っても溜まらないわけだ。
『まぁ、気を落とすな主よ。』
「…あ゛?」
卓上の【
『じ、実は我にはもう一つ能力が有るのだ。それは…』
「勿体ぶってないで早く言え。」
『先程も言ったがそれは異なる力への《
「……。」
『《
「死、または廃人って訳ね…つかお前凄いんだな。…それなのに何で欠陥《
『…。』
「おい」
咄嗟に台座においていた発動体を握り声を荒らげるがウンともスンとも言わなくなってしまった。
『…だって今まで我を手にしてきたものはすぐに呑まれて壊れてしまう。我に相応しい相手が主だけだった。それだけの話だ。』
寂しがり屋かお前…と突っ込みたくなったがこれ以上拗ねられても困る。
《
もとより俺一人の独り言が響いていた室内でため息をつく。
「俺が元の世界に戻るためにはこいつと付き合っていかなければ行かないといけない訳か…。武器に好かれるとかどんなホラーだよ…。」
日常で魔法を使う分には空中に漂う万応素を使って星辰力を通してやればいいが元々ある俺自身の想子保有量を回復させる為には《
「もう寝よう…明日は休みだしな。」
考えると自分の迂闊さに嫌悪感を示してしまうのでその判断に身を委ね寝る支度を整えて眠りについた。
◆ ◆ ◆
翌日。
学校も生徒会の仕事も無いため《アスタリスク》の街に出てきていた。
此方に事故で流れ着き数週間は経過しているとは言え部屋や学園の生徒会室を行き来するだけと言うのは他者とあまり好んで交流を持たない俺でさえもこの近代的な町並みは『異世界』に来たと言う感じがして柄にもなく気分が上がっていた。
『我が主よ。よかったのか?クローディア殿達を誘わなくても?』
脳内に語り掛けてくる《
普通に話すことも出来るのだがそれだとただ発動体に語り掛けている危ない奴になるからな。
(たまには…と言うか俺は一人が好きなんだよ。団体行動が苦手なんだ)
本来ならばクローディアや綺凛のどちらかをナビゲーターにしてこの知らない街を探索するのがセオリーなのだろうが無性に一人で探索をしたくなったのだ。
「まるで新宿みたいだな…。」
恐らく此処がアスタリスクの中心部分になるのだろうか?ビル街が立ち上ぼり交差点には雑踏がひしめき合う。
人は多いがあそこまでの込み具合ではないので歩くのには問題ない。
看板や映像は視たことのない俳優や商品が映っておりまさに此処は「異世界」であることを証明してくれていると同時に自分は異物なのだと思い知らされた。
そんなことで心が折れるわけではないが疎外感を感じるのは人間の性だろう。
『~~~~♪』
ふと、聞き馴染みのない音楽と歌声が街頭モニターから聞こえてくる。
その歌声に思わず俺は足を止めてしまった。
「良い歌だな…。」
思わず呟く。
足を止めて街灯モニターに目をやるとそこには紫色の髪をした美しい顔立ちをした少女が新譜のPVなのだろうかを流しており付近の量販店ではその少女のCDとデータがどうやら今日発売だったらしく人だかりが出来ていた。
俺は妙に気になって量販店の方へ足を向ける。
到着する頃にはほぼ完売しており最後に一つが棚に鎮座しており俺は迷うことなく店員に告げた。
「あ、これください。」
CDなんて滅多に買わないのにこのときばかりは買って良かったと思うほどの買い物だった。
◆
「衝動買いしちまった…。まさか初回限定版の最後の1個だったとは…。うおっ!?」
「きゃっ!」
量販店の買い物袋に入ったCDを持ち街を探索していると目の前に人影が現れて危うく手に持った戦利品を落としそうになったが無事だった。
「ごめんなさい!…っ待ってウルスラ!」
ぶつかりそうになったのは少女だったらしく俺に謝罪した後に誰かを追いかけて行ってしまった。
追いかけている人物は深くフードを被っていたが不快な感覚を感じた。
その瞬間不意に《瞳》の力が発動する。
「これは…!」
脳内に未来視が写し出される。
先ほどの少女がフードを被った人物に攻撃されて意識を侵食されていく未来が映る。
明確な悪意がそこには映っていた。
「さっきの子か…っ!折角の休みだってのによ…!」
俺は悪態をつきつつ彼女たちを追うように疾走した。
◆ ◆ ◆
「見つけた…!待ってよ!ウルスラ!!」
少女はフードの女性に追い付くと名前を叫んだ。
「…」
その少女の問いに答えるように疾走をやめて踵を返し此方へ向き直る。
「やっと会えた…!ウルス…!?」
その女性はフードを外す。
絶句した。
しかしその姿は少女が慣れ親しんだものとは掛け離れており死人のように目に光がなく感情さえも凍りつきロボットのような無機質なモノを視ているような錯覚を覚えた。
明らかに平常ではないと知古の知り合いに出会い高揚していた気分が動揺に変わるのに差程時間は要らなかった。
目の前の『知り合いの姿をした』女性が言葉を漏らす。
「貴様はその感じから察するにこの体の持ち主を知っているのだな?」
「誰なの貴女は…私の知っているウルスラじゃない…私の知っているウルスラは感情豊かな人だった。一体ウルスラに何をしたのっ!!」
「名乗る必要はない。」
少女の感情が爆発する。
それに反比例し目の前のウルスラと呼ばれた女性は冷めた感情だ。
「追手が奴からの指示だと思ったがどうやら何も知らぬらしい。このまま生かして返すわけには行かぬな…貴様には全て忘れて貰おう。この体の持ち主の記憶と共にな。」
女性がフードを脱ぐと胸元には怪しく光るネックレスがあった。
「な、なに…?」
不快な頭痛が少女を襲った。
「ウルスラを…返して!」
持っていた銃剣一体型の大型煌式武装を取り出そうとするが一瞬躊躇ってしまった。
もしその行動によって大切な人を傷付けてしまったらと少女は判断を鈍らせる。
「甘いな、やはり人間は。」
先手を取られ戦闘になりウルスラと呼ばれる女性が栗色の髪の少女を一方的に打ち負かされてしまいには裏路地の壁に叩きつけられてしまう。
「かはっ…!!」
結果は火を見るより明らかだった。
「所詮はこんなものか…。」
ウルスラが少女に近づき首を掴まれて、宙に浮かされていた。
少女の美しさは見る影もなくズタボロになり満身創痍であった。
「あああああああ!!」
「逃がさん。」
先程とは比べ物にならない程の激痛が脳内を駆け巡る。
大切なものが奪われる。そんな気がしていた。
「や、めて…ウル…スラ。」
少女の瞳から涙が溢れ零れ落ちそうになる。
「助け、て…。」
掴まれている手から不快な星辰力が流れ込み自分の大切な何かが上書きされそうとなったその瞬間、一陣の風が割って入った。
斬線が煌めいたか思えば鮮血が吹き出す。
「ぐおっ!!」
少女の首から手が離れる。
酸素がなくなっていた少女の脳内に酸素が行き渡り先程ぶりにまともな思考をすることが出来ていた。
「かはっ…!い、一体何を…!?っ…ウ、ウルスラ!?」
少女を拘束していた手は、と言うよりも腕が関節から断ち切られ鮮血が吹き出して腕を押さえている。
「だ、誰だっ!!」
攻撃を受けた方向をウルスラは確認している。
どうやら前方、少女の目の前にいた。
「だ、誰…?」
少女の目の前にいるのは此方に背を向けている少年。
手に持った黄金色の大剣をウルスラに突きつける。
少年が告げる。
「悪党に名乗る名前など『しゃしゃり出てくんな!』『む、良いとこであったのに。』…さぁな。ただのお節介な通りすがりだ。」
それだけ言い放ち戦闘に突入した。
◆ ◆ ◆
無法者達が根城にしているエリアを俺は疾走する。
途中で絡んでくる連中もいたが全て通りすがりに拳をぶち当てていく。
「おいなんだてめっ」
「邪魔だッ!!」
「ぶべらっ!?」
俺が通った後には不良生徒の悶絶した連中の山が出来ていた。
「さっきのフードの女は一体なんだったんだ?嫌な気配がした。」
その無自覚に呟いた言葉を肯定するように《
『先程のフードの被った人間…あれは
「お前と同じか?」
『あれは我より質が悪いぞ…あれは間違いなく『翡翠の黄昏』を引き起こした【ヴァルダ=ヴァオス】だ。』
その返答に俺は引っ掛かりを覚え問い返す。
「…《翡翠の黄昏》を引き起こしたのはどっかのテロリストが主導者だった筈だろ?」
学校で調べモノを授業中にしているときに目にした。
『翡翠の黄昏』、アスタリスクで発生した史上最悪の人質事件でその事件を引き起こしたのは正体不明のテロリスト…という話だった筈だ。
『それは表向きの話よ。今我が名前を挙げた人物…いや純星煌式武装【ヴァルダ=ヴォロス】は制作者であるラディスラフ・バルトシーフ教授を支配して起こった事件だ。』
(…!?)
今、とんでもない情報を聞かされている気がする。
(…その教授は今何処にいる。)
そう問いかけると《壊劫の魔剣》は所在の在りかを否定した。
『分からぬ。只その事件の”重要人物”として代わりに捉えられ軟禁、または拘束されているだろうから安否は分からぬ。只殺されてはいないだろうが…元はといえばあの事件を引き起こしたのは”自我”を持つ【ヴァルダ=ヴォロス】が原因だ。まさか生き永らえ貴婦人の身体に乗っ取っているはな…』
自立思考すると言う点では《
「だからお前封印処置されてたのか…。」
『それもある、がな…』
(…?)
言い淀むのを見て疑問符が頭に浮かぶが今は其どころではない。
路地を素早く駆け抜けていく。
路地を疾走しながらそんなことを考えていると角の方から戦闘音が聞こえてくる。
ときたま女の子の苦悶の声が俺の耳に届く。
急いだ方が良さそうだ。
『見つけたぞ…奴だ!』
(一気に仕留めるぞ!)
口うるさい相棒の発動体を握り星辰力を込めると黄金色の大剣が現れると同時に眼前に広がるのは先程ぶつかった栗色の少女が瞳に生気が宿っていない女性に首を掴まれ不快な星辰力が流れ込んでいた。
認識阻害の魔法を施し自己加速術式を掛けて突撃する。
完全な不意打ち、ハイドアタックを行い首を掴んでいた腕ごと《
完全な不意打ちに攻撃をしていた女性は距離をとり襲われていた少女は俺の背後にいる構図になる。
「だ、誰だっ!!」
出血する腕を押さえながら狼狽える女性。
「だ、誰なの」
突如として現れた少年に困惑する少女。
こう答えた。
「さぁな、ただのお節介な通りすがりだ。」
黄金色の大剣を突きつけて攻撃へ移行した。
◆ ◆ ◆
女性が此方を見て狼狽している。
「ッ!!?ば、バカな…《
無表情だった女性が感情さえも現していた。《
攻撃を仕掛けようと動き出そうとするが背後から力ない腕で引き留められ声を掛けられる。
俺は正面を見据えたままその声に耳を傾ける。
「なんだ?」
「お願い…ウルスラを…殺さないで…。」
目の前にいる女性はウルスラという個人名を持っているらしい。
この状況から察するとこの少女とウルスラという人物は親しい間柄のようだ。
これから行うのを見せるのは大変心苦しいので眠って貰うことにした。
「あの人は…大切な…すぅ…。」
彼女の鼻腔付近に眠りを誘う成分を作り出し気絶するように眠って貰った。
「《壊劫の魔剣》の担い手…貴様、一体何者だ?」
「そんなの誰だっていいだろう?」
「なるほどな。ふん…私の存在を知っていて襲撃を仕掛けてきたか…ベネトナーシュの者か?影星か?」
ベネトナーシュ、といわれてもパッと来ない。どこかの諜報機関かなにかなのだろう。テロの首謀者(物)がまだ生きているとなれば探すのも当然と言ったところだろう。
影星の諜報員でもない。
だが先程から聞いてばかりいる他人に憑依しているヴァルダに対して俺は嘲笑した。
「先程から聞いているばかりだな。流石は…所詮は他人に寄生するしか脳がない純星煌式武装なだけはあるみたいだな。」
そう言うと効果があったようだ。
「貴様…記憶を消すのではなく殺しておいた方が良さそうだ。」
若い女性の額に若干の青筋を立てていた。
徒手空拳で此方に一気に詰め寄ってきたウルスラは事務的に此方を排除するために動いていた。
素早い動きに俺の大振りな獲物は相性は悪い。
(おい!お前刀身の形を変えられるか!?)
『無論だ!』
片腕でありながら速度は凄まじく少しでもタイミングを誤れば頭蓋を砕かれてしまう。
咄嗟に大剣の腹で受け流すと《壊劫の魔剣》のサイズは普段よりも大分小さい…小剣サイズにまで変化した。
「らあ……ッ!!」
拳と蹴りをいなしながら手に持った形を変えた《壊劫の魔剣》でウルスラを切り裂く。
止めを刺すまでには至らない。
しかし、負傷の度合いで言えばウルスラが圧倒的であった。
「鬱陶しい男だ…!」
感情のない人形のようなヴァルダ=ヴァオスはウルスラに憑依しているからか激情を此方に向けてきているが怖いとも何とも思わない。
「死ねっ!!」
ウルスラが元々持ち合わせていた戦闘能力と憑依されブーストしているのか強化された拳が俺に迫る。
本来であれば俺の頭蓋を砕いていただろう。
しかし、その拳は俺には当たらない。
そこ攻撃が来ることが分かっていたかのように俺は小剣でその軌道を逸らして懐に入り込み柄で鳩尾を突き刺す。
「ぐぅ…!!」
苦悶する声が俺に届くがどうでも良い。
そろそろ仕留めようかと動き出した瞬間ウルスラに首元にある胸元のネックレスから怪しい光を放つ。
不快な苦痛が俺を襲う。まるで超至近距離で重機の動作音を聞いているようだ。
「くっ、なんだこれは…ッ!?」
『主!我に変われ!』
瞬間、《
膝をついて頭を抱える不快感を露にした姿を見せる振りをしている俺を見て無表情ながら勝ち誇ったような笑みを浮かべて此方に止めを刺すために近づいてきていたが好都合だった。
膝を突く振りをした俺に一撃がいれられる距離にに入ったウルスラは此方に止めを刺すために拳を振り上げる。
「終わりだな。死ね。」
「…ああ。お主がな。」
「なにっ…!?ぐあああああっ!!」
『戦いにおいて相手の息が完全に止まるまで慢心するな、確実に。』ばあちゃんの口癖が俺の脳内で再生された。
力なく垂れ下がっていたと思われた《
「ぐあっ…!!」
感覚が繋がっているウルスラもといヴァルダ=ヴァオスは悲鳴をあげて地面に転がり込む。
荒く息を吐き痛みを感じているのか知らないが起き上がる様子も見られなかった。
俺は加重魔法で押し潰す勢いで動かせないように地面に固定する。
「き、貴様っ…!!」
「黙れこの変態が…貴様を星猟警備隊へ引き渡す」
人格の一部が《
「くうっ…不快な奴だな、貴様はっ…!」
地に伏せたウルスラの直ぐ近くに立ち胸元のネックレスに武器を突き立てる。
ヴァルダ・ヴォロスは明らかに動揺していた。
やはりというか…だが想像していなかった言葉が反ってくる。
「お前、私と手を組まないか?」
「片手がねぇのにか?」
率直な感想を述べるとヴァルダ・ヴォロスは困惑していた。
「……私たちは星脈世代にありながら人間から差別されている。人類より進化した我らがだ。魔術師でありながら我が同胞を扱える稀有な存在である貴様なら分かるはずだろう。差別される世界を私と貴様ならひっくり返せる。どうだ?」
「唐突になにを言い出すかと思えば…下らん。」
「なに?」
こいつの言っていることは俺の世界にいる自分のエゴを正当化して魔法師を排除しようとしている反魔法団体とやっていることは同じだ。他者を迫害し関係のない人たちを巻き込む痛みを伴う革新だ。
俺は大層な教義とやらに興味はない。
目の前でうじうじしている奴がいるから助ける。
それが俺の精神衛生上の安寧を保つ上での俺の信条だ。
「道具風情がイキるな。お前のやってることはただのテロリズムだ。お前がどんなことをしようが知らないが俺には関係がない。だがお前がいることで俺の周りが不幸になるというのなら…壊すだけだ。」
「なっ…。」
圧倒的な殺気を放ち言葉をこれ以上紡がせないようにしてやると黙り込み焦り始めた。
「なにを…やめろ…やめろぉぉぉ!!」
勢いよく《
「なに…ッ!?くそッ…!!!」
筈だった。
突如として下に横たわっていた筈のウルスラが目の前から消えていることに気がついて咄嗟に小剣を振るうと銃弾が降り注いでいる。
銃弾の嵐から自分と後ろにいる気絶する少女を守るために《重力障壁》を展開すると同時に土埃が舞い上がって視界が閉ざされてしまい姿を見失うが《瞳》の力を発動し確認する…が、”阻害されている”ようで確認が出来ない。
土埃が落ち着く頃には【ヴァルダ=ヴォロス】が憑依したウルスラが路地から消え去ってしまっていた。
路地に残されたのは俺と栗色の少女、それに切り落とした腕だけだ。
「ちっ、逃げられた…【グラム】アイツらの行方は分かるか?」
『…すまないがそれは分からん。あやつは逃げ足だけは素早いものでな。』
「それだと知り合い、みたいに聞こえるぞ。」
『…向こうが此方を一方的に知っているだけだ。此方も同じことよ。』
「そうかい…にしてもあの狼狽えっぷりはお前、本当にヤバイ武器だったんだな。」
『そこを今いうことなのか!?…全く我が主は少々天然…む、それよりも少女の介抱を優先した方が良かろう。』
「おっとそうだった…大丈夫か?怪我、してないよな…って!?」
横わたる栗色の髪色の少女の姿を見て俺は驚愕した。
「う、そだろ…マジモンのシルヴィア・リューネハイムじゃねぇかよ…」
俺は驚愕した。
変装でもしていたのだろうか?まるで《
そこには歌姫、シルヴィア・リューネハイムが居たのだ。その美貌に見惚れそうになった頭を振って現実に戻す。
「って…不味い…。」
彼女達を壁際にもたれかかせた後に病院へ一方的に連絡してこの場から立ち去る…前に先程戦闘した女性の腕を魔法で冷凍保存し【次元解放】のポータルへ投げ入れその場から立ち去る…その前に『物質構成』で怪我の治療をしておく。
腕は何かで使えるかもしれないからな…俺が預かっておこう。
…この場に置いていくのは忍びないがシルヴィア・リューネハイムが病院に担ぎ込まれた、となれば大問題になるだろうな。
(幸い此処は都市部に近いし此処付近の不良どもを片付けたからちょっかいを掛けてこないと思うが…起き上がったときに認識阻害が掛かるように魔法を掛けておく、か?)
振り返り俺は壁に背もたれているシルヴィアに魔法を掛けてその場を退散した。
だが俺は忘れていた。買ったときの初回限定版のCDをその場に置き去りにしたままだったと。
◆ ◆ ◆
「う、うぅん…此処は…はっ!う、ウルスラ!!」
まるで寝起きのように意識が定まらない少女は少しの時間をおいてその意識の覚醒と共に先程までウルスラから襲われていたことを思いだしハッとなる。
周囲を見渡すと誰もいない。
「ウルスラ…」
行方不明となった恩師を探すためにこの《六花》を探していると都市部で見つけた。
その後追いかけているとこの再開発エリアに足を踏み入れ追い付いたのだが先程結果のように攻撃できずに危ういところだった。あと一歩だった。
「あれは…ウルスラじゃなかった。誰かがあの人の身体を乗っ取ってる…?」
冷たい視線、冷たい感情は彼女の中にある想い出の恩師とは掛け離れたその姿にそう断定できた。
”彼女”に何かが起こっているのだと。
「…それより、さっきの私を助けてくれた男の子は一体誰だったんだろう…?」
危険を省みず自分とウルスラの間に割って入り争いを沈めてくれた少年にシルヴィアは興味を持った。
髪型は普通で黒髪、髪が少し跳ねており所謂アホ毛なのだろうか?それと私服だった。
制服を着用していないので分からなかったがその手に所持していた黄金色の小剣が目を引く。
名前は何だっただろうか、と思案していると会話の内容を思い出した。
「メガネも掛けてたような…うーん…あ、たしかウルスラが乗っ取られていたときに男の子が持っていた武装に驚いていたっけ…たしか…《
一瞬だけ見えた横顔がとてもかっこよくてシルヴィアは助けてくれた少年の身姿を忘れることが出来なかった。
「うーん。制服じゃなくて私服だったからなぁ…校章が分かれば良かったんだけど…《
ふと自分の隣に大型量販店のビニール袋が目に入る。
そこには今日発売されていた自分の新譜CDが入っていた。
「これ…あの人のモノかな。私たちを助けに入った時に忘れていっちゃった?私のファンだったら嬉しいなぁ…。」
シルヴィアはその少年が購入したであろうCDを何故か預かることにして立ち上がる。
「あれ?」
立ち上がった際に自分の怪我が治っていることに気がついたシルヴィア。
動いても先程の攻撃で受けた傷が痛むこともなかった。
「あの人が治療してくれたのかな…何から何までありがとうね。絶対に、探してお礼を言いに行くからね。」
名前の知らない少年に感謝し回復したその身体で今一度恩師を探すために行動しようとしたが先程の事で警戒して今は市中に出ていないだろう、そう考え一度少女は学園に戻ることにした。
◆ ◆ ◆
「あ、やべ…現場に買ったCD置いてきちまったな。」
救急車を呼んだあと急いでその場から離れてきたのだが忘れ物をしたことに気がついた。
「くっそ…せっかくの初版が…。」
『あの場から離れようと提案したのは主であろう。』
「今日はマジで災難だな…一回お祓い行こうかな…」
『主は無自覚に女性を堕とすのをどうにかした方がよいのでは?』
「どういう意味だ?」
『はぁ…。』
武器にため息をつかれた。解せぬ。
『あの少女絶対主を探すために動くだろうな…。』
「何か言ったか?」
『いや、何でもないぞ我が主。さすがにそろそろ星導館への帰路へ着いた方がよいのではないか?』
「まぁ、夕飯食ってからで良いか。近くにラーメン屋があったな。」
時刻はもう夕暮れ。健全な学生ならばもう帰宅する時間だがあいにく今日は休日なので外で夕飯を取ることにした。
『クローディア殿や綺凛殿から連絡が来ているのではないか?』
「怒られるのは少し時間が経った俺だし問題ないな。」
『それは問題の後回しなのでは…?』
《
豚骨醤油が俺を待っているからな。
◆ ◆ ◆
「ーで久々に顔を合わせりゃまたトラブルの報告か?」
どこぞの豪華な室内に備え付けられたソファーに少し小太りぎみな青年が座り込んでいる。
吐き捨てるようにもう片方のソファーに座るフードを被った”片腕を失った女性”へ話しかける。
「てめぇが勝手に死滅するのは勝手だがな、巻き込まれる側は堪ったもんじゃねぇ。そこのところ分かってんのかヴァルダ」
「我の落ち度ではない。この身体を提供したこの男だ。文句があるのならばそこの男に言うと良い。」
話題を振られて思わず男は肩をすくめて見せる。
男は目配せして青年を座らせるが機嫌は最悪に悪く舌打ちをしながらソファーにドカっと、と腰を着ける。
「今日の事だ。ヴァルダが宿主にしていたウルスラは天涯孤独の身だったのだがね…どうやら《
「はっ、あいつの宿主の知り合いがよりにもよって世界の歌姫とはな。つか、なんでヴァルダの片腕が無くなってやがる?」
青年は近くにあった既に飲みきり氷だけになったグラスに入った氷を噛み砕き視線を片腕を失ったヴァルダが視界に入る。
「第一てめぇも世界の歌姫の顔を知っておけよ。しかし驚いたな。その恩人の腕を切り落とすほど胆が据わっていたとはな…」
そう小太りな男はシルヴィアを評価するがスーツを着た男が首を振った。
「いいや、それをしたのは《戦律の魔女》ではないよ。…正体を知られてしまったと勘違いをしたヴァルダは彼女を何の抵抗をさせないまま記憶を消し去ろうとしていたのだがそこで思わぬ誤算があってね。」
そう言うとヴァルダがその背景を説明し出した。
「突如現れた身の丈以上の黄金色の小剣を持った少年が現れて娘を手にしていた腕を背後から切り落とされた。」
「何だと?」
《アスタリスク》において学生同士での決闘は認められているがそれはあくまでもエンターテイメントの延長戦であり虐殺行為や殺害は禁じられている。
「あの男…かなりの手練れだ。この肉体はかなりの者だがそれでも圧倒された。危うく私《本体》を壊されそうになったが近くにいた不良どもを操って銃弾をばら蒔いてその場を撒くことが出来たが…あの男今度会ったら殺してやろう」
「…。」
青年もさすがに驚いているようで言葉が見つからないようだ。
ましてや星脈世代は刀や剣で切られたところで出血はするが四肢の切断までには至らない。
それほどまでに丈夫なのだ。それにあの感情が薄いとされている”ヴァルダが明確な殺意を向けていることに”
ヴァルダと《
ソファーに座る青年は今日一番の驚きを表しており近くにあったテーブルに手をバン!と大きな音を立てた。
「あのイカれ純星煌式武装を使いこなす奴がいただと…!?チッ…一体どんな奴だ……!」
優男風の男性が目を細めてタブレットを青年に手渡すそこには一人の青年が写し出されていた。
「その青年の名前は名護蜂也、星導館学園所属の一年生で突如特待生で転入して来た人物だよ。そして適合率試験では《
「この死んだ魚みたいな目の奴がか?ウルスラに憑依していたヴァルダの腕を切り落としたと…?」
タブレットを訝しげにみていた青年はしばらくしてからため息をつき苦虫を潰したような表情を青年は表したが意に関せず男性は続けた。
「さて、それより金枝編同盟のメンバーが全員揃ったんだ。もう少し有意義は話をしようじゃないか」
「何度も言うがそのクソダせぇ名前をやめろつってんだ。吐き気がする。第一に俺たちはあくまでも計画のために手を貸し合っているだけの関係だ。そんなものを同盟だなんて大層な呼び方で呼ぶんじゃねぇ。」
「僕は結構気に入っているのだがね…まぁ良い。」
「…それで計画の進捗は?」
小太りの男とスーツを着た優男が説明する。
「今のところは比較的好調だ。各所への根回しはかなり進んでいるよ」
「相変わらず人手不足はどうにもならんがな…」
「まぁ人手に関しては最悪オーフェリア嬢が居てくれれば事足りる。逆に今此処にいる金枝編同盟の全員が消えることになってもオーフェリア嬢がいれば問題ない。彼女だけは消えて貰っては困る駒だ。」
「…だからそのクソダせぇ名前を使うな」
「それならば今の状況で行動を早めても問題ないのでは?」
「いや、それは未だ早計だ。準備は念入りにしておくものだ。それにこれは儀式だ。どうせなら君も大きな成果を得たいだろう?」
「…それには同意だ。」
ウルスラが頷くと青年が舌打ちをして告げた。
「…《
そう告げるとヴァルダは声を発しなかったが「同意する」と言わんばかりの視線を向けるがスーツの少年は肩を竦めて見せた。
「…いやまだだ。今シーズンの《
現状維持のその言葉に苛立ちを隠しもせずに青年は舌打ちした。
「日和見しやがって…足元を掬われても知らねぇぞ。」
「まぁ、いざとなれば…だよ。」
男性が端末を立ち上げるとそこには何時とったか分からない星導館学園の生徒会長、笑顔のクローディア・エンフィールドと副会長である名護蜂也が微妙な表情で一緒に写っている写真が表示されているのだった。