蛙女と蛇男 作:はちから
ある所に、蛙に惚れた蛇がいた。
蛙化現象。
グリム童話『カエルの王様』から名付けられたソレは、ここ数年で若年層を中心に急速に拡大。今や知らぬ者はいない深刻な社会現象となった。
長く好意を寄せていた異性と両想いになった途端、突如として相手に対し嫌悪感を抱いてしまう。それは気持ちが冷めるといった次元の話ではなく、生理的な嫌悪感として表出する。
当然、そんな状態では恋愛から先へ進むことは無い。未婚化・晩婚化はますます進行し、少子化はもはや歯止めが利かず。出来の悪い案山子のようになった人口ピラミッドは、もはや改善する方法が見つからない水準に到達してしまった。
そんな世界で――
「ごめんね。ほら、私ってカエルだからさ。気持ちは凄く嬉しいけど、貴方の気持ちには答えらえれない」
――好きになった女の子は『蛙』でした。
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「ひーふーみーよー。前金4万確かに。へへ、金払いの良い男ってアタシは好きだぜ」
「安心して。僕、金にガメツイ女は嫌いだから」
僕がバイトで必死に貯めたお金は、クラスメイトの少女の手に渡った。
そんな校内一の守銭奴、金の亡者として有名な彼女は今、ニヤニヤとだらしない顔で四人の諭吉さんに頬擦りしている。普通にしていれば可愛いのに、こういう所が残念なんだよなぁ……。
「さて、と。契約内容の確認だ。依頼者はお前、
そうして彼女は口調だけは真剣に。目線は目の前でジュウジュウと焼けていくハラミ肉に固定したまま言葉を紡いでいく。
ちなみに。支払いは勿論のこと、ここまでの交通費も僕もちだ。
彼女の座右の銘の1つは「人の金で食う飯は美味い」らしい。本当に最低だと思う。
「仕事の内容は――」
戸影の声を聴きながら、好きになった女の子の事を考える。
蛙間 冬夜。典型的な『蛙』女子。
中学時代、好きだった人が振り向いてくれた瞬間に気持ちが反転。逆立ちしても好意を抱けなくなり、そんな自分が嫌になってしまった。
以来、彼女は自分の気持ちに蓋をした。あらゆる恋愛事から距離を置き、告白も全て断わっている。
そんな彼女の気持ちを動かすには、真正面からぶつかるだけじゃ足りない。こうして協力者を用意し、長期戦で事に当たらねばならないのだ。
「――以上。何か間違いはあったか?」
「ううん。何も。今の内容で構わないよ」
「大筋に関しては、随時2人で打ち合わせを行って決める。ただし、細部や咄嗟のアドリブはアタシに任せる。それで良いんだな?」
「うん。その通り。君なら仕事はきっちりしてくれるし、そこに関しては信頼してるよ」
「あたぼうよ。アタシは貰った金の分は誠心誠意、真心込めて働くさ」
そう言ってから、彼女は美味しそうに焼けた肉を口に運んだ。
●●●
「しっかし、お前。こうやってクラス中…いや、学校中に根回ししてるんだろ? ヤベェな」
「君みたいに直球で金銭を要求してくる人は居なかったけどね」
焼肉屋を後にし、駅へと向かう。
時刻は既に6時半。日の入りが遅くなってきたとはいえ外は薄暗い。
それでも寒さを感じないのは、流石は春と言った所だろうか。
「そこまで一人に夢中になれるなんて、尊敬通り越して呆れる。いっそ気持ち悪いくらいだ」
「むしろ、一途な男ってポイント高いと思うんだけど」
「何事にも限度があるんだよ。蛇染はいっそ病的だ」
そうだろうか?
不倫をしたり、相手を取っ替え引っ替えしたり。そういう男より余程良いと思うのだけれど。
「金の亡者だの、
「あはは、これ以上ない誉め言葉だね」
「……あの女に少々同情するな。ま、貰っちまった以上、給料分はしっかり働くけどよ」
「うん、よろしく頼むよ」
さぁ、狩りを始めよう。
好かれる事すら難しくて、好かれた瞬間に嫌われる。
そんな『蛙』を捕まえる『蛇』の狩りを。
ニュースを見ていて思いついた。
鉄は早いうちに精神で書いてみたけれど……
果たして需要はあるのだろうか。