「今頃、上杉君は四葉の所で告白を済ませたでしょうか……」
刻一刻と進む秒針を眺めながら中野五月は「はぁ」、と大きく息をついた。
意図せずに出たため息は五月自身を驚かせ、そして困惑させる。
「な、な、な、なんでため息が!? 四葉と上杉君がようやく結ばれるんですよ!? 気に病む事など何も……何も……?」
これまでずっと応援してきた四葉の夢が叶う。
とても喜ばしい事……でもなぜか苦しいほどに胸が痛むのはなぜ?
――分からない。やはり病気なのでしょうか!?
誰もいない教室。外から聞こえる学園祭に勤しむ学生たちの青い声意外は静寂と呼べるほど静かである。
『嬢ちゃん、そりゃあ恋だぜ』
ニヤニヤと笑う下田さんの声が、聞こえたような気がした――
「違います!! それは絶対に!! 違う……はずです!!」
記憶の中の言葉を強く声に出して否定しながら説明できない自分の気持ちに五月は頭を抱えた。
経験した事の無い、教わった事の無いこの気持ちは自分では解けない。自分では分からない――
「教えてください……上杉君……」
「呼んだか?」
心の声が小さく漏れたその時、扉を開ける音と共に慣れ親しんだ声が聞こえてきた。
驚き、慌てて声の方向を見るとそこには――
「う、上杉君!? なぜここに!?」
「なぜってそりゃあ……いまお前が呼んでたろ?」
悪戯っぽい笑みを浮かべながらそう語りかけてくる彼の顔を見るのが何故か恥ずかしくて、直視することができずに私は目を逸らした。
「……呼んでません!!」
「でも上杉君って聞こえた気が――」
「呼んでません!!」
「そ、そうか……まぁ呼ばれてなくてもいい。俺は俺の意思でここに来たんだ」
一段と強く否定した後、次は何故か彼が照れくさそうに前髪をいじりながらそう言った。
「あなたがくるべき場所はここではありません!! 早く四葉の所に――!!」
「四葉じゃない。一花でも二乃でも三玖でもない。五月、俺はお前に会いに来たんだ」
「……!!」
上杉君の言葉に浮ついたのが自分でも分かった。分かってしまった。
また、胸が痛い。彼を見ると胸の鼓動が早まってしまう。
でも彼が訪れるべき場所はここではない。でも、でも、でも……
一体どうすれば……
困りきって、チラリと上杉君の方を見ると手に持つスマホの背面に昔、らいはちゃんと私、そして上杉君の3人で撮ったプリクラの写真が貼られていたのが見えた。
「それまだ持ってたんですか……?」
思わず声が出た。指を伸ばして尋ねてしまった。
「この写真か? ……まあこれも大事な思い出のひとつだ」
彼はまた照れくさそうに前髪をいじりながら貼られた写真を懐かしそうに、愛でるように眺めた。
それがまた嬉しくて何故か恥ずかしくて――
「それよりだ!!」
「な、なんですかいきなり!?」
「あー、なんだ、ほら。五月、お前の返事は……どうなんだ」
今度は頬を赤く染めながらも彼はまっすぐと私を見て尋ねた。
目を合わせられない。どうすればいいかわからない。私は、私は、私は――!!
「……わかりません!!」
「ちょ、おい待て!!」
いきなり飛び出した五月を止めることができず風太郎はただ手を伸ばす。
教室には再び、静寂が戻った――