今際望は狂信者であり、マッドサイエンティストである。
現在、五百万円の借金を早急に返さなければならない状態である。
強欲な金貸しは肉を1ポンドではなく、100ポンド切り落とすと宣告した。
血は流さずで肉だけ切り落とせないからと、契約が無効になるのはシェイクスピアの戯曲だけだ。
望の金銭交渉技能の値切りは初期値である。
表向きは普通の個人事業主であるのに値切り5しかない。
強欲な神相手に値切りで交渉できたりするのでクトゥルフ神話世界では意外に重要技能だ。
なお、望の信仰する神シュブ=ニグラスは値切り等通用するわけがない。
神が神なら信者も信者というわけにはいかない。
金銭工面が出来そうなことは約一ヶ月前、アドゥムブラリという異次元にすむ神話生物を抹殺したことくらいだった。
当然のように物的な証拠が出せない。被害者がその後全く無いという事実だけはあるが。
科学者に分類される望としては、物的な証拠がないのなら最初に提示された報酬の上乗せを要求しづらかった。
精神科医を派遣してくれた恩もあるし、アドゥムブラリがこの次元に干渉するための端末だけ始末すれば解決する問題だった。
望は考えに考え、あることを思い出した。アドゥムブラリがいた二次元世界の門だ。
望が門を作ったが、特殊な門に分類されるためただの人間では開けない。
二次元の生命体であるアドゥムブラリが異次元と化した門の先に干渉する可能性もほぼない。
豊穣実から教えられたので望にとって事実である。実としても嘘を言う理由もなかった。
門の発見、門の観察等が使用できる魔術師や神格がいたら別という前置きもあった。
放置しては不味いと思ったが、門を破壊する前に一応依頼主に見せておこうと思った。
一条昌宗とアーベル・ホルツマンはこれまでの常識が崩壊していくのを感じた。
アーベルはベルリン崩壊等、自分の価値観が覆る経験や体験をしてきたので自分を抑え込むことができた。
昌宗は名家の当主として様々な苦難があったが、完全に未知の体験に完全に動揺していた。
「前後左右しかない。…ないはずなのに何故あるんだ!…私はどこにいる?」
昌宗は短時間に正気度を5失い、アイディアに成功してしまった。要するに発狂した。
「落ち着いてください。私達はここにいます」
望は門は入るものには適応能力を付与されると知っていた。
門の創造を実から教わった際に聞いていた。宇宙に門を繋げても環境に適応するという。
故に断固たる自信を持って精神分析に成功した。
「あ、ああ、済まない。取り乱した」
昌宗は一時的発狂から冷め、正気度を少し回復した。
「異次元のクリーチャーが原因というのは信じられなかったが…実際に理解させられるとな」
アーベルは望の報告を聞いても納得できなかったが、実際自分で体験して事実を認識した。
一条昌宗とアーベル・ホルツマンはクトゥルフ神話3を獲得した。
「ここは今はもう安全ですが、破壊したいと思います」
望は壊せば二度と入れなくなるが、残しておく理由もないので断言した。
「…確かに」
一条昌宗は望の言葉に同意した。
初めは事実なら利用価値がないかと思ったが体験してこれは人間が関与していい部類ではないと直感した。
「同感だ。これは我々の住むところにあって良いものではない」
アーベルも同意した。少なくとも今の人類にとって劇薬だと判断した。
このような異次元の存在の認知はアーベルからすれば核爆弾よりも脅威だった。
「同意して貰えて何よりです。これのせいで酷い目に会いましたし、私も壊したいので」
望は常識的な価値観と倫理観を持つ二人の反応にホッとした。
利用して金儲けするとか言われたらどうしようと説明した後に気がついたからだ。
そこに突然誰かが現れた。気配を察知したのは歴戦の戦士であるアーベルだった。
思わず身構え、銃を向ける。
だが、アーベルの銃口は練り菓子のように曲がって使い物にならなくなった。
「勿体ないですね。人間」
そこにいたのは絶世の美少女だった。
古風な黒い制服に身を包み、長いストレートの黒髪に切れ長の目、白い肌にすらりとした長身の美少女である。
昌宗とアーベルが思わず息を飲み、同時にあらゆる感覚が警報を鳴らしていた。
「その姿は私への嫌味ですか。名も知らぬ神よ」
望は相手が神であると直感した。それも相当上位であり、望と豊穣実のことを把握している。
「フフフ…楽しませて見せてもらったよ。まぁ、私はたまたま見ただけ。今回も様子を見に来ただけだよ」
神の化身は隠そうともせず己の正体を明かした。
「か、神?」
昌宗かアーベルか或いは両方が思わず溢した言葉はどちらのものかわからなかった。
「…何か気分を悪くさせてしまったのならと思いましたが、様子を観にいらしたと」
望は言葉を選びつつ、最悪二人を返せないかと門の出口を見る。見てしまった。
「とりあえず邪魔者には帰ってもらおうか。後、この子が言ったここが安全なのは事実だよ。私は例外なだけで」
そう言ってパンと手を叩き、一条昌宗とアーベル・ホルツマンの二人はどこかへ消えた。
望は己の軽率な動作で安全が不確定になったのを悔いた。
「まぁ、警戒しないでよ。少しお話を…おっ?」
神と名乗る美少女は自身の違和感に気がついた。
元の時空から破壊の魔法が飛んできた。人間の体、内蔵がぐしゃりと潰れた。
「危ないなぁ…」
神は自身に治癒をかけて即座に治した。
死んだら自分の本体が出てくるので望が一番危ないのだが、わかっているのかとため息をついた。
「また今度にしましょうか。君は随分愛されているようで」
神はシュブ=ニグラスの子の癇癪で面白い物が死んでも困ると退散することにした。
「唐突に現れて…自己紹介もしていないのですが」
望は何がしたかったんだこいつと思って思わず嫌味を言った。いくらなんでもやりたい放題が過ぎる。
「おお、そうだね。今際望君。わかっているじゃないか」
神は望の反応に関心したように頷いた。
…地味に何発も破壊が飛んできていてとても辛いが、意地で耐えている。
「そうだね…何が良いと思う?」
神は名前を決めるのが面倒になって望に聞いてみることにした。
「黒子さん」
望は黒いし、何か女性っぽい見た目なのでという理由で安直に決めた。
「あ、あはははは!良い名だ!私を的確に表していなくもないのがまたいいね」
黒子さん(仮)は自身の役目的にも合っていないくもない名を気に入った。
そして、黒子さんへ特大の破壊が飛んできた。ついでに望へヨグ=ソトースのこぶしが飛んできた。
「…っ!」
望はわけがわからないが、黒子さん以外の第三者による攻撃と判断した。
そして、何か覚えのある感触だった。
「嫉妬は怖いね」
黒子さんは望ではなく外にいる奴に向かって言った。
「じゃあまたね。私の名は黒子さんだ!わーい」
黒子さんはそう言って望を転移させた。神というよりも無邪気な子に見えるなと望は思った。
その後、門は望が破壊する前に破壊された。
昌宗とアーベルは無事に元の場所に転送されていた。
何があったかと聞かれたが、世間話をして返されたとだけ返答した。
実際は何も話していないに等しいが、話す内容に困るので誤魔化した。
二人が追求するか否か悩んだところで借金取りが現れて滅茶苦茶になった。
大英帝国の強盗は五百万円早く寄越せと望に威圧をかけてきた。
一条昌宗は報酬では全然足りない規模の事件だったと誤解をし、五百万円を支払うことを提案してきて更にグダグダになった。
望はヘレナではなく昌宗へ借金をすることにした。
返さなくても良いと言われたが依頼を引き受けてから発生した借金なので返すつもりである。
帰ってご立腹の豊穣実の機嫌を取ったり、望にとって踏んだり蹴ったりな一日だった。
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登場人物
一条昌宗
一条家当主にして遭難した女子高生である一条久遠の父親。
アドゥムブラリの事件の依頼人の一人。DEX18、信用80、心理学80等の技能を持つ。
詳細の説明ということでついていったら異次元の世界を見せられた。
正気度5を失ったが、回復したので2しか減っていない。
神まで現れたのでヤバい事件だったと勘違いでもない勘違いをしている。
アーベル・ホルツマン
一条と同様な経緯で依頼したリサ・ホルツマンの父親。
POW18、サバイバル80、銃火器80等の技能を持つ。民間軍事会社の社長でもある。
正気度3しか減っていないのだが、一時的発狂した一条より減っている人。
異次元と神の存在を把握したが、やることは基本的に変わらないと動揺は少ない。
想像以上に胆力のある今際望を割と気に入ったが、娘に会わせるとなると話は別である。
事件関連で娘からやや嫌われていると思い、地味に一番気にしている。
娘の方は父を嫌っているわけではなく、隠す理由があるのは仕方がないかもしれないがある程度自分を認めてほしかっただけだったりする。
黒子さん
黒子さんは黒子さんだそうです。
ニャルラトホテプとかいう神とは関係ないと本人が言っています。