今際望はシュブ=ニグラスの狂信者にして、マッドサイエンティストである。
先日、銀の黄昏教団の陰謀の一端を挫くことに協力したが、区分的には彼らと同じ分類をされる存在ではある。…はずである。
集団に馴染めず個人事業主しているボッチであり、一人で毎日祈りを捧げている。
信仰深さはかの神すら関心を示し、娘である豊穣実も望の持つ明後日の方向性は別として認めてはいる。
望は銀の黄昏教団の野望を二度封じたことになるが世間でも裏社会でも特筆して大暴れした存在ではない。
だが、二度も近辺にいた望を怪しみ付け狙う存在がいるのも事実だった。
…ヘレナへ治療を頼もうと自宅近くまで帰ってきた望は早々に襲撃された。
だが、望と彼とでは相性が悪かった。
自己保護の創造で8ポイントの装甲がある暗殺者は追手を警戒していた望に透視で違和感に気が付かれ襲撃は失敗した。
更に、透視でPOWが少ないことと弱点を身に着けていることまで悟られた。
豊穣実が動くまでもなく、望の『アザトースの呪詛』でPOWを奪われた暗殺者は動揺した隙に望の組みつき65とSTR17に完封された。
そのまま窒息まで持っていき、暗殺者を気絶させた状態で自宅近くの空き家に連れ込むことにした。
如何に魔術的な装甲があろうとも窒息までは基本的に耐えられない。望が自己保護の創造を取得した際に学んだ弱点であった。
今際望は心理学96、ヒプノーシス63と透視は使えるが、支配や魅惑等の強制的に聞き出せるような呪文を持っていなかった。
豊穣実はどうするつもりなのか観察することにした。人間同士の争いであるし、相手は望に良いように負ける小物と判断した。
望は気絶している暗殺者の身につけていたお守りを取り上げた。一見すると普通のお守りだが自己保護の創造がかかった物である。これを壊せば8のCONを永久に失いその分の老化が一瞬で発生することになる。
暗殺者の変装を引き剥がし、40代くらいの年齢だと判断した。
望は彼を拘束し、その携帯端末を操作し始めた。
望はコンピュータ83、電子工学57、鍵開け29という技能だが、気絶している時間を用いれば容易にパスワードを解除し、暗殺者の全通話履歴やメールのやり取り等が判明した。
暗殺者は銀の黄昏教団の人間ではあるが、特に外部と連絡していなかった。
女子校の女子寮へ不法侵入するわけではないが、神を遠目でも良いから拝謁したいという狂信者であった。
銀の黄昏教団に黙ってやって来ており、バレたら不味い越権行為だと読み取れた。
…暗殺者は儀式を中断に追い込んだ望への八つ当たりに来ただけだった。
望は悩んだ。殺すのはヘレナでないので躊躇した。
というか、同じ狂信者として若干シンパシーを感じたのもある。
望は祈りの儀式で幸福であるが、この男は満足できなかったのだろう。
だが、儀式が成功していたら被害が大きかった。行為に対して何か言われる筋合いはない。
望の被害は正気度が3減り、POW1吸収した程度である。…費用対効果を考えると望が得をしているまであった。
正直、ヒプノーシスで偽の記憶を埋め込むのは容易いが、銀の黄昏教団関係者の狂信者である。
記憶を改変しても元に戻される可能性もあった。少なくとも今際望という存在は知られている。
悪人であり何なら即座に抹殺すべき対象なのだが、望はどうしようか悩んだ。
「自己保護の守りを取り敢えず破壊してみたら?」
第三者の声が空き家に響いた。
望はそういえばこいつ自分を殺しに来たんだったと思い出した。
自己保護の創造を破壊するくらいはされて当然であり、それで死んだのならば寿命である。
望は声の主に身構えた。…納得してしまった自分が悔しい。
「久しぶりだね。今際望君」
そう言って長いストレートの黒髪に切れ長の目、白い肌にすらりとした長身の大人びた美少女であるニャ…黒子さんは望へ挨拶した。
「…」
豊穣実は糞ウザい奴が来たので殺したかった。
だが、望の前で醜態を晒したくない、もとい、神として堂々たる態度で無視することにした。
「これはどうも、黒子さん」
望は実がブチ切れた気がしたのもあり、無難な返答をして様子見をしていた。
ここで神格同士の衝突など起きれば街など簡単に滅んだ。
「それ、私の信者のようなんだ。渡してくれないかな?」
黒子さんは暗殺者を指さして望に尋ねた。神の申し出である。
「…渡すにしても私に危害がないか不安なのですが、どうにかなりませんかね?」
ここで望は奇跡的な成功をした。なんと、望はダイスロールで値切りに成功した。
現在の値切り16に対して15のダイスが出た。命の値段交渉である。
メタ的な処理ではファンブルを出さない限り普通に進めるつもりだったが、少し変化する。
「じゃあ、これをあげるわ」
黒子さんは魔力が付与されたナイフを望へ手渡した。望のナイフ技能は40。
魔力が付与されたナイフであれば、呪文以外での自衛、攻撃手段が手に入った。
つい流れで受け取ってしまった望は実から『恐怖の注入』をくらった。
0/1D6の正気度ロールに成功し、減少はなかった。
望は実に後で謝ろうと思ったが、考えなしに受け取ってしまった。
「これで良いわね」
黒子さんはにっこり微笑むと信者である男を望から勝手に持っていった。
そして、暗殺者が縮んで行くのを望は見た。気絶した暗殺者が意識を取り戻すと自分の体の異変に気がついたようだったが、最早声も出せないのだろう。
暗殺者は、神の信者は絶望した顔で何かを叫んでいるように見えた。
体はドンドン縮み、灰色になりやがて干からびて薄汚い塵となって消えていった。
望は知らないが『吸魂』という魔術であった。その一部始終を目撃した望は0/1D6の正気度ロールにまたしても成功した。
…ここは失敗すべきところであるが、成功したので望は全くこの光景に動揺していない。
「薄汚い物を見せに来たのかしら?」
実は黒子さんに笑みを浮かべて尋ねていた。
実がキレているのが誰から見ても明らかであった。
望は実からすれば突然やってきてこんな光景を見せられたら怒るよなと納得した。
同じような狂信者が灰になったわけだが、暗殺者が信仰していたであろう神のやることなのでと棚上げするメンタルはやはり頭がおかしい。地味に望は過去最高に狂信者していた。
「ごめんなさいね。うちの子が」
黒子さんは灰になった自分の信者を汚い埃が服に付くとでも言いたげに手で払った。
「いいえ。まだ実害はなかったので」
望はシュブ=ニグラスの狂信者である。神に恥を欠かせないように務めて冷静に対応した。
同時に実へ自分が信仰する神の信徒として振る舞うことを行動で示した。
実はモヤッとしたが、望の振る舞いが親であるシュブ=ニグラスへの敬意であると悟り矛を収めた。
「フフフ…動揺していないわね」
黒子さんはにこやかな笑みで、望の思考を把握した上で言った。
善よりと思いきやちゃんと狂信者している望への評価を上げた。
「…」
実は口調まで自分と真似ているとニャ…黒子さんに苛ついていた。
実際、外見的特徴だけあげると黒子さんと豊穣実は同じような感じになった。
実際に対面すると黒子さんの方が年上で清楚っぽく見える。
対して、実は小生意気な印象を受けるかも知れないと望は思った。
突如、ヨグ=ソトースのこぶしが望に飛んできた。望はその衝撃を辛うじて耐えた。
自分の説明が足りなかったが、それが許される程に魅力的に感じるのが豊穣実であると補足した。
「話が済んだのならもう終わりで良いかしら?」
実が望と黒子さんへそう言った。心無しか嬉しそうな声色である。
「ええ、今日はこの辺で良いわね」
黒子さんは実の様子を見てため息を吐きつつも提案を受け入れた。
実際、余計な茶々いれたのが自分の信者なのにイラッときただけだったりする。
「では、また機会がありましたら」
望は紳士の礼を持って神である黒子さんを見送ることにした。
外なる神同士の面会にも関わらず、街に特に異変はなくその日は平穏な日常として過ぎ去っていった。
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登場人物
今際望
発狂チャンスが何度もあるのにダイス成功しまくって一切動揺しなかった狂信者。
この後、豊穣実へ失礼を詫たりしたが寛大に許された。ナイフに関しては保留された。
望としてはガチで対抗手段になり得るので是が非でも使いたいと思っている。
手に入れたアーティファクト
魔力の付与されたナイフ(POW1分、ファイティングナイフ)
基本命中率25 ダメージ1D4+2+ダメージボーナス。耐久値15
豊穣実
糞ウザいのが来たが結構我慢した。同時にシュブ=ニグラスの狂信者だなと望を評価し直した。
だが、黒子さんを容姿を褒めるような思考をしたので思わずカッとなった。
その後の補足するような思考も望の本心であり、望は思考を読まれているとまでは認識していない(事実)ので寛大な心で対応した(と思っている)。
ただ、魔力の付与されたナイフを素で受け取ったのはどうかと思っている。
黒子さん
人の破滅に愉悦を覚えるのは確かだが、傍観者が横槍入れるようなのは好きでない。
ノーデンスとかノーデンスとか。信者でもブチコロ判定になった。なお、その日の気分次第でもある。
実からの恐怖の注入や自分の吸魂といった発狂前提の行為に耐えている姿は愛おしいというか可愛いと思った。
ナイフに関してはメタ的には値切りで成功されたので渡しただけであり、特に何か変なことはしていない。後でナイフに何かしておけば良かったと黒子さんは思った。
暗殺者
銀の黄昏教団の平幹部的な立ち位置。40代に見えるが、吸魂の成果であり実際は50代後半である。
国会議員と結構な大物であるが、組織からすれば有象無象の一人。
実は自己保護の創造を破壊してもCONが8減るだけであったりする。
同じ狂信者であるが、望程のガンギマリではなかったので絶望して死亡している。
吸魂は銀の黄昏教団で余興でやったりするのでどういうものか知っていた。
余興で殺された人々と同じ絶望を味わってからこの世から消滅した。