邪教徒の平穏な日常   作:kohet(旧名コヘヘ)

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魔女と狂信者

今際望は狂信者にしてマッドサイエンティストである。

 

そして、神話体験に巻き込まれる探索者でもある。現在正気度74だが狂信者である。

 

 

望は先日というか昨夜の事件で負った噛みつきのダメージは応急手当で完治していた。

 

だが、傷跡等が治ったわけではないし、神話生物による噛みつきである。

 

今は良くても後々になって後遺症で手遅れなどということも有り得る。

 

 

故に、表沙汰にできない怪我や病気を見てくれる存在である闇医者に頼る。

 

望は大英帝国の不法滞在者ヘレナ・ノートンのいる空きビル兼診療所にやってきていた。

 

ヘレナは望以外を空きビルに入れたことはなく、表向きには別の診療所があるのだが望はそれを知らない。

 

どちらにせよ空きビルを不法占拠している事実は変わらないのだが。

 

 

望の至るところにある噛み傷をヘレナは医学75で検査した。

 

勿論、具体的にどのような経緯での傷かも聞き出している。

 

結果的には異常無しであった。余程不可思議な毒を持っているでもない限りは医者として問題なしと断言できた。

 

同時に全てが深い傷となっていないことにも気がついた。厚い皮に阻まれた上で貫通した傷だけともいうべきか。

 

ヘレナは魔力感知を使用し、望がなんの魔法を使用したのか理解した。

 

「…『自己保護の創造』だったかしら?あれを使ったのね」

ヘレナは1890年代の探索者であり、魔術と科学が分離する前の霧が濃い街に住んでいた。

 

故に、魔法の存在だけは知っていた。POWを消費して寿命を伸ばすだけでなく、保護術としても機能する。

 

当時のヘレナとしては厄介な魔術だとしか思わなかったが、望が使ったと知り、納得半分とモヤモヤとした感情があった。

 

ヘレナ・ノートンはPOW17の探索者である。クトゥルフ神話8であるが、オカルトに部類される魔術を多く取得していた。

 

その中には『治癒』や『平凡なみせかけ』等、現代ならば神の奇跡として崇められるような魔法も存在する。

 

 

だが、摂理を曲げる異端の異端である『復活』等の魔法は当然知らない。…『自己保護の創造』もそれに類する魔法であった。

 

 

 

「…17世紀に東南アジアを探検したとある船長の手記に記載があったので試してみた」

望は正直に言うことにした。医師の診察中ではなるべく齟齬のないようにしたかった。

 

実際は診察は終了したに等しいが望にまだ診断結果は言われていない。

 

「魔力を他人から奪う魔法とか…あるにはあるけど」

ヘレナは望へ言いかけて中断した。

 

望が患者として医師である自分を信頼しているのを利用している気がしたので言葉を濁した。

 

「それがあるからリスクの半分を踏み倒せるのは破格ね」

ヘレナは望の『アザトースの呪詛』を知らない。だが、アドゥムブラリをPOWを吸い殺して抹殺したと悟っていた。

 

望が不定の狂気になる以上、殺傷前提での利用に関しては利便性に欠いている。

 

しかし、少しずつ奪うようにすれば外見だけなら神格並の魔力になるだろう。

 

そんなアンバランスな存在は食い物にされるだけだが。魔力だけ高い雑魚は魔術師にとって獲物でしかない。

 

ヘレナは自己保護の創造でPOW8消費してもなおPOW28という老人を知っていた。

 

…あの老人は『魂の罠』で自分に忠実な私兵を量産していたが、望の言う手帳と同じ人物のような気がした。

 

「…教えられませんよ。自己保護の創造なら別ですが」

望は診察代金とホルト船長の手帳を引き換えにするかと提案した。

 

内容に含まれる価値を考えれば破格の取引である。

 

例えばだが、ヘレナが7POW消費すれば7年で1年の年をとることになる。

 

ヘレナは30歳時に24歳の見た目、40年以上経過して30歳となる。

 

「ふーん…」

ヘレナは寂しいボッチが自分に溢した言葉を理解した。

 

ヘレナも第三者から提案されたら飛びついたかもしれないが、相手が相手である。

 

らしからぬ言動に頬が緩みそうになるのを後ろを向くことで回避した。

 

「私の美貌に惚れましたか?」

ヘレナは望にツッコんだ。それって遠回しの告白かと。

 

 

「んなわけねぇだろ。診察結果はまだか」

望はヘレナの妄言を否定し、患者としての権利を主張した。

 

 

 

その後、ブチ切れたヘレナは未成年に対する性犯罪者予備軍として始末することにした。

 

望は魔女のホームグラウンドでの失言で瀕死の重症を負った。

 

死にかけの望を治癒する代わりに多額の治療費とホルト船長の手記を強奪された。

 

望としては体中の噛み跡が消えたと考えれば安いと自分に言い聞かせた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

登場人物

今際望

老化のペースが遅くなる(延長の存在は知らない)ので色々複雑になっていたのは事実。

今回の代金として『自己保護の創造』の製法の記載された手記は破格であった。

それらの意味する感情を無自覚に、よりにもよってヘレナに言ってしまったので物凄く後悔している。

人類不老不死の研究が進めば自己保護の創造すら不要になるのだが、本人の才能的限界を感じ取ってしまう事件での怪我だったのもあり大分ネガティブになっていた。

ちなみに『アザトースの呪詛』はシュブ=ニグラスから直々に教わった呪文のため、かの神からの許可無しには絶対教えない。

 

ヘレナ・ノートン

これプロポーズかと思って尋ねたら、全否定されたのでブチ切れた。

話を吟味すれば望が自分の限界を感じたのもあって溢したとわかった。

やはり遠回しのプロポーズだよな?と思わなくもないAPP17。

心理学で違うと確信したのが、余計ムカついたので瀕死に追い込んで手帳も掻っ払った。

何かPOWを増やせる方法がなかったか、過去の報酬で得た魔導書やオカルト本を中心に探すことにした。

実はそもそも望の研究が達成されると思っていなかったりする。

現代日本への転移前に遠い未来、人類が死滅した世界を見たことがあるため。

 

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