邪教徒の平穏な日常   作:kohet(旧名コヘヘ)

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天性の詐欺師にして狂信者

 

今際望は狂信者であり、マッドサイエンティストである。

 

そして、一応は社会人として働いており常識がそれなりにある大人である。

 

望は一条久遠が旧き神ルーン(仮称)に拉致され、神話的怪異に巻き込まれたと知っていた。

 

そして、久遠の父である一条昌宗とは年の離れた友人といえるような間柄であり、仕事関係でも繋がりがあった。

 

 

一条昌宗はクトゥルフ神話3を持つ、一般人よりは神話的事情の話がわかる存在であった。

 

…望が事後報告として女子校周辺での変死事件の原因その他を纏めた資料を提出し、その後に門を通して異次元を知覚させたのが原因であるのだが、まぁ、多少は理解していた。

 

 

翌日、望はいくら相手が神とはいえ最低限の行為は許されるべきだと認識していた。

 

その娘久遠が関わっている事情を親である昌宗に説明しないのは不味い。少なくとも望はそう認識した。

 

 

 

望は昌宗に人払いを頼み、盗聴等の対策を依頼した。一条邸にやって来た望はすぐに通された。

 

屋敷の奥の部屋、そこは名家としての裏事情の仕事の際に使われる部屋であった。

 

そして、その場にいるのは今際望、一条親子だけである。

 

昌宗は警戒をバレるような無駄な警備を省いてはいる。

 

だが、万全に近いものを三十分と経たずに整えた。

 

望も透視や目星85等の探索技能を使い、問題ないと認識した。

 

 

「ね、ねぇ、たとえお父様でも本当に説明して大丈夫なのかしら?」

久遠は望へ思わず再度確かめていた。…神は他の人に知られたくないようだった。

 

 

望が絵画の修復について父である昌宗に伝えると言うのを止めたのだが、常識的に説き伏せられた。

 

言いくるめ81、説得86となった望に言葉で叶わず頷いてしまったが、本当に良いのか不安だった。

 

 

「久遠…いや、今回は有り難い。娘がこうも動揺していて気が付かないわけがない」

昌宗は娘の反応から何かあったと再認識した。

 

そして、望が上位存在の機嫌を損なうことを承知で説明の場を設けたことを理解した。

 

 

先日の神を名乗る少女の存在、未知の異界の存在が脳裏を過ぎる。…昌宗は恐怖を抑え込んだ。

 

…望の行為に関しては詳細不明な以上は悩ましいが、親として娘の大事を知らないわけにはいかなかった。

 

 

「…一部伏せることになりますが、それはご承知を」

望はこの場を整えてくれた昌宗に謝罪した。話せない部分は話せないことになるからだ。

 

 

「…」

昌宗は望の言葉に思わず怒鳴り散らしそうになるが、この場を設けたこと自体が不味いのは娘の様子から見て明らかである。昌宗は自分の感情を押さえつけた。

 

 

「お父様!あの…」

久遠が昌宗の感情を読み取り、思わず弁明しようとした。しかし、望に物理的に遮られた。

 

 

望は久遠の発言を制した。今回の件は望が言った、という体裁を整えなければならない。

 

 

「久遠さんの絵画の才能に目をつけた存在が…」

望は昌宗にだけ伝わるように言葉を選びながら説明を始めた。

 

昌宗は『目をつけた存在』というので神、ないし、上位存在と悟った。

 

無力な人間にできることは限られている。

 

だが、望の発言から事情を読み解こうと名家一条家の当主として自身の能力を全力で傾聴した。

 

 

 

「要するに、久遠さんの才能でとある絵を修繕すると思ってください。修復が終わるまで誰にもバレてはいけません」

望は婉曲な表現を使いながらも昌宗に真意が伝わるよう務め、話を最後に要約した。

 

 

「…別の者では駄目なのだな?」

昌宗は再度確認した。娘の才能の高さが原因で神が介入するとはと嘆いたが、簡単に諦められなかった。

 

誰にもバレてはいけないと言いつつ、望が明かしている。昌宗は条件の抜け道を模索した。

 

 

「駄目です。久遠さん以外の誰かにも触らせるなと、管理は私が担当しろということでした」

望は微妙にズラして返答した。実際、望と久遠以外の絵への関与は許していない。

 

何故管理が望なのか、昌宗は異界へ繋げる術を使える望の能力を知っていた。

 

 

故に、説明は不要だった。

 

 

「…何故、神は我が子を選んだのか」

昌宗はたった一言で声が枯れるように呟いた。

 

 

「お父様…」

久遠は父の激情を見て、自分が置かれた立場を改めて理解した。

 

単純に絵を修復すると軽く考えていた自分の思慮のなさを悔いた。

 

 

「とはいえ、不幸の中で唯一幸いなことがあります。…今回の安全は今から会う奴が保証してくれるでしょう」

望は昌宗に断言した。望はルーン文字の記された小さな鐘を取り出した。

 

 

そして、望は鐘を鳴らした。

 

 

その瞬間、一条達と望はその場から消えた。

 

…誰も来ないように人気を払っている部屋で無音になっても誰も来ない。

 

三人は誰にもその気配を察することなく転移した。

 

 

 

三人が目を覚ますとそこは再び荘厳なる白き神殿だった。

 

昨日と違うのはこの場所の主の怒気が、感情が誰の目にも明らかだったことだろう。

 

一条親子は直接ではない。だが、望が直に感じる怒りは相当である。

 

一条親子の正気度減少はなし、望の正気度は1減少した。

 

 

「…どういうことか説明してもらおうか?」

ルーンと呼ばれた旧き神は望の行為、少なくとも第三者を連れてきたことに激怒していた。

 

場合によっては神を侮る者として死よりも恐ろしい目に合わせるつもりであった。

 

 

「まぁ、落ち着いて。彼は久遠さんのお父さんです」

望は正気度が減少する程の迫力に耐え、世間話のようにルーンに語りかけた。

 

 

「何…!?…確かにそのようだな」

ルーンは望が久遠の父親と言った年齢を重ねた男と久遠を見比べて血縁を感じ取った。

 

 

「隠したら絶対バレます。余計な騒ぎになります。邪教徒に狙われます。…わかります?」

望はルーンに捲し立てた。反論は許さぬと言わんばかりに言い切った。

 

久遠と昌宗は『…わかります?』と煽った望の行為に絶句した。殺意剥き出しの上位存在を煽るなと親子二人して恐怖した。

 

だが、昌宗は父親として娘を庇う姿勢を見せ、娘は父親の大きな背中を見た。

 

 

「…ああ、大変腹ただしいが納得した。久遠は隠し事が苦手…というか父親が鋭いのか」

ルーンはその光景だけで納得した。望が意図したかどうかは別としても明瞭だった。

 

ルーンは圧倒的な神である自分を前にしてもなお娘を守ろうとする父親を見た。

 

 

「そういうことです。保管は約束しましたし私が責任をもってしますが、多少説明しておくべきだと」

望は昌宗の父親としての振る舞いまでは予期していなかったが、神であるルーンにも分かるほどの親子関係を美しく感じた。

 

 

「はぁ…わかった。だが、これだけは聞く。…どこまで話した」

ルーンは久遠の父の勇敢な行為に免じて望の愚行を多少は許すことにした。程度にもよるので確認した。

 

 

「絵を治してと誰かに言われた程度しか言ってません」

望は嘘はつかないで言い切った。

 

昌宗は自分に分かるように婉曲な方法とはいえ、神であると認識していた。

 

だが、望の発言を表面だけ読み取ると昌宗が神とは言ったが、望は言っていない。

 

 

(この男、天性の詐欺師か!?)

昌宗はここまで胆力のある男を見たことがなかった。

 

バレたら殺されても仕方がない神への行為に絶句するしかない。

 

 

「…嘘をついていないな。おい、お前が悪いだろ、それは」

ルーンは望の黙秘に関してツッコんだ。

 

その程度の説明で自分の前に連れてこられてああも娘を守ろうと必死になる父親はそうはいない。

 

 

「貴殿の名を聞こう。勇敢なるもの」

ルーンは昌宗に対して問いかけた。だが、昌宗は緊張して声が出せずにいた。

 

神の前で無礼を承知だが、息つぎをさせてくれと合図した。

 

 

「お父様!?」

久遠は父の様子を見て思わず叫んだ、そして父の背中を擦り息を整えるのを手伝った。

 

 

「…望、お前本当に酷い奴だな」

ルーンは昌宗の行為の意図を察して、少し待つことにした。

 

望がここに連れて来るべきと判断するに足る男だと納得したが、余りにも酷いと思った。

 

 

「失礼を…一条家当主、一条昌宗と申します。久遠の父です」

昌宗は改めて神へ名乗った。望のフォローを思い出し、神等の発言が出るのを抑えた。

 

とはいえ、口が滑っても望が対処すると心の底から納得していた。

 

 

「ああ、よろしく頼む。…昌宗よ、私がお前の娘に依頼した神だ。

 そして、こいつは連れてきていないのに勝手に来た糞野郎だ」

ルーンは望の説明不足を自分視点でフォローした。望に関しては糞野郎と説明した。

 

口が軽いわけではないと安心した反面、余りにも説明不足だとルーンは思った。

 

 

その後、ルーンは昌宗に第三者に漏らすわけにはいかないと再度説明した。

 

とはいえ、望の役割は保管、久遠の役割は修繕である。

 

昌宗に依頼することはないので、詳細は伝えない。

 

感の鋭い勇敢な者としての敬意として、ある程度の説明した。

 

 

「…わかりました。神よ。しかし、僭越ながらお願いが」

昌宗は圧倒的上位の存在に逆らえないと悟っていた。だが、それでも言いたいことがあった。

 

 

「それ以上言うな。娘はこの件に関しては今後も含めて守ると我が名をもって誓おう」

ルーンは昌宗の発言を制した上で確約した。

 

本来そこまでする義理はないが、娘に行わせることを秘匿する条件として認めた。

 

 

「…そこの男は別だがな!」

ルーンは望の行為にムカついた。だが、納得するしかないのは悔しいので吐き捨てた。

 

 

「ハハハ。流石、心が狭い」

望はみみっちいと思ったので正直に吐き捨てた。信仰する神でないので滅茶苦茶である。

 

 

「や、やめんか!」

昌宗は望の行為を流石に制した。望に神罰が下らないか不安で仕方がない。

 

 

「…これで怒れば私の品位が下がるな」

ルーンは昌宗の制止と望の暴言を比べた。望の挑発に乗ったら負けのように感じた。

 

 

「久遠よ…良い父親を持ったな」

ルーンは話を逸らすことにした。絵画の修復を依頼した娘は家族に恵まれていた。

 

これならばゴッホのように自殺することもないだろう。

 

ルーンは前回の後悔を思い出し、今度こそと本当の意味で託すことができた。

 

 

「…はい!」

久遠は笑顔でルーンへ返事ができた。それは偽りなき心からの同意であった。

 

 

そうして、事情を説明できた望達は改めて神からの依頼を受けた。

 

その後、無事久遠の手による絵画への改ざんが完了し、ルーンへグレート・オールド・ワンの一柱を封印できたのは言うまでもない。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

登場人物

今際望

久遠では父親には説明しないとバレると思った。

実際、勘付かれていたので間に合ってよかった。

最後まで潜在的に敵対する神であるルーンに対して無礼だった狂信者の鑑。

 

一条昌宗

娘にまた何かあったのではないかと初日で勘付いた。

実際、連絡が来て下手に探らずに助かった。

望の神へのガチ無礼な態度が、自分たちへのヘイトを逸らす目的が含まれていることは悟っていた。

だが、神様相手に本当、怖いからあんまり刺激しないで欲しかった。

 

一条久遠

自分が軽い考えだったことを反省した。

それと望が神様相手に喧嘩を売るくらい自分たちを心配していたのを悟った。

今回見た思慮深い父のようになりたいと思った。望は行き過ぎなのでストップ。

 

ルーン

望のガチで無礼に関して激怒したが、久遠と昌宗の親子の絆を見て必要な行為と理解した。

それはそれとしてムカついたので一言言ったつもりが何のダメージも受けていない望に更にムカついた。

けれども、自分がみっともなくなるので感情を抑えた。

同時にここまで旧き神、人間の味方側であるはずの女神の自分に対して不敬極まりない人間は初めてであり、衝撃でもある。

 

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