邪教徒の平穏な日常   作:kohet(旧名コヘヘ)

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探索者な友人と狂信者

 

今際望は狂信者にしてマッドサイエンティストの探索者である。

 

そして、個人事業主として働いている社会人でもある。勿論、税金もきちんと納めている。

 

望個人の気質と宗教的倫理感も合わさり、一見すると非の打ち所がない社会人である。

 

 

過去の無人島の折、一条昌宗やアーベル・ホルツマンが今際望を怪しみ調べたことがあった。

 

その際の調査では複雑怪奇な経歴の黄泉尊と友人であること、中高学生時代の交友関係が断絶しているくらいであった。

 

女子校での不審死事件と無関係だと判明したので調査は打ち切られた。

 

以降は二人とも望の善性は疑ってはいない。娘達の恩人、仕事のできる人間と信用している。

 

…別の意味では色々怪しくなったが、それを無闇に詮索する愚かなことはしなかった。

 

 

そんな望だが、シュブ=ニグラスの狂信者であり、旧き神が知ったらぶち殺しに行きかねない存在である。

正義感の強い探索者も同様であり、狂信者が信仰を辞めないと知っている経験を積んだ者からすれば性質の悪い存在、それが今際望であった。

 

 

望の諸事情をおおよそ把握し、友人をやっているヘレナ・ノートンは異質な探索者である。

 

そして、もう一人。望の友人であり、表も裏も複雑怪奇な黄泉尊という友人もまた異質な探索者の一人であった。

 

 

 

黄泉尊の会社が手掛けるゲームの最新作『ワールドオブファイター』の公開式典に望は招かれていた。

 

望は豊穣実への夕食があるので途中退席する予定である。

 

尊の異母妹であるネットアイドル小夜が司会進行役を勤めていた。

 

 

なお、異母妹等の事情は望だけ知らされている情報である。尊の部下にも極秘らしい。

 

デビューの際に小夜のフォローを任されたこともあったが、望はそこで初めて拳銃に触れた。

 

それなりの神話体験があったのだが、小夜は常に平然としており非人間的な物を望は感じた。

 

 

小夜の清楚で可憐な妖精を思わせる容姿(APP18)とカリスマ性を感じる弁舌で会場は大盛りあがりであった。

 

同時中継のネコネコ動画やyoabe等のコメント欄はゲームよりも小夜のことで埋め尽くされていた。

 

 

望は興味本位で透視を使って小夜を見た。前回会った時にはない魔法である。

 

透視で黄泉小夜を見た結果、POW15であった。人間らしい感情の色も確認できた。

 

 

疑った事を申し訳ない気持ちになった望は視線を戻そうとした。

 

その瞬間、小夜が周囲にわからないように、こちらへ小さく手を振ってきた。

 

 

「…今、透視に気がついたよな?」

望は誰にも聞こえない小さな声で呟いた。

 

取り敢えず、小夜へ会釈だけ返してその場を離れることにした。

 

 

黄泉小夜の疑惑が晴れないが、考えても仕方がない。

 

望は妹に主役を取られた兄を見に行くことにした。

 

望が入院していた期間で中断期間があったにも関わらず公式式典へ招いてくれたことへの感謝の挨拶だ。

 

 

「……ふぅ」

黄泉尊は口に咥えたタバコから煙を体中に行き渡るのを感じて吐き出した。

 

尊は人気のない裏ステージにある喫煙所でタバコを吸っていた。

 

愛煙家である尊は公式式典で妹へ注目が行っている隙に抜け出していた。

 

 

「喫煙家は大変だ」

望は尊がある程度満足したのを感じ取ってから声をかけた。

 

喫煙行為自体が咎められる昨今である。

 

望は個人の健康に口煩く言わないが、尊が会社のイメージダウンを気にしているのを知っていた。

 

 

「全くです。よく考えてくださいよ、喫煙代も高くなりました。

 …タバコ税を支払っている私は高額納税者の鑑だと思いませんか?」

尊は望に対して愚痴と戯言を吐いた。

 

なお、尊は自分の発言に関して心の底からそうであると思っていっている。

 

 

「…まぁ、間違ってはいないかも知れないが。とはいえ、今日は発言に気をつけた方が良いのでは?」

望は尊の愚痴くらい流してやろうと思った。実際、いつもしんどそうであった。

 

それでも尊が喫煙を辞めはしないのは、禁断症状とかではなく拘りのように望は感じていた。

 

だが、ゴシップ記者も多いだろうにそんな発言をして大丈夫かと心配して言った。

 

 

「大丈夫、大丈夫。私の悪い印象を与える記事を書けなくしたので」

尊は望だけしかいないと確信しているが、一応は周囲を確認する素振りを見せた後に言い切った。

 

 

「魔術か。…認識阻害、それも大規模だとメンタルに悪影響では?」

望は黄泉尊が魔術に関して知識豊富と知っているのでそのまま尋ねた。

 

余りの椅子に腰掛けつつ、タバコの煙からやや距離をとっている。

 

 

「ヘルメス学系の魔術儀式だからその辺は大丈夫ですよ」

尊は望の心配を理解し、詳細は伏せつつ断言した。

 

 

オカルトの魔術儀式、とりわけヘルメス学は正気度が減らない魔法が多い。

 

今回の尊が使用しているのは『内なる意思』を増幅させて影響を与えるものである。

 

3ヶ月もの時間を要する上に食事などに様々な制約が課されるものであり、その準備だけで苦行である。

 

しかも必ずしも発動するとは限らない。望のように最近色々体験しているだろう相手には向かないものである。

 

 

…尊は望の療養から今年に入ってガンガン巻き込まれているのだろうと直感していた。

 

探索者としての勘である。当然、深くは追求しない。

 

 

他方で望が得た知識に関して気になりもした。尊は魔術を嗜む者である。

 

そして、望は明らかに魔力が増大していた。そういう魔術もあるし、何なら尊も使う。

 

そして、魔力が増えれば大概使える呪文等も多くなった。

 

 

「今、魔導書とか持っています?」

尊は望に直球で聞いた。

第六感を強化する尊の儀式魔術は望が今の尊に必要な物を持っていると言っていた。

 

 

「まぁ、あるけれども。だけど、まだ読み切っていない」

望は尊の直球に答えることにした。正直扱いに悩む本だった。

 

望は正気度こそ減らしているが、その本の研究期間である4週間が経過していない。

 

望は読み切っていないので、クトゥルフ神話の増加や呪文取得等はしていない状態である。

 

だが、今の自分には不要そうな呪文や知識が書かれた魔導書を望はカバンから取り出した。

 

 

その本は外見上はただの古本であり、よく内容を読み込まなければ警察官の職務質問も素通りできそうな本だった。

 

 

「『バビロン炎上』。…イギリスのヒッピーだかの本でしたか?」

尊は望が興味なさげな様子で取り出した本のタイトルを翻訳して尋ねた。

 

薬学69ある尊は夢に介入できそうな魔導書を探し求めていた。

 

そして、望が魔導書と言っている以上はその関係である可能性が高い。

 

 

…尊は望に交渉することにした。なお、尊の値切りは初期値5、望の値切り24である。

 

言いくるめ以外の交渉系技能では尊の方が上だが、今回は成長した望に有利な交渉となった。

 

 

「…まだ読み切っていないので、覚えたら返してね?」

望はそう言い、『バビロン炎上』を尊に約束通り手渡した。

 

 

金銭交渉で本の購入代金を遥かに超える額の請求に成功した。

 

望はヘレナから毟り取られていたのでそれなりに金に困っていた。

 

 

望は『バビロン炎上』に書かれた呪文の内、一つである冥王星の薬は既に『妖蛆の秘密』にて取得済みであった。

 

他に関しても詳細は不明なところはあるが、間違いなく今すぐに必要な内容ではない。

 

故に、金銭交渉での貸し出しに同意した。まだ読み切っていない以上はたとえ友人でも譲渡できない。

 

 

「…金銭関係で悩んでいるのなら相談に乗ろうか?」

尊はいつも以上に金にガメつい望に対して尋ねた。なお、悪意無しの善意である。

 

尊は金に困ることは一生ない。なので、今回の取引も大して損をしていなかった。

 

小切手に契約した金額を書き、望へ手渡した。

 

 

「それ以上は辞めよう。たとえ友人でも金の貸し借りは良くないだろう」

望は尊の申し出を断った。望は今回の本の貸出でそれなり以上の額を手にしていた。

 

尊にとってそれほどこの本に価値を見出すところがあったのかと思ったが、望にとっては急務というわけではない。

 

 

今回はお互いに取って良い取引であり、それ以上は望にとっても尊にとっても良くないと一線を引いていた。

 

 

「…すまない。忘れてくれ」

尊は望へ謝罪した。戸籍上は年下の友人に諭される形になる。

 

尊は望の『事情』をある意味で望以上に知っているが、それに触れるかもしれないと思い直した。

 

流石に望がシュブ=ニグラスの狂信者だとは気がついていないが。

 

 

「…今日は招いてくれてありがとう。最初に言うはずだったが、大分遅れてしまった」

望は尊の言葉に最も大事なことを思い出した。望は尊へ改めて感謝した。

 

そして、実の夕食の時間が迫っていた。それだけ言って会場から抜け出そうと思った。

 

 

「ああ、またの機会によろしく」

尊は望の挙動で事情を察して見送る言葉をかけた。

 

大切な友人である。あまり引き止めると不都合があるかもしれないと察していた。

 

 

…その後、尊は妹の小夜から望を引き止めなかったことに関して小言を言われることになった。

 

流石の尊も妹に諸事情を説明するわけにはいかないので機嫌を取るのに散々苦労することになった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

登場人物(第6版基準)

黄泉尊(推定年齢30代)

STR12 DEX13 INT17 CON15

APP16 SIZ15 EDU22 SAN84 他秘匿

特殊な事情がある探索者。POWは記載しないが初期状態よりも増えている。

アザトースの呪詛以外でPOWを増やせる方法を取得している。

ヘレナが19世紀の探索者なので呪文を多数取得する機会に恵まれたなら、尊は実家の事情でヘルメス学等のオカルト魔術を得る機会に恵まれた。

普通に劇物クラスの魔導書を3冊も持ち歩いているが、持ち歩いた方が安全な為である。

大概の神話生物相手にゴリ押しで勝てる逸般人。

心理学5なので、望がシュブ=ニグラスの狂信者とは気がついていない。妹がなんかヤバいのも知らない。

 

黄泉小夜(推定年齢10代前半)

APP18 SIZ12 SAN該当無 他秘匿

尊の異母妹であり、ネットアイドルでもある。

民衆を扇動することに関する才能が最早人外の領域にある。

とある事情から尊の妹となったのだが、原因となった一人を除いて事情を知らない。

尊も妹がいることに違和感を覚えていないが、彼の経歴を考えると妹は存在するはずがない。

原因となった人物は正気度0となり、現在も入院している。

小夜本人も尊の妹であることに違和感を感じておらず、ほぼわかっていなかったりする。

 

今際望

黄泉兄妹に対しては友人とその妹である。

小夜が発生した以降から尊と出会っているので本能的な違和感しかわからない。

バビロン炎上を尊へ貸した。望としては譲れないという値切り合戦で勝った為に処理された。

尊は同性の年上の友人であるはずだが、何故か年上と感じないので望は敬語が抜ける。

黄泉家の二人に違和感を感じ取れることは地味に凄いことだったりする。

その違和感を感じ取るのは外なる神の豊穣実でも無理である。

神である以上はよく観察すれば気がつくかも知れないがそこまで興味を持てない。

 

正気度を喪失したある人間、ある外なる神とニャルラトホテプしかその違和感の正体を知らない。

 

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