今際望は正気度72ではなく79の探索者である。
その変化に気がついた豊穣実は望に何かあったかを尋ねていた。
なお、狂信者である望は正気度が80以上は決して回復することはない。
現在ではクトゥルフ神話14あるのでほぼ誤差ではある。
「夢でアルビノの少女と大きい蛇と出会いました」
望は神の子である実の問に対して思い出すように返答した。
夢見る時、稀に良くあるクローズド展開であった。リアルな感覚なので毎回慣れない。
「時空間を超える薬…。この本とは関係なさそうなので安心しましたが」
望は『妖蛆の秘密』とドイツ語のゴシック様式で書かれた魔導書に再度目を通して言った。
望の他言語(ドイツ語)53。望は幼少期にアメリカとドイツで過ごしたことがあった。
INT×3の判定で6を出した望は『冥王星の薬』の呪文を覚えた。望は5つ目の呪文を覚えた。
「…その本が魔導書なのをわかっているのかしら?」
実は望が辞書の代わりに使っている本の価値を理解しているのかと何度目かわからない呟きをした。
望が手にしている本は世界で暗躍する魑魅魍魎が文字通り殺してでも欲する魔導書だった。
他人と体を入れ替えることで半永久的な不老不死が可能な『精神転移』。
何柱かの神格との接触方法、望はまだ知らないが『黒い仔山羊の召喚/従属』というシュブ=ニグラスの子らを召喚できる呪文が記載されている。
「精神転移とか興味深いことが書いてありましたが、他人と体を入れ替える呪文ではパーティの余興くらいしか使い道が…」
望は死の克服を目指す狂信者である。だが、別に望だけが不老不死になっても意味がないと考えている。電脳技術に関する研究は死後も意思や思想を残すという方法論でしかない。
それ故に、体を入れ替え続けることで永遠の命を手にするという発想がない。
望は狂人ではあるが、公益のためにという普通なら建前であるはずの事柄が本心であるタイプの狂信者であった。
死を望む者に対しては勿体ないと思いつつも本人の意思を尊重する。
それ故に望はシュブ=ニグラスの狂信者でありながら高い正気度を保っていた。
一見するとまともに見え、実際やり方自体は大体まともな部類の狂信者である。
だが、その価値観を否定するような神の場合、敵愾心を剥き出しにしあらゆる手段を取ってくる。
豊穣実は今際望という人間はシュブ=ニグラスに対してですら自身の価値観を逸脱するようならば敵対すると確信していた。この狂信者は一際高い信仰心を持つが故に危うい存在だった。
他方で自己完結している誤った信仰心は並大抵のことでは揺るがないのでシュブ=ニグラスが気にいるのもわかるのだ。実としてはかの神の気まぐれか否かに関わらずその信仰を否定しないように誘導しなければならない。放置してもほぼ大丈夫だと確信しているが、常に乱高下する思考回路をしてくる父にして母なる神の信徒を放置してやりたい放題できなかった。
外なる神であるはずの自分が放っておけなくなる、見ていてハラハラする。要するに実はたかが人間に対して相当入れ込んでいた。母性か父性か愛情かわからない感情を本人、本神は自覚していないが。
あの無貌の神であるニャルラトホテプが見れば大爆笑待ったなしの状況である。神と人が歪な関係は良くあることだが、父(母)親の信徒に横恋慕しているなどと吹聴してまわることだろう。
なお、今晩の献立はアジの塩焼きだった。今日の供え物のパック肉は神が受け取った判定らしい。
…ひょっとして肉に飽きただけではないかと実は思った。
実際、実は肉に飽きてきていたので美味しく食べた。望の制作(料理)は80である。
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魔導書紹介
『妖蛆の秘密』:1542年にベルギーの魔術師が書いた魔導書。
オリジナルはラテン語だが、今際望の持つのは1587年ドイツ語ゴシック体で書かれた本である。クトゥルフ神話+9。
版にもよるが精神転移という他人の人格を乗っ取る魔術が記載されている。
正気度が恐ろしいくらい削れていくが、理論上交換を繰り返すことで不老不死になれる。
クトゥルフ世界の最高峰のカルト教団でもその幹部が覚えているかも程度である。
本当に殺しても奪う本であり、それ以外でも神格との接触が記載されているのでそれらの神を崇拝する狂信者達から狙われることは間違いない(なお、シュブ=ニグラスに関する記載は黒い仔山羊以外直接的なものはない)。
今際望の使える魔術(現在5つ)
精神転移、冥王星の薬、シュブ=ニグラスの招来/退散、他2つ。
・冥王星の薬:精神を時空を超えて旅行できる薬。ただし、ティンダロスの猟犬に狙われる可能性が結構ある。小説の描写だと過去の偉人(カエサル)に一時的とはいえ乗り移ったりしている。
実は対策方法があるにはあるがミスカトニック大学の禁書くらいしか記載のある魔導書がない。当然のように対策に凄いコストがかかるので普通の探索者は知っても使わないと思われる。
冥王星の薬自体は結構な魔導書に記載があり、『バビロン炎上』というイギリスのミュージシャンの書いた本にも記載されていたりする。
ちなみにこの本はクトゥルフ神話+2で呪文が5つ載っている。当然、著者は変死している。死後に一度だけ出版された。