今際望はシュブ=ニグラスの狂信者である。
不定の狂気に陥っていたが、信仰する神の娘である豊穣実の対応により適切な治療を受けた(望はそう思っている)。
名もなき人柱(存命の精神科医)の療法も合わさり、現在正気度70である。また、STR13とCON10まで回復していた。
元のSTR17、CON15なので本来ならば五週間程安静にしていなければならない。
不定の狂気から回復した望は実と医師を手配してくれた関係者に感謝しつつも、安静にしている場合じゃなかった。
「五百万寄越しなさい」
どこぞかのアイドル事務所のプロデューサーがスカウトしそうな良い笑顔で強請る美女がいた。
望が外の空気を吸いに出た瞬間、金髪碧眼の美女からライフルを頭に突きつけられていた。
望はそれがライフルだと気がついたが、認識をずらす魔法を使っているらしく周囲の人間はそれに全く無関心である。
「ちょっとタイム、今治ったばかりでまだ用意できていない」
望は大英帝国の蛮族ヘレナ・ノートンに猶予を請うた。
いつまで返すと約束しなかったが、まだ一ヶ月程である。
流石に今すぐ五百万円を用意することはできない。
「可愛い可愛い女子高生達を誑かし、その両親から医師まで派遣してもらったようじゃない」
ヘレナは楽しそうな声で、だが内心では吐き捨てつつ望へ言った。
二週間ほど前から望の家から出入りしていた医師に支配の魔法を行使し、断片的な情報を聞き出した上でその記憶を消しておいた。
その後の調査で大体望の状況を把握した。魔力が付与された武器もなく効率の悪い呪文を使い続けて倒した。その理由はAPP15以上の女子高生達である。
ヘレナは激怒した。
現在のヘレナが御託は良いから今すぐ金払えというのが心理学を使わなくてもわかる。
「何か誤解してないか、その言い方!?」
望視点では神話的事情がわかると判断されて依頼されただけである。
女子高生達ともその後は会っていない。望は不定の狂気中の出来事を断片的にしか覚えていなかった。
「…なるほど、この性犯罪者」
ヘレナは望の言いくるめ75からの信用53と説得67を聞いた。
なお、心理学87に透視(+34)を並行して補正付きである。ほぼ自動成功に等しい。
聞いた上でお熱になる少女達に関しても調べがついていたので吐き捨てるように言った。
「信仰している神は豊穣神だが、誤解していない?」
望はシュブ=ニグラスを崇拝する狂信者である。
そして、神話的背景もある程度だが断片的に知っている。
なお、断片的な理解なので豊穣実がいらぬ心労をしていることは気がついていない。
人間的な価値観で言えばシュブ=ニグラスは放埒な神であるという認識していた。
信仰心は山より高く、谷より深いがそれはそれである。
「まだ安静にしていなきゃ駄目よ」
ヘレナはライフルを望の頭に突きつけたまま心配したように言った。
望の組みつき65であり、DEX13でヘレナよりは遅い。
まだ望のSTRは全快ではないとはいえ、奇襲されたら不味いという判断でやっている。
「ライフル突きつけたまま言うことかな、それは」
望は周囲にはヘレナのライフルが見えないのだと確信して言った。
戦闘狂の脳内では奇襲で組み伏せられるのではと考えているらしい。
奇襲が勘付かれる可能性、組みつきを外す可能性を考えればするわけない。
望は望で人のこと言えない考えをしていた。だが、頭にライフルを突きつけられていればそうもなった。
望の火器技能は拳銃32で後は初期値である。平和な日本で暮らす望は火器の扱いは素人だった。
ヘレナのライフルがどういう物かまでは特定できないが、今打たれたら即死することくらいはわかっていた。ちなみに現在の望の耐久値は13、全快時なら16である。
「美人とお話できるのだから追加でお金が欲しいくらいですね」
ヘレナは本心から言った。ヘレナはAPP17の金髪碧眼の白人様かつ美女である。
何なら頭を垂れて這いつくばっても良いのではないかと考えている。
そして、自分に依頼する患者や関係者には大体そうさせている。
「そんな特殊性癖は持ち合わせていない」
望はヘレナの本心からの言葉に辟易した。
神への信仰心はあるが、被虐思考は持ち合わせていなかった。
豊穣実が一週間ほど自分を玩具にしていたような記憶がぼんやりとあるが、神だから仕方がないと棚上げしていた。最終的には彼女の手で不定の狂気を治してもらったのもある。
「美少女を甲斐甲斐しくお世話していますよね?」
ヘレナは例外枠、特別扱いに文句を言った。勿論、豊穣実が目の前にいれば絶対言わない。
「信者であり、信仰対象の関係者なのだから当然では?」
望は何言っているんだこいつという目でヘレナに返した。
望が本気で嫌がれば大抵は許容してくれる慈悲深い存在である。
細かいことは適当で、不定の狂気に陥った件には実に遠因がありそうな気もするが人間でないし仕方がない。
「…これだから狂信者はわからないわ」
ヘレナはダブルスタンダードが当たり前な狂信者に呆れた。
狂信者でなくてもダブルスタンダードどころか三枚舌以上の自分の祖国は棚上げだ。
「…話を戻すが、女子高生がどうとか言っていたよな?」
望は気になる点があったのでヘレナの様子を伺いつつ尋ねた。
依頼主はともかくその娘達と再会した記憶がない。
当てこすりで実の話題を言ってくるにしては関係性としては薄く感じた。
「レディの前で他の女の話とか失礼ですよ」
ヘレナは不躾な男に常識を説いた。後、純粋にイラっときた。
「レディになってから言え」
望は売り言葉に買い言葉で本心が言葉に出てしまった。
「…」
ヘレナは撃ったら流石にバレるだろうが、犯人は特定できないと魔法の効果を脳内で確認した。
「悪かったから、今撃たれたら死ぬから待って」
望はヘレナがガチでキレたのを察した。同時に魔法って理不尽だと思った。
望の使える呪文を見ていけばお前が言うなとなるが、とっさに役立つような呪文や防御、攻撃の呪文もない。
今際望は今銃で撃たれたら普通に死ぬのでひたすら自分の失言を詫びるしかできなかった。
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魔法解説
・支配
1マジックポイントと正気度でPOW対抗し、勝利すれば使い手に服従する呪文。あからさまに意思に反するようなことを命令すれば破れる可能性もある。
・記憶を曇らせる
その名の通り、記憶を意識的に思い出させなくする。対象とのマジックポイント対抗で失敗すると鮮明になってしまう欠点がある。
事前にマジックポイントを増強するようなアーティファクト等を持っている等の対策が必要。
また、具体的にどのようなことを忘れるのか指定しないと効果がない。
ヘレナの場合、「私と会話したことを忘れて」という感じである。
「今日あったこと全て忘れろ」等だと効果は期待できない。
・平凡なみせかけ
生物や物の認識をずらし、取るに足らないものや違和感を感じさせない存在に見えるようになる呪文。
SIZ1に対し、MP1。物にかければ無期限で影響する。生物は維持コストが発生する。
何度も見返したりすれば違和感に気づくこともある。望は何度もヘレナのライフルを見ているので重ねがけでもしないといけない。
特殊技能解説
・ヒプノーシス
前回望が使った技能。催眠術。
対象が承諾していないと使えないのと一人ずつしか使えない欠点がある。
望は精神科医を言いくるめて承諾させた。言質は取ったという感じ。
前回の医師にはニセの記憶を与えたが、精神分析に25%補正等色々使える。
医学を学んでいたり、POW14以上あったりすれば学習可能である。
とはいえ医学を学んでいても教えてくれるのは稀である。
望はこの有益な技能を広めようとする変人と仲良くなり教わった。現在の技能値は50。