宇宙戦艦ヤマト 真田悠航海記録   作:パッシブライバー

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よろしくお願いいたします。


第1話 始まり

 西暦2199年、1月23日。

 幕僚監部作戦部9課、会議室。

 限られた人物しか入室を許されないその部屋の長椅子に、一人の少女が腰掛けていた。

 真田悠(さなだゆう)、年齢は19歳。

 14時にこの部屋へ来るようにと国連宇宙軍の上層部から命令を受け、20分前に到着。

 爆発物や盗聴器などの類が仕掛けられていないか、自作の発見器で確認を終えた悠は、指定された時刻になるのを待っていた。

 

 コンコン。

 会議室の沈黙を破るように、入口のドアをノックする音が聞こえてきた。

 腕時計をちらりと見やった悠は、指定の時刻にはまだ10分早いことを確認する。

 この場所に悠を呼び出した指令書には、書類の責任者の名が記されていた。

 悠が知る限り、その書類の人物は遅刻はしないが、10分前に到着することもない、ある意味で時間に厳格な人物だった。

 

「はい」

 

 指令書に名が記された人物でないと判断した悠は、ノックした人物に対して声をかけた。

 だが、自分より階級が上の人間である可能性は高い。

 返事をすると同時に、悠は長椅子から立ち上がってドアの方へと身体を向ける。

 悠の返事から数秒の間を置いて、ガチャリとドアは開かれた。

 

「失礼します。……あっ?」

 

 入ってきたのは、悠とさほど年齢の離れていないと思われる女性だった。

 それだけでも悠の想定外だったのだが、その女性の服装がさらに悠の目を引いた。

 

(士官候補生学校の制服……?)

 

 てっきり、自分より歳上で階級も上の人物が入室してきたと思っていた悠。

 

「……この部屋は関係者以外入室禁止ですが」

「あ、いえ、えっと……私はここに来るようにとの指令書を受けて来ました。ドアのロックがその証拠です」

「……そうでした。失礼しました」

 

 通常、会議室には電子ロックがかけられている。

 そしてこのロックは、事前に解除権限を与えられた人物の生体認証でないと解除できないように設定されている。

 さらに、解除者が入室するとドアは再びロックされる仕組みになっている。

 つまり、ドアの内側にいる間が解除しない限り、権限を付与されていない人間は入室できない仕組みであることを悠は失念していた。

 

「自分は真田悠と申します。宇宙防衛大学、科学技術科所属であります」

「自分は山南茜、航宙士官候補生学校生であります」

「山南……? とすると、あなたのお父様は現在進行中の作戦の……」

 

 聞き覚えのある名字に、記憶を掘り起こす悠。

 そんな悠の言葉を聞いた茜と名乗った少女は、首を縦に振る。

 

「はい。自分の父は特殊作戦に出撃中のキリシマ艦長である山南修です」

「なるほど、そうでしたか。聞き及ぶところでは、キリシマのみ帰還の途に就いていると」

「自分も把握しているのはそれだけです。父が具体的にどのような作戦に参加しているのか、詳細は知らないのです」

「それは、私から説明しよう」

 

 茜の背後、ロックされていたドアが開き、一人の男性がタブレット片手に会議室に入ってきた。

 その男性が誰かすぐに察知した悠は、背筋を伸ばして起立し敬礼を行った。

 そんな悠の反応を見て、入室してきた人物がこの場で一番立場が上であることに気が付いた茜も、士官候補生として鍛えられた反応速度ですぐさま敬礼を行った。

 

「真田悠に山南茜だな。私は真田志郎だ。幕僚監部作戦部9課に所属している」

「真田……? 先ほど悠さんも真田と……」

 

 横目でチラリと悠の方を見ながら茜が言葉を発した。

 

「私と悠の関係については、今は関係ない。後で悠から聞いてくれたまえ。今は、君たち二人をここに呼んだ理由について話さなければならない」

「ハッ、失礼いたしました」

「座ってくれ」

 

 二人に座るよう指示を出しながら、自らも長椅子に腰掛ける真田。

 上官である真田が座ったのを確認してから、悠と茜は真田の真正面にある別の長椅子に腰を下ろした。

 

「改めて、自己紹介をしておこう。私は真田志郎。先ほども言ったとおり、国連宇宙局、極東管区行政府の幕僚監部作戦部9課に所属している。階級は三等宙佐だ。現在、ある計画の最終準備を行っており、その責任者の一人でもある」

「ある作戦……それは、イズモ計画のことですか?」

「違う。茜くんや悠がこれまでその存在を知らされていたイズモ計画は、実は一年前に破棄されている」

 

 真田の言葉に、茜は衝撃を受けて目を見開いた。

 一方、悠は表情を変えることなく真田のことを見つめていた。

 

「で、では、先ほどお話のあった『ある計画』というのは……?」

「ヤマト計画だ」

「ヤマト計画……」

「そうだ。これを見たまえ」

 

 真田はそう言うと、手にしていたタブレットをテーブルの上に置き、ある動画ファイルを再生した。

 再生されるとすぐに、よどみのない透きとおった女性の声がスピーカーから流れ始める。

 その女性は自らをスターシャと名乗り、地球から16万8000光年の距離にあるイスカンダル星にいるという。

 そしてそのイスカンダルには、大地は干上がり生命は地下への避難を余儀なくされた地球を救うための技術があると言うではないか。

 動画の再生が終わると、そんな嘘としか思えない話をやっとの思いで整理できた茜が口を開く。

 

「真田三佐。今のはいったい……?」

「今のはおよそ一年前、地球に飛来した一隻の宇宙船から降りてきた人物によってもたらされた、膨大なデータの中にあった音声データだ」

「宇宙船、ですか? ガミラスのではなく?」

「そうだ。船から降りてきた女性も、この音声データの女性と同じく、自らをイスカンダルからやってきた使者だと言った」

「地球を救う技術がある……それが、先ほどのヤマト計画と関係あるのですね」

「ああ。君のお父様、山南修一佐が乗艦されておられるキリシマは、そのヤマト計画始動のために必要な最後のピースをイスカンダルから受け取るため、ガミラスを陽動する作戦に出撃されていた」

「……では、私と茜さんがここに呼び出されたのは、その最後のピースが埋まったから、という訳ですね」

 

 話の展開が見えてきて、それまで黙って真田の言葉に耳を傾けていた悠が口を開く。

 真田は頷き、タブレットの画面をスワイプする。

 画面が切り替わり、そこにはラグビーボールのような形の楕円形物体が表示されていた。

 

「一年前我々は、イスカンダルから次元波動エンジンと呼ばれる恒星間航行用エンジンの設計図を受領した。エンジンそのものは地球や他の太陽系惑星、および衛星に存在する鉱物資源を最大限活用することで製造することができた。だが、起動に必要な『波動コア』と呼ばれるパーツだけは地球の技術では製造不可能であり、別途受領する必要があった」

「別途? なぜイスカンダルはそのようなまわりくどいことを? 設計図と同時にそのコアも持ってくれば……」

「悠の疑問は当然、我々も考えた。だが結論は導けなかった。その点については、イスカンダルから来た使者も話さなかったのでな。とにかく、我々には一年しか準備期間がなかった。そこで、当初より計画されていたイズモ計画を破棄、使用される予定だった艦艇に次元波動エンジンを搭載しヤマト計画で使用することにした」

 

 真田はもう一度タブレットをスワイプする。

 写真が切り替わり、今度は一隻の艦艇の全体図が映し出された。

 その姿は国連宇宙海軍に籍のあるどの艦艇とも異なったものであり、茜は知識としてでしか知らない、200年以上も昔の洋上艦のようだと思った。

 

「真田三佐、ヤマト計画の『ヤマト』というのは、この艦の名前でありますか?」

「そうだ。このヤマトこそ、君たちが乗艦することとなる最新鋭艦だ」

 

 乗艦する。

 この言葉が意味することはただ一つ。

 悠と茜はすぐさま立ち上がり、両手を身体にピタッとつけて真田の言葉を待つ。

 

「真田悠、3等宙尉に指定する。技術科員としてヤマト乗艦を命ずる」

「ハッ」

「山南茜、3等宙尉に指定する。戦術科員としてヤマト乗艦を命ずる」

「ハッ!」

「なお、真田悠は宇宙防衛大学、山南茜は航宙士官候補生学校に今年3月まで在籍であるが、戦時特例により2月10日付で卒業とする。出航日は2月11日だ。それまでの間に出発の準備をしておくように。以上だ」

 

 真田は二人への下令が終わると敬礼をし、悠と茜も即座に敬礼を行う。

 そこにいるのは19歳のただの少女たちではなく、若いながらも厳しい訓練と実績を積み上げてきた軍人であった。

 

 

 

 

 

「それじゃあ、悠さんは真田三佐の姪ということなんだ」

 

 一時間後。

 悠と茜は極東管区行政府の施設に併設されているカフェにいた。

 悠の本音としてはサッサと帰って荷物をまとめたり、乗艦するにあたって必要となる事前訓練に時間を使いたかった。

 特に地球発進時のマニュアルには必ず目を通す必要があるし、不測の事態に対応できるようシミュレーターを使っての訓練も考えていた。

 だが、茜が色々と話をしたいと言ってきた。

 身内以外とのコミュニケーションがそこまで得意でないという自覚のある悠だったが、同じ艦に乗り、しかも同じ階級ということもあり、今後の任務のことを考えて交流をしておくのもプラスになると思い直したのであった。

 

「そう。僕の母は叔父様の姉だからね。両親は6年前に遊星爆弾の攻撃で命を落としていて、叔父様が後見人となって育ててくれたんだ」

「そう……なんだ」

 

 茜の表情が少し曇ったのを見て、悠はアイスコーヒーを一口飲んでから首を横に振った。

 

「珍しいことじゃないよ。むしろ後見人がいただけマシとも言える。両親や親戚をすべて失った人なんて、今の地球にはいくらでもいるさ」

「まぁ、ね。それより悠、あなた宇宙防衛大学にいるの? 今19歳ってことは、入学したのは15歳? どうやって15歳で入学したの?」

「どうって、試験を受けてだよ。それ以外にあるかい?」

「確かに、人員不足が理由で2195年4月から、成績を満たせば年齢を問わず入学できるようになったけど……」

「それに科学技術科なら、数学や物理なんかの理科科目の点数比率が高く設定される。国語が苦手な僕でも余裕だったよ」

 

 当たり前であるかのように言ってのけた悠を見て、茜は苦笑いするほかなかった。

 茜が入学した士官候補生学校も入学難易度が低いわけではないが、宇宙防衛大学はその比ではない。

 入学条件が緩和されたとはいえ、試験まで簡単になったという話は聞いていない。

 そんな試験を15歳で突破した目の前の人物を見て、ひょっとして天才なのではないかと思い始めた茜。

 

「科学技術科ではどんなことを勉強したの?」

「2年次までは基礎的なことだけだよ。軍人としての訓練課程もあるからね。専門的なことをできるようになったのは3年次からさ。僕は宙技廠と協力して、新型の全領域制宙戦闘機のエンジン開発をやってたんだ」

「新型の全領域制宙戦闘機? 待って、それって……」

 

 茜は自らの記憶を掘り起こす。

 国連宇宙軍極東管区では、2200年制式化予定の空間艦上戦闘機を開発中であると聞いたことがあった。

 確か名前は……。

 

「……零式52型?」

「そう、それだね。いやぁ、素晴らしい機体に仕上がったよ。左旋回の方が得意っていう癖は最後まで抜けなかったけど、まぁあれくらいは優秀なパイロットが乗れば無問題だろう」

「す、すごい機体なんだね」

「量産遅延していて、今のところ数機しか製造されていないらしいのがもったいない。でもまぁ、遅延は僕の責任でもあるからこれ以上はなんとも言えないけどね」

「悠さんの責任?」

「新型の彗星5型2号エンジンの動作がなかなか安定しなくてね。あげく、いざテストってなったら爆発してお釈迦にしてしまったり……」

「悠さんでも上手くいかないことってあるんだね」

「叔父様に比べたらまだまだだよ。叔父様はMITから防衛大を経て今に至ってるからね。ヤマト計画のことは僕にも今日まで言ってなかったけど、おそらくヤマトの設計にも関わっているはず」

「ヤマト、か。恒星間航行……本当にそんなことが」

 

 今でも、イスカンダルがもたらしたとされる、地球の科学水準を遥かに凌駕したテクノロジーを信じられない茜。

 対して、悠はとても楽しそうにしていた。

 

「できることなら設計から関わってみたかったけど、それは仕方ない。でも僕はとっても楽しみさ。おそらく慣性制御は備わっているだろうね。武装は陽電子衝撃砲かな。これまでは機関のエネルギー不足から機動的に使用できなかったけど、恒星間航行可能なエンジンなら武装にも十分なエネルギーをまわせるだろう。それから……」

 

 話が止まらなくなった悠。

 そんな様子を見た茜は苦笑いしながら、天才的な経歴を持つ悠でも、自分の好きなこととなれば年相応な反応を見せるのだな、と思う。

 それと同時に、まだ19歳である自分たちが士官となって地球を救う任務へと赴く……少しの興奮と、大きな緊張を感じざるを得なかった。

 

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