宇宙戦艦ヤマト 真田悠航海記録   作:パッシブライバー

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第2話 出航準備

 西暦2199年2月10日。

 真田悠は宇宙戦艦ヤマト艦内にいた。

 電気は来ているものの、機関が始動していないためかなり静かな通路を一人歩く悠。

 今まで着ていた宇宙防衛大学の制服ではなく、ヤマト乗組員用の技術科制服に身を包んだ19歳の少女の姿は、悠の身長の低さもあいまってかなり特別な印象をすれ違う人々に与えた。

 悠はそんな第三者からの視線を気にすることなく通路を歩き続ける。

 そして、ある部屋の前で立ち止まると、ドア近くのモニターに表示された部屋名を確認して身体の向きを変えた。

 

「シミュレーター室……ここか」

 

 モニターに右の手のひらを当てると、事前に登録されていた悠の静脈パターンが認証され、シミュレーター室のドアがスライドして開いた。

 シミュレーション用のモニターが多数設置されているシミュレーター室だが、部屋の中は薄暗い。

 電力供給用の補助エンジンが稼働しておらず、外部から供給される電力に頼っている状態だからである。

 

「暗いな……シミュレーターが起動するか確認したいんだけどな。えっと……」

 

 悠は手にしていたタブレットを起動し、出航前計画の書類を見る。

 

「外部電力の技術科優先供給は一時間後か。それまでに設置作業を終えないと……ん?」

 

 それまでに作業終わるのか、そんなことを考えていた悠の耳に、ガタッという物音が入ってきた。

 しかし、シミュレーター室は悠がロックを解除して入室したはずで、他に誰かいるはずがない。

 

(まさか……侵入者?)

 

 腰に下げている97式拳銃を取り出してコッキングしながら、悠は茜がある話をしてくれたことを思い出す。

 それは一時間ほど前、移動用車両から降りてタラップからヤマトに乗り込もうとしていた時のことであった。

 

『反対勢力?』

『うん。お父さんが内密にって教えてくれたんだけど、過去にイズモ計画推進派だった人が乗務員名簿に載ってるんだって』

『まぁ、往復で33万6000光年の任務だからね。成功率で言えばかなり低い。それなら、ワープを駆使して色んな恒星系を巡って、人類が移住可能な惑星を探す方がマシかもしれない。候補地も選定されてただろうし』

『で、どこかのタイミングでヤマトを乗っ取るかもしれない……って』

『なるほどね』

 

 話を聞いた時は可能性の一つとしてそこまで深く考えていなかった悠だが、もしやすでに何かしらの工作が行われているのではないかと警戒する。

 

(殺してしまっては話を聞けなくなってしまう。ここはスタンモードにして……)

 

 訓練時に使用するモードに切り替えた悠は、物陰に隠れて音のした方向をチラリと見る。

 音がしたのはコスモファルコンなどの艦載機用シミュレーターが設置されている部屋で、まさにこれから悠が作業を行おうとしていた部屋である。

 悠は呼吸を整えると、一気に飛び出して部屋の中に飛び込んだ。

 人影を認めた悠は、97式拳銃を構えながら叫んだ。

 

「動くな!」

「えっ!?」

「ッ!?」

 

 銃口の先には二人の女性乗組員がいて、うち一人は悠の声に無意識に反応したのか、腰のホルスターに指をかけていた。

 悠は、部屋の光量は十分ではないが、二人が主計科の服を着ていることを確認した。

 

「両手をまっすぐ上に挙げろ!」

「え、いや、あたしたちは……」

 

 うろたえるもう一人とは対照的に、銃を取り出そうとしていた方の主計科員は大人しく両手を頭上へ伸ばして悠の警告に従う。

 

「落ち着いてください。私たちは怪しいものではありません」

「では官姓名を名乗れ」

「私は山本玲、主計科士官、階級は三等宙尉」

「わ、わたしは桐生美影、同じく主計科、准宙尉」

「自分は真田悠。階級は三等宙尉で、このシミュレーター室の責任者だ。山本三尉、なぜこの部屋にいたのか理由を述べよ」

「こちらの機材をシミュレーター室へ運ぶためです」

「機材?」

 

 両手を上に挙げたまま、山本は視線をわずかに自分の足元へとやった。

 同じように視線を下に向けた悠の視界に、大きな金属製の箱が入ってきた。

 箱には白い紙が貼り付けられていて、そこには黒い文字で『艦載機シミュレーター用コックピット装置一式』とある。

 そこで悠は、主計科員が機材搬入のため艦内をせわしなく動き回っていたこと、そしてこの部屋にも機材搬入の予定があったことを思い出した。

 

「あっ……」

「……思い出されたようですね」

「し、失礼いたしました!」

 

 慌てて銃をホルスターに戻す悠。

 

「この部屋は僕の静脈認証でしか開けられないように設定していたので、侵入者かと思って……!」

「副長より、運搬用にと入室に使用可能なカードキーを預かっていましたので、それを使用しました。とはいえ、責任者の方がいらっしゃるので、在室中か確認し不在であれば待つべきでした」

 

 頭を下げる悠と、銃を向けられていたにもかかわらず落ち着いた表情のままこちらも頭を下げる山本。

 

「わ、わたしも悪かったです! 山本さんに中に入ってみたいって言ったのは私で……」

 

 階級が上の二人が頭を下げる光景に、それまで成り行きを見守ることしかできなかった桐生美影が首を左右に振りながら話に入ってくる。

 

「入ってみたい? シミュレーターに触りたかったとか?」

「あ、いえ、実は……私、技術科に配属希望を出していたんです」

「技術科に? 桐生さん……だっけ? キミ、専攻は?」

 

 技術科希望と聞いて悠は話を聞いてみることにした。

 

「言語学です。正確には言語解析」

「言語解析……それは例えば、ある特定の言葉の出現頻度から、品詞や意味を特定する、みたいな?」

「そうです! 私の目標は、この宇宙に数多存在するかもしれない異星文明の言葉に一つでも多く触れて、それを解析することです! さらに言えば、その文明の歴史的背景が分かれば、そこから色々なことが分かったり、分からずとも想像することができるようになる! 言葉を辿れば、地球人類と異星人との進化の違いや共通点も見えてくるはず! 言葉から分かることは無限大! あっ……」

 

 桐生の熱の入った言葉の数々に、悠は驚きつつも納得した。

 目の前にいる女性は、専門は違えど自分と同じ畑の人間だと。

 寝食を忘れて勉学や研究に没頭し、叔父である真田志郎や、彼の後輩で悠の姉弟子的存在の新見薫との語り合いに夢中になっていた自らを思い出す。

 ただ違うのは、自分は希望の配属となり、桐生は異なるということ。

 

「す、すみません、つい……」

「ああ、大丈夫だ。それより、希望が通らなかったのは残念だったね……」

「いえ、これは人類を救うための重要な任務。希望通りにならないからといって、ふさぎ込んでる場合ではありません。ただ……」

 

 チラリと山本の方を見る桐生。

 

「ん?」

「自分の部署をとやかく言うわけではないんですが、山本さんは主計科でくすぶっている逸材ではないと思いまして……」

「山本三尉はどこに希望を?」

「……自分は戦術科航空隊に」

「つまり、パイロット志望?」

「悠シミュレーター室長、なんと山本さんはパイロット養成課程を歴代最高の成績で卒業されているんです。航空隊長の加藤さんより上の成績で、です」

「桐生さん、それ以上は……」

 

 悠は手にしていたタブレットで、乗組員名簿から山本玲を検索する。

 すると桐生の言うとおり、たしかに素晴らしい成績でパイロット養成課程を卒業していたことが記されていた。

 この成績ならば、希望が通ってもなんら不思議ではない。

 というより、むしろ人事権を持つ艦長や人事の際に意見することができる航空隊長は何を考えていたのかと言いたくなる、とまで悠は思った。

 

「評価を見る限り、成績は優秀で、適性検査でも問題なし……これは微妙な人事だね。僕から副長に進言しておこうか?」

「いえ、おそらく駄目でしょう。なぜなら、航空隊長が自分を航空隊に入れることを拒否したからです」

「は? いやいや、どうしてさ? もちろん配属は希望どおりにはならないこともあるけど、拒否はないでしょ。納得いかないな」

「……それは、自分も同じです。ですが、理由は分かります。自分と加藤隊長は顔見知りなんです。自分の兄と加藤隊長が友人同士でした。そして兄はカ2号作戦で戦死……それが理由です」

「つまり、親友の妹を同じ目にあわせたくないから拒否した?」

「そうです」

「正直、納得しかねるけど、僕に人事権はないからどうしようもない。納得はしかねるけどね。……あ、ひょっとして、山本三尉がこの艦載機用シミュレーターの部屋にいたのは……」

 

 悠の言葉に、山本はわずかに照れた表情を見せる。

 

「当初は機材を置いて退室するつもりでした。ですが、コックピットの椅子が置かれている部屋を見たら、つい……」

「……山本三尉、この後のスケジュールは?」

「この後ですか? いえ、この部屋が最後でしたので、自室に戻るだけです。本日は艦内で過ごします」

 

 その言葉を聞いて、悠は口角にわずかな笑みを浮かべて山本に提案する。

 

「じゃあ、乗っていかないかい?」

「……はい?」

 

 

 

 

 

「これで自分の五連勝ですね」

「す、すごい……」

「いやぁ、参った。僕も訓練は受けたし、シミュレーターは何度も使った。成績もまぁ、悪くはなかったはずだったんだけど……ちょっと別次元だったね」

 

 悠が山本に提案したこと。

 それは、設置したシミュレーターの動作確認も兼ねて、自分とシミュレーター上でドッグファイトをしてみないか、というものであった。

 ハンデとして、山本はコスモファルコン、悠は最新、かつエンジン開発にも携わったコスモゼロを使用。

 何もない宇宙空間や小惑星帯、重力の影響を受ける惑星上空と様々にシチュエーションを変えて計五回戦った結果、すべて山本の圧勝で幕を閉じた。

 

「真田三尉も強かったですよ。自分もコスモゼロのシミュレーターを使ったことがありますが、なかなか癖が強くて最初は大変でした」

「シミュレーターの方はどうだった? 一応、国連宇宙軍の中でも最新式のやつだけど」

「実機にはもちろん劣りますが、かなり精密です。機体の個体差を表現できない以外は、これで訓練するだけで十分だと感じました」

「長い航海の間に、航空隊の人が実機を使用することもある。その時にフィードバックをもらえれば、個体ごとの癖も再現してみせるよ」

「それは頼もしいですね。まぁ、自分が乗ることはないのですが……」

「非番の時に乗りにくるかい? 実力者からのフィードバックほどありがたいものはないし」

「ぜひお願いします」

 

 即答する山本に、この部屋にいる三人は似たところがあるな、と悠は思わずハハッと笑いが出てしまった。

 三人とも、自分の専門となるとどっぷりはまり込んでしまうらしい。

 

「桐生さんも、暇な時に遊びにくるといい。もし作業を手伝ってくれたりしたら、副長に技術科への転属を提案しやすくなるかもしれない」

「良いんですか!?」

「確約はできないことは忘れないでくれよ?」

「はい! あぁ、楽しみだな~」

「……確約はできないって言ったの、もう忘れてないかい?」

 

 早速技術科に入ったら何をしようかな、と妄想をし始めた桐生を見て、苦笑を浮かべる悠と山本であった。

 




2199では後半から登場した桐生さんでしたので、最初は主計科にいたという設定にしてみました。
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