【運命を】半身を愛でるスレ【変える】   作:レムフィ

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大切な人たちがいる、この世界を





memento mori

 

 

 

「ーーー内密にお話したいことがあります」

 

 

ペレジア城からの撤退が終わり、少し落ち着き始めた頃。

私は、御母様を呼び出した。

 

 

「どうしたのルキナ。内密な話って…?」

 

 

これから私が成すべきことの為に、一対一になる必要があるから。

 

 

「御父様のことです…

私、元いた世界でも…御父様には優しくしていただいたんです。

私が幼い頃…御父様が亡くなるまでは…」

 

「御父様の話は御母様からたくさん聞きました。

どんなに勇敢な人物だったか、

どんなに頼もしい人物だったか。

御父様にまたお会いしたい…私はそう思いました。

御父様に会って、色々な話をして…

そして、御父様の命を私が救ってあげたい…」

 

 

「…ごめんなさい…御母様。

私はいくら謝っても…許されないことをしようとしています」

 

 

そう。どれだけ謝罪を重ねたところで、到底許されない事。

……私は御母様にファルシオンを向けた。

 

 

「どうしたの?ルキナ。

剣の訓練なら、クロムの方が適任だと思うけど?」

 

「動かないでください。

私は今から…御母様を殺します」

 

「……それは、何故?」

 

 

切先を突きつけられているとは思えないほど凪いだ声。

私が考え無しにこんな事をするはず無いのは御母様だって承知の上だろう。

 

この結論に至るまでを問われている。

ならばせめて、誠意を持って返さなくてはいけない。

 

 

「私の知る世界で…貴女は御父様を殺しました。

そう、貴女が殺したんです」

 

 

「そんな可能性、考えたこともありませんでした。

私が聞いた話では、御父様方は敵と相討って…御母様を庇って亡くなられた。

そう、御母様自身に聞かされていましたから。

 

けれど、それだとおかしいんです。

未来から来て、皆さんと肩を並べ戦ってきて実感しました。

こんなに頼もしい皆さんが、御母様を残して全滅なんて…。

 

 

決して感情論ではありません。

能力に対して、結果がどうしても一致しないんですよ。

先程の撤退戦だって未来から来た私達の戦力を差し引いても被害の差はあれ問題なく撤退できる筈です。

 

もちろん、今と未来では既に差異が沢山あります。

戦いの違いによる経験の差もあるでしょう。

でも全滅しかねない程の戦力差なら御母様は最初から撤退を選択する筈です。

 

仮に撤退が出来なかった、御母様の策が失敗したとしてもこの事実を伏せていたという部分が引っかかるんです。

私達からの信頼を損なうなんて利己的な理由だけで、貴女は自分の失敗を隠さない。

 

 

私達に伏せなくちゃいけなかった、いえ。伝えられなかった理由……

……御母様はファウダーの支配に逆らえなかったんじゃないですか?

 

あなた達の実親は私が殺した、なんて当時の私達には到底受け入れられなかったでしょう。

貴女しか頼れないのに、それすら出来なくなれば無力な子供なんてすぐ死んでしまう世界だったから。

だから、言えなかった。

 

 

御母様は未来で御父様と皆さんを殺して……

そして貴女ももうすぐ、同じ運命を辿る」

 

 

どうしたって埋まらなかったピースが見つかってしまったのだ。

なんで、御父様が死んでしまったのか。

どうして、御母様だけ残されたのか。

 

きっとこれが未来を変えるための最後の一欠片。

 

 

「運命を変えるには、こうするしかないんです…!!

私はもう、あんな未来にしたくない…

あんな…闇に閉ざされた絶望の世界…御母様が泣き続けるような世界なんて!

 

だから……だからっ!

こうするしかないんですっ!

……私にはもう……こんなやり方しか……っ!」

 

 

「……ルキナ……」

 

 

「せめて…苦しまないようにします…。

抵抗しないでください、御母様…」

 

 

 

これが私の答え。

 

受け入れないでほしい。間違いだと指摘してほしい。

そんなことありえないって、切って捨ててほしい。

お母さまなら、きっともっと素晴らしい"未来"に導いてくれる!

 

この世界ですっかり弱くなってしまったわたしに蓋をして、御母様の返答を待つ。

 

 

未来で、私の元いた世界であの邪竜と対峙した時よりもずっと恐ろしい。

御母様と世界を天秤にかけるなんて、なんて悍ましい娘なのだろう。

 

 

それでも、やり遂げなくては。

 

 

未来での御母様の姿を思い返せば、自分の意思で、自分で選び取れるだけきっとマシなんです。

この距離なら、この体制なら御母様が動くよりも早く首を断てる。

 

親不孝な娘でごめんなさい。

拒まれても、恨まれても構いません。

貴女を世界の生贄にするしかできない、愚かな娘をどうか許さないで。

 

 

そう、思っていたのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴女も、そう思うのね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

否定して、くれないの?

 

 

 

 

 

 

 

「あたしも、おかしいと思っていたの。

貴女の話を聞いてから…あたし一人が生き残るなんて、一体何が起きたらそうなるのかがわからなくって。

 

相討ちになるような、仲間を死なせてしまうような策をあたしが立てる?

子供達を遺してしまうような策を実行に移す?

 

仮にあたしの策が破られた結果だとしたら、貴女の言う通りあたしはあなた達に伝えるでしょう。同じ轍を踏ませないために。

 

 

そもそも、あたしは自分の命とクロムの命なら迷わずクロムを取るもの。

 

クロムが何と言おうと、これだけは絶対に譲らない。

最後まで生き残るのはクロムだわ。あたしじゃ無い。

 

なら現時点で想定できないような事態が起きたとしか考えられなかった…」

 

 

あまりにも淡々と、他人事のように語る御母様。

御母様も、未来の話を聞いてから運命を変えるためにずっと考えてくれていたんだ。

そうして欲しくって話したのだから当然だけど、でも。

 

 

「だから、ファウダーに操られた時に全部わかっちゃった。

あたしは、今すぐにでも死ななくちゃいけないんだって」

 

 

 

どうして、笑っていられるんですか?

 

 

 

「御母様……

どうして…ですか?どうしてそんなに優しい顔を…

私は御父様と世界のために…貴女を殺そうとしているのに…」

 

 

「あたしが死ねば、クロムは助かる。

貴女も、皆と幸せに暮らせる。

あたし一人の命でそれだけ事態が好転するなら、それなら…良いわ。

 

 

実はね?さっき、自分に剣を向けようとしてみたの。

首に剣先を突きつけてもダメだった。

頭では理解出来てるのに、身体がそれ以上動かなかった。

あたしはもう、一人じゃ死ねないみたいなの……」

 

 

「御母…様……」

 

 

「大丈夫よ。

一瞬で終わらせてくれるんでしょう?

 

辛い役目を押しつけてごめんなさい、

ルキナ…あたしの娘…あなたはどうか幸せになって…」

 

 

そういって、膝をついて首を垂れる御母様。

無防備に頸を晒す姿は祈りのようで。

 

 

動かない的を切るなんて失敗するはずない。

期待に応えなくては。

覚悟を無駄にする訳にはいかない。

 

手を、ファルシオンを振り上げた。

御父様を助けたくてここまで頑張ってきたのだから。

せめて苦しませないように、一瞬で首を断たなくては。

 

心臓が早鐘を打つ。手が震えて仕方がない。

御母様を助けたくてここまで頑張ってきたのだから。

息が上手く吸えなくて、足元が崩れ落ちるような気さえする。

 

 

 

思い出す。思い出す。

こちらの世界で初めて、御母様をお見かけした時。

御母様に気取られないよう、遠目でしかなかったけれど。

 

エメリナ様の暗殺計画を阻止した時。

御母様には自己紹介もしなかったけれど。

 

御母様が、敵の凶刃に倒れた時。

名前を呼ばれるなんて思わなくて、思わず泣いてしまったけれど。

 

御母様と御父様と、一緒に遊びに行こうという約束。

ーーーあの時は少しばかり錯乱していた自覚があるけれど。

 

貴女との思い出が走馬灯のように駆け抜けていく。

私が御母様を手に掛けようとしているのに、どこまでも傲慢な娘。

 

 

 

はじまりはお母さまをたすけたいだけだったのに。

ーーーわたし、どうしてこの剣を振り下ろさなくちゃいけないの……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

持ち上げたまま動かせなかった手は、後ろから優しく掴まれた。

 

 

「ルフレ、ルキナ……気はすんだか?」

 

「御父様…もしかして、先程の話を…」

 

「ああ。聞かせてもらった。

ルキナ。お前が俺のためを思ってしたことなのはわかった。

だが、無用だ。

俺はルフレを信じている。

俺とルフレは今までずっと…苦楽を共にしてきた。

俺とルフレは二人で一人、俺たちはそう誓ったんだ。

その絆は、何があろうと断てるものじゃない。

俺は運命より、絆を信じる」

 

「……」

 

ゆっくりと、幼子に言い聞かせるような優しい声で、わたしの本当に欲しかった言葉がかけられる。

 

 

「それに、ルキナ。お前との絆も。

元の世界では、お前はまだ幼かった。

だが、ここではお前も仲間なんだ。

同じなはずはない。運命は、変えられるんだ」

 

 

お母さまを殺さなくていいと、他ならぬお父さまの口から。

手からファルシオンが滑り落ちる。

わたしには、もうお母さまの命を断つためのものなんて持っていられなかった。

 

 

「……わかりました。

ごめんなさい、お母さま。

私は決して許されないことをしました…未来がどうなるのか…わたしにもわかりません。

でもわたしも…信じます。お父さまとお母さまを…」

 

 

俯いたわたしの目から、雫が落ちる。ここでようやく自分が泣いていることに気が付いた。

そんなことすらわからなくなっていたなんて。

目の前のことだけに集中し過ぎてはいけないと、お母さまからよく言われていたのに。

 

またお母さまの前でみっともなく泣いてしまうのが嫌で、俯いた顔はもうあげられなかった。

 

 

 

「ルフレ」

 

「……何かしら、クロム」

 

「なんで、抵抗しなかった」

 

 

二人の声が聞こえる。

涙が止まってくれそうになくて、ただ聴くことしかできないけれど。

 

 

「ルキナの手を汚そうとしたのは謝るわ。

でもね、話を聞いていたならわかるでしょ?

 

あたしはファウダーに逆らえなかった。

きっとあたしは貴方を殺してしまう。

 

そんなの、あたしが耐えられない。

それなら、あたしはここで死ぬ事を選ぶわ」

 

 

「さっきも言ったばかりだろう、俺はお前を信じている。」

 

 

お母さまはただ淡々と、残酷な事を告げる。

でも、お父さまはぜんぜん気にしてないようで。

 

 

「もう信じる信じないの問題じゃないのよ…?

敵に操られる軍師?なによそれ、冗談じゃない!

あたしに貴方の隣に立つ資格なんてない。

もう、貴方の隣には並べないのよ……」

 

「〜ったく!いつまでウジウジしてるんだ!

お前が言ったんだろう!資格をためらうなら、ふさわしい自分にこれからなればいいと!」

 

「何よ、それ……

あの時の仕返しのつもり?」

 

「そうだ!お前がいなかったら、誰がこの軍を指揮すると思っているんだ!

お前が一人で立てないなら俺が手を引いてやる!

だからさっさと立ち直って新しい策の一つでも考えろ!」

 

 

リズさんからこっそり教えてもらった二人の馴れ初め。

これはお母さまがお父さまの手を取った時の再現なんだ。

 

 

「なんで、今……せっかく、貴方のために覚悟してきたのに!

そんな事言われたら、もう死ねないじゃない!」

 

 

流石のお母さまもこれには勝てなくて。

夕焼けの空に、泣き声が響き渡りました。

 

 

 





キリスト教世界においては
「自分がいつか必ず死ぬことを忘れるな」
「人に訪れる死を忘ることなかれ」
という警句であり

古代ローマにおいては
「今を楽しめ」
「食べ、飲め、そして陽気になろう。我々は明日死ぬから」
という趣旨のアドバイスであった。

一部引用:Wikipedia メメント・モリの項目より

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