サッと読める恋愛小説短編集。   作:true177

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 小悪魔ちゃんである七瀬(ななせ)と、彼女の無茶ぶりに振り回される武史(たけし)。泳げない武史だが、海に連れて来られて……?


小悪魔ちゃんとの海。

 夏と言えば、どこを想像するだろうか。登山? プール? いやいや、海だ。

 

「こっち来てよー、武史(たけし)ー」

 

 紺一色のスクール水着を着用している七瀬(ななせ)が、手招きで海に入ろうと誘ってきた。サプライズは何もなし、輪郭はくっきりしているものの張っている部分はあまりない。

 

 高校生になってまで二人で海にまで遠征するのだから、さぞかしデートだろうと第三者は予想するだろうが、実際そんな事は無い。『泳ぎに行きたい』と七瀬が強く志願してのことである。

 

 対して武史は、水泳が苦手である。補習を受けたくないからと50メートルプールを泳ぎ切ることは出来るのだが、遠泳をしようものなら溺れてしまう。文化部なのもあって、体力があまりないのだ。

 

「泳ぐんだろ? 勝手にしてくれ」

「そんなこと言わずにー」

 

 手を引っ張られ、為す術も無く無理やり海へと引きずり込まれた。

 

 夏の真昼間とは言え、水温が温水プールにまで上昇しているわけではない。ひんやりとした冷たさが、下半身から上半身へとせり上がってくる。

 

「私と一緒にいれば、大丈夫」

 

 そうは言うが、平気で水深の深い方へと進んでいく七瀬。

 

 ……途中から泳ぐんだったら、意味ないだろうよ。

 

「……そっか、武史は泳げないんだったっけ。すっかり、忘れてたなぁー」

 

 他人事だ。にんまりしているところを見ると、想定内だったようだ。

 

 小悪魔ちゃんである七瀬だが、決定打を打たれそうになるとたちまち逃げて行ってしまう。武史に限らず、他の男子も全員が通ってきた道である。

 

「……つまらないなぁー。一旦、陸に戻ろう。そうしよう」

「……何の為に来たんだよ」

「いいの、いいの」

 

 地球は自分を中心に回っていると、堂々宣言していそうだ。

 

 どうやって持ってきたのかも分からないビーチパラソルの下の日陰まで戻って来た武史と七瀬。彼女持参のバッグから、何やら日焼け商品のようなものが出てきた。

 

「武史、これ何か分かる?」

「料理の時に使うオリーブオイル」

「ほんっとうに、疎いんだね! サンオイルだよ、サ・ン・オ・イ・ル! 日焼けするときに使うやつ!」

 

 日焼けは、何の効用があって行うのかがイマイチ理解できない。ヨーロッパは日照時間や日差しの強さの関係で日光浴するのは分かるのだが、日本でその必要はない。小麦肌が健康によろしいのかどうか、疑問なところだ。

 

「……そうだ、武史。これ、私に塗ってよ」

 

 ……はぁ?

 

 多少の物事には動じないと心に決めている武史も、流石に口をあんぐりと開けざるを得なかった。

 

「強制わいせつで逮捕されそうなんだけど……。正気か?」

 

 わざとらしい体の隙を見せてくる七瀬には引っかからない。これは、トラップだ。

 

「……冗談に決まってる! もし武史が引っかかってくれたら、クラス中のネタに出来たのに……」

「七瀬、お前本当に油断ならないよな……」

 

 こういう人種は、本気で恋をした人にどう接するんだろうか。不思議で不思議でたまらない。まさか、今の武史や敗れてきた男子たちのような扱いではないはずだ。

 

「……武史、もう帰っちゃってもいいよ? 雑に扱っちゃって、ごめんね!」

「言われなくても帰りますよ!」

 

 それでも、いいように使われて悪い気がしない。これが、小悪魔の恐ろしい所だ。

 

 武史は、待ってましたと更衣室へ走って行った。

 

 

 

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「……どう接したらよかったのかな……」

 

 去り行く武史の姿を、悲痛の念で見つめていた一人の少女がいた。

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