このハザ   作:ひつまぶし太郎

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『もし里に落ちたのがめぐみんが旅に出るよりも前だったら』というお話。
息抜きです。

ちなみにこの番外編の主人公は本編と同一人物ですが、見た目も性別も違います。
別ルートのヴァンさんです。

そして、番外編から読まれるという読者様へ。
一応本編との対比として書いていますので、本編の『記憶#』編だけでも目を通して頂けると分かりやすいかと思われます。



番外編。
もしめぐ①


私の名前はめぐみん。

爆裂魔法の習得を夢見て毎日学校に通うごく一般的な紅魔族だ。

 

かわいい妹と気のいい両親。

貧しいながらも、楽しい我が家に住めて私は幸せだ。

 

今日も爆裂魔法を披露するかっこいい私を想像しながら眠りにつこう。

その前に、両親に一言告げようとして

 

 

「お母さん、お父さん。おやすみなさ───」

 

 

「───ステラぁぁぁぁぁああああ!」

 

 

「我が家が!?」

 

 

空から降ってきた一人の少女によって、眠気も我が家も吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

昨日、賠償金としてポンと金銀財宝を出してきた胡散臭い笑みを浮かべる少女から、家に泊めて恩を売ろうとする両親を引き剥がし、とりあえず紅魔の里の自警団の詰め所に引き取ってもらった。

 

そしてその翌日である今日、特に抵抗することもなく連れられていった少女の様子を見に、私は近所を一人でうろうろしていたゆんゆんとワクワクした様子で取材に来たあるえを連れて、詰め所に足を運んでいた。

 

 

 

「くつろぎすぎでは?」

 

 

怪しいとはいえ私よりも年下の少女を牢屋に入れてしまった罪悪感があったのだけど、そんなものが吹き飛ぶくらい彼女は牢屋で寛いでいた。

布団に寝そべり、自分の口元にピザを運ぶ姿はだらしないはずなのに、どことなく最低限の品があるように見えるのはやはり顔のおかげだろうか。

私たち紅魔族の赤い瞳とは対照的な濁った青い瞳と艶のある黒髪。

寝癖で乱れているはずなのに、そのせいで見えているうなじや乱れたローブから覗く太ももは死人のように白くて、思わず唾を飲み込んだ。

 

 

「ふぁんただれ?」

 

 

「あ、ああ。申し遅れました。あなたが破壊した家の娘のめぐみんです」

 

 

へーとかふーんとか、気のない返事をしながら少女は手に持っていたピザを口に放り込むと、私たちの方に目線を向けてきた。

 

 

「あれしないの、あれ。僕を牢屋に繋いだ時やけに鼻息荒かったブロッコリーさん?みたいな名乗り」

 

 

「ぶっころりーのことですか」

 

 

少女は瞳を閉じて少し何かを思い出すような仕草をすると。

 

 

「紅魔族随一の靴屋のせがれ。アークウィザードにして、上級魔法を操る者らしいけど」

 

 

布団の上で呟きながら、それほど興味もなかったのかぐ、と伸びをしてあくびをする。

その気だるげな様子は、その青い瞳も相まって猫のようだ。

 

鉄格子の向こう側は、とても牢屋とは思えないほど荷物で溢れている。

見るからにふわふわの枕と布団に、簡易なコンロとフライパン、しっかりとした皿。

その上にある肉やら卵やらの簡単な料理からはとてもいい匂いが…。

 

 

「食べる?」

 

 

「頂きます」

 

 

「ちょっとめぐみん!まだこの人がどんな人かもわかってないのに!」

 

 

「そうだよめぐみん。まずは作家志望の私から毒味を…」

 

 

「あるえも黙ってて!」

 

 

「なんだこいつら…」

 

 

牢屋の前でおしくら饅頭をしている私たちを、少女は珍獣を見るような目で観察していた。

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

学校もなく暇だった私は、再び詰め所に足を運んでいた。

 

だが、今日は先客がいた。

 

 

「私…どうしたらめぐみんにライバルとして認めてもらえると思いますか…?」

 

 

ゆんゆんだ。

牢屋で変な金色の虫の仮面をつけた少女と向かい合うように座っている後ろ姿を見て、私は咄嗟に息を潜める。

 

あの人見知りがほぼ初対面の人間に相談事。

それも私の事について。

 

これはちょっと気になる。

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、少女は一度深くうなずくと口を開いた。

 

 

「ゆんゆん。それはお前……勘違いしてるんだよ」

 

 

「勘違いですか?」

 

 

「ゆんゆんはめぐみんのライバルになりたいんじゃない。恋しちゃってんだよ」

 

 

昨日ヴァンと名乗っていたあの少女は何を言っているのだろう。

 

 

「恋しちゃってるんですか私!?」

 

 

そしてあの子は何を真に受けてるんだろうか。

 

 

「そうだよ。心当たりが実はあるんじゃないか?めぐみんを見てるだけで胸がどきどきしたり、つい目でおっちゃったり…なにもない日も会えないかなと外に出てみたり…」

 

 

「してます。すごくしてます」

 

 

それはあなたが人見知りで恥ずかしがりのボッチ娘だからでしょう!

と叫びたいのに、盗み聞きしていた手前今さら出ていきにくい。

 

 

「なら、想像してみるんだ。めぐみんと互いにあーんしたり、手を繋いだり、お泊まりしたり…どきどきするだろ?」

 

 

「どきどきします」

 

 

「それが恋だよ」

 

 

「これが…恋…!」

 

 

揶揄われているのにいまだに気づけていないボッチ娘をどうしてくれようかと物陰で思案していると、少女の死んでるように濁った青い瞳がこちらに向けられ、同時に口元が邪悪な笑みを浮かべる。

 

 

「……!」

 

 

私が息を呑んだ瞬間、ヴァンが鉄格子の隙間から手を伸ばしてゆんゆんを抱きしめる。

 

 

「ゆんゆんが女の子を好きってこと…僕で試してみる?」

 

 

「はわわ…」

 

 

耳元で囁かれた声に、ゆんゆんは一瞬で体の力が抜けてしまったのが目に見える。

その気持ちはわからなくはない。

私よりも背の低い黒髪青目の少女は、どういうわけか妙な色気を持っていた。

 

何かボタンを掛け違えているような大きな違和感。

重大な何かを見落としているかのような怖さと、それすらも魅力に変えてしまうような仄暗い魅力。

 

警戒して家から遠ざけたはずなのに、もうすでに絆されているのは何故なのか。

 

 

「まあ気が向いたらいつでも言ってよ。とりあえず恋するボッチ娘のゆんゆんにはこれをプレゼントだ」

 

 

「これは…?」

 

 

「これは誘惑の枝といって、相手を一時的に魅了する道具で───」

 

 

私が後悔して躊躇ってるうちに、どんどん話が変な方向に進み、少女が普通に胡散臭いセールスのような顔で変な枝のような取り出した辺りで、私は意を決して飛び出した───!

 

 

「それ以上、ゆんゆんにおかしなことを吹き込むとえらい目に合わせますよ!」

 

 

「ッ!?めめめめめめ、めぐみん!?聞いてたの!?ちょっと待って!嘘でしょ!?」

 

 

「あ、テメ!邪魔すんなよ!僕は素寒貧になった懐を少しでも暖めるのに忙しいんだから!」

 

 

「それで詐欺行為とかやはり牢屋が似合う犯罪者じゃないですか!」

 

 

「ちーがーいーまーすー!言葉巧みに要らねー商品売り付けてるだけだよ!プリズンショッピングしてんだよ!ビジネスだ!取引だ!」

 

 

「やっぱり詐欺師じゃないですか!」

 

 

そうやって鉄格子越しに罵り合う私たちの横で、ゆんゆんが意を決したように口を開いた。

 

 

「ねえ、めぐみん…わた、私ね?めぐみんの…事が…!」

 

 

「待ってくださいゆんゆん!今のあなたは冷静じゃないですよ!」

 

 

「話は聞かせてもらった!二人の友人として私が見届けよう…!」

 

 

「話がややこしくなるので帰ってくださいあるえ!」

 

 

結局、自警団を気取る里のニートたちが駆けつけてくれるまで私たちの罵り合いは止まらなかった。

ヴァンの妙な雰囲気についても、有耶無耶になってしまった。

 

 

 

 

 

 

すっかり日も傾き、夕暮れで紅く染まる帰り道。

私はいまだにぐずるゆんゆんと一緒に、詰め所をあとにしていた。

 

 

 

「うっ…うう…ごめんねめぐみん…」

 

 

「まったく、あんな初対面の子どもに騙されるなんて何事ですか。…ですが、まぁ。なんです。ゆんゆんが、色恋と勘違いするほど私とライバルになりたいとは思っていませんでした。私の方こそすいません」

 

 

「めぐみん…!」

 

 

「いい話だなぁ」

 

 

「なにがいい話ですか、あなたのせいでややこしいことになったんですよ!」

 

 

そんな私たちに話しかけてきたのは、先程まで牢屋の中にいた少女だ。

彼女は、未来を見る悪魔の力を借りて占いを行う凄腕の魔法使いそけっとの占いによって、人類の助けになるという結果が出たので釈放されていた。

 

私としては先程の一幕的に、まったく信用できないのだけど…。

 

 

「そうは言うけど、ゆんゆんに恋する乙女役をさせたがってたのはあのあるえってお姉さんだぜ。僕はちょっとそれに協力しただけ」

 

 

「そういえば随分タイミングよく現れましたね…」

 

 

明日学校で問い詰めることにしよう。

 

 

「ま、しばらくはこの里にいるだろうからまた会うこともあるだろ。そんときゃ邪魔しないでくれよ」

 

 

……。

 

 

「行く宛はあるのですか?素寒貧になったとか言ってましたが」

 

 

「いや野宿だけど?大丈夫大丈夫、僕野宿プロだから。余裕余裕」

 

 

本当に余裕なのだろう。

気負うことなくへらへら笑う少女に向かって、私は躊躇いながらも口を開いた。

 

 

「あの、私の家に来ませんか?」

 

 

そう。

こうして連日牢屋を訪れていたのは、この提案をしようかどうか迷っていたからだ。

私よりも明らかに年下の少女を、家を壊されたとはいえ牢屋に入れてしまったことにずっと後ろめたさを感じていたのだ。

 

 

「……ふーん、まぁ。そんな申し訳ないと思ってるなら一晩くらいお世話になろうかな。よろしく!」

 

 

にこりと笑う少女に、なんとなく長い付き合いになる、そんな予感がした。

 

 

───『その優しさに免じて入れ物にするのはやめとくかあ』

 

そんな呟きを少女がこぼしたことには、幸か不幸か気づくことは出来なかった。

 

 




最後まで読んで頂き誠に有難うございます。

若干3話に向けての伏線と、性別の描写が入ったくらいで書き直す前と展開に大きな差はありません。
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