このハザ   作:ひつまぶし太郎

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今回は狭間の地での話をするための前降りというか、つなぎの回です。



第四話。君は完璧で究極のプリンセス

 

 

ホラー並みにすがり付いてくる無数のアクシズ教徒たちの手を振り切って、王都に向かうための道を進むこと数刻。

 

別の国に繋がっているという分かれ道を尻目に進もうとしたときに、鼻を掠めた臭いは、ずいぶんと馴染みのあるものだった。

 

 

「血の臭いだ」

 

 

先行するはぐれ狼たちも、それを感じ取ったのか警戒するように身を低くしている。

トレントから降り、足音を殺しながら進むと街道で横倒しになったやけに豪奢な竜車と、三人の女性を取り囲む数百のモンスターが目に入った。

 

 

範囲攻撃をできるのは三人のうちの一人だけようで、他二人は剣一本でモンスターたちを処理しながら、その魔法使いを守ってる。

 

が、しかし。

なにやら通常とは異なる変質が加えられているようで、集められたモンスターたちの魔法耐性はかなりものらしい。魔王は配下に特別な強化を加えられるという話だから、おそらくあのモンスターたちは魔王軍の手先なのだろう。

 

 

有り体に言えば、彼女たちは詰みの状況というやつだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日私は王女として、業務に区切りのついた従者のクレアとレインを引き連れて、竜車に乗り、隣国のエルロードに向かっていた。

 

というのも、つい先日まで魔王軍による王都と最前線の砦への同時攻撃が行われ、それを防ぎきったは良いものの、資金繰りが厳しくなってしまったのだ。

資金援助をお願いするための今回の訪問は、両国間のごく一部の者だけの知る極秘のものであり、最速の竜車を使うことから誰にも襲撃されることなくスムーズに終わるはずだった。

 

だが、何処から漏れたのか、私たちは間違いなく魔王の加護を受けたモンスターの群れに襲われることになる。

極秘かつ短期間での訪問のために護衛を最小限にとどめたのが仇となった。

 

あっという間に包囲され、数をまとめて減らそうにも魔法への耐性が極端に上げられているモンスター相手に、私たちはじり貧だった。

 

 

「アイリス様…お逃げください!私たちを見捨てれば、あなただけは助かるのです!」

 

 

「…ぐぅ…!そうです!私の逃げた先にあなたたちは居ません!それは嫌です!」

 

 

クレアの首もとに食らいつこうとした犬型のモンスターをバターのように切り伏せ、だがその先が続かない。

 

 

目の前には数百のモンスターたち。

盾となる私が少しでも前に出すぎれば、二人の命はないと理解していたからだ。

 

 

唯一私たち三人の中で、範囲攻撃をできる魔法使いのレインは、限界を超えた魔法の行使で目と口の端から血を流している。

私の隣で剣を構えるクレアは、いつも綺麗に整えられた白いスーツが赤黒く変色するほどの重症だ。

 

 

私だけだ。

クレアに庇われた私だけが、まだ傷を負っていない。

それが情けなくて、歯を食い縛る。

 

 

───ああ、これが私の最期か

 

 

視界を埋め尽くす怪物の大群は、辛うじて塞き止められた津波のようなものだ。

少しでも天秤が傾けば、あっという間に私たちを呑み込むために動き出すだろう。

魔法の通用しないモンスターの数という暴力に、私たちはなすすべもない。

 

 

それでも。

 

 

「私の名前はベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリスッ!私の命を欲しいならいいでしょう!来なさい!私は最後まで…!王族としてあなたちの命を屠ります!!」

 

 

気持ちだけは負けてやるつもりはなかった。

 

私の気迫にモンスターたちが一歩怯むも、すぐにその牙を剥き出しに襲い掛かろうと身を屈める。

 

 

もうダメか、そう思った瞬間に、地獄の業火だと言われても信じてしまえるような、禍々しい炎が壁のように立ち上がった。

 

 

「ヒャッハー!汚物は消毒だぁぁぁあああ!!」

 

 

「え?」

 

 

灰を被ったような髪色の少年が、炎の嵐の向こうで笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやぁ、モンスターの大群は強敵でしたね。

 

救出劇において、景気よく僕に宿る火の力で炎の嵐を巻き起こし、驚異の殲滅力を見せた僕は、その直後に魔力を使い果たした反動でその場に倒れていた。

忘れていたのだ、ステータスの低下が自分の魔力リソースにも影響を及ぼしていることを。

こんなことなら擬態のヴェールでこそこそやらずに、道中で少しでもモンスターと戦っておくんだった。

 

 

それにしても、普通にカッコ悪い。

颯爽と助けてくれたあなたは…!みたいな展開で、助けた側の方が自分達より瀕死とかいうクソみたいな流れ。

恥ずかしくてとても顔をあげることができなかった。

だって助けた三人の女性からの目線が英雄を見る目から、一瞬でバカを見るものになったからね。

 

お前はいつもそうだ…肝心なときにいつも失敗する…

 

 

とはいえ、僕が助けたのは事実。

さすがにそこは分かってくれていたようで、僕は手厚い保護をしてもらえたのだった。

…救出劇とは…?

 

 

そうして魔力が枯渇してぶっ倒れた僕は、なんとまぁ王都のお城に担ぎ込まれてしまったという訳だ。

 

 

ここまでなら、ある意味よくあるお話かもしれない。

困った姫様を助ける的な、王道のおとぎ話としては。

 

 

ところがどっこい、ここは現実…!現実なんです…!

 

 

「被告人ヴァン。貴殿を国家転覆罪の罪人として、地下牢に連れていく。異議申し立てはあるか?」

 

 

「…ないですね。強いて言うなら王女様に申し訳ないことしたなあって」

 

 

「…チッ、来い!」

 

 

心の底から失望したという表情をした白スーツのクレアさんに引きずられるようにして、僕は玉座から連れ出された。

 

 

どうしてこうなったか。

それを説明するには、僕が城に担ぎ込まれて、ふらふらになりながら歓待のパーティーを堪能していた時間まで巻き戻す必要がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

王女様ご一行を助けたのもあって、王城に連れてこられた当初の僕はそれはもう、大層な歓迎を受けた。

 

 

「ふぉれうまいっふね」

 

 

「恩人殿!こちらもどうぞ!」

 

 

「いやいやこちらもどうぞ!これはキング大トロサーモンのソテーですよ!」

 

 

「ふぁりがとうございます」

 

 

魔力切れを起こして空腹だった僕が料理を貪る様の何が面白いのか、貴族たちがこぞって僕に食べさせようといろいろ料理を持って来てくれて、途中まで本当に楽しかった。

 

 

だが、宮廷魔道師のレインさんの魔法が効かなかったのに僕の魔法が効いたことや、今回の王女様の移動が極秘だったこと、助けたタイミングが都合よすぎること。

それらを考えるとこいつ怪しくね?みたいなことを言い出した貴族がいた。

 

 

「ハァ…ハァ…敗北者…?」

 

 

「いえ、犯罪者の可能性がある、とは言いましたが」

 

 

「おい、言葉を慎めよ!この方はアイリス様の命の恩人!それがわかっているのか?」

 

 

「勿論、存じ上げていますとも!なればこそ、というやつですな。なに。本当に何もなければ、すぐに済みますので」

 

 

そう言って僕の前に差し出されたのは、小さなベルのようなもの。

 

 

「これは裁判や取り調べで使われる、嘘がついたらチンチンとベルが鳴る魔道具です」

 

 

「玉座の間でチンチンって言ってみたかったんだろ、おっさん」

 

 

「そんなわけな───チーン。おほん」

 

 

大丈夫か、この国。

 

 

「それでは!質問させて頂きます。あなたの年齢と職業を教えてくださいますかな?」

 

 

「年齢は10歳、冒険者としての職業は騎士です」

 

 

「なるほど…あの道を通った理由は?」

 

 

「アルカンレティアから王都に移動するためです。テレポートや馬車を使わなかったのはお金がなかったからですね。だから、自分の馬で進んでました」

 

 

淀みなく進む問答に、回りの空気は露骨にほっとしたものになる。

なんだかんだ、恩人を悪の手先だとは思いたくないのだろう。

ずいぶんとまぁ優しい人たちだ。

 

うちの国とかだったら、尋問なんてすっ飛ばしてとりあえず拷問にかけるというのに。

 

 

「騎士で馬と…失礼ですがどこかの国で実際に騎士を?」

 

 

「いえ、見習いでした。国の名前はノイズで、馬を手に入れたのは狭間の地という異界ですね」

 

 

「…ノイズに異界、ですか…。これが最後の質問です。あなたは魔王の手先ですか?」

 

 

「違いますね」

 

 

嘘をついたら鳴るというベルを前に、僕は深く考えずに馬鹿正直に答えていたが、ベルは鳴らなかった。

だから、疑いはより深くなった。

 

 

「自分の種族は人間です、と言ってくださいますかな?」

 

 

「?僕の種族は人間です」

 

 

「今度は悪魔と」

 

 

「僕の種族は悪魔です」

 

 

すごい予感を感じる。

今までに割と何度も感じた何か虫の知らせのような予感を。


風…なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、悪いほうに。

 

何で種族を言わされたのかとか、何で声をかけてきたおっさんの方が悲しい顔をしているのか理解出来ていない僕でも、不穏な空気だけは感じとっていた。

 

 

「王よ。残念ですが…この者は出身地を騙り、異界にいたなどとホラを吹きました。確認のため、わざと嘘をついてもらいましたが、ベルが鳴りませんでした!これは魔王によって嘘がばれないようにするスパイの加護が掛けられているのは間違いありませんぞ!」

 

 

「あ、やっぱ悪い方に転がるのね?」

 

 

周りを見渡しても、僕に向けられる目線が厳しいものになっていることを鑑みるに、彼の発言は的を外した物ではないのだろう。

 

彼の、というか今この場で正論として流れている言い分はこうだ。

自分の種族に関する嘘ですら鳴らないと言うことは普通あり得ない。

このベルは人が嘘をついたときに発生する邪気をキャッチして鳴るので、嘘をつくことに何の罪悪感も覚えない信用できない人間か、魔王による嘘の加護をかけられた者のみ。

 

という。

若干魔女裁判地味た物を感じないでもないが、仮に魔王の手先でないとして、邪気が発生しないくらい当たり前のように嘘をつけるようなやつを信用しろというのが無理な話だ。

 

実際大ルーンのために嘘ついてだまくらかしたり、騙して悪いがなんて形で敵をはめたこともあるのだから、信用していい人間かと言われれば、とてもじゃないが自分でも断言できない。

 

 

そして、後に地上に降りて来ていた女神様に聞いた話によると、例えば神様だった場合、纏うオーラが絶大すぎて、心が痛むレベルの嘘でなければ鳴らないんだとか。

 

なるほど。

そりゃ鳴りませんわ。

だって僕の内側には人智を超えた物を飼っているし、そもそも嘘をつくのに罪悪感もなにもない。

 

いやー僕が嘘ついてもならないって最初から知ってりゃなあ。

僕は100年前の人間なんです信じてください!なんて頭の悪いムーブしなかったんだけど。

 

 

「待ちなさい!レイン、あの魔道具を持ってきなさい。私が直々に確かめます!」

 

 

ただ、そんな中で王女様だけは僕を信じてくれていた。

その優しさに報いるなら、僕はそれをもっと強く拒否するべきだったのだろう。

 

 

「こちらになります。これは、高名な魔女が営む魔道具店から取り寄せたもので、相手と精神を同化することで、人生を追体験することができる物です。デメリットとして、その者が過去に負った傷や、現在抱えている痛みなんかが共有されたりしますが…」

 

 

欠陥品かな?

記憶だけ読み取れよ。

 

僕の感想は魔道具を持ってきた魔術師の人も一緒なようで、本当に使うんですか?と王女様の方を伺っている。

明らかにヤバイ魔道具を前に抵抗してもよかったが、抵抗して、『何が不味い?言ってみろ』みたいな感じでさらに疑いをかけられるのが嫌で、受け入れたのが不味かったなぁ。

 

 

「安心してください。あなたのことをきっと助けて見せます!」

 

 

「いや、うーん。別にほとぼり覚めるまで牢屋行きでいいんですけど…」

 

 

「いきます!」

 

 

「話聞いてますか?やめた方がいいと思うって言ってるんですけど」

 

 

その魔道具を使った王女様は、僕の記憶を読み取った瞬間その場で気絶した。

 

 

「貴様!アイリス様をよくも!」

 

 

「だから言ったじゃん!だぁから言ったじゃんっ!!僕やめた方がいいっていったのに!」

 

 

「貴様に命を救われた人間として、私が直々に叩き切ってやる!そもそも貴様が嘘などつくからこうなったのだ!」

 

 

「クレア殿!王の御前ですぞ!」

 

 

まぁ意思のない筈の【写し見】の遺灰ですら、僕の姿をかたどった瞬間に蒸発してしまったのだから、僕と精神を同化しておきながら吐いて気絶するだけで済んだ王女様を誉めるべきだ、という僕の感想は置いておいて。

 

 

「おいおいおい、何でもかんでも僕のせいですか!そりゃどうも!チンチン鳴らない嘘つきですいませんでしたっ!」

 

 

「この神聖な謁見の間で何を言うか!」

 

 

「うるせーもうどうにでもなれってんだ!チンチン!チンチーン!はは!」

 

 

「子供か!」

 

 

そんな感じで、身元も不明で、魔王城の近くの紅魔の里に空から落ちてきて、記憶を読み取った王女様を気絶させ、国でも有力な貴族令嬢(騎士)にセクハラした僕は、城の地下牢に連れていかれたのだった。

 

残当に。

嘘発見器とかもはや無意味なレベルで。

 

 

…はい。

でかい声で低レベルな下ネタ叫んでどうもすいませんでした。

でもちょっとスッキリしました。

 

 

 




最後まで読んで頂き誠に有難うございます。
次回は狭間の地での話ですが、妄想設定がかなり出ているので苦手な方はご注意下さい。
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