このハザ   作:ひつまぶし太郎

14 / 37
アイリス様が原作よりも早く普通に喋っているのは、命の危機に瀕して覚悟を決めたのと、主人公の記憶を見たからです。



第六話。2人は罪キュア。MAX囚人公‘s

 

牢屋に入れられたからと言って「…暑っ苦しいなぁ、ここ。うーん…出られないのかな?…おーい出してくださいよ。ねぇ!」なんて命乞いをするのは三流のすることだ。

 

慌てず騒がずおちついて、後先考えないで行動した方がいい。

過去に一度後先考えすぎてドツボにはまった僕が言うのだから間違いない。

きっと。

 

 

だから、こういうときは激流に身を任せて、思考を放棄するのがベスト。

きっと今に天井から、なぜか鍵を持った死体が上級騎士によって落ちてきて、冒険が始まったりするのだ…!

 

 

───そう思っていた時期が、僕にもありました。

 

 

「おらおら!世紀の大悪党のヴァンさんのお通りだ!」

 

 

「道を開けな野郎ども!」

 

 

「ひい…い、命だけはご勘弁を…!」

 

 

なんだろう、無意味に怖がるのやめてもらっていいですか?

 

思考を放棄して、その場ののりで『時代や環境のせいじゃない…!僕が悪いんだよ…王女様が気絶したのは僕のせいだ!』とか『全部僕のせいだ!ハハハハハッ!尋問官さん、全部僕のせいだ!フフッ』とかやって遊んでいたら、気付けば僕は死刑囚すら恐れるとんでもない悪党としてリスペクトされるようになっていた。

 

 

正直もう、今すぐにでも壁をぶち破って脱走したいところだが、この国に害をなすつもりがない以上こういうときは大人しくしておく方がいいと僕は経験則で知っている。

ならこういう時に遊んだら事態はますます悪くなるのも把握しとけよ。

しっかりしろ、思考放棄した僕。

 

 

それに逃げたところで、僕の容姿はちょっと目立ちすぎる。

無限の回復力を持つと言うのに、火が燃え移ったときに出来た消えない火傷痕や閉じた左目、毛根が燃えて灰みたいな色になった髪。

刻印の呪いのせいなのか、呪いを受けた八歳で止まった未成熟な体。

 

身長130に満たない僕が完全にフードで身を隠せばそれはそれで目立つし、身を隠さないと普通に目立つ。

国を出る前に連れ戻されるのがオチだ。

 

 

そんなわけで、僕は諦めて僕のことを怖がっていない囚人たちとこの生活を満喫している。

特に仲がいいのはアンドルフという禿げたおっさんだ。

罪状は貴族を殴ったから。

 

 

『貴族のアルダープの野郎が、使いもしねえくせに剣を依頼してきてな。そのとき俺は他の冒険者の依頼で仕事してる最中だったから断ってやったのさ!そしたらぶちぶち豚のように文句を言ってきやがったから、あのムカつく顔面に一撃入れてやったのよ!そしたらこの様さ!ウワッハッハッ!』

 

 

まぁそういうこともあるだろう。

この囚人部屋に入れられるのは国家転覆罪が適応されるレベルのやらかしをした奴等なので、特に驚きはない。

なんなら部屋の中で一番罪が軽い。

 

だって僕の罪なんて王女殺害テロ未遂だぜ?

あと貴族へのセクハラ。

大罪人にもほどがある。

 

 

そんなわけで、基本的に終身刑か死刑が確定している僕たち囚人は、だいたい日がなチンチロしたり、看守の悪口大会で盛り上がったり、野球拳したり、遊んでばかりいる。

 

すでに牢屋に入れられて4日目だが、狭間の地よりも楽しい。

友人だったパッチの兄貴やエビ好きなならず者を思い出すノリは実に僕好みだ。

 

今日は昨日の配給にあった角砂糖をかけて、野球拳をしていた。

 

 

「おらぁぁぁ!なんぼのもんじゃあああい!」

 

 

「くっそー、ヴァンの野郎幸運低いくせにギリギリでいつも敗けを回避しやがる」 

 

 

「やるなぁ。ほら、持ってけ!昨日の砂糖だ」

 

 

「はっはっは!僕の生き汚さをなめてもらっちゃあ困るぜ!あーあ、早く僕のご立派様を疲労してやりたいなぁ~!?」

 

 

「嘘つけ!どうせ鎧貫きだろ!」

 

 

「ん、んー!負け犬の遠吠えが気持ちいいぜぇ!」

 

 

ただ、ふんどし一丁の状態で野球拳の勝鬨を上げていたところを、地下牢に降りてきたクレアさんと王女様に見られたのが、夢ならばどれ程よかったか。

 

気まずげに沈黙する他の囚人と赤面して固まる王女様、それを見てなぜか鼻血を出すクレアさん。

 

なんか、すいません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めた王女様の鶴の一声で、僕の罪は無罪放免になるらしい。

王族すごい。

 

 

「王女様の目が覚めたみたいで良かったです」

 

 

「貴殿には羞恥心というのがないのか?」

 

 

「あったらそもそもふんどし一丁になってませんよ」

 

 

それにふんどしは狭間の地ではごく一般的な格好だ。

恥ずかしいなんてことあるはずもない。

 

そんな会話をしながら、僕は再び玉座の間に通されていた。

前回と違って、歓待用のパーティーは開催はされていないので、とても広く感じる。

 

 

玉座前に整列している騎士の他にも、歓迎パーティーの席で見かけた貴族たちもちらほら見える。

 

そして、前回僕に疑惑が向くきっかけとなった貴族のおじさんが、一歩前に出て口を開いた。

 

 

「この度は誠に申し訳ありませんでした!」

 

 

「いいよ」

 

 

「王女様の命の恩人でありながら、私はなんてことを…え?今なんと?」

 

 

「いや、だから別にいいって。むしろ身元不明な怪しいやつを素通りさせる方がおかしいんだから。ちゃんと仕事しただけの人相手に文句は言わねーって」

 

 

お辞儀した体制で、どうすればいいのかわからないといった表情で固まる貴族のチンチンおじさんに、僕は気まずい思いを隠してとりあえず微笑み掛ける。

 

───禿げたなぁ…この人。

 

最初はちょっと、なんかぽっと出の冒険者がちやほやされてるから脅かしてやろう、くらいの気持ちだったはずだ。

だが、僕と言う爆弾は嘘発見器が機能しないせいで魔王軍疑惑が出てくるし、王女様を気絶させるし、なんか意味わからない自供なのか小芝居なのかをしているしで…手柄なのか冤罪なのか、頭を悩ませていたに違いない。

 

だって四日でめっちゃ禿げてるし。

苦労したんだなぁ。

 

 

そして魔王軍云々の冤罪で地下牢にぶちこまれていたことについて、僕は特に思うところはない。

 

拷問されたわけでもなし、証拠はないけど順当に怪しい容疑者として全うな扱いをされただけで、だからどうしたといった感じだ。

むしろ、刑罰と称して乙女人形とか言う名前だけはかわいい自立式駆動するアイアンメイデンにぶちこまれたりしなかったのだから、感謝しかない。

 

 

『僕は悪くねえ!パッチの兄貴の依頼だったんだよ!』

 

 

『ならその手に持つ私の下着を離しなさい!!ちょっと、坩堝の騎士!見てないで手伝いなさい!』

 

 

『おっといいのか?僕が逃げ切った暁には臭いを嗅ぐ権利を──』

 

 

『あなた本当にまだ8歳なの!?』

 

 

…普段の冷静な女主人が取り乱す姿は大変可愛らしいギャップを生んでいたが、そのあと普通にパッチの兄貴に裏切られて捕まった僕は、拷問用に改造された乙女人形の中にぶちこまれ、三日三晩泣きわめくはめになったのだった。

くすぐりは人を殺せる。

 

 

「ふむ、しかしだねぇ…。国王として言わせてもらえば、だ。我が国の貴族が、娘の命の恩人を冤罪にかけて、それを言葉だけの謝罪で済ませるというわけにはいかないな。そうは思わんかね?」

 

 

玉座に座る立派な髭を蓄えるいかにもな王様が威厳たっぷりの言葉を、過去に思いを馳せている僕にかけてきた。

 

急に。

さっきまで喋ってなかったのに。

 

店先に置いてある白スーツのおじさんが急に喋り出したら誰もが一瞬恐怖するのと同じように、僕は玉座に座るおじさんの人形が喋り出したこの状況に、少なくない恐怖を覚えていた。

いや人形ではないのはわかっていたけど、部屋に来た時から目も口もずっと閉じてる人が話すとは思わないじゃん。

 

 

「…えー、と。そうですね。じゃあ気持ち程度のお金を包んでくれたらそれで」

 

 

だが、そこはさすが僕。

さすヴァン。

言葉に詰まりながらも、なんとか無難な返事をすることができた…そう思っていたら、王様が急に目を見開いた。

 

 

「君は私のかわいい娘の命は、はした金程度の価値しかないと。そう言いたいのかね?娘はとても可愛いんだ。生まれてきたときなんかはもうこれ以上はないと思っていたのだが、日に日に愛らしくなっていく!そんな娘の命と!たかだかはした金が!釣り合うと!?」

 

 

「言ってないですよ?落ち着いてください国王陛下」

 

 

おいおい溺愛じゃねーか。

気絶させておいてよく四日も処刑されなかったな僕。

 

 

「お父様、私にいい考えがあります」

 

 

そんな自分の父親を見ていられなかったのか、王女様が口を挟んでくれた。

どうやら援護射撃してくれるらしい。

 

本当にお世話になりっぱなしだ。

 

 

「なんだアイリス。言ってみなさい」

 

 

そして王女様が口を開いた途端、怒りが収まる辺り本当に親バカと言うか。

いやまぁ、仲悪いよりは良いと思いますけど。

 

 

「この子を私の弟にしましょう!とても素晴らしいと思いませんか?」

 

 

は?

何だって?

聞き間違いだと思って僕が顔をあげると、王女様はとてもいい笑顔を浮かべていた。

 

 

「あなたも、私のことをお姉ちゃんと呼んでくれていいんですよ?」

 

 

「ほう…」

 

 

「やめてくださいころされてしまいます!」

 

 

これ援護射撃じゃねえや!

バックスタブだ!

 

信じた王女様に背中から刺されるという危機に僕は慌てて声をあげた───!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、あのあと王様だけでなくクレアさんまでが本気の殺意が籠った目をしていたので、あわや地下牢に逆戻りかと思われたが、そんなことにはならなかった。

 

助けた三人のうちの最後の一人、宮廷魔道師のレインさんが助け船を出してくれたからだ。

 

 

『それでは、国から直々のクエストをこなしてもらうというのはどうでしょうか。内容は簡単な調査ですが、報酬も悪くないですし、国からのクエストを達成したとなればそれなりに割りのいい仕事が回ってくるようになります。その実績は今後、身元があやふやでも、十分な後ろ楯になるかと』

 

 

なんでも駆け出しながら魔王軍の幹部のデュラハンのベルディアとデストロイヤーを討伐したパーティーがいるらしい。

 

国としては、今後も成長が見込めるそのパーティーを出来ればお抱えの戦力として迎え入れたいそうなのだが、冒険者というのは良くも悪くも自由だ。

言葉を濁さずに言うなら粗暴な人格をしている者が多い。

王都にいる高レベルの冒険者たちだって、決して品がいいとは言えない者たちて溢れている。

 

つまりは騎士を使って大々的にやるよりは、冒険者に調査してもらった方が目立たずにことを進められるだろうという、そういう意図のクエストだった。 

 

そして、確かな報酬と後ろ楯がもらえると言われてしまっては僕は断るのも難しい。

実際僕の現在の懐は、王女救出の恩賞と冤罪の賠償金のお陰で暖まってはいるが、お金なんてすぐなくなるのだから貯えがあるに越したことはない。

冒険者を管理するギルドの心証が良くなるというのも、身分が百年前のものな僕にとっては無視できない。

 

それに、デストロイヤーは僕の祖国を滅ぼした兵器であり、同時に僕の祖国が長年多方面に多大なるご迷惑をおかけしているという黒歴史的存在である。

そんな因縁のある相手を討伐してくれたというのだから、僕もそのパーティーには是非会ってみたい。

俄然やる気が出てくるというものだ。

 

 

『ぜひ、受けさせて頂きたく』

 

 

『ふむ、決まりだな。ではレイン、手続きの方をよろしく頼む』

 

 

『畏まりました』

 

 

という流れで、その場はお開きになった。

 

 

そして、なぜか「お姉ちゃん」と呼ばせたがる王女様から逃げるようにして僕は準備を整えた。

 

…あの精神を同化する魔道具、他にも欠陥あるんじゃないだろうな。

一週間しか遡れないとか言っていたから、狭間の地の記憶だって読み取れるわけもないし。

 

モヤモヤしつつ、取り上げられていた僕の鞄と武器…ヒーターシールドとロングソード、短剣、松明用のこん棒、ショートボウを返してもらってから城を出る。

 

 

それにしても、報告書ってどうやって書けば良いのだろうか。

 

『調べてみたけどよくわかりませんでした!いかがでしたか?』みたいな糞を煮詰めた低クオリティな報告書だと、たぶんクエストクリアにはならないだろう。

というかクレアさんにぶった切られる。

 

…ギルドの人とかに手伝ってもらうか。

出来ないことは、出来る人に助けを求める。それを恥ずかしがってはいけない。

 

 

「ようこそ、始まりの街アクセルへ!」

 

 

「はいありがとう」

 

 

クエストの手付金として王都からアクセルへのテレポート代をクレアさんに貰い、僕はアクセルへと移動した。

一瞬で。

 

…なんの風情もないな。

いや、それがテレポートのいいところなんだけども。

とりあえず、次どこか行ったことのない場所へ行くときはトレントに乗って行くとしよう。

 

 

そんな決意と共に、アクセルの街のギルドへ足を踏み入れた僕は奇妙なものを目にすることになる。

 

 

「うん?」

 

 

「冒険者、サトウカズマ!貴様には現在、国家転覆罪の容疑が掛けられている!自分と共に来てもらおうか!」

 

 

…なんだろう。

なんか、調査対象が捕まってるんですけど。

 

罪状は国家転覆罪。

 

オドろいたねェ。奇しくもこないだまで僕にかけられていた容疑と同じものだ。

 

人望があるのかないのか、茶化すように裏切られるという奇妙な光景のなか

 

 

「どいつもこいつも覚えてろよおおおおお!」

 

 

と叫びながら、騎士に連れ去られていったのがサトウカズマという、僕が調査を仰せつかっていた冒険者らしい。

 

 

マジか。

 

 




今回も最後まで読んで頂き誠に有難うございます。
次回から原作に合流します。
ようやくです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。