突発的に発生した大悪魔との戦闘は、僕という尊い犠牲の他には死者はなく、結果だけ見れば犠牲者なしに公爵級の悪魔を地獄に叩き返せたという、とても素晴らしいものとなった。
ぶっちゃけ勲章ものだ。
そして、そもそもの目的だったアルダープは、悪魔を倒した次の日から、悪事の証拠もどばどば見つかり、逮捕されて財産も没収されたので、裁判は有耶無耶になることだろう。
いかに悪人とは言え、屋敷を爆破するのは犯罪な気がするが、法律がガバガバなこの国ならきっとなんかアルダープが全部悪いと言うことにしてくれるに違いない。
ついでに、モンスターをランダム召喚する神器と、体を入れ換える指輪の神器もアルダープは隠し持っていたらしいが、どさくさに紛れてクリスさんが天界に持ち帰ってくれたらしいし、アルダープの死後以外は後腐れはない。
というのも、アルダープはあんな明らかにまじやベーすげー悪魔を、下級悪魔だと思ってコキ使っていたらしい。
そのせいで支払いのツケはかなりのものらしく、死後数百年はあの悪魔の下に魂が囚われることになりそうなんだとか。
今さら牢屋で神に祈っているアルダープだが、エリス様曰く、悪魔を一時的に滅ぼすことはできても、悪魔の契約には神様たちは介入できず、地獄行きの魂はその罪の清算が終わってからしか救いの手を差し出せないらしい。
つまりはもう、後の祭りというやつだ。
せいぜい頭が悪かったというその悪魔が、アルダープが処刑されるまでに忘れてくれることを願うしかない。
頑張れ。
僕の知ったこっちゃねーけど。
…全くもって。
悪魔諸共自爆したあと呑気に灰から再生した僕が、それはもういろんな人に怒られた以外は全て丸く収まったと言えるだろう。
王女様とか、クレアさんとか、クリスさんにめちゃくちゃ説教された。
「いいですか?あなたはちょっと自分の命を軽く見すぎです。聞いてるんですか?耳を塞いでもダメですよ!弟ならお姉ちゃんのいうことを聞きなさい!」
「お姉ちゃんではねえだろ王女様はよ!なんなんだよその執着は!捨てちまえ!」
「そうですよアイリス様!そんなことになったらこの失礼な子供が私の娘ということになってしまいます!」
「ならねえよ!!あと僕は男だよ!ふんどし一丁の姿見てなんで気づいてねえんだ!」
「あのね?確かに気絶しちゃった私も不甲斐ないけど、それは君が命を粗末にしていい理由にはならないんだよ?あと私にチューしようとしたり、体まさぐっといて王女様も誑かしたの?感心しないなぁ…」
「出会って早々誰彼構わず誑かすわけないじゃないですか。僕はこれでも一途なんですよ?でも体まさぐったりチューしようとしたのはごめんなさい!…今なんで急に僕にビンタしたんですかクリスさん?」
「これね、神様の平手打ちだよ」
「叩いた理由の方を聞いてるんですけど…?」
ひとつ言わせてもらえるなら、僕だって好きで自爆したわけではない。
あの火の大罪擬きというか、エンチャントファイア(自分の体に)の出力に体が耐えきれなくてぼんってなっただけだ。
ただ、今後は自爆もひとつの手段として取り入れようとは思っている。
自爆は、目下僕にとって最大の攻撃力を持つ必殺技だ。
それになにより、細胞の一つ一つが新しく作られたお陰で肩こりやら寝不足やら、多少の体調不良がすべて改善されていたのが素晴らしい。
疲労がポン!となくなった。
ロマンとリフレッシュを兼ねた、心底しびれる必殺技と言えるだろう。
まあ、そんな必殺技もこの混沌とした状況にはとても無力なんですけどね。
バカな…地獄の悪魔より手強いだと…?
そして、人前で何度も再生したことについても思わぬ形で解決した。
あの時あの場所にいた一般の人や冒険者、騎士たちは僕にお礼をすると、見たものは胸のうちにしまっておくと、そう言ってくれたのだ。
何度も殺されては再生したのを見てたと言うのに、随分と懐の大きい国だ。なんて出来た国民なんだろうと感動したけど、好意を寄せられる理由が『悪魔を殺したから』なのはドン引きだ。
僕の感動を返せ。
こえーよ。さすがエリス教を国教とするだけある。
悪魔殺しは何よりも優先される正義なんだろうか。
過激派怖い。
◆
「私たちが地獄の悪魔と嬉しくないランテブーをしてた頃、ちょうどカズマくんたちも地獄の悪魔とやりあっていたらしいよ!それも相手は魔王軍幹部の見通す悪魔のバニル!!」
「そんなはじけるような笑顔でする報告じゃなくないですかエリス様」
「クリスだよ?」
「ああはいそうですね。で、大丈夫なんですかあの人たちは」
「うん、見事討伐完了してくれたよ!いやあ悪魔とかいう寄生虫が現世から2日連続で駆除されるなんて最高だね!」
笑顔なのに目が笑ってない。
「…やっぱエリス教こえー…」
「討伐方法がダクネスの体に悪魔を閉じ込めて、めぐみんの爆裂魔法で吹き飛ばすっていう手法だったのが、ちょっとアレだけどね…」
「??????」
正気か?
僕みたいに自爆してもどうにかなる公算があるならまだしも、よくもまぁそんなことが出来たもんだ。
実行に移したのも信じられないが、それで生きてるのもおかしいだろ。
これなら、僕がアルダープの悪魔と戦う必要もなかったかもしれない。
さすが、幸運値が信じられないくらい高いカズマさんだな。
ただ。
「もっと信じられないのは僕が今いるのが懲罰房なことだよな、やっぱり」
「あはは、まあみんな心配なんだよきっと」
僕をここにぶちこんだ王女様曰く『命を粗末にしたことを反省してください』とのことだが、僕の人権…どこ行った?
勘の悪いガキの僕でもおかしいのは分かるぞ。
ちなみにじゃあなんで懲罰房にいる僕の目の前にクリスさんがいるのかと言えば、彼女もまた王都防衛の功労者であり、僕への面会を許されているからだ。
というか。
「クリスさんも僕の監禁に賛成してたらしいじゃないですか。何他人事みたいに言ってるんです?」
「…君はしばらくそこで頭冷やした方がいいんじゃないかな。うん、それがいいよ。それにその首輪も似合ってるしね」
どういうことだってばよ。
向けられてるのは確実に恋愛感情ではなく心配なのだけど。
そこまで過激な手段に訴えないといけないような男に僕が見えてるのか?
「遺憾の意」
「ダメですよ?わがまま言っちゃ。あなたは暫くここで暮らすんです」
「うげぇ…王女様」
僕の頭を撫でてご満悦な顔をして帰っていったクリスさんと入れ替わるようにして、今度は王女様が僕の牢屋の前にやってきた。
僕の監禁を実行した張本人の登場に、僕の口から思わず呻き声が漏れる。
「ふふ、見てください。わかりますか?なんと…貴族御用達のアップルパイです!あなたが牢屋で侘しい思いをしてると思って、献上品の中から持ってきちゃいました!」
テンションたっか。
ていうか見えねーよ。
こちとら懲罰房の中やぞ。
鉄格子じゃなくて、分厚い鉄扉に遮られてんだよ。
見えるわけねーじゃん。
という言葉はもちろん飲み込む。
僕は反省ができる男。
前回のように思考を投げ捨てて、遊んだところで事態は改善しないのだ。
悪い事態に陥って後先考えないのは名案だが、牢屋にぶちこまれた場合には適さない。
「テンションたっか。ていうか見えねーよ。こちとら懲罰房の中やぞ。鉄格子じゃなくて、分厚い鉄扉に遮られてんだよ。見えるわけねーじゃん」
「不敬罪で延長してもいいんですよ?」
「嘘。嘘です。実は見えてました。超美味しそうです!いやー!さすがだなぁ!さすが王女様!お目が高い!よ、未来の大統領!」
実際のところほんとに見えてないけど、囚人仲間のいない孤独な懲罰房にいる期間を延長されては堪らない。
たぶん外からは扉が魔法で透けて見えてるから、王女様は一方通行なのを忘れていたのだろう。
うっかりミスを照れ隠しする言動は年相応なのに、シチュエーションが特殊すぎて可愛らしさが存在していない。
「ふむぅ…媚びてる姿を見るのも中々…。いいでしょう、私が直々に食べさせてあげます!」
「今なんか危ない発言しなかった?」
そして、扉を開けて入ってきた王女様は縛られている僕の口に、アップルパイを放り込んだ。
「あーん」
それは一口と言うには、あまりに大きすぎた。
大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた。
それは正に半分切っただけのアップルパイだった。
「いや、無理無理。無理だって、そんな大きいの絶対入らないというか受け止め切れなんんんんん!」
顎が外れるかと思うほどのアップルパイを詰め込まれながら、それでも溢したりするのは勿体ないので、なんとか全部口に納める。
そして少しずつ咀嚼して、喉の奥に移動させていたところ、なにか違和感を覚えた。
「ぷは…っ。毒入りじゃねーか!いや毒入りですよ、これ!?」
◆
あわや大惨事になりかけたアップルパイ。
勿論、王族の家庭の事情で毒を訓練として接種してるとか、そんなバカな話ではない。
食べておいてケロりとしている僕を見て最初は半信半疑だったお付きの人たちも、王女様の手元に残っていた半分のアップルパイから劇毒が出て、血相を変えていた。
ついでにインドぞうが二秒で倒れるという劇毒が仕込まれたアップルパイを半分完食した僕を見る目が化物を見るものになっていたが、そこはもう仕方ない。
こちとら火の番人やぞ。
常時体の内側が燃えてるから、火の癒しよが永続してるんじゃい。
────そんなことがあった次の日、僕はなぜか玉座の前で跪かされていた。
「また僕が疑われてんの?」
「いや、さすがに違うとも」
ちなみに今日は玉座に王様はいない。
なぜなら、今王様は魔王軍との戦闘が激化している地域に赴き、前線に出ているからだ。
って、なんで王様君が!?と思うかもしれないが、彼は人類で最高峰の戦闘能力を持ち、一人で戦況をひっくり返せると言われる最強の戦士だ。
娘のことになると危ないおじさんみたいになることを除けば、本当に優れた王様なのだ。
まあ人間、欠点があってこそみたいなところがあるからね。
仕方ないね。
「えっと、じゃあなんでまた?」
「それなんだがな…」
ちらり、と言いにくそうにクレアさんがニコニコと笑う王女様の方を見る。
「ピクニックにいきましょう!」
「ピクニック?」
「行き先はエルロードです!」
エルロード。
確か隣の国だ。
ピクニックというからには、てっきり行き先は王都内の草原とかを想像していたが、違うらしい。
「はえー。王族ともなればピクニックで国境越えるんですね」
「…アイリス様、国賓訪問をピクニックと呼ぶのはやめてください…」
にっこにこの王女様と頭を抱えるクレアさんの言い分をまとめると、これは結構真面目な話らしい。
そもそも僕が王女様と縁が出来た騒動である、何者かによって仕組まれたモンスターの群れによる謀殺未遂が解決していないこと。
前回襲撃で中断された訪問の目的である、支援金の打診がまだ出来ていないこと。
そして昨日の毒殺未遂のように、現状悪魔によってボロボロになった王城では万全の守りとは言い難いこと。
それらを加味して一度エルロードに行ってしまおうというのが、この話の発端なんだとか。
それで相手に動きがあればそれを手がかりにできるし、動きがないならないで、王都が復興する時間稼ぎになる。
これはつまり。
話を理解した僕が王女様の様子を伺うと、視線に気づいた彼女は笑顔で口を開いた。
「囮はもちろん私がいきます。影武者なんて使いません」
「やっぱり」
そりゃクレアさんも口ごもるわ。
臣下として、出来ればそんな危ない真似はしてほしくないのだろうし。
とはいえ、昨日の毒入りアップルパイは本当に巧妙で、銀の食器にも反応せず匂いもしない。
本当に食べて初めて毒だと気付けるような、そんなレベルの物だった。
そんな毒を仕込める相手だと城の建て直しのために大勢が出入りしている現状では、ちょっと部が悪い。
そんなわけで、その護衛役と味見役、政治的な交渉も有利に進めるために、たった二日で国外にまで名を馳せた、単騎で公爵級の悪魔を滅ぼせる戦力として見せ札になるのが、僕に求められている役割だった。
「…このクエスト受けてくれますか?」
不安そうにしつつ、僕の方を伺う王女様に僕は微笑みかけた。
「報酬はたんまりお願いしますね」
「勿論です!」
要するに高い食材食べ放題ってことだろ?
しかもエルロードはカジノ大国だ。
そんな楽しい旅行を前にして、僕が断るはずがない。
わくわくを思い出してしまう。
こちらも行かねば無作法というもの…。
このときカジノの軍資金としてどれくらい口座から引き出しておこうかな、なんて考えていた僕は、まためんどくさい騒動に巻き込まれるなんて想像は一つもしていなかった。
…いつもいつでもうまくいかなすぎじゃありませんか。
たまには「きょうはなんにもないすばらしい一日だった」みたいな毎日を一月くらい続けてくれてもいいんですよ。
ほんとに。
一年なんて贅沢は言わないんで。
今回も最後まで読んで頂き誠に有難うございます。
なんと今日で一週間毎日投稿を達成しました。
前作の書き直しとは言え継続で来たのは読んでくださった皆様のお陰でございます。
本当にありがとうございます。