十巻と十五巻の登場人物がでます。
ネタバレにご注意ください。
あと、四話の最後をちょっと書き換えました。
エルロードに向けての護衛は全く何も問題なかった。
というかぶっちゃけ僕はほとんど要らなかった。
本当にもう王女様が強い強い。
前回と違って王女様が携えている、【なんとかカリバー】という使用者をあらゆる呪いと状態異常から守ってくれる国宝の剣。
それを掛け声と共に振るだけで光り輝く斬撃が飛び、個も群も関係あるかとぶった切られる。
「お父様が今回の旅のために特別にくれたんです!」
と、ほくほく顔で言うだけあって、不意の襲撃と毒への対策という意味でバッチリだった。
しかも、モンスター避けの魔法のかかった屋敷が飛び出してくる魔道具のお陰で野宿の必要もないという。
「僕の役目は?」
「私の目の保養になることですよ!さぁ、まずはお姉ちゃんと呼んでください。役目ですよね?」
「今日の夕飯全部ピーマンにしてもいいんですよ王女様」
「ごめんなさい、それだけは勘弁してください」
そんな役立たずと化していた僕だが、それでも料理だけは頑張った。
巨人の火を使って煮込めば、毒も腐敗も消える。
だから、わざわざ僕が毒味をするまでなく、王女様に出来立てを届けることができるのだ。
カレーにパスタ、オムライス、キノコのマリネにローストビーフ、サンドイッチ、パンケーキ等々。
お昼は竜車の中で食べれるように、朝は重くないように、夕御飯は翌日体力が途中でつきないように。
色々考えながら振る舞う時間は、正直ラニ様との日々を思い出して楽しかった。
「うんこの香りだぁ~!」
「毒味後の味気ないものじゃなくて、熱々の料理を口にできるなんて…!とっても美味しいです!このカレー!」
そんな感じでとてつもなく平和な、それこそ王女様が最初に言っていた「ピクニック」という言葉が似合うほどのお気楽さで、僕たちは目的地にたどり着いたのだった。
エルロード。
とりあえずカジノが有名で、金を払うことでベルセルグに魔王軍と戦ってもらっていたり、野菜や肉などの食料をすべてよその国からの輸入で賄っていることから、【金のなる国】と皮肉まじりに呼ばれていたりする国だ。
◆
「ようこそおいでくださいました、アイリス様。そちらの方は?」
エルロードに着いて、宿で1日休んだ僕と王女様は、お城にて挨拶を交わしていた。
用意されていた宿も完全防音の豪華なものだったし、王女様と僕に見せびらかすためにたくさんの騎士たちを引き連れているのも含めて、エルロードはどうやら自分達の優位を見せびらかしたいらしい。
つまりはお前らとの交渉に応じるつもりなんてねーから、と暗に伝えてきているということだ。
たぶん。
知らないけど。
「はじめまして。私の名前はヴァン。先日の悪魔殺しの褒美で、王女様の側付きとして召し抱えて頂きました」
僕の笑顔は引きつっていないだろうか。
襲撃を仕組んだ人間を油断させるためとかで、無理矢理着させられたメイド服と指示された口調で話すのがすごい疲れる。
僕の精神力が…吸われていく。
僕は今、地獄の公爵を倒した報酬に王女の側付きにしてもらったメイドとして振る舞うことを強要されていた。
パワハラだろ。
ちなみに好物はイチゴのショートケーキ、趣味は裁縫。
タイプの男性は勇敢な人、実はカジノに興味があるなどという王女様の考えた設定もあるが、生かされることはない。
生かされてたまるか。
そして、一応この国にも悪魔殺しの話は届いているようで、僕の名乗りを聞いて脚や尻をじろじろ見ていた騎士たちが慌てて目をそらした。
騎士がそもそもばれないように視姦してるんじゃねーよ。
みっともない。
「おお…あなたが。ご存知かと思われますが、私は宰相を勤めているラグクラフトと申します、よろしくお願いいたします。そして、こちらは私の秘書です」
「秘書のセレナです。田舎から経営を学ぶためにこの国に来ていたところ、宰相様にお目をかけて頂いて、今は秘書をしております」
「これはこれは…優秀な宰相様だけでなく、それを支える才女までいらっしゃるとは。さすがです」
宰相さんの半歩後ろに控えていた黒髪の女性が、柔らかな笑みを浮かべて一礼してきたので、それに再び礼を返す。
相手を褒めるのも忘れてはいけない。
お淑やかな笑みを浮かべ、相手をよいしょする。
同時に自分の知性と品性もアピールしなきゃいけないのが辛いところだ。
こちらは戦力を、相手は財力を。
互いの強みを見せつけ、水面下でイニシアチブをとろうとする攻防は、少なくとも表面上は穏やかなものだった。
「お前が地獄の悪魔を?小さいし華奢だし、本当に強いのか?それに護衛が一人とは…ベルセルグはそこまで金がないのか?筋肉だけでなく、もう少し金を稼ぐ頭を鍛えた方がいいぞ!」
宰相と話していたら、なぜか一人の子供が話しかけてきた。
子供っていっても僕よりは背が高い。
そばかすが散った赤毛の少年は、小さな王冠を載せていることから、エルロードの王子なのだろう。
話に入れなくてへそを曲げたのかなんなのか。
どうやらこの王子はわざわざ挑発して悪印象を与えて、怒らせるつもりらしい。
なにがしたいのか知らないが、僕の知ったことではない。
「パワー!」
ムカついたので、後ろにいた騎士たちをまとめて弱火で凪ぎ払った。
相手の思惑にあえて乗るのも知性だろ(かしこさ99)。
「ちょ、ま…」
「パワー!ヤー!筋肉パワー!パワー!」
「アッ!アーツィ!アーツ!アーツェ!アツゥイ!」
ケツに火が着いて慌てふためく騎士たちを一瞥して、僕は出来る限りおしとやかに王子に向けて微笑んだ。
「ふふ。この国の戦力をかき集めて、地獄の悪魔を叩き返せますか?少なくとも、私はできましたよ」
「違うのです!落ち着いてくださいヴァン様!レヴィ王子も本気で喧嘩を売ろうとバカにしたわけでは…!」
「王子!エリス教が国教になっているベルセルグに対して、悪魔殺しを貶めるのはお止めください!」
「わ、分かった、悪かった!俺が悪かったからうちの騎士たちを燃やすのをやめてくれ!」
別に悪魔殺しを貶されたから怒った訳でもないし、挑発してきたからさっきのセクハラの制裁も兼ねて、お望み通りのってあげただけだ。
「私を侮ると火傷しますよ?」
「すいませんもうしてるんですが!」
それに僕を貶した瞬間、王女様からとんでもない殺気が漏れてたし。
火加減出来る僕がしなきゃとんでもない地獄になってたかもしれないだから、感謝してほしいくらいだ。
◆
深夜。
人払いを済ませた一室で一組の男女が、顔を寄せて密会をしていた。
「くそ…なんなんだあのガキは…!」
「落ち着けラグクラフト。ったく、お前がもっと早く動いてりゃあんな厄介なやつが来る前に話が終わってたんだがな」
とはいえそこに色気のある展開はない。
片方は宰相ラグクラフト、そしてその片方は秘書のセレナ。
本来なら立場が低いはずのセレナの方が、偉そうに振る舞っているのには訳があった。
彼女の本名はセレスディナ。
魔王軍幹部のダークプリストであり、直接戦闘能力自体は低いものの、その頭脳をもって謀略と諜報を担っている。
そして、傀儡と復讐を司る邪神レジーナを崇拝しており、彼女に攻撃するとそれがそのまま相手に返る、彼女に貸しを作ると傀儡にされるといった厄介な能力を持っている。
そんな彼女が魔王軍と人類の戦争の最前線であるベルセルグではなく、戦力的には大きな障害になり得ないエルロードに潜入しているのか。
それは、三十年以上前に送り込んだ部下であり諜報部隊の隊長、ドッペルゲンガーのラグクラフトが全然魔王軍の仕事をしないからだ。
「はっ。申し訳ありませんセレスディナ様…」
ドッペルゲンガー。
それはあらゆる生物に能力含めて完璧に擬態出来るモンスター。
諜報にこれ以上ないくらい適したモンスターだが、このラグクラフトは真面目すぎて、三十年間自分の本来の職務を忘れてエルロードに尽くしていた。
赤字を建て直し、各国との有利な交渉を進め。
今やエルロードは金だけで成り上がっておきながら、魔王軍すら無視できない有力な国の一つとなった。
どう考えても頑張りすぎである。
「それにしてもまさか二回も王女の暗殺が失敗するとはなぁ…二回目なんて、幹部のハンスに頼んだんだぜ?噂によりゃあ二回ともあの女に防がれたって話だ。城がごたついてるからって焦りすぎたか…?」
秘書として被っていた猫を脱ぎ捨て、足を組んでタバコを吹かす様は、チンピラとそう変わらない。
とはいえセレスディナのような美女がやれば、そのようながさつな態度も様になるというもの。
月の光を浴びながら目を細める彼女は、まさに悪のカリスマだった。
「それに加え、地獄の悪魔の討伐ですか。恐ろしいですね」
「あのガキだけじゃねえ。最近じゃ、アクセルの街でベルディアにバニルと立て続けに幹部がやられてやがる。だからあたしが来たんだ。魔王としては勢い付いてるベルセルグを足止めしておきたいのさ」
「それで、いかがいたしましょう?」
「…とりあえず、あのメイドのガキが本物か確かめるぞ。見た感じレベルは中堅くらいだ。あいつの強さの化けの皮を剥がして、エルロードとベルセルグを決裂させる」
運が良ければあの王女も殺せるかもな、などと冷笑を浮かべる悪女を、美しい月だけが静かに見下ろしていた。
◆
「黄金竜の討伐ですか?」
「ええ、我々エルロードとしては魔王軍と事を構えたくはありません。ですので、交渉に応じる前にあなた方の実力を見せてもらいたいのです。地獄の公爵よりは容易い相手でしょう?」
───ああこれ、倒せなかったらいちゃもんつけて、倒せたら倒せたで国の問題が解決するとか言う、相手にメリットしかない提案だわ。
という、実に意図が丸わかりな提案を僕と王女様が受け入れたのは、こちらとしてもちょうど欲しいものがあったからだ。
そして、その黄金竜。
まぁ確かに強いのだろう。
少なくとも、僕と同じレベルの冒険者が真正面からやったらかなり苦戦するどころか、返り討ちにあってしまうくらいの強さは間違いなくあった。
でも、それだけだ。
たぶんめぐみんの爆裂魔法でも、王女様の聖剣でも、魔剣の勇者として有名なミツルギキョウヤさんの剣でも、ほぼ一撃で倒せてしまうだろう。
古竜ほどではない、狭間の地でコンパチみたいにいっぱい居た飛竜より弱いくらいの強さ相手に今さら日和ってるやついる?
いねえよなぁ!!?
鞄から取り出した使者達の大頭と対大型敵決戦兵器、使者達の長笛の前に神聖属性耐性の低いやつはなすすべもない。
「おいおい瞬殺だよ」
さすが長笛さんだ。
狭間の地のドラゴンスレイヤーの名前は伊達じゃない。
◆
「瞬殺でしたね」
「わかってるよ、くそ!あいつ名前が普通だったから想定してしてなかったが、まさか勇者気取りの変わった名前の連中と同じか…?」
ぎり、と唇を噛むセレスディナの顔に余裕はない。
あの黄金竜討伐に当たって着いていったセレスディナやラグクラフト、その他エルロードの人間は全員が度肝を抜かれた。
討伐した事実に、ではない。
大した戦闘をすることなく瞬殺し、あまつさえ「よくよく考えれば王女様に手柄譲った方がよかったですかね?」などと呑気に会話する二人組にだ。
そこから伝わってくるのは、少なくとも、ベルセルグにとってこの討伐を成し遂げられるのは珍しくもないというわけで…。
ベルセルグの強さを知っているセレスディナはまだしも、国民はそこに希望を見いだしてしまった。
これではベルセルグへの支援金を打ち切るどころか、結束がより強くなってしまう可能性があった。
「なにか…なにかないのか…?あの女にぎゃふんと言わせられるなにかは…」
彼女は無駄に三十年もかかった計画が、今おじゃんになろうとしているから焦っていた。
だから。
セレスディナは部屋の外から聞こえてきた会話に飛び付いた。
…飛び付いてしまった。
『本当ですか!?王子様が今夜私の部屋に…?』
『ああ、俺がドラゴンスレイヤーに本場のカジノについて教えてやる』
『ふふ、楽しみです。ですが、やはり王女様に申し訳ないです…王子様は王女様の婚約者なのでしょう?』
『そう言うな…今夜だけだ。いいだろう?』
『分かりました。なら、王子様もお一人誰か女性をお連れください。それなら、多少誤魔化しも聞くでしょう?お待ちしてますね?』
「…これだ!」
彼女は、会話を聞かれていたメイドが笑ったのにはついぞ気付かなかった。