このハザ   作:ひつまぶし太郎

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今回からまたいつものノリに戻ります。
そして、今回は原作でいうと大体6、7巻の辺りになります。


第十四話。アクセルアンダーザブリッチ

 

 

カズマさんが死んだらしい。

なんかこう、物語的比喩とかでもなく。

ハシリタカトビというモンスターの討伐の最中に、木から落ちて首がすごいことになったとめぐみんが言っていたという話を、他の冒険者から聞いた。

 

そこで僕はカズマさんを弔うべく、最近根城にしている橋の下から町へと繰り出した。

そしてごみ捨て場に置いてあった手頃な岩にカズマさんの名前を掘り、カズマさんの屋敷の庭の丘にそれを立てると、その前で手を合わせた。

 

 

「カズマさん…」

 

 

惜しい人をなくしたな。

僕に風俗を教えてやるとかいって意気揚々と連れていってくれた店で、僕が未成年なせいでサービスを受けられなかったときに本気の喧嘩したり、一丸となってダストさんを狙うホモ貴族を撃退したり、適当におだててカズマさんに酒をおごってもらったり…。

 

 

「ろくな思い出がねぇ…だけど、いい人だったな」

 

 

そう言って僕は『サトウカズマ』と書かれた岩に、しょんべんをひっかけようとズボンに手をかけ───。

 

 

「黙ってみてりゃ調子乗りやがって、こんのクソガキが!スティールでひんむいてやる!」

 

 

後ろからカズマさんのドロップキックをもろに食らって、その辺で適当に拾った岩と共に丘を転げ落ちた。

 

 

「うおおおおお!?ヤバイヤバイチャックに挟んだ!ここがつぶれるのはマジヤバイって!」

 

 

 

 

 

 

 

「ひでえやカズマさん。せっかく弔ってあげてたのに」

 

 

僕の大事な息子はなんとか無事だった。

痛みはないけど、あそこがつぶれると途轍もない喪失感に襲われるんだよな…。

昔、ラニ様に股間を氷付けにされて、それが地面に落ちたときは気絶するかと。

 

本当に。

今思い出しただけでも、寒気が…。

 

 

「弔いにしょんべんひっかけるとかどんな冒涜だよ」

 

 

「それはそう」

 

 

カズマさんの怒りももっともだが、僕としても根も葉もない噂に騙されてのこのこ屋敷に足を運んでしまった恥ずかしさをどうにか誤魔化したいという切なる願いがあったのだ。

 

───それに嫌な夢見て、むしゃくしゃしてたし。

人間は黒歴史の直視に耐えれるようには出来てないのだ。

 

そういう理由があったと思えば、墓に見立てた岩にしょんべんひっかけるくらいかわいいお茶目に見えてくることだろう。

 

 

「全然?」

 

 

「さすがカズマさん。アクセルで一番人の心がない男だ」

 

 

「その名前広めてるの誰なんだよほんとに!カスマだのクズマだのロリニートだの!」

 

 

知らね。

でも真実なんだよなぁ…。

カズマさんはロリコンだし、ニートだし、鬼畜だ。

 

 

「て言うか橋の下なんかで生活してるから悪夢も見るんじゃないか?別にうちの屋敷の部屋余ってるし…ほら、その…」

 

 

「うわカズマさんがデレた!」

 

 

「う、うるせー!」

 

 

しまった、カズマさんの言葉が意外すぎて思わず茶化してしまった。

 

 

「んー、まぁ。ありがたい申し出ですけどやめときます。特に困ってないですし」

 

 

実際アホほど稼いでるカズマさんほどじゃないにしても金ならあるのだ。

どっちかというと橋の下にテント張ってする生活が、秘密基地作ってるみたいで楽しいから続けてるだけで、たぶん僕の性格的に来月辺りには飽きて適当な宿でも借りてることだろう。

 

 

「それより、カズマさんはなんで討伐なんかに?こないだまで、借金も帰ってきたし春とはいえまだ寒いとかで、こたつ?とか言うのに包まれてたじゃん」

 

 

街の冒険者たち全員ニートにしようとしてんの?みたいなレベルで『働いたら負け』を公言しているカズマさんは、めぐみんたちが外に出そうにもフリーズやらドレインタッチで抵抗し、トイレもボトルで済ますとかいう極まった生態をしていて、見てる分には面白かった。

自分の子供か家族がこれだと嫌だけど。

 

この人ほんとすげーよ。

こないだ酒で酔っぱらった勢いで、『これがハーレムの特権だ!』なんて叫びながら、めぐみんとダクネスさんの洗濯物の上に寝そべって深呼吸を始めたときは心底戦慄した。

 

 

「…それより、ヴァンってレベルどれくらいなんだ?」

 

 

そんな危ない大人になりそうなカズマさんが、唐突に話を変えてきた。

 

レベル。

それは僕が狭間の地から出てきて失ったものであり、こっちに来てからそこそこ大物を討伐してきたお陰でそれなりの高さを誇るものだ。

 

王女様を襲撃していた魔王の加護のかかったモンスターの群れ、地獄の公爵、黄金竜、そしてアクセルの街の塩漬けクエストたち。

…あ、あとバニル。

 

そんな猛者たち倒した僕のレベルは今。

 

 

「30ですね。…あれ、カズマさんどこ行くんです?部屋?不貞寝?あ、はい。じゃあ帰りますね」

 

 

あとで聞いた話なのだけど、カズマさんのレベルは13。

パーティーで一番レベルが低いことに気付いたカズマさんは、引きこもりを止めて外に出たらしい。

 

で、死んだと。

悲しい…事件だったね…。

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

めぐみん(レベル26)から、カズマさんが不貞寝した理由について聞いた僕は、慰めるべく再びカズマさん家に訪れていた。

 

家を持たず、宿にも止まらず、橋の下で寝泊まりしている僕は、お風呂を借りるために頻繁に出入りしている。

だから、特に躊躇うこともなく僕は扉を開けた。

 

 

「お、お帰りなさいませご主人様!」

 

 

新手のスタンド攻撃でもされてるのか?と思ったけどそういうわけではないらしい。

 

 

「違う!手はこう!足はこう!もっと前屈みに、色々強調して!エロいことがお前の唯一の取り柄だろうが!さん、はい!」

 

 

「お帰りなさいませご主人様!いたぶられるのは好きですが、あまり調子に乗りますと、私のもう一つの取り柄の握力が…!」

 

 

「ああああ、割れる、頭が割れる!なんか出る!ごめんなさい!!」

 

 

やけに丈の短いメイド服を着たダクネスさんと、こめかみにアイアンクローを食らって悲鳴をあげるカズマさんと目があった僕は、扉をそっと閉めた。

 

と、すぐに扉を開けてダクネスさんが飛び出してきた。

扉がしまる直前、カズマさんが白目向いて泡吹いて床に崩れ落ちたのが見えた。

…なーむー。

 

 

「待ってくれ!」

 

 

「おかまいなく」

 

 

「これは別におかしくなっちゃってたわけではなくて…!」

 

 

「え、犯しちゃってた?」

 

 

「違う!」

 

 

話を聞いてみたところ、王女様との食事会の前にやらかさない約束のために、ダクネスさんがメイドとしてご奉仕させられていたらしい。

これが本意ではないというわりに満更でもないダクネスさんはいつも通りすぎて安心感すら覚える。

 

 

「こんなバカなことしてるってことはアクア様いないんですか?」

 

 

「なんだ、アクアに用だったのか?」

 

 

「はい。あの人に宴会芸に使うからって、初心者殺しの捕獲頼まれたんですけど、手加減がめんどくさいんでぶっ殺してから蘇生してもらおうかなと」

 

 

誤解が解けてほっとしたのか、落ち着いた様子のダクネスさんは、僕の発言で再び取り乱し始めた。

 

 

「待て、今なんていった?」

 

 

「殺したモンスターを蘇生してもらおうかなって」

 

 

「じょ、冗談だろう?まさか王女様との謁見で使うつもりか!?そんなことしたら、とんでもないことに…!」

 

 

「でぇじょうぶだ。首が飛んでもアクア様がいますよ」

 

 

七つ揃えなくても生き返らせてくれるなんてさすがアクア様だ。

伝説のドラゴンボールより便利。

 

 

「私には何が大丈夫なのか全然わからない!」

 

 

「いやぁ、芸のために命かけるなんてなかなかロックですよね」

 

 

命は投げ捨てるもの。

安いもんだ、首の一つくらい。

 

 

「頼むからやめてくれ!いや、やめてくださいお願いします!」

 

 

ダクネスさんが泣きそうになったタイミングで、アクア様が帰ってきた。

 

 

「ただまー!あれ、ヴァンじゃない。初心者殺し捕まえてくれた?」

 

 

「…お前たちそこに直れ!今から二人とも説教だ!」

 

 

「「えー、ぶーぶー」」

 

 

「声を揃えるな口を尖らせるな同調するな!お前たちのその無駄な仲の良さはなんなんだ!」

 

 

さーせん。

 

 

 

 

 

 

 

『ごめん王女様との食事会には行けません。

今、エルロードにいます。

 

この国で遊ぶ金を、僕は作っています。

本当は、王女様と会いたいような気がしないでもないような気もするけれど、でも……

今はもう少しだけ、知らないふりをします。

僕の作るこのお金で、きっといつか、おっぱいの大きい美女を侍らせるから…。』

 

 

という手紙をダクネスさんに手渡したら、勝手に中身を読まれて拘束されて当日を迎えてしまった。

しかもメイド服で。

 

まただよ(笑)

なんだぁ?この僕へのメイド強要ブームは。

 

とはいえこうなってしまっては仕方ない。

別に王女様が嫌いとかではなく、シンプルにでかいカジノで遊びたかっただけだし、やるからには全力でもてなそう。

 

そう決めて僕は食事会に挑んだわけだけど。

 

 

 

「「「王様ゲーム!!」」」

 

 

「「「「イエーイ!」」」」

 

 

「王様の命令はー?」

 

 

「「「絶対!」」」

 

 

こいつら仲いいな。

クレアさんもレインさんも酔いつぶれているし、まともに止めれそうなダクネスさんは頭を抱えているだけで、役に立ちそうにない。

逃げようとした罰として酒を飲ましてもらえてない僕は、もはやテンションについていけなくなってきている。

 

 

「あはははは!あはははは!ねえカズマ見なさいな!なんだかんだ根は真面目なダクネスの呆きれた顔を!」

 

 

「ぶはははは!たまには俺の苦労も思い知れってんだ!つーかヴァン!メイド服似合いすぎだろ!明日はそれでギルドに来ようぜ!」

 

 

うわ飛び火してきた。

 

 

「やだよ」

 

 

「あひゃひゃひゃ!冷てー!王都じゃ炎の勇者なんて呼ばれてるくせにー!」

 

 

「こうしましょう!三番は明日メイド服で私と冒険すること!」

 

 

手元を見た僕のくじにある番号は三番だ。

頭痛くなってきた…。

王女様も酒を飲んでない筈なのに、場の空気に酔ったのか、酔っぱらい二人に負けず劣らずハイテンションだ。

 

 

「おっと、俺の妹は賢いな!」

 

 

「ちょっとカズマ!なんで王女様を妹呼ばわりしてるんですか!」

 

 

「なんだよ嫉妬か?うけるー!」

 

 

「違いますよ!なにが面白いのですかこの酔っぱらい男は!それだけ酔ってるならもういい加減お酒を飲むのをやめた方がいいですよ!…あっ、なんですかこの手は、ほらっととそれをあああああ!私の魔力!」

 

 

「あはははは!あはははは!うけるー!」

 

 

「ああもうめちゃくちゃだよ!」

 

 

お酒は飲んでも呑まれるな。

至言ですね。

 

僕はもう寝ます。

 

 

 

 

 

 

 

そして次の日。

 

 

「それでは冒険者の皆さん!一緒に頑張りましょう!」

 

 

 

「「「うおおおおお!」」」

 

 

女戦士が、男の弓兵が、ムキムキのタンクのおじさんが。

アクセルでよく見る冒険者たちが、王女様の一言に答えるように雄叫びをあげる。

 

 

「ああ…なんてことだ。アイリス様に万一のことがあれば…。もう助からないぞ…」

 

 

「諦めないでくださいクレア様!ヴァン様もおっしゃってましたがアクアさんのお力があれば蘇生が可能です」

 

 

「やっぱりダメじゃないか!」

 

 

「そもそもクレア様がアイリス様のおねだりに負けたのが原因なんですよ!」

 

 

「くっ…不覚…!」

 

 

と頭を抱えている二人や。

 

 

「カズマカズマ。これもしものことがあったらあんた首ちょんぱになるんじゃない?」

 

 

「おい恐ろしいこと言うなよ!」

 

 

「いやでもカズマがアイリスに入れ知恵したのは明白ですし」

 

 

「俺はちょっとおねだりの仕方教えただけだろ!」

 

 

いつも通り賑やかで緊張感のないパーティもいる。

 

───なにがどうしてこうなったのか。

それは朝から王女様が、アクセル近くの湖に住み着いたクローンズヒュドラを討伐すると言い出したことがきっかけだ。

 

クローンズヒュドラは10年周期で目覚めてはその度にその体内に溜め込んだ魔力が尽きるまで暴れて再び眠りつくという生態をしている。

ついでに倒すとヒュドラが住み着いていた土地は肥沃な大地となるため、とても高い賞金がかけられている。

 

本来ならあと半年ほどは眠りについているはずなのだけど、通りすがりのアクシズ教徒たちがピクニックついでに湖の一部を浄化したことが原因で目覚めたらしい。

仕方ないね。

 

そのため王都の方で討伐隊を組むという話だったのだが、どうやらお転婆な王女様は『街の人が困っているなら見過ごせません!』という建前と、『私も冒険してみたい!』という願望を解消するべく、アクセルに食事会に来る前から準備していたらしい。

 

 

『アイリス様?クローンズヒュドラは今まで討伐に成功した例はありません!それくらい危険なモンスターなんです!確かにアイリス様の実力があれば可能性はありますがあえて危険な行為を行う必要はありませんよね!?』

 

 

『クレア。私はベルセルグの王女として父上や兄上に恥じない姿を民に魅せる必要があるのです、守られてばかりの姫などまっぴらごめんです』

 

 

『ですが…』

 

 

『3人は私のお願いはきいてくれないのですか?』

 

 

『ああなんてことを!クレア様の意識が!』

 

 

『アイリス様!どこでそんな手を握って上目遣いなどというあざとい技、を……カズマぁ!』

 

 

そして今朝方止めようとする武闘派貴族令嬢三人を王女様は強引に説き伏せ、ギルドに顔を出し、そこでだらだらしていた駆け出しの街の冒険者たちを引き連れて、ヒュドラの住む沼までやって来ていた。

 

 

そんなわけで全員が本気の武装をして王女様にいいところを見せようとしているなか、僕はまだメイド服だ。

 

どうやら昨日の王様ゲームの命令は有効なようで、いつものチェインメイルでギルドに来ていた僕は王女様の笑顔と共に下された無慈悲な命令によりメイド服に逆戻りだ。

 

だんだんこの衣装に違和感を覚えなくなってきた自分が怖いな…。

 

 

「さぁ、いきます!」

 

 

え、クローンズヒュドラがどうなったかって?

 

爆裂魔法と王女様の聖剣があって苦戦するわけがないんだよなぁ…。

 

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き誠に有難うございます。
シリアスを書いた後だと反動でどうでもいいしょうもない会話が無限に増えて困る…。
そして、6月が鬼のように忙しいので更新の間隔がさらに開くかもです。すいません。
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