このハザ   作:ひつまぶし太郎

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見返すとあまりにも長すぎたので、元々十七話だった120点の女を分割しました。
新十七話となった方には分割された以外大きな変化はありませんが、こっちは一応前半に戦闘描写らしきものを追加しました。
物語の展開に違いはありません。

完全な最新話は土曜日に投稿します。



第十八話。120点の女

 

 

相手の吸収というスキルが発動するよりも早く、敵の攻撃とほぼ同時に武器をあてがい、押し返す。

防御ではなく弾き。

 

伝え聞いたことがあるだけのぶっつけ本番で形になっているのは、僕の経験が無駄じゃなかったからだろう。

 

 

───刹那の見切りはパリィも同じだ。

 

自分の武器を盾と見なして、ただ受け流すのではなく相手の姿勢を崩すように打ち返す。

 

パリィできる褪せ人はかっこいい。

それが雑魚どころか、ボス敵レベルの攻撃であれば尚更だ。

かっこいいということは超モテるという意味のわからない論法をパッチの兄貴に吹き込まれた僕は、自己満足の世界で、ただひたすらにパリィをした。

 

骨の槍を、亜人のこん棒を、傭兵の斬馬刀を、騎士の大剣を。

遺灰たちに何度もぶったぎられ、彼ら彼女らに怯えられながらも手にしたパリィは、今こうして経験として生きている。

 

ありがとうみんな。

僕たちが積み上げてきたものは全部無駄じゃなかった。

これからも僕が立ち止まらないかぎり道は続いていく。

 

 

「ははは!ヤバイ、一周回って楽しくなってきた!」

 

 

「あらそう?私としては、早く終わってほしいわ!」

 

 

休む暇なく繰り出される大蛇のような尻尾の叩きつけ、凪ぎ払い、腕による引っ掻き、両手を使った掴み攻撃。

 

さっきまで走っていたギリギリのスタミナでそれらを弾き続けた僕は、当然の流れとして相手よりも先に動けなくなった。

 

 

───スタミナ切れは、例え不死であろうと関係なく訪れる。

 

 

動きが止まったその一瞬を逃がしてもらえるはずもなく、僕はシルビアに掴まれ、

 

 

「ああくそ…ついてねー。どうせ食べられるなら、もっと清楚な感じが良かったぜ」

 

 

「失礼ね。私も大概美人でしょうに」

 

 

「そうだな。髪は青く、肌も青く、体は人形がいいな」

 

 

「あらやだ特殊性癖?とりあえず、貴方を生かしておく理由はないわ。さようなら」

 

 

僕の体が徐々に取り込まれ始めたのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

シルビアは目の前の少女のような少年を吸収しながら、魔王の言葉を思い出していた。

 

 

『よいか?この顔だ。こいつを見たらとりあえず最優先で殺せ。準備の整っていない不意の遭遇なら逃げろ』

 

 

『逃げるのも選択肢にはいるのね』

 

 

『ああ。こいつは危険だ。あるいは今代の勇者なのかもしれんが、城の予言者共があいつの過去を見て全員正気を失った』

 

 

『なるほど、まともじゃないのね』

 

 

『そうだな。しかも単独でかつ犠牲者なしで地獄の侯爵や黄金竜を倒しうる実力を持っている。セレスディナも破れた』

 

 

『まぁ、見かけたら殺しとくわ』

 

 

『油断するなよ』

 

 

『ええ。さて、話は終わった?じゃあ今日こそ私と合体しましょう』

 

 

『さ、話は終わりだ。我は部屋に帰って寝る』

 

 

(聞いてたわりには危なげはなかったわよね…。魔法無効の加護を無視する噂の炎の力も見なかったし。不意の遭遇だったから?)

 

 

「…ああ、あなた。回りに人がいると弱くなるタイプ?」

 

 

「根っからのボッチでね」

 

 

「…なるほど、火力が高すぎてってやつかしら。贅沢な悩みね」

 

 

吸収されているというのに、諦めた素振りの一切ない少年は不適に笑った。

 

 

「それはどうかな」

 

 

「そう。最後まで諦めないなんて、羨ましいことね」

 

 

「むしろ勝ったつもりなことに驚きだぜ。そろそろじゃないか?僕を取り込むってことがどういうことか、教えてやるよ───ッ!」

 

 

 

 

 

 

僕の腕が半ばほどまで埋まった辺りで、それは起こった。

 

 

「ぎゃあああああ!なによ、これ!熱い!熱い!熱い!熱い!熱いッ!!」

 

 

「これが光の力だ」

 

 

というのはもちろん嘘だが。

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛っ!た゛す゛け゛て゛ッ!」

 

 

「うんうん。わかるわかる。僕も最初の頃はそうだったなぁ」

 

 

僕を吸収するということは、僕と一体化するということであり、つまりは自ら巨人の釜になりにいくということだ。

つまり今彼女…彼?───なんだか色々混じって性別も種族もわからないが、ともかくシルビアが感じている痛みや熱さはいつも僕がいつも感じているものというわけで。

…なんだかそこまで苦しまれると、まるで僕が地獄のような苦しみに普段から苛まれているように見えるからやめて欲しい。

 

 

「がぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

「でも慣れてくると案外味のある心地よさになってくるぜ。早くこの高みに登ってこいよ」

 

 

なんだかメリナ姉さんにいじめられているように錯覚して、セルフで気持ちよくなれるくらいまで僕は高さを得ている。

ラニ様にはドン引かれたけど。

 

失礼だな。

純愛だよ。

 

 

やがて、炎が流れ込み、吸収できるキャパを圧迫し始めたのか、まず始めに魔術師殺しが、続いて誰とも知らない干からびた死体が次々とこぼれ落ちていく。

 

 

「おお、これは予想外」

 

 

元々逃走中にカズマさんに伝えていた作戦は、僕が吸収されることで、内側からシルビアを倒すというものだったが、これまで吸収して来た人たちがご遺体となってしまってはいるが、外に出してあげれているのは望外の結果と言えるだろう。

 

ちなみになんで炎を使わなかったかと言えば、別に物理で行けそうだなと思ったのと、それこそ魔術師殺しの装甲を突破するのにどれ程の火力が必要か判断できなかったからだ。

 

適当に出した炎で焼けるならそれでいいが、そうでなかった場合にそれはただの隙となる。

なら、最初から消し炭にする勢いで出せばいいと思うかもしれないが、そうするとカズマさんを巻き込みかねない。

 

そんなわけで、自爆である。

爆発はしないが、これもまたひとつの自爆戦術と言えるだろう。

トロイの木馬的な。

 

 

「ぁ───」

 

 

こうして、僕の熱くて猛々しいものを受け止めきれなかったシルビアは、やがて数十ものご遺体を吐き出し、最期は自身がか細い焼死体となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「危なかった…超危なかったマジで…」

 

 

あわや人類と魔王軍との戦争における大戦犯になりかけた、という過去一冷や汗をかいた危機を乗り越え、僕はシルビアの死体の横で崩れ落ちていた。

 

全力疾走からの連続弾きは、スタミナがギリギリ過ぎた。

ギリギリというか、もはや気合いで動いてたせいでむしろマイナスに突入してるレベルだ。

実際そのせいで、作戦の一環とはいえ取り込まれかけたわけだし。

 

そんなわけで。

危険な領域に突入したスタミナを回復させたくて休んでいる僕と違い、カズマさんは今里の人たちを呼びに行ってくれている。

 

 

「ピンチじゃない時のカズマさんは二度と信用しねぇ…」

 

 

と、そんなことをぼやいていた僕の前に何か黒いモヤのようなものが現れた。

そして、そのモヤから不気味な男性の声がする。

 

 

「───また幹部を倒したか。やはり脅威だ。だが、ここで排除するには時間がかかりすぎるな、その不死性は」

 

 

嫌な予感がするなぁ。

ボスの連戦は勘弁して欲しいんだけど。

 

 

「誰だよ」

 

 

警戒して、僕は立ち上がる。

て、あ、やば…。

 

 

「ふ、幹部を倒したお前にならいいだろう。私の名前は「オロロロロロロ」うわきったねえ!」

 

 

「う、うっぷ…ごめん…スタミナ使い果たしたあとに急に立ったから…おぇ…」

 

 

吐いて少しスッキリした僕は、声の主がいるであろう方向へと顔を向ける。

果たして、大胆にも紅魔の里へと一人で現れた相手とは───?

 

 

「いや誰だよわかんねーよ」

 

 

「貴様のせいだろうが!」

 

 

ゲロまみれで顔がわからなかった。

顔にモザイク処理がかかるレベルで汚くて、とてもじゃないが直視できない。

だが少なくとも敵ではあるのだろう。

僕のこと殺すとか言ってたし。

 

今は動けないが、とりあえず精神攻撃だけでもしておこう。

 

 

「こいつは臭え!ゲロみたいな臭いがプンプンするぜ!」

 

 

「こいつほんとムカつくな」

 

 

名付けるなら悪臭の主とかだろうか。

最悪の敵だ。

ミミズ頭でももう少し可愛げがあったのに。

 

 

「おい見ろ!ヴァン君が襲われている!」

 

 

「なんだあの顔面ゲロ怪人は!?」

 

 

「きっと魔王軍の新たな刺客よ!」

 

 

「疲れてるところを襲うとか二つの意味できたねぇ!」

 

 

どうやらカズマさんが呼んでくれた援軍が駆けつけてくれたらしい。

 

 

「チッ…潮時か」

 

 

男は、舌打ちをするとシルビアの死体を担ぎ上げる。

 

 

「仲間の死体を持ち帰るなんて、仲間思いなんだな?」

 

 

「…仲間思い?ははは!そうだな?我々は皆、魔王様のために生きている集団だからな」

 

 

何が面白いのか知らないが、どうやら男はシルビアの死体を持って帰ることが目的らしい。

その死体の使い道は、どうやら供養とかそんないいものではなさそうだけど。

 

…死ぬ前に魔術師殺しと分離されて本当に良かったな。

死体を何に使うか知らないが、魔術師殺しまで魔王軍に回収されてたらとおもうとゾッとする。

 

シルビアの死体も正直回収されたくはないが、逆に死体だけで帰ってくれるなら今の僕としてはありがたい。

 

 

「それではさらばだ、今代の勇者よ!次に会うときは、殺し合おう!」

 

 

「ああ、じゃあな。僕は勇者じゃないけど」

 

 

そういって、ゲロまみれの男はモヤの向こうに消えた。

…その場に酸っぱい臭いを残して。

新たに現れた謎の敵のはずなのに、なんでこうもしまらないのか。

 

はい。

僕のせいですね。

反省してます。

 

 

 

 

 

 

いろいろあった紅魔の里への滞在は今日が最後だ。

ただ、アクセルの町に帰る前に、アルカンレティアに寄ろうという話になった。

アクア様が駄々をこねたからだ。

 

 

「こめっこちゃんプリン美味しい?」

 

 

「美味しい!」

 

 

「何点くらい?」

 

 

「うーん、120点」

 

 

ぶふ、と隣でカズマさんとめぐみんが吹き出した。

 

 

「さすがねヴァン!水の女神である私が120個の星をあげる!」

 

 

「んふ…ふふ。そうだな。私も120点をつけたいところだな」

 

 

120。

その言葉に反応する二人を見て、その場にいる全員がカズめぐをニヤニヤと眺めていた。

 

その目線に気付いた二人が、何かを察したように顔を見合わせた。

 

 

「お、どうした120点の女」

 

 

「なんであなたがそれを知っているんですか!カズマですか?カズマがばらしたんですか!?」

 

 

「してない!さすがにしてない!」

 

 

まぁカズマさんなら自慢話として酒場で普通にぽろっと溢しそうではあるが、今回は違う。

 

 

「なんでって。なんかゆんゆんがめぐみんがネタ魔道士って呼ばれてるのどうにかしてほしいって頼まれたから」

 

 

「めぐみんの様子を見てみようと話になってな?」

 

 

「ただならぬ雰囲気でどこかへ行く二人をこっそり追いかけてみたのでした!」

 

 

上から順に、僕、ダクネスさん、アクア様の順で訳を話すと、めぐみんはきっ!とゆんゆんの方を睨み付ける。

 

 

「みたのでした、じゃねーよ!見てたのか!?」

 

 

そう。

めぐみんが爆裂魔法しか使えない魔法使いだというのが、里の人たちにばれてしまった。

 

どうやら僕とカズマさんがシルビアとやりあっていた時、里への大規模な侵攻があったらしい。

そして、その大群を前に爆裂欲を我慢できなかっためぐみんが暴発。

晴れて里一番の天才からネタ魔道士と呼ばれるようになっためぐみんのことを気にして、どうにかならないかとゆんゆんが相談してきたのだ。

 

そして、めぐみんのストーカーと化していた僕たち四人は、そこで感動的な話を目撃することになる。

 

 

『───カズマ。カズマは優秀な魔法使いが欲しいですか?』

 

 

『欲しいか欲しくないかで言えば、そりゃ欲しいさ』

 

 

『そうですか。……うん、私も覚悟ができました。私は今から上級魔法を覚えようかと思います』

 

 

めぐみんは、カズマさんやダクネスさん、アクア様と出会って自分の一番が一つではなくなったらしい。

だから、お荷物ではなく皆を助けられるような魔道士になりたくて、大好きな爆裂魔法を封印するという決断を下したのだとか。

 

 

わかってないなー。

そんなことを望んでる人なんて、めぐみんのパーティーにはいないだろうに。

現に話を聞いたダクネスさんは、今すぐにでも止めようとめぐみんの方に駆け出そうとしたが、僕とアクア様に羽交い締めにされてるくらいなのだ。

 

 

『すいませんカズマ。自分じゃ押せないので、上級魔法スキル取得のボタンを押してくれませんか…?』

 

 

そして、そんなものカズマさんだってわかっていて。

めぐみんから冒険者カードを渡されたカズマさんは、カードを操作するとめぐみんに突き返す。

 

 

『なぁめぐみん、帰る前に一発爆裂魔法撃ってくれよ!俺はまだ、百点と言える爆裂魔法を見てないぞ。お前はそれでいいのか?』

 

 

『……ふふ。良いでしょう。私の最後の爆裂魔法。それはもう凄いのをお見せしようではありませんか!』

 

 

そう言って放たれためぐみんの爆裂魔法は、間違いなく過去最大最高のものだった。

めぐみんは困ったような、それでいて嬉しそうな顔をすると。

 

 

『我が名はめぐみん!アークウィザードにして、爆裂魔法を操る者!アクセル随一の魔法の使い手にして、いつか爆裂魔法を極める者!!……今のは何点でしたか?』

 

 

『120点』

 

 

───カズマさんはキメ顔でそう言った。

 

 

 

「いやぁ僕は感動したね。普段文句ばっかいってるカズマさんも、パーティーのこと大好きなんだなぁとか、めぐみんのいじらしさとか」

 

 

「ああ。私も不覚にも泣いてしまった。だがめぐみん、忘れないでくれ。私たちは仲間だ。でこぼこで、全うじゃないかもしれないが、補い合うのがパーティーだろう?私たちのために、好きなことを諦める必要なんてない!私だって、ドMをやめるつもりがないんだからな」

 

 

「そうよめぐみん!リッチーのスキルなのが癪だけど、私の魔力をドレインタッチで分けてあげたっていいんだからね!それに私としてはカズマさんに大金が入ってくるし!面白おかしく冒険が出来たらそれでいいんだから。我慢する必要なんてないのよ。アクシズ教はすべてを許します」

 

 

そうやってめぐみんに笑いかけるパーティーに、カズマさんもめぐみんも顔を真っ赤にしてうずくまっている。

 

 

「うう…めぐみん、いい仲間に出会えたんだな…」

 

 

「あらあらあなた…いい年した大人が泣くなんて、みっともないですよ」

 

 

「母さんも泣いてるじゃないか」

 

 

だが、自分の両親や妹までが知っていることに気付いためぐみんが、はっと顔をあげる。

 

 

「ヴァン、一つ聞きます。まさか他の人にも話してはいませんよね?」

 

 

「めぐみん。僕を見くびるなよ」

 

 

僕はめぐみんを安心させるために、自分ができる極上の笑顔を浮かべる。

 

 

「で 、ですよね…さすがにカズマのような鬼畜さはないですよね」

 

 

「紅魔の里だけじゃなくて、バニルとゼスタのおっさんにも伝えておいた」

 

 

「な、なんてことしてくれてるんですかああああ!」

 

 

 

その日。

めぐみんのあだ名として『120点の女』という言葉が、めぐみんの知り合いのなかでぷち流行することになる。

 

もちろんネタ魔道士なんて呼ぶやからはもういない。

ゆんゆんの依頼は、完璧に達成されたのだった。

 

 

いい話だなぁ。

 

 




今回も最後まで読んで頂き誠に有難うございます。
分割しても十七話が3500、十八話が6000字なあたり、しっかり文量を見ながら書かないといけないですね。
反省しています。
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