このハザ   作:ひつまぶし太郎

27 / 37
読んでくださっている皆さんのお陰で、この小説の総合評価が200を越え、お気に入り登録してくださっている方が108人、評価してくださった方が10人へと到達しました。
これはすごいことです(語彙力)
本当にありがとうございます。
正直誰にも見られずに埋もれていくんだろうなって思ってました。
嬉しいです。

これからも、皆さんの暇潰しとして機能するように頑張ります。

※番外編を投稿したのでここは最新話ではありません。


第十九話。逆襲のハンス。怒りのアクシズ落とし

 

 

どうも。

魔法が効かなくても自爆攻撃が効く相手ならめっぽう強い僕だ。

やはり自爆…自爆はすべてを解決する…。

 

うっかりミスではなく、不幸な事故で、第二形態スタートとなってしまった時は焦ったけど、結果として魔王軍幹部を撃破できたのはありがたい。

 

 

「順調だ…」

 

 

残る幹部は魔王の娘とウィズさん、それとまだ判明していない二人だけ。

そして、八人いる幹部のうち二、三人まで減らしてしまえばアクア様が結界を破ることができるようになり、魔王城へカチコミに行けるので、僕の目的のために倒さなくてはいけない幹部は残り一人か二人だ。

理想を言うのなら二人か。

 

この四人のうちに、ウィズさんはさすがに討伐するのは気が引けるので、三人のうちの誰かを倒すことになるだろう。

…出来ることなら、ウィズさん以外の幹部も討伐しておきたいが。

 

 

「くく…はははは!さぁ、早く来い。僕が討伐してやるよ…!あーはっは「ちょっと!朝からうるさいですよ!!」」

 

 

なんだよもう。

せっかく人が調子のって足下掬われる脇役ごっこしてたのに。

 

 

「そっちこそうるさいぞ、120点の女」

 

 

「貴方のせいでそのあだ名が定着したのまだ許してませんからね」

 

 

ネタ魔道士とか頭のおかしい爆裂娘とかよりましだろ。

 

 

「それに一週間僕がスイーツと朝昼晩の三食作ることで手をうったのめぐみんだろ」

 

 

「く…それは、そうなんですが…」

 

 

「ちなみにゆんゆんには雷鳴が轟く者ってあだ名があるよ。僕が考えた訳じゃないけど」

 

 

そう、他人の心配をしていたゆんゆんだったが、里を守るために奮闘した結果として、彼女にとってはかなり恥ずかしいあだ名がついてしまった。

それが『雷鳴が轟く者』。

 

彼女が敵に向かって名乗りをあげたタイミングで、背後に雷が落ちたせいで、とてもかっこいい(笑)絵面になった結果だ。

 

彼女はどこまでいっても紅魔の血からは逃れられないのだ。

 

 

 

 

 

 

紅魔の里から、アルカンレティアへ。

行きはオークに襲われたりしたが、そんな危ない道をもう一度通る必要はない。

 

そう、テレポートならね。

 

 

「やってきたわに!水の都アルカンレティアへ、ようこそ!」

 

 

というわけで。

魔王軍の侵攻によって破壊された里の復興も瞬く間に終わり、魔術師殺しの処分を命じられた以外は問題なく、僕らは紅魔の里を送り出された。

 

 

『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!と゛お゛し゛て゛た゛よ゛お゛お゛お゛お゛!』

 

 

『何度も説明しただろう?これは危ないものなんだ』

 

 

『異議あり!紅魔の里には以前まで邪神が封印されてたり、グリフォンが石化されてたり、危ないものはたくさんあります!』

 

 

『そうだね。ぶっちゃけ実害が出たからだよね』

 

 

僕の恥も外聞も捨て去った渾身の駄々も無視され、敵に再利用されることがないようなんの変哲もないただの鉄屑にまで魔術師殺しが解体され、僕は泣いた。

 

 

「はぁ…僕の1億円が」

 

 

「1億円?」

 

 

「なんでもないです」

 

 

僕のぼやきを聞き咎めたダクネスさんに対してすっとぼけるも、じとっとした視線が突き刺さる。

 

 

「本当に?」

 

 

「やだなぁ…本当ですよぉ」

 

 

「おい、だったらなぜ目を合わせない?怒らないから言ってみろ」

 

 

はい出たー。

この常套句。

怒らないから、なんて言うやつに限って怒るのほんとなんなんだろうな。

そんな嘘に僕が騙されるわけないだろ。

 

 

『怒らないから言ってみろ。私の下着を盗んだのはお前だな?』

 

 

『ラニ様って結構ドスケベなのはいてるんですね』

 

 

『反省の色なし、と。罰としてお前の極部を冷凍する』

 

 

『照れ隠しにしては凶悪すぎますよ?』

 

 

『…ふん!』

 

 

『……!……!?落ちた!僕の息子が落ちた!いやなにこれすげえ!?僕の息子の彫像だぁ!あははは!助けてボック!痛みはないのに喪失感が!』

 

 

…正直者はバカを見るんだ。

 

 

「実は「もしこれ以上誤魔化すようなら、当家の力のすべてを使ってお前の功績を称えるパレードを開催しよう」」

 

 

やっぱ嘘つきってくそだわ。

だってほら、正直者ならあれじゃん。

なんかこう…いいこともあるし。

少なくとも、自分の功績を称えるとかいう糞みたいな公開処刑は避けられる。

 

 

「…実は、村長から買った魔術師殺しを1億円くらいふっかけて、王様かダクネスさん家に売ろうかなって…考えてました」

 

 

「なんて恐ろしいことを考えるんだ!?常識があるはずなのにお前はどうして時々暴走する!?」

 

 

「怒らないって言ったのに怒った!更年期ですかぁ!?ぷぷ、ババネスさんは大変でちゅねー!」

 

 

僕の逆ギレにダクネスさんの顔が鬼のような形相に変わる。

 

 

「歯を喰いしばれ! その口調!ろくでもない大人にならないように修正してやる!」

 

 

「おい、お前ら言い争うのもほどほどにしとけよ?変な噛み方するくらいはしゃいでたアクアのやつはもう先に行っちゃったぞ」

 

 

「あ、こら逃げるな!」

 

 

拳をボキボキならし始めたダクネスさんに恐れをなした僕は、彼女がカズマさんに気をとられたその一瞬の隙をついて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。

一人の男が、美女が身を休める温泉の縁に座り込んで頭を抱えていた。

 

 

「はぁ、石鹸石鹸石鹸石鹸。頭がおかしくなりそうだ」

 

 

彼はハンス。

魔王軍の幹部の一人であり、種族はデッドリーポイズンスライムの変異種。

人に化け、致死毒から病を装ってじわじわと死に至らしめる毒まで、数多の都合のいい毒を産み出せる幹部だった。

 

彼は正面戦闘においても弱くはないが、何よりも破壊工作に秀でていた。

なにかを食べ、飲まなくては生きていけない人間にとって、ハンスはあまりにも天敵過ぎる。

 

もちろん、街単位に毒を浸透させるにはそれなりの準備と時間が必要になってしまうが、以前唐突に王都が崩壊したときに王女に仕掛けたような、個人への暗殺もお手の物だ。

 

食べて体に入れてからでも毒を燃やせるので余裕でしたとか言う意味のわからない体質のバカに邪魔されて、王女暗殺は失敗したが。

 

 

「だが、この忌々しい教団は違う。秘湯だけじゃない、通常の温泉すらも俺の毒で侵していけているし、順調だ」

 

 

そんな彼は今、魔王軍だけじゃない、ある意味人類にとっても目の上のたんこぶな厄介さん。

アクシズ教徒の総本山であるアルカンレティアの破壊工作に駆り出されていた。

 

 

『つまり、作戦はこうだ。

毒のスペシャリストであるウルトラマンが、普通の人間を装って入浴する。』

 

『入浴したら怪しまれないように自分の体から毒液を放出し、汚染』

 

『これを繰り返すことで観光資源である温泉を破壊し、アクシズ教団の資金源を断つ』

 

『これならリスクを冒さずにアクシズ教を排除できるということだ』

 

 

ハンスは己の作戦の完璧ぶりを説明するに当たって、かなり熱が入っていた。

彼自身、この破壊工作のためにこの街に足を踏み入れ、アクシズ教徒たちからの勧誘にうんざりしているからだろう。

 

 

「ハンス。そんなことを一々私に報告しなくていいのよ?何度も言っているけど、私を巻き込まないで」

 

 

「ただ湯治にきているから、か?正攻法じゃどうにかできないこの教団の破壊工作に駆り出されている仲間につれないな、ウォルバク」

 

 

話しかけられた美女、ウォルバクが気だるげに答えるもハンスはどこ吹く風だ。

ちなみにウォルバクは、ハンスが側にいても特に気にするそぶりはない。

これはハンスがが人型に欲情するタイプでない人外だからであり、これがわざと浴場に首を忘れるタイプの人外の場合なら足を踏み入れた瞬間に消し飛ばしている。

どこぞのデュラハンとか。

 

───と、そんないかにもな悪巧みをしていたところ、この温泉の入り口である引き戸が開けられた。

 

 

「うわカズマさんなんでそんな石鹸大事そうに抱えてんの」

 

 

「いや、これはあれだよ。なんかアクシズ教徒に是非使ってくれって」

 

 

「…食べれる上にアクシズ教のシスターのみが使える浴場の残り湯を使ってるってやつ?」

 

 

「ああ。残り湯をどうやって石鹸に使うのかわからないけど」

 

 

ハンスにもその石鹸は覚えがあった。

何故なら、勧誘の度に押し付けられていたからだ。

 

 

「…もしかして、舐めちゃった?」

 

 

「え、なに」

 

 

「それさ…普通に男湯の水が使われてるんだよね」

 

 

「は?」

 

 

片方の男がなにかに絶望したように崩れ落ちたが、ハンスにはもっと気になることがあった。

隣で湯に身を沈めているウォルバクもまた、気付いたのか顔を青ざめさせている。

 

 

(バカな…特級警戒戦力がなぜここにいる…?まずい、聞かれたか…?)

 

 

特級警戒戦力。

魔王がそう呼称するバカが、なにも知らないでこちらに近づいてきた。

呑気な顔だが、どこか疲れが見える。

彼は普通に泊まっている宿が同じなことを忘れて帰還し、流れるようにダクネスに捕まり、泣くまでくすぐり倒された。

 

ついでに息も絶え絶えになり、どこか艶のある声となったその少年を前にめぐみんは目を爛々と赤らめ、カズマは少しだけ前のめりになったが、それは完全に余談だろう。

 

 

「おっさん、なんでお湯に浸かりもせずに立ってんの?」

 

 

「あ、ああそれはな…」

 

 

「か、彼はこれからサウナに行くところなのよ。あなたもどう?」

 

 

(う、売りやがったこのアマぁ!おいこら、目をそらすな!)

 

 

(悪いわねハンス。私だって裸で年端もいかない男の子と戦いたくはないのよ)

 

 

そんな事情を知らない魔王軍二人は、互いに自分だけは生き残るために、必死で頭を働かせていた。

 

 

「へー、サウナあるんだ。じゃあ僕もいこ」

 

 

そして、目先の好奇心に勝てないバカがそれにつられ、うまい言い訳が思い付かないハンスはいよいよもって追い詰められていた。

ウォルバクはハンスを生け贄に捧げ、順調に自分が逃亡する算段を立てている。

 

 

(待て、落ち着け。相手はどうやら気付いていない。毒が効かない相性最悪の相手だが、ばれないうちに撤退しよう)

 

 

「へいへい、カズマさん。いつまで落ちこんでんだよ。もと男湯の残り湯とはいえ、そんなの石鹸作りに大して組み込まれてないってきっと。微々たるもんだよたぶん」

 

 

「くそ…やっぱアクシズ教ってろくでもねえ!」

 

 

それは同意する。

ハンスは心の中で激しく頷いた。

 

 

 

 

 

 

部屋の中はとてつもない熱気に包まれていた。

 

 

(サウナ。それは至高の娯楽…熱気とそこから解き放たれたあとの水風呂のマリアージュ)

 

 

黙して堪能するのが礼儀だ、とサウナと言う文化を持ち込んだのがかつての勇者であることを知りながらドはまりしているハンスは思う。

 

 

「カズマさん、実はもう限界なんじゃない?」

 

 

「バカ言うなよ。むしろお子様のヴァンには早かったんじゃないか?」

 

 

「へー、まぁ僕もまだ熱くないけど」

 

 

(サウナと言う文化が一般化したのは喜ばしいことだが、同時にこういうバカが現れるのは、もはや流行の定めなのだろうか。嘆かわしいことだ)

 

 

「…あのさカズマさん、僕の属性炎なの忘れた…?」

 

 

「忘れた。誰も覚えてないだろそんな死に設定」

 

 

「………」

 

 

ヴァンがすくりと立ち上がり、扉の方へと近づいていく。

 

 

「お?なんだよ口ほどにもないな。諦めるのかぁ?」

 

 

「───なに言ってんだよカズマさん。僕は暑さが足りないと思ったから、ロウリュウしようとしただけだよ」

 

 

そう言ってヴァンは、サウナの熱源である積まれた熱石に向かって、桶に張った水を丸ごとぶっかけた。

 

 

「バッカ!お前ってやつは!ほんとにおバカさんなんだから!」

 

 

(バカな…桶ごとだと!?)

 

 

ロウリュウ。

それはサウナ発祥の地であると噂のニホンのサウナ入浴方法で、ストーブの上で暖められたサウナストーンに水をかけて蒸気を発生させることを指す。

なぜそんなことをするのか、なんの意味があるのか、それはこのサウナという文化を伝えた変わった名前の勇者が伝えなかったために、現在もまだ謎のままだ。

 

一説では蒸気を発生させることで、サウナ室内の湿度、体感温度が上がり発汗を促すという話もあるが、勇者が『え、なにそれ知らない』と言っていたので、やはり謎である。

わかっているのは、サウナという文化においてロウリュウとはその過酷さを高める効果があるということだけだ。

 

そして、ロウリュウは少しずつ桶の中から水を足していくのが一般的だ。

 

 

(暑い…暑すぎる…!)

 

 

それは奇しくも先日バカに倒された、彼と同じく魔王軍の幹部シルビアと同じ気持ちだった。

漢字は違うが。

 

実際のところ人間だと現状のサウナはそこまでひどくはないのだが、水分で体が構成された彼にとって外気温の影響がもろに出ていた。

 

 

───暑さは水分だけではない。

判断力すらも奪っていく。

 

 

「もう限界だ!お前ら、殺してやる!」

 

 

ハンスは、なぜ自分が息を潜めていたのかも忘れて立ち上がった。

 

 

「あ、ほら。カズマさんが騒ぐから怒られたじゃん」

 

 

「お前だよお前!」

 

 

「どっちもだ!この部屋を俺と言う毒で満たして殺してやるよ!」

 

 

本来なら屋敷ほどの大きさになれるハンスが、擬態を解いて襲いかかろうとして、自分の視線がむしろ低くなったことに気づく。

 

 

「なんか…小さくね?」

 

 

「くそ、サウナのせいか…?しかし、こんなことには今まで一度だってなったことはないぞ!」

 

 

(違う…!そうか、あの異常なロウリュウのせいか…!この倦怠感と弱体化…ロウリュウとは、魔を払う儀式だったのか…!)

 

 

思考力を奪われたハンスの頭は、死に瀕して異常な速度で回転していた。

明後日の方向に向かって。

 

 

(故に勇者は、口を噤んだ…。効率的にモンスターを根絶するために!)

 

 

(サウナがあれば我々モンスターは、それが例え草原のど真ん中に置かれた不自然なものだったとしても吸い込まれるように入室してしまう。これはもうリンゴが地面に落ちるよりも当たり前の話…!)

 

 

そんなことはもちろんない。

 

 

(やられた…なんという狡猾さ…!)

 

 

「つまり、これは…モンスターを倒すための…ダン…ジョン…」

 

 

「よくわかんないけどたぶん違うと思う」

 

 

「カズマさん、これってなんのモンスター?賞金でんのかな」

 

 

ちなみに正解はデトックス効果である。

彼は毒と水分で構成された肉体を持っており、繰り返しサウナへ通っていたことで存在を維持することごできる濃度の限界を迎えたのだ。

 

つまり、整ったのだ。

 

 

───最後に。

 

スライムでなくてもサウナは熱中症の危険性をはらんでいるため、サウナを利用する際は事前によく下調べして、自分にあった温度と時間で楽しもう、という注意喚起だけしておきます。

 

ふざけてロウリュウなんてもってのほか。

用法容量守って楽しくサウナ!

 

 




今回も最後まで読んで頂き誠に有難うございます。
ハンスファンの皆さん申し訳ありません。
ほんとはもっとカッコよく倒すつもりだったのですが、スライムおじさんがサウナに入ってる妄想を思いついてしまったのでこんな形になりました。
セレスディナに引き続きまともに戦わずに魔王軍の幹部を倒して良かったのだろうかという不安は多少あります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。