このハザ   作:ひつまぶし太郎

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お待たせしました。
最近毎度隔週更新で申し訳ありません。
もうすぐテスト期間が終わりますので、そこからは早めに最終回まで行けるとは思います。


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第二十話。石鹸ペロペロ事件

 

 

アルカンレティア。

アクシズ教の本拠地であり、しつこい勧誘が行われていることを差し引いても、その水の街の美しさは観光地として多くの人を魅了している。

 

だが、光ある場所には闇が存在しているのが世の常だ。

 

表裏一体。

美味しいラーメンを食べれば脂肪がつくのと同じように、人で賑わい、笑顔の絶えない表通りが在れば、その裏。

薄暗く埃っぽい路地裏もまたアルカンレティアには存在していた。

…端からアルカンレティアはアクシズ教徒のせいで観光地詐欺だろとは言ってはいけない。

あと例えが下手なのも突っ込んではいけない。

 

路地裏は普段表通りで酔いつぶれて寝ていた酔っぱらいが放り込まれていたり、アクシズ教徒が獲物を見定めたり、悪巧みをするのに利用していたりすることが多いところだが、今日に限っては誰も存在していなかった。

 

───そんな路地裏を、一人の男が時折曲がり角で体をぶつけながら駆け抜けていた。

 

 

(ま、まずい…!迂闊だった…!)

 

 

先日のとある旅館の混浴での一件は、一人の男を窮地にたたせるには十分なものだった。

自分が口を滑らしたことに気付いた男は、日が昇るよりも早くに宿を抜け出して、街を脱出するべく全力で走っていた。

 

仲間の末路が少し気がかりではあるが、仲間よりも自分だ。

むしろ敵が仲間にかかずらってくれるのなら、自分が逃げる時間が稼げるというもの。

 

 

(とにかく今は逃げないと…!)

 

 

路地裏を抜け、今まさに光ある大通りに出ようとしたまさにその瞬間。

 

 

「見つけたぞコラァ!」

 

 

暗闇から延びてきた腕に捕まれ、路地裏に再び引きずり込まれたのは誰か。

 

 

「あのおぞましい売り文句の石鹸お前が考えたらしいな!どうりで材料知ってるはずだよなぁ!?」

 

 

そう。

僕なのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

アクセル行きの馬車。

僕とカズマさんは御者の位置で並ぶようにして座っていた。

 

御者を自分達ですることで大きめの馬車でも格安で利用できるサービスのお陰で、行きと違って僕が一行に加わっても部屋には余裕はある。

だが、この馬車の馬が懐いてくれるのが僕だけで、カズマさんは女性100%の空間が照れ臭かったのか僕のとなりに無言で座り込んできた。

 

これだから童貞は。

…まぁ僕もだけど。

 

 

「はぁ…ひどい目に遭った」

 

 

「ひどい目に遭ったのは俺なんだが?」

 

 

一応、早朝の逃走劇について説明しておこう。

昨晩、翌日の朝一番に教会に怒鳴りこんで、例の石鹸についてカズマさんがゼスタのおっさんに問い詰めるつもりなのを知った僕は、自分が口を滑らしたことをひどく後悔した。

 

 

『それさ…普通に男湯使われてるんだよね』

 

 

助平心にまみれた童貞には夢を見せておけば良かったものを、つい仏心で現実を教えてしまったことが悔やまれる。

 

あーほんとやっちゃったなぁ…。

でもあのままほっといたらなんかカズマさんが舐める以上の暴挙に出そうだったからな…。

 

 

そんなわけで、ばれたら絶対お仕置きされると思ってカズマさんが起きるよりも早くに行動していたというのに、潜伏と敵感知、千里眼のコンボのせいで街を出る前に捕まってしまった。

 

…あれ卑怯すぎない?

凄腕の泥棒としてやってけるよカズマさんなら。

あんたがナンバーワンだ。

 

 

『あひぃ!おほぉ…!これは新感覚ですな…!』

 

 

捕まったあとに引きずられていったアクシズ教の教会では僕のことをゲロったらしいゼスタのおっさんが石抱きの系に処されていたときは目を疑ったが、アクア様に懺悔できて嬉しそうな顔をしていたからある意味ご褒美になっていたのだろう。

 

まぁ僕のことを売りやがったおっさんがどうなろうが、知ったことではない。

 

 

『ああ今日はなんていい日なんだ…!』

 

 

『ショタの裸足で踏んだお酒とかこれを飲んだら実質セ『やめないか!』』

 

 

それに僕はすくーる水着?とやらで、ひたすら太ももやらケツをアクシズ教徒どもに拝まれながらワイン用の葡萄を踏む作業に従事させられ、ひどく精神が消耗していたので構う元気もなかったのだ。

 

 

「でもそもそもカズマさんが助平なのが悪くない?」

 

 

「………」

 

 

「おいこっちを見ろよカズマさん。後ろにいる女性陣に暴露してもいいんだぞ」

 

 

「八つ当たりしてすいませんした」

 

 

「よし」

 

 

なお、僕のせいでアクシズ教の悪質さが少し上がったことは棚にあげておくものとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり我が家が一番だな!もう当分旅はいいよな!そもそも俺たちが遠出して平穏無事に終わるはずなかったんだから!」

 

 

久しぶりのアクセルの街、自分の屋敷に安心したのか、帰宅早々カズマさんが脱力するようにソファに倒れ込んだ。

 

 

「おいカズマ。先にシャワーを浴びてきていいか?帰りの馬車で少し汗をかいてしまってな…」

 

 

「あ、なら私も入ります」

 

 

それに続くようにダクネスさんとめぐみんが気だるげに、というか疲労困憊気味に屋敷の奥へと進んでいくのを僕とアクア様が見送る。

 

 

「あらあら…帰宅早々だらけるなんてみんなしてどうしちゃったの?カズマのダメ人間っぷりが移ったの?でも良いことよね!私も頑張らなくていいんだって安心するもの」

 

 

「あ」

 

 

その一言に反応して戻ってきたダクネスさんが、アクア様のほっぺを掴むと、こねくり回し始めた。

 

 

「アクアが馬車の個室の暖房を勝手につけて!あげくにスイッチを壊したからだろう!」

 

 

「ひた…!ひたたた!ひたいんれすけろ…!ほっぺを引っ張るのはやめてえ!」

 

 

そんな風に仲良くじゃれるアクア様に伝えようと思ったことを僕は飲み込んで、屋敷を後にした。

 

 

彼らの平穏な時間を邪魔する必要はないと思ったからだ。

…などと、かっこよく締めれたならよかったのだけど、今回は単に僕に疚しいことがあったからだ。

 

 

「まさかあのスイッチを押すとはなぁ…」

 

 

ダクネスさんがアクア様を責めていたが、実は馬車の暖房は出発前にすでに僕が壊していたのだ。

 

だから『押すな』ってスイッチにでかでかと書いてたのに。

しかも注意書きだけじゃない、スイッチが暖房のものであることも書いたはずなんだが。

 

 

「もうちょっと芸人根性を刺激しない書き方にしとけばよかったかな?」

 

 

後悔してももう遅い。

暖房が動いている間は暖気を逃がさないために密閉される仕組みだったせいで、馬車の中は軽いサウナのような状態になり、女性陣はぶっ倒れるほどではないにしても汗だくになったという事実は変わらない。

 

しかも立派な馬車を選びすぎて、荷台での密談を御者が聞いたりすることがないように、完全防音だったせいで僕とカズマさんは、アクセルの街につくまで気づかなかった。

 

なんなんだろう。

そうはならんやろ、と突っ込みを入れたいが実際になっているのでなにも言えない。

 

サウナで事故死した魔王軍幹部の呪いか?

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

最終確認か終わったとかで、サウナ幹部の討伐報酬がギルドから支給された。

なんの確認?と思われるかもしれないが、サウナでロウリュウしたら魔王軍幹部を討伐したなんて話誰だって疑うだろう。

僕だってそーする。

 

それにほら、忘れられてるかもしれないけど僕ってば嘘発見器が機能しないもんで…。

とはいえ今回は冒険者カードの討伐欄とか、現場に居合わせたカズマさんの証言とかで割りと速やかに事実確認は終わった。

事故死でもきっかけになれば討伐欄に浮かび上がるんだなあという感心はどうでもいいか。

 

 

「いよいよこの時がやって来たわ!」

 

 

その報酬をカズマさんと僕で山分けしていたところ、アクア様が話しかけてきた。

 

 

「…とりあえず山分けでよくない?僕ら居合わせただけだし」

 

 

「…まぁくれるって言うなら貰うけどさ」

 

 

……なんとなく面倒事の気配を感じた僕とカズマさんが互いに、相手をどう生け贄に捧げようか思考を挟んだその隙を逃さず、僕たちが向かい合うように座っていたテーブルの残りの席にアクア様が座ってしまった。

 

 

「ねえ聞いて!耳塞がないで!二人して真面目な顔しても似合わないわよ!」

 

 

「あうあうあう…揺らすのやめてくださいアクア様!さっき食べたばっかのご飯出ちゃいます」

 

 

「じゃあ話聞いてくれる?」

 

 

「……」

 

 

僕は今きっと苦虫を噛み締めたような顔をしているに違いない。

とりあえず、潜伏発動して逃げようとするカズマさんの手を掴む。

 

苦い顔から一転。

ニコリ、と笑う僕にカズマさんはひきつった笑みを浮かべる。

 

そんな僕らを気にすることなく、アクア様は満面の笑みで浮かべて話し始めた。

 

 

「二人とも、女神エリス祭って知ってるかしら」

 

 

女神エリス祭。

正確には、女神エリス感謝祭。

それは一年を無事に過ごせたことを喜び感謝し、幸運の女神エリスを称えるお祭りだ。

毎年この時期になると世界各地で執り行われていることからも、女神エリスの人気っぷりが伺える。

 

…恐らく今年はエルロードでも行われることだろう。

なにせ今エルロードで一番はやりの宗教なのだから。

 

 

「ちなみに女神エリスの仮装をこの日にすると次の年までご利益が続くとかなんとか」

 

 

そんな話をこないだめぐみんがしていた。

 

 

「へー、そんな粋な事までやってるのか」

 

 

「エリスのコスプレを妄想して鼻を膨らませているカズマに一応言っとくと、コスプレするのは女の人だけじゃないわよ?」

 

 

「それは聞きたくなかったし鼻も膨らませてない」

 

 

「まぁでもいろんな出店があるらしいし普通に楽しいんじゃないですか?領主のダクネスさん家が敬虔なエリス教徒だから結構力いれるらしいし」

 

 

我慢大会も盛り込もうとかなんかダクネスさんが息巻いていたが、どうだろう。

全うな感性を持っているダクネスのお父上を説得できるとは思えない。

 

 

「それよ!それ!私と言うものがありながら、同じパーティーのダクネスがなんでエリスの所の信者のままなのよ!普通は数々の私の活躍を見て、アクシズ教に改宗すると思わない!?」

 

 

「思わないな」

 

 

「うーん、まぁ…そもそも女神って信じてもらうところからですかねぇ…」

 

 

それに持ちつ持たれつなパーティーとは言え、どっちかと言えばアクア様が助けてもらうお約束のパターンの方が多い。

仮に女神だと信じていたとしても、改宗の理由は憧れよりも心配になるからとかそんな感じになるだろう。

 

 

「それでお前はさっきから何が言いたいんだよ」

 

 

このまま泣き言を聞くのも面倒くさいと判断したのか、カズマさんがアクア様の話を促す。

 

 

「今年はエリス祭りを止めにして、アクア祭りをやってもらうの」

 

 

絶句する僕らを他所に、アクア様はなおも声高に続ける。

 

 

「だってズルいと思わない!?エリス祭りが行われているのに、どうしてエリスの先輩である私のお祭りが行われないの!?たまには代わってくれてもいいじゃない!」

 

 

うーんこの。

 

 

「でも今年は難しいと思いますよ?エリス教は先日魔王軍の幹部のプリーストを改宗させて無力化したりしてますからね」

 

 

「初耳なんだけど!?」

 

 

「あ、それ俺も聞いたわ。エルロードの話だろ?」

 

 

「たぶんそれです。だからまぁ、今すごい人気ですよ?そろそろエルロードの国教にもなるんじゃないかってくらいで…」

 

 

「おかしいじゃない!私だって魔王軍の幹部倒してるのにー!」

 

 

なお、発生した洪水被害と借金は見なかったことにする。

 

 

「…とりあえずダクネスさんの実家にいってみましょう」

 

 

エリス教が人気になるきっかけになってしまった責任の一端がないでもない僕は、とりあえずその罪悪感を誤魔化すように現実的な提案をするのだった。

 

 

…なんか最近アクア様に隠し事増えてきたな。

今度美味しいお酒とご飯でもご馳走しよう。

で、いい感じに酔っぱらってるときにさりげなく謝って、許してもらうことにしよう。

 

でぇじょうぶだ。

どうせ陽気な酔っぱらいはなんでも許してくれる。

 

 

────この何気ない会話が、後に『女神祭』と呼ばれるこの国の一大イベントのきっかけとなったことはあまり知られていない。

 

ついでに、このお祭りがきっかけで僕のこの国での生活を一気に加速させることになるとは、まぁもう魔王軍の幹部の残り数的に予想はしていたけど、とりあえずこの時は気付かない振りをしたのだった。

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。
前書きにも書きましたが、本編はおそらくもうすぐというか、あと4話前後で終わるとは思います。

番外編は…気を抜くとすぐえげつない外道になってしまう主人公をコントロールするのが思ったより大変なので、あまり期待はしないでください。

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