このハザ   作:ひつまぶし太郎

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評価とお気に入り登録、ここすきありがとうございます。

テスト無事に終わりました。
最終回に向けて風呂敷をたたんでいきます。
本編はこの話を含めて、四話か行っても五話です。

そして、本作は『運命の死』『黄金律』に関して、独自の解釈を前提として物語が構成されています。
はい、また独自設定です。
すいません。
とはいえ本筋に大きく関わってくるわけではありません。
簡単にまとめると、運命の死は普通の輪廻転生のこと、黄金律は世界を改編することですべての生命を擬似的な不死にすることを実現しているものだと思ってください。

詳しくは次回登場します。




第二十一話。セクシー環境大臣ヴァン

 

 

ダクネスさんの実家は、いわゆる一つの大豪邸だ。

 

…いやまぁ領主なので当たり前だが。

一国の主のはずの僕の家は、灰都の野ざらしになってる玉座か、ラニ様の塔くらいなものなので、敗北感を味わうはめになった。

 

…国に帰ったらでっかいお屋敷を建てよう。

ていうかもともと腐れ湖とかケイリッドの腐敗の除去に二年近くかかったせいで、王都を建て直す時間がなかったのが問題なのだ。

あと人材。

 

狭間の地は少子化とかそういう次元ではない人口減少に苛まれている。

これは黄金樹頼りの不完全な永遠…もとい、停滞の代償であり、同時に僕の罪過でもある。

とはいえ永遠にすり減り続ける状況が終わり、順次寿命を迎えて輪廻の輪に還っているだけなので、健全になってきているとも言えるだろう。

 

え、問題を解決しろ?

そうですね、検討します。

つーか異次元の少子化対策として、国民の家の確保とか病気対策とか公共事業とか、食料問題とか輸送問題とか色々解決してからこっちは国を出てるんだから問題ないだろう。

環境は完全にクリーンなものにしたし。

国が安定するまではしばらくは税金もとらないし。

 

輸送問題は深き根の底の蟻たちを利用したせいで炎上したけど。

何でだよ。

かわいいだろ、蟻。

しかも自衛ができるし、悪路もものともしないし、大きいから大抵の荷物は運べる。

これ程運搬向けの生き物もなかなかいないと思ったんだけど。

 

 

───閑話休題。

 

 

「まったく、とんだ変態クルセイダーですね!ほらほら、これが欲しいのでしょう?いつまでも我慢していないので、早く参ったと言ってこれで……!……あっ」

 

 

「この私はその様なものに屈しはしないっ!嗜虐的な魔女め!クルセイダーの誇りにかけて、このまま一時間でも二時間でも……。あっ」

 

 

少し顔のシワの目立ち始めを感じるものの、まさに理想のロマンスグレーと言った風貌の執事さんに案内されてたどり着いたダクネスさんの部屋。

入室のノックと共に足を踏み入れたカズマさんの背中越しに、僕は特殊な遊びをしていた二人と目があった。

 

片方は布団にす巻きにされているダクネスさんで、もう片方はそんなダクネスさんの鼻先で氷を見せつけるめぐみんだ。

二人とも、顔を火照らせ、互いに息を荒らげていることからも相当興奮していることが見てうかがえる。

 

 

「…カズマさん、ノックしたら返事を待つ癖つけたら?」

 

 

「そうする」

 

 

疲れたような顔をするカズマさんが閉めた扉を、めぐみんが慌てて開ける。

 

…なんか前もあったなこんなこと。

こないだはメイド服を着たダクネスさんとカズマさんで、場所はカズマさんの屋敷だったけど。

 

 

「ドアを閉めないでください!これは違うのです!」

 

 

「ああ分かってる。俺も百合は嫌いじゃないからな。なんなら俺もアクアも今日はどっかに泊まってくるから」

 

 

「祝福の魔法はいるかしら?」

 

 

「全然わかってないじゃないですか!これはダクネスの我慢大会の練習に付き合ってただけです!」

 

 

「うわ、あの案通ったんだ…」

 

 

めぐみんが言う我慢大会に心当たりのあった僕は、思わずダクネスさんの顔を確認する。

 

…なぜか恥ずかしそうにしながら、余計に息が荒くなった。

 

 

「………」

 

 

思わずジト目になった僕に向かって、めぐみんが律儀に説明してくれる。

 

 

「ええ、そうなんです。私も説得の手伝いをさせられて…まさか通るとは…」

 

 

「ちなみになんて言ったの?」

 

 

「これは魔王軍の幹部を倒した効果は折り紙つきの神聖な儀式だとダクネスが」

 

 

「…サウナが?」

 

 

「はい」

 

 

この国は本当に大丈夫なのだろうか。

いやうん。

平和で心が豊かな証だな?

 

 

 

 

 

 

 

 

「娘を止めてくれて助かったよ。ほら、年頃の娘なのに、あまり特殊な遊びに熱を上げるのもどうかと思っていたんだ」

 

 

「いえいえ。お宅の娘さんの奇行の対処は慣れてますから」

 

 

「はっはっは、あの人見知りの娘がそんな気を許しているのか」

 

 

「笑うところじゃないです」

 

 

ダクネスさんは汗を流すために離席中だ。

今僕らは、ダクネスのお父さん…ダスティネス・フォード・イグニスさんはソファに腰掛け、頭をかきながら嬉しそうに笑う。

その対面に座って話すカズマさんは堂々としたものだ。

 

 

「…それで、今日はララティーナの父ではなく領主の私に用があって来たのだろう?用件を聞こうか」

 

 

「実は毎年行われている女神エリス感謝祭。これを女神アクア感謝祭に変更していただきたいのです」

 

 

「…なんだって?」

 

 

「こらアクア!話がややこしくなるからお前は余計な口を挟むな!」

 

 

「いい?カズマ。逃げれば一つ、進めば二つ。奪えば全部よ!」

 

 

「…アクア様、カステラ食べます?」

 

 

「静かにしてるわね!」

 

 

駄々をこねるアクア様に、念のため屋敷を出る前に用意して持ってきていた一口サイズのカステラを、器に取り分ける。

これでしばらくは静かになるだろう。

 

カズマさんが若干物欲しげな顔をしつつも、イグニスさんの方へと向き直る。

 

 

「うちのプリーストがすいません。それで、祭りに関してなんですがね…」

 

 

「女神アクア感謝祭?」

 

 

「もちろん、変更しろなんて無茶は言いません。共同開催って形にしてほしいんです」

 

 

「共同開催ねぇ…」

 

 

「この二組を競争させれば勝手に盛り上がりも見せるし、祭りの資金も折半させればいい。どうです?悪くないと思うんですが…」

 

 

「なるほど、さすがはその年で国家予算並みの大金を手に入れた冒険者、ということかな?」

 

 

カズマさんの提案に、ずいぶんと前向きな反応を見せてくれるイグニスさんに僕もカズマさんも意外そうな顔をする。

 

 

「意外かね?まぁ確かにうちは敬虔なエリス教徒だ」

 

 

それはダクネスさんも言っていた。

ついでに、実家に来た理由を聞いたときに難しい顔をしていた。

 

 

「だが、先ほど娘が珍しく本気で頼みこんできてね。メリットがあれば乗ってもいいなと思ってしまう親心さ」

 

 

その言葉に、夢中でカステラを頬張っていたアクア様の顔がぱあっと華やぐ。

 

 

「商店街の方とも話を進めてみよう」

 

 

イグニスさんは、ウィンクをしながらそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

女神エリス感謝祭の名前が、女神感謝祭に変更されるという旨が報告され、同時に出店の内容やルールについて厳しく定められ、違反があれば即座に撤去という措置がとられることも決定した。

アクシズ教への慈悲と警戒が見てとれる決断だ。

 

 

「───現在ギルトでは様々な支援物資を無償で提供するキャンペーン中です!討伐報酬も普段より上乗せします!この機会に頑張ってお仕事してください!」

 

 

そんな祭りに向けての準備として、冒険者たちはギルドに集まってきていた。

この祭りが行われる夏は、モンスターたちが活発化するので祭りを安全に開催するためにも報酬が上乗せされる。

 

 

「森に昆虫型モンスターが大発生してます!大規模な討伐隊が必要です!職もレベルも不問です!」

 

 

集まった冒険者たちの中でも男性陣が目を血走らせているのは、おそらく森に行く連中だろう。

 

…夏は蝉がうるさいからな。

どれくらいうるさいのかと言えば、カズマさんみたいな名前の勇者たちが『ニホンの数倍うるさいし、夜でも鳴き続けるとか信じられねぇ!』と言うくらいだ。

そして、この街には夜眠れないといい夢を見れなくて困る商売がある。

 

 

「サキュバスサービスの常連ばっかだなぁ」

 

 

僕は未成年だし、使者の刃に込められた加護のせいで利用できないんだけど。

 

 

「山に巣を作ったレッサーワイバーンを狩りに行く人はこちらです!」

 

 

それに、森は下手すると火事になるし、僕はどっか適当にその辺のモンスターでも狩りにいこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

森の方から爆裂が聞こえるのはいつものこととして、街は祭りが近づくにつれてどんどん活気づいて来ていた。

どこかで凄腕の盗賊団が出没したとか、今年は売り子さんが水着になるとか、花火のために爆発ポーションが飛ぶように売れてウィズさんの店が思わぬ儲けを出したとか…。

 

そんな根も葉もあるかどうかわからないような噂が流れるくらいには浮わついた雰囲気の街は、歩いているだけで楽しい。

 

 

「この日を楽しみにしていたアクセルの皆さん!お待たせしました!これより女神感謝祭の開催を宣言します!」

 

 

「「「うおおおおお!」」」

 

 

開会式として、腕利きのパフォーマー達の芸に目を輝かせる人たち。

 

 

「クラーケン焼きいかがですかー?クラーケンの子供を焼き上げたとても珍しいクラーケン焼き!美味しいですよ!」

 

 

「おいこれ、ただのイカ焼きじゃない!お金返しなさいよ!」

 

 

「さぁさぁ!マーマンとマーメイドのハーフの見世物小屋だよ!」

 

 

「ふざけんな水槽に入ったでかい魚がいるだけじゃないか!」

 

 

出店を早速楽しむ人たち。

……いや、うん。

少なくとも売ってる側は楽しそうだ。

 

そして通報されたのか、案の定アクシズ教の屋台だったらしい店たちがどんどん取り締まられていく。

 

 

「美味いなこのYAKISOBAっての!ソースがいい!」

 

 

「まったくだ、この匂いを嗅いでるだけで腹が減ってくる!」

 

 

そんな中でも、まともに利益を上げているアクシズ教の屋台もある。

中心にいるのはカズマさんで、アクア様となぜか手伝わされているクリスさん、あと一人見たことあるようなないようなプリーストの女の人が必死に店を回している。

どうやら、かなり繁盛しているらしい。

 

 

「ねぇ、カズマ、アクシズ教徒が誉められているわ!私、何だかとっても新鮮なんですけど!」

 

 

「ねぇ助手君……。何だかエリス教徒のお店からも人がこっちに流れてるんだけど、あたしほんとに何してるのかな…」

 

 

ふ、不憫な…。

まぁ、エリス様にも恩はあるし、明日は屋台の手伝いをしてみようか。

 

 

───祭りは続く。

 

 

二日目以降、僕はエリス教の手伝いとして、デフォルメしたエリス様の形をした小さくてかわいいカステラ…≪エリスちゃんカステラ≫の屋台を出した。

こういう出店での参加も祭りの醍醐味だ。

 

 

「おいこれベビーカステラじゃねえか!」

 

 

「ベビー…?これは十個のうち一つにクリームが入ってるオリジナルカステラだよ」

 

 

カズマさんに絡まれたり。

 

 

「う…味は美味しいけど見た目がかわいくて食べるのがもったいない…」

 

 

「ちなみにエリスちゃん人形もカステラとセット(お値段通常の三倍)で売ってるから、欲しかったらそのセットを買ってください」

 

 

「買います」

 

 

「アコギすぎぃ!」

 

 

「失礼な。お祭り価格ってやつですよ。パチもんのカードとか売ってないだけ良心的だと思いません?」

 

 

…お客さんにふっかけてた途中クリスさんからのストップがかかって、普通に定価で売りさばくことになってしまったが、結構な人気を博して、売り上げもアクシズ教といい勝負になった。

 

他にもエルロードからエリス教への資金援助が来たりして、エリス教の人気は磐石なものとなったが、それでもアクシズ教への評価も多少改善されたのでまぁこれでアクア様きっかけの提案はそんなに悪いものじゃなかったのだろう。

 

というか、領主のイグニスさんの舵取りが上手かった。

祭りの楽しさは確かにアクシズ教徒の方が上かもしれないが、『女神への感謝』という意味でエリス教が負けるはずもない。

さすが国教。

 

 

「いやー楽しかった。今年はエリス様への感謝を思い出せて有意義だったよ」

 

 

「それな!ま、アクシズ教の祭りも面白かったけどな」

 

 

「うーん私はアクシズ教の祭りの方が好きかなぁ」

 

 

「ははは!気にすることはねぇ!どうせ来年も共同開催なんだからよ!」

 

 

そんなことを、ぼんやり考えながら僕は後夜祭という名の宴会が行われる会場に向けてゆっくりと向かっていた。

祭りのあとの余韻はいい。

 

一抹の寂しさと、めいいっぱい楽しめた後味のよさとが混ざり会うこの時間は、自然と鼻唄がこぼれるくらい僕は好きだった。

 

 

「ごめんなさい、ちょっと道案内をお願いしたいのだけど…」

 

 

「はい?」

 

 

と、フードを目深に被った女性に話しかけられた。

 

 

「その、ウィズの魔道具店って知ってるかしら?今日は地図が役にたたなくて」

 

 

「ああ、出店で一部の道が塞がったりしてますもんね。いいですよ」

 

 

僕の失敗その1。

祭りのあとで油断しきっていたこと。

まさか自分が狙われるなんて想像もしていなかったし、危機感を抱いてなかった。

 

 

「助かるわ。せっかく近くまで来たから顔を見せときたかったんだけど、迷っちゃって」

 

 

「こっちです」

 

 

僕の失敗その2。

そもそもウィズさんの知り合いって時点で、疑うべきだったこと。

 

 

「あ、見えてきましたね。あれがアクセル名物貧乏店主のウィズさんのお店です」

 

 

「名物貧乏店主!?」

 

 

僕の失敗その3。

自分なら死んでもどうにかなると慢心していたこと。

…いや、これはその1と同じか?

 

 

「…おほん。ありがとう」

 

 

いいリアクションをとった女の人は、取り繕うように僕の方を見てお礼を言ってきた。

 

 

「そして、ごめんなさい。恨んでくれていいわ」

 

 

体がほどけるような感覚。

僕は唐突に自分の体が制御を失って、地面に倒れこんだ。

これは───

 

 

「呪いが…!」

 

 

目の前の女の人がなにかを唱えた瞬間、不滅を強制する刻印の呪いが効力を失ったのを遅れて理解する。

 

解呪ではなく封印。

しかも完全無欠な物ではないようで、今殺されても時間はかかってしまうが復活はできるだろう。

時間をかければ巨人の火が問題なく食い破れる。

 

 

問題なのはその巨人の火が宿主の異変を関知したことで、敵を滅ぼすために体内で膨張を始めたことだ。

それを体を抱くようにその場に踞るようにしてなんとか押さえ込む。

 

 

「あー…くそ。間違えた」

 

 

そして僕はすぐに判断を誤ったことを悟る。

僕がするべきことは、押さえ込むことじゃなくて、自爆で死ぬことだった。

そうすれば周囲にいる数百人の命を奪うことになっても、魔王軍の幹部を倒せるし、僕という檻が復活して巨人の火が世界を焼くという最悪の事態も避けることが出来た。

 

だが、僕は自分から身動き取れない状態を選んでしまった。

今から自爆するには、制御が効かなすぎる。どんどん膨張して下手すれば街を更地にしてしまうほどの熱量を押さえ込むのに、僕は精一杯だ。

 

 

「火の方も封印してあげるわ」

 

 

僕が回りの被害を考えて躊躇う前提の作戦だったらしい。

ろくな抵抗ができない僕に、巨人の火の封印が施されていく。

 

…まぁこれは、ぶっちゃけ刻印の呪いよりも先に解けるだろう。

雑に封印できるなら、火の釜も番人も存在しない。

 

 

「性格悪いぜ魔王軍…」

 

 

幸せそうに笑い、祭りから帰る人たちを巻き込みたくない。

たったそれだけの理由で最善手を取れなかった自分に笑ってしまう。

犠牲を許容したくせに、これ以上誰かを犠牲にしたくないなんて自分に甘過ぎる。

 

昔からなにも成長してない。

結局いつだって僕は間違える。

姉を殺し、友を殺し、主と決別し。

その果てにようやく王になるような男だ。

 

それでも。

それでもこの世界は、まだ間に合う。

犠牲を許容しないと先に進めないような、そんな破綻はまだ来ていない。

 

だから。

僕は、この選択を恥じない。

 

 

「あなたの優しさに漬け込んだこと、弁明しないわ。私は魔王軍。こういう手だって使う」

 

 

何かを言い返そうにも、体内を巡る力が急速に萎んでいく感覚に、口を開く余裕すらない僕は無様に地面に転がりながら、睨みつけるくらいしか出来ることはない。

 

 

「テレポート」

 

 

───結局。

僕は誰かに助けを求めることも出来ずに、連れ去られた。

 

 





今回も最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。
誰かの暇潰しになれることを目標にした本作もいよいよ最終章に突入しました。
次回はシリアスです。
ここまで続けられたのは、読んでくださっている皆様のお陰です。
本当にありがとうございます。


最後に、お気に入り登録、評価、感想、ここすき等していただけると嬉しいです。
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