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書きたいことが多すぎて前後編に分けました。
そして、途中に登場するエンヤ婆さんについては小咄で取り上げたりしてますので、興味があればそちらもご覧ください。
テレポートでつれてこられた先。
連れてきた女の人いわく魔王城の地下深く。
ひとしきり暴れたり爆発したりしていたのだが、さすがに多勢に無勢。
敵の本拠地になんの準備もなく連れてこられて勝てるほど、僕は人間をやめていなかった。
…自爆戦法が人間技かはさておき。
結局捕らえられてしまった僕は今、結界や術式、ミスリルの鎖。
数多の物理的な拘束と魔術的な封印が施されているせいで、完全な闇に包まれてしまっていた。
上も下もわからない。
拘束されているのに落ちているような、あるいは逆にどんどん空へと浮き上がっていっているような感覚。
───まるで夜の海だ。
…あれはいつだったか。
死ねないくせに、身投げした僕は夜の海に呑まれ結局無様にシェイクされて、ゴミのように岸に打ち上げられたことがある。
その時の浮遊感と引きずり込まれるような感覚によく似ている。
姉が死んだ記憶、友を殺した記憶、助けられなかった誰かの記憶、大切な人と決別した記憶。
暗闇に揺られていると、自分の見たくない記憶が甦ってくる。
僕の記憶はいつも『イタミ』を伴う。
思い返す度に何度も傷ついて、何度も心が擦りきれそうになって。
心も体も鈍感にして、己の内にある炎以外の痛みが消えた世界で、僕はそれでも。
それでも僕はまだ生きている。
みっともなくて、どうしようもない不出来な行進曲を奏でながらの人生でも。
僕が歩みを止めずにいれるのは、やはりはじまりの記憶のお陰なのだ。
◆
───黄金樹を燃やす前に、僕は他を壊して回った。
成り損ないの聖樹も、死に生きる者も、呪いの苗床による穢も、すべてを燃やした。
世界に等しく運命の死をもたらすために、数多を燃やして僅かを生かした。
それはさながら、古い枝葉の剪定。
運命の死。
それは、外の世界では当たり前の輪廻転生。
女神によって生前の罪を許され、新しい生命として生まれ変わることを指す。
だが、この世界は違う。
狭間の地には、エルデンリングという律を加えることで世界の法則を書き換える神器が存在している。
法則が異なるが故に、狭間の地は異界なのだ。
そして、僕がこの世界に来る直前に女王マリカによって砕かれた黄金律によって、世界は緩やかな崩壊を迎えている。
黄金律は、運命の死を死のルーンという形で封じ込めて生命の循環を絶った。
死のルーンは隠され、魂は黄金樹に保管され、人々は不死となった。
出来上がるのは擬似的な永遠。
素晴らしい、ブラボー!
死の克服おめでとう。
だが、永遠とは停滞だ。
停滞は澱みとなり、腐りゆく。
さ迷う貴人のように魂が擦りきれて亡者化したり、腐敗を抱えてデミゴッドが生まれてきたり、死に生きる者たちがさ迷うなど、世界は停滞と腐敗に蝕まれている。
そんなわけで。
世界を正しく始めるために、歪な停滞を生み出すすべてを燃やし尽くした僕は、いよいよもって黄金樹に手を掛けた。
───完璧なんてクソ食らえ。
不完全が完全を装うなんて滑稽にもほどがある、と。
「…よくぞ、戦い抜いた褪せ人よ。黄金に祝されぬ戦士よ。偉大なるエルデンリングは確かに、ここにある」
だが、最後の本命。
黄金樹の前に、僕の何倍も背丈のある巨漢が立ち塞がっていた。
「だが、私は帰ってきた。再び、それに見えるために。我が名はゴッドフレイ、最初のエルデの王だ」
肖像や幻影で見たものよりも遥かに逞しく、纏う気配は鋭く重たい。
身動ぎするだけで、山が動いたように錯覚するほどの筋肉は、堂々たる王の風格だ。
「迷いがあるな、褪せ人よ!そのような者に、王が勤まる訳なかろう」
その男の筋肉は古竜の鱗よりも分厚く、古竜の尾よりも靭やかに動く。
対してこちらはどうだ。
絶えず自分を蝕む迷いが、結果として動きから精細さを奪っている。
「ぐがぁっ!?」
地面に何度も何度も叩きつけられる。
圧倒的な力を前に、僕は為す術もない。
戦いは一方的で、大人に子供が挑むような無謀さを感じていた。
体を引き千切られた。
叩き潰された。
あらゆる技をもって叩きのめされ、及ぶことのできない胆力によって粉砕された。
「はっ、はっ、はッ……!」
体が再生するよりも早く、次の行動へ。
命を繋ぎ止めれているのは、一重に火の巨人から喰らい奪った刻印の呪いのお陰であり、もはや身に纏う鎧はただの襤褸屑だ。
呼吸がうまく整わない。
唾が乾いて、陸地なのにまるで溺れているような苦しさだ。
「──────」
短時間に何度も繰り返される臨死体験と命が吹き返す感覚に、体が拒絶反応を起こし、手足が痙攣するもそれらすべてをねじ伏せる。
「何故何度も立ち上がる?何故諦めない?その熱量の原点は、どこから来ている?それを自覚しておらんようでは話にならんな」
僕は物語の勇者にはなれなかった。
多くの人の命を取り零した。
自分の手で、間に合わなくて、果たし合いで。
夥しい数の死体で山を作り上げ、同時に悍ましいほど自分の屍を積み上げた。
親しい相手など3人しか残っていない。
そして今、もはやただの妄執で世界を救おうとしている。
始まりは、もっと純粋な願いだったはずなのに。
…もうきっかけとなった誰かの笑顔すら、ちゃんと思い出せない。
「僕は──────」
「少し頭を冷やすがいい。次はもう少し、ましな状態で戦いたいものだ」
掴まれ投げられた。
それを理解するよりも早く、僕は遠くへ吹き飛ばされた。
◆
ずる、ずると一人の少年をラニは引きずっていた。
「くそ…こいつちょっと見ない内に重くなったな…」
引きずるには少し重い体への愚痴が溢れる。
ゴッドフレイに打ちのめされ、気絶しているヴァンを確保し、ちょうどいいからと引きずるラニの顔には少しばかりの後悔が滲んでいた。
本人か起きていたら、顔面を地面に擦られてさらに文句言われるのは理不尽すぎるとかどうとか、ひたすらやかましく悪態をつくことだろう。
だがそれは今ではない。
それにラニには言いたいことが山ほどあるのだ。
なに勝手に人がしゃべれないくらい疲れてるときに一方的に別れきりだしとんじゃ、とか。
ブライヴを止めてくれたことにお礼こそ言えど追い討ちをかけるほどこちとら鬼畜じゃないわ、とか。
そもそも私から離れられると思ってるのか、とか。
少年がなにかを言う前に、ラニが言葉の暴力で沈めることは確定していた。
「業腹だが、今のあいつに言葉を届けられるのはあの女だけだからな…」
これは危険な賭けだ。
下手すれば少年が人類の敵となり、世界を滅ぼす側に成りかねない。
だが、今の少年をそのまま野放しにしてしまえば、彼はもう戻ってこない。
王として世界を新生させ、その果てに死ぬのだろう。
一人だけ輪廻の輪に還ることが出来ず、ただ灰となって、なんの救いもないままに消えていく。
それは嫌だ。
自分の物と定めた従者が、そんな救いのない末路を迎えることを許容できるほど、ラニは出来た人間ではなかった。
「連れてきたぞ老体。そこの井戸に落とせばいいのか?」
だから、この賭けを提案してきた老人の言葉に乗った。
「ああそうさね。ついでに梯子を落として、鞄と武器を取り上げて、道しるべを用意して、準備は完成だとも」
ラニの質問に答えるのは、指読みのエンヤだ。
彼女は、とある人物の願いに応えるべく、こうして自分の役割を投げ出してまで外に出てきていた。
ついでが多いなこの老婆と思ったが、ラニとてわざわざ死にかけの老体に鞭打つような真似を好むわけでもない。
ため息をついてから、作業を進めていく。
「それにしても、指読みが役目を放棄するなど前代未聞だな?」
「さあてね。そもそも指様はもういないしねえ…。それにこれは、私が正しいと思ったことなのさ」
「正しいこと?」
指読みの仕事は、大祝福の大部屋にいる二本指…大いなる意志の使いである本当に見た目が二本の指の彼らの言葉を伝えるのが仕事である。
だが、その二本指は崩壊し続ける世界を前にエラーを起こし、沈黙した。
故にエンヤは、自分自身で考えて行動することにしたのだ。
その二本指も一人の少女の献身で滅ぼされたことだし。
「…ふん。まぁいい。なんにせよ準備は終わりだ。覚悟はいいな?」
「とっくに出来てるよ」
よっこいせ、とラニはヴァンを持ち上げる。
「説法は宗教家の十八番らしいからな。だから頼むぞ?せいぜい、あいつに終末思想とやらを語って聞かせるがいい。あの女が絶対起きる、いい目覚ましになるだろう」
もし、彼が終末のラッパ吹きとなるのなら、自分が殺す。
そんな決意と共に、全ての作業を終えたラニは少年を井戸の底へ投げ捨てた。
◆
最初の王ゴッドフレイにぶっ飛ばされ、目が覚めたら王都にある地下ダンジョンだった。
見覚えがある。
ここは忌み捨ての地下だ。
僕が一度、糞食いを始末するべく彼を解放するために訪れた場所だ。
危険なら殺せばいい、なんて甘い考えだった僕は何者かに後頭部を殴られ、彼を取り逃してしまった。
結果として、友人の一人を僕は失った。
その後、各地に散った呪いの種や穢された人たちは全て巨人の火で燃やして、黄金樹に捕らわれることなく外の世界で言うところの普通の死。
輪廻の輪に浄化して還しているから、糞食いの野望が叶うことはなくなったが、そんなものなんの慰めにもならない。
「まさかここまで飛ばされてきたとか?いやいや、ないない」
さて。
上に上がろうにも梯子は切られているし、入り口だったであろう井戸の口は雑に岩で塞がれている。
祝福で転送はメリナ姉さんが僕を縛り付けていた二本指と一緒に燃やしてしまったので、誰かの力を借りないと出来ないから無理。
どうやら僕は嵌められたらしい。
手持ちの道具や愛用の武器もない完全な素寒貧。
クラブすらないのは、この状況に僕を陥れた相手の殺意が伺える。
ただ、血まみれでボロボロだった僕の鎧が簡素な戦闘衣になっているという中途半端な優しさはあるらしい。
「詰んだかこれは…?」
と、回りを見渡していると、近くの壁に一本の短剣が突き刺さっている。
…これまた見覚えのあるものだ。
少し刀身が歪なそれは、『使命の刃』。
メリナ姉さんが愛用していた武器だ。
そして、さらにその下に一枚の羊皮紙が壁に貼り付けられていた。
『その短剣一本でそのダンジョンの最下層までクリアできたら、地上へと転送出来る仕掛けを設置しておいた。ただし、この先に進むものは一切の希望を捨てよ───』
明らかにラニ様の字だ。
これは…あれだな。
先に進んでも、帰る仕掛けがないことも覚悟しないといけないか?
「いや、いい。とりあえず進むか」
これが罰と言うのなら甘んじて受けよう。
最下層まで行って仕掛けがないのなら、また別の手を考えよう。
僕は手紙を丁寧に折り畳み、懐に仕舞う前に少しだけ匂いを嗅いでから、奥へと歩きだした。
今回も最後まで読んで頂き誠に有難うございます。
プロットでは雑に光堕ちさせるとしか書いていなかったのですが、なんとか形にできそうで安心しています。
もうすぐ最終回を迎えますので、もしよろしければ拙作に評価や感想、ここすき等して頂けたら嬉しいです(乞食)。