エピローグと合わせて2話予定だった最終話が3話になりました。
なんなら三分割した方がいいかな?とも思いましたが、とりあえずキリのいいところまで進めました。
1人だけ原作に登場するけど名前のわからないキャラがいたので勝手に名前を付けました。
なに?ああ、あの火の玉小僧が帰ってこない?
最後に目撃されたのがこの店の手前?
ふーむ。
全員がもうすでに忘れているだろうが、紅魔の里に出る前あやつに安楽少女の実を持ってくる依頼をしたのを覚えているか?
あの実は安楽少女が人間の脳を満腹だと錯覚させる効力を持ってると睨んだ我輩は間違っていなかった!
あの実をもとに作った、食べても太らないクッキーは味もヨシ効果もヨシな商品として忌々しい女神感謝祭ではたらふく稼がせてもらったというわけよ!
これがあの小僧の失踪になんの関係があるかだと?
…そんなもの、あるわけないが(笑)
おっとその悪感情、大変美味である。
ふむ。
そう慌てるな。
我輩の何でもお見通しなこの自慢の目であやつの様子を確認したところ、まだまだ元気に暴れておるわ。
あやつは魔王城の地下闘技場にテレポートした直後、封印を強引にこじ開けて挨拶代わりの自爆を一発。
これは無理矢理いったのもあって威力はそれほどでもなかったが、封印を行使できる風呂好きの邪神が気絶。
その後封印から解き放たれたあのバカは『生きてて肉体がありゃ封印されんならよぉ!自爆し続ければ良いよなぁ!?』と叫びながら再び全力全開の大爆発。
どうやら下手に封印をしたせいで、ものすごい勢いで中身が暴走しているらしい。
『驕るな───!』
この爆発で捕縛を提案した魔王軍の最古参の魔術師にして、現最強の門番。
名をルシファーという堕天使が死んだな。
木っ端微塵だ。
あやつは魔界から魔力を引いてきて魔法を連射、致命傷を受けても即座に回復できるのが売りなのだが、肉片一つ残さず消し飛ばされるとダメらしい。
不死身対決は爆弾小僧の勝ちというわけだ。
分身してシルビアの死体を回収したりと、なかなか最近は良く働いていたというのに、報われないやつだ。
お(もしろおか)しいやつをなくしたな。
やつは最近あの小僧のゲロを浴びてから禿げてきているのを気にしていて…そんなことはどうでもいい?
まったく注文の多いやつらめ。
───そんなに気になるならば、この水晶で貴様らにも見せてやろうか?
【爆発される前にやれ!】
『ファー!!!甘い甘い!いけー!僕の必殺大爆発!すべてを蹴散らせ!やっぱ身体強化で暴れるより自爆の方が集団戦では効率いいぜ!』
【ダメです体を消し飛ばしてもすぐに再生されます!】
【この化け物が!】
【誰だよこいつ捕まえようとか言い出したやつ!】
【ルシファー様だろ?】
【あいつ最低だな!】
『諸君、仲間割れは良くないなぁ?』
【バカ、密集するな!】
『ドーンだYO!』
【うわあああ!逃げろ!とにかく逃げろ!地下闘技場が崩壊するぞ!】
これはひどい。
『わははは!ふはは!下手に封印したのが仇になったな!今、巨人の火も刻印の呪いも暴走状態だ!僕にも止められねえからよ…!景気良くいこうぜ!花火大会だ!今夜は帰さねえぜ!』
◆
今、城の中を走るのはカズマたちだけだ。
他のみなは、陽動として魔王の娘やその配下たちを足止めしてくれている。
あのあと、意識を取り戻した赤髪の女性に普通に封印されたヴァンを救出するべく、カズマはギルドやアイリス、紅魔族たちへと救援要請を打診し、自分達もまたテレポートを利用して魔王城までたどり着いてきていた。
魔王城はヴァンのせいで最強の門番である魔術師がいなくなったことで、容易く攻めいることができた。
本当に。
敵の本拠地やボス部屋への強制転移という割りとゲームでなら王道な展開だというのに、なぜこうも人類側の仕掛けた特攻兵のような働きをしているのか。
とにかく、ヴァンを封印した目的に無力化だけでなく、不死身の心臓を魔王が奪おうとしていることも含まれるを知ったカズマたちは本当に必死に走っていた。
「まだ食べられてないだろうなヴァンのやつは!?」
「わかりません!ですが、まだ捕まって一日です!あの暴走状態が収まってから解体をすることを考えれば、まだな筈です」
「とはいえ、それもリスクを犯さないならという話だったが…」
不死身の強奪が可能か否かで言えば、それは可能だ。
なぜなら、ヴァンの不死身がそもそもそうだから。
彼は火の巨人を倒すためにその心臓を食らった。
一口で食べるにはでかかったから、BBQにして美味しく食べた。
あるいは受け継いだのではなく、たんに恨みで呪いを移された説もあるが、それは今は置いておこう。
可能であるという事実があれば十分だ。
とはいえ、ヴァンが正常に呪いを受け継げたのは彼が巨人の末裔だったからであり、魔王が取り込んだところでそれが上手くいく保証はない。
だが、万に一つがある以上急ぐに越したことはない。
そもそも、魔王が不死身になるということはヴァンが死ぬことを意味するのだから。
───そして、とある一室。
禍々しい城内に置いて、より一層不吉な雰囲気を醸し出している部屋にカズマたちはたどり着いた。
その扉の前、そこに一人の女性がいた。
彼女は、赤い髪をした美女だった。
「…来たわね」
魔王城で出迎える者として威厳のある顔をしていたが、そんな雰囲気をカズマの言葉がぶち壊した。
「ああ!アルカンレティアでヴァンに裸見せつけてた人!」
「「えっ!?」」
「待ちなさい!その言い方は絶対適切じゃないわ!」
カズマの言葉にめぐみんとダクネスがハモり、ウォルバクは顔を赤らめる。
確かにハンスが倒された一件で彼とは同じ混浴で鉢合わせはしたが、ウォルバクは乳白色のお湯に身を沈めていたし、立ち上がったのは男連中がサウナに行ったあとだ。
…なお、身を屈めたせいで彼女の持つ大きな物を強調するような挑発的な姿勢となっていたのだが、そんなものは年は重ねても初心なままの女神が知るよしもなかった。
とんでもない風評被害を前にウォルバクは一瞬ふらつくも、すぐに目を細めて、カズマの方を睨み付けた。
「私の名前はウォルバク。彼を捕縛した魔王軍の幹部の一人にして、怠惰と暴虐を司る女神よ」
「ウォルバクさん耳赤いですよ」
「おだまり!」
だが、そんなのお構い無しにいじるカズマ相手に、羞恥で頬を染めるウォルバクは最初の余裕をだんだん失いつつあった。
「あんたちょっと待ちなさいよ。どうやら一応は神格はあるみたいだけど、何よ怠惰と暴虐を司る女神って。物事は正確に伝えないと誇大広告で訴えられるのよ。ちゃんと邪神を名乗りなさいな」
「どういうことなの!?」
ついでに、空気の読めないアクアがさらに場を掻き乱す。
それだけではない。
予想外の展開におろおろするウォルバクに、さらにめぐみんから爆弾が投げつけられる。
「あの、私のこと覚えてますか?」
「ええ…じゃなくて!お、覚えてないわね?ええ、全然!まったく!これっぽっちも!」
ウォルバクは混乱していた。
三人同時口撃のせいで、真面目な彼女は目を回しそうになっている。
最初に作った雰囲気が台無しだ。
「ちょっと!ねえどうなのよ!ヴァンといいめぐみんといい、もしかして小さい子が好きなの!?」
「あ、あの…」
「今、絶対肯定の意味でええ!って言いましたよね!?何で誤魔化すんですか!」
「ちちち、ちが…っ」
「私の名前はアクア。アクシズ教団が崇める御神体にして水の女神!この世界で正式に女神として認められてるのはエリスと私だけなんだから!謝って!ちっさい子好きの邪神でごめんなさいって謝って!」
「アクア!さっきから小さい子小さい子と、あまり連呼しないでもらおうか!」
「黙って聞いてたら好き勝手言って!!神の名を騙る罰当たりなプリーストめ!」
「あーもうめちゃくちゃだよ」
きっかけとなったカズマを置いて、女性陣の口論はヒートアップしていく。
もはや姦しいとかそんな次元ではない。
とても魔王城に連れ去られた仲間を助けに来た、というシチュエーションにはそぐわない。
「偽物ですって!?…どうやら本気で水の女神の力を思い知らせてやらないといけない様ね!あんた邪神の癖に生意気よ!うちの子達みたいな明るくて前向きで清く正しい自由な信者もいないくせに!」
アクシズ教徒は絶対に清く正しくはないし、彼らは自由過ぎる。
「こ、こんなに頭が悪そうなのに、本当に水の女神だって言うの?だけど私が邪心認定されたのはあなたのところの迷惑な信者のせいよ!それにあなただって、女神エリスに比べたら十分マイナーなくせに!」
初対面だというのに、大人げなく掴み合いを始めたアクアとウォルバクのせいで、めぐみんはついに入っていけなくなったらしい。
疲れた顔をして、遠くで見守っていたカズマやダクネスの方へと下がってきた。
「『セイクリッド・クリエイト・ウォーター』!」
そして、キレた狂犬女神が辺りに大量の水を呼び出した瞬間。
『焼き尽くせ!いつまでも寝てんじゃねぇ!』
タイミング悪く、奥の部屋から巨大な炎が巻き起こる。
「全員伏せろ!」
「「あっ」」
カズマがとっさに叫ぶも、掴みあっていた女神たちは間に合わない。
不運な女神が起こした大洪水と、人類最低値とも言われる幸運を持つ少年の紅蓮の炎が衝突。
───魔王城の一角は、理不尽にも吹き飛んだ。
あれはビッグバンにも似た輝きだった、と後に通りすがりのゴブリンが仲間に話したらしいが、そんなものは誰にも関係のない話だった。
◆
…果たして僕の目は本当に現実を見れているのだろうか。
それともまだ封印の中?
「また幻術なのか…!?」
自力で脱出したと思ったら、急に洪水に呑み込まれて、水蒸気爆発を起こしたのは現実認定していいのか?
そんなことある?
僕が呆然としていると、ボロボロの女性が化物を見上げるような顔で口を開く。
「嘘でしょ…あの封印を自力で…!?あなたの名前になぞらえて作られた、グレイプニルの封印を…!?」
…いや、うん。
巡り巡っては僕の母親のネーミングセンスのせいではあるのだけど、美人が言うと痛々しいな。
まぁ、妙に僕の人生に符号する部分があるとはいえ紅魔族を産み出した国の人間のセンスなんだから、たぶん深い意味はないんだろうけど。
巨人の末裔だったり、世界の王を殺したり、世界を再生させるためとはいえ半ば滅ぼしたりしてるけど。
気のせいだろう。
「…いや、それよりも誰だよ」
「えっと、私の名前は…」
「まぁいいや。なんでみんなアフロなの?そんな古典的なことされてもちょっと若手の僕にはついてけないんだけど」
たぶん僕を封印したであろう誘拐犯のお姉さんの存在よりも、目の前に広がる惨状が気になりすぎる。
えぐれた地面、吹き飛んだ壁。
そんな瓦礫まみれの場所に倒れている四人のアフロたち。
芸人気質のアクア様だけならまだしも、カズマさんやダクネスさんまでアフロだとさすがに気になる。
今まで爆裂魔法の余波に巻き込まれてそんなことなってた?
「いや…うむ。無事で良かった」
「ええ本当に」
「ああ、お前は良くやったよ」
「え、なに?怒ってる?」
ゾンビのように這い上がってきた三人が僕の肩をグリグリしてくるのを甘んじて受け入れながら、起きてこないアクア様の方を盗み見る。
…うわ、アクア様白目向いてるじゃん。
マジで何があったんだ…。
「………」
「全然怒ってないよ?」
「ああまったく怒ってないとも。タイミング悪く復活しやがってとか全然思ってない」
「助かったのにこの言いぐさよ。おいめぐみん!僕の顔にアフロ押し付けるんじゃねえよ!…わかったよ!いや、良くわかんないけど!なんかわかんないけどごめんなさい!!あと助けに来てくれてありがとうございます!」
◆
「さて、ヴァンも見つかったし帰るぞ」
「そうね!ここは危ないし、もう帰りましょう!」
一段落ついて。
僕が元気ピンピンなことを知ったウォルバクさんとやらは疲労の限界が来たのか気絶してしまった。
めぐみんの恩人らしいので、帰りにまた回収していこう。
「とはいえ、帰るには紅魔族たちの力を借りないと無理ですよ?」
あるいは魔王城に来る前に時間の余裕があって、カズマさんがテレポートを覚えるくらいパワーアップしていたりしたら、二回に分けて帰るという手もあったんだろうが、急ぎだったのでそういうこともない。
「あの、それならカズマさんたちは紅魔族の人たちを探してください。僕はちょっと魔王しばいてくるんで」
なので、ここはカズマさんたちとは別れるのが良いだろう。
突然そんな空気を読めない提案した僕を、カズマさんが呆れたような目で見てくるが、これもしょうがない。
僕にとっては必要なことなのだ。
「お前は何をいってるんだ?」
「いや…うん。あれですよね?僕のせいで今の魔王城はボロボロで、あとはもう残党狩りみたいな絵面になってるんですよね?」
先程聞いた現状について改めて確認すると、めぐみんが肯定を返してくれる。
「そうですね。なので今からあなたがやらなくても魔王は討伐されるでしょう」
「それは困るんですよねぇ…」
王女様が率いる騎士や勇者候補たちが魔王を倒せば、とりあえずこの世界はハッピーエンドだ。
素晴らしい。
最高だな。
実に感動的だ。
だが、それは困るのだ。
「あの、魔王倒したらアクア様が天界に変えれる上に、僕も報酬としてこの体を治してもらうって契約があってですね」
「そうね!百年くらい時間はかかるけど、天界の神殿でなら巨人の火も消化できるわ!」
もっとも確実なのは火の神を探し出すことだが、見つける宛もない。
あるいは髪が赤色だからウォルバクさんという線も考えたが、あの反応からして巨人の火については特に知らなさそうだ。
そうなると僕としては、このチャンスを逃したくはない。
カズマさんたちに背中を向けて、体の調子を確かめる。
…この分なら、自爆と身体強化以外ならいつも通り使えそうだ。
「でも今のあなた、暴走の後遺症的に全力全開の出力は出せて一回よ?じゃないとまたあの自爆し続ける状態になっちゃうからね?」
「やっぱりそうですよね。…うん、決め手以外には使わないようにします。だから、そんなわけでカズマさんたちは───」
「……はぁぁぁあああ。しょうがねえなぁぁぁぁあああ!」
さっきまで真っ暗な世界にいたからか、久しぶりに一人になるのは不安だなぁ、なんてらしくないことを思っていたら、カズマさんが僕の言葉を遮った。
「……いいの?」
弱い僕は、その言葉を本当は待っていたのだろう。
すがるように、嬉しさを隠せずに僕はカズマさんの方へ振り向いてしまう。
「ちょうど俺もアクアはいつでも返品出来るようにしたいと思ってたんだ」
「ちょっとツンデレニート!そこはヴァンのためならとか、女神アクア様のためならとか、素直になるところでしょうが!」
「ええまぁもちろん、私も行きますがね!魔王を倒して早く私の憧れのウォルバクさんに私の爆裂魔法を見てもらうんです」
「うむ。私もまさか女騎士を生業としてきたが、魔王に直接なぶられるという女夢が叶うとは思わなかった。是非とも参加させてくれ」
ちょっとうるっときた僕の方に、カズマさんたち四人が笑顔を向けてくれる。
「さぁ、それじゃあいっちょ魔王退治」
僕は、クリスさんの口調をおどけたように真似するカズマさんを見ながら。
「行ってみよう!」
家も残っていないこの世界に帰ってこれて良かったと、心の底からそう思った。
今回も最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。
エピローグがなかなか形にならずに苦戦していますが、あとはもう魔王を倒して終わりとなります。
最終回を迎える拙作への手向けとして感想や評価など頂けたら嬉しいです。