このハザ   作:ひつまぶし太郎

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いよいよエピローグです。
あとがきにも書いていますが、ここまでたどり着けたのは読者の皆様のお陰です。
本当にありがとうございました。



第二十六話。この素晴らしい世界と狭間の地に結末を!

 

 

 

「ようこそ死後の世界へ。私はあなたに新たな道を案内する女神、エリス。ダスティン・ヴァナルガンドさん」

 

 

そこは白亜の神殿。

目の前には銀色の美しい髪をした女性が立っている。

 

 

「あなたのお陰で魔王は倒され、世界は救われました。あなたの過酷な旅の果ての結末として、この世界へ訪れることを決断してくださったこと、この世界を担当する女神として深い感謝を」

 

 

「あ、ハイ。…うん、そうですね?」

 

 

いつになく真剣な様子のエリス様にたじろぎつつ、とりあえず返事をする。

 

 

「なんか懐かしいですね。エルデの王になったときを思い出します」

 

 

「ふふ。あれから二年と約半年。あなたが明るく人生を過ごしている様子はいつも拝見してましたよ」

 

 

「それは普通に気持ち悪いです」

 

 

「!?」

 

 

 

このストーカーどうしてくれようか、などと考えながら僕は少しだけエリス様との最初の邂逅に思いを馳せることにした。

 

 

 

 

 

 

 

ゴッドフレイを倒し、女王マリカに寄生していたラダゴンも倒し、アホみたいに逃げ回るエルデの獣を下し。

僕はようやくエルデの王になる準備が整った。

 

そして、砕かれたエルデンリングの修復が王となって最初にやるべき仕事として、僕の前に横たわっていた。

 

 

───壊れかけのマリカにもたれかかりながら僕は困り果てていた。

 

 

というのも、エルデンリングの修復の際、律というものを使うことで世界にルールを強制できるようになるのだが、手持ちの律が全部よくわからないのだ。

 

いろんな人がエルデンリングを修復するならこの律を使って、と渡してきたけどどの律も使ったらどうなるか具体的に何も書いてないないのだ。

 

世界を改編するとか言う危険なものは慎重に使いたいのに、どいつもこいつも無駄に意味深であやふやな説明をするばかりで、意☆味☆不☆明☆だ。

 

プレゼン能力に欠けていると言わざるを得ない。

…もっと言葉を尽くしてくれ。

コミュ障ばっかか?

せめて説明書をつけろと言いたい。

 

どのみちもう御愁傷様としか言いようがない。

バカに世界を任せるからこうなる。

誰が悪いのかで言えば、全部二本指ってやつのせいなんだよな。

僕は悪くない。

大いなる意思は反省して、どうぞ。

 

 

「…こういうときは消去法でいこう」

 

 

よく分からないけどラニ様が独りになってどうにかするとかいう夜の律は却下だ。

 

あの人寂しいとすぐ病むからな。

井戸から上がってきたあともしこたま説教されたし、孤独にするのが嫌なら結婚しろとか言われたけど、10歳で人生の墓場に入るのはちょっと勘弁願いたい。

責任がとれない以上、ラニ様には普通に地上に残ってもらって、僕が介護していくしかない。

…せめてもう少し、僕がラニ様に見合うようなかっこいい大人になるまで待ってほしい。

体もこんな様だし。

 

ただ。

指輪をあげてないし、暗月の大剣も受け取ってないはずなのに、僕の回りが着々と固められていっている気がするのはなぜなのか。

 

「ええい次だ次」

 

 

そして完全律も却下。

超越的視座ってなんだ。

心があるのが不完全みたいにいってるけど、その完璧な律とやらも心がある不完全な人が作ったんだろ?

矛盾してない?

それってあなたの感想ですよね?

 

僕は知っている。

これは優良誤認とかそういうやつだ。

賢い。

 

 

「ハイ次」

 

 

呪いは端から選択肢にない。

あいつはならず者の仇なので。

 

死に生きるものたちに関しては、あの『私に抱かせてくれませんか』Botの女の人が怖くて近寄らなかったせいでよく知らないけど、どのみちアンデッドはダメなのでさようならだ。

 

…おい、使える律がなくなったぞ。

 

 

「いや、うん。そうか」

 

 

黄金律が運命の死を取り除くことで始まったというのなら、運命の死を封じ込めた死のルーンを戻すだけでいい。

 

なにか律を加えて世界を支配しようとするから話が難しくなるのだ。

不変の神でもないのに、世界を管理しようなんておこがましい。

 

「世界の理を、律を使って好き勝手にねじ曲げる時代はもう終わりだ!ってこで」

 

 

僕は普通に死にたい。

死に追い付かれるその日まで、全力で生きていたい。

誰かを好きになって、子をなして、次代に繋ぐ。

命だけじゃない、思いのバトンがどこまでも続いていく。

そんな普通でありふれているのに、愉快で素晴らしい世界の方が僕はいい。

 

 

「人とデミゴットだけじゃない。黄金樹にだって終わりはあるべきだ。僕たちに永遠なんて必要ない」

 

だから僕は全てを自然に還す。

あるべきものをあるがままに。

 

きっと、僕はこの傲慢な答えの報いを受けるのだろう。

なにせ僕は世界を殺すのだ。

 

ルールが原初に還り、今の時代は間違いなく壊れる。

だけど、その≪壊れかけの時代≫が終われば、新しい時代が始まるのだ。

 

分け隔てない死のある、僕が知る普通の世界になる。

 

 

覚悟を決め、僕は律のないただの死のルーンを使って、エルデンリングを修復する。

 

 

 

「───ダスティン・ヴァナルガンドさん。はじめまして、私の名前はエリス。幸運を司る女神をしています」

 

 

「ようこそ、死後の世界へ。本日は天界へ神器を返還していただいた御礼をするためにお呼びしました」

 

 

 

 

 

 

どうやらエルデンリングは神器であり、お伽話によくある『無欲な者に良い結末が訪れる』的な隠し要素として、エルデンリングをなんの律も加えずに修復したとき天界へと返還され世界は元通りになる、という仕掛けがあったらしい。

四魂の玉かよ。

 

 

あのあと、エリス様から狭間の地がエルデンリングという神器によって神々も干渉できない異界と化していたという話を聞いたり、外の時間のずれの話なんかを聞いたりして、最後にこの体の治し方について聞いたのだ。

 

その時に魔王討伐によって神々に願い事を叶えてもらえることを知った僕は、狭間の地から外へとやって来た。

魔王討伐以外でどうにかできないかなぁと夢を見てアルカンレティアに足を運んだりしたが、アクア様と知り合えたのはまさしく幸運だった。

 

アクア様と出会えたお陰で、無駄足にならないと確信をもって魔王軍の幹部討伐へと力を入れることが出来た。

エリス様に感謝。

いや、この場合はカズマさんか。

 

 

「さて、魔王を討伐したあなたには特別に報酬を用意してあります」

 

 

「待ってました!」

 

 

エリス様の言葉に、僕は喜びを隠さずにガッツポーズをとる。

無欲な者の勝利?

うるせえ。

これは正当な報酬だ!

 

いよいよだ。

いよいよこのクソみたいな体を元に戻せる。

呪いを受け継いだ八歳から変わらない身長が、ようやく伸びる。

クソチビで短足な体からやっと解放されるのだ。

風俗にも行けるし、ようやく鎧を特注する必要もなくなる。

 

つまり、僕のモテまくり勝ちまくりな時代が来る…!

 

 

「もちろんそれはあなたの体の治療…正確には巨人の火の対処ですが。その前に注意事項がいくつかあります」

 

 

「注意事項?」

 

 

「はい。まず刻印の呪いについて。これは私でも解呪出来ますが、すべてが終わったのちにアクア先輩が行うことになります。理由はもちろんお分かりですね」

 

 

それは聞いている。

なんなら刻印の呪いだけならアクア様が地上でちょちょいと解呪出来たのだ。

それをしないのは刻印の呪いこそが巨人の火を閉じ込めておくための鍵であり、これを失くしてしまうと僕の身体という器を食い破り、世界を巨人の火が燃やし尽くしてしまうのだ。

 

食われる側から回復してくれているから、僕は原型を保っている。

 

 

「ですので巨人の火の消火から行うことになりますが、これはアクア先輩が100%の力を発揮できる神殿で行います」

 

 

「それも聞いてます」

 

 

「その儀式自体は半日も掛からずに終わりますが、巨人の火が完全に消えるには百年かかります」

 

 

「ん?」

 

 

流れ変わったな。

 

 

「百年?」

 

 

「はい。アクア先輩も魔王討伐前に言ってましたよ?『百年くらい時間はかかるけど、天界の神殿でなら巨人の火も消化できるわ』と」

 

 

「………」

 

 

 

「百年後にようやく刻印の呪いを解呪することになりますので、あと百年はその姿です!」

 

 

にっこりと笑う女神を前に、僕はがっくりと膝をついた。

 

 

 

 

 

 

 

空は快晴。

今日もどこかで誰かが理不尽に痛い目を見る場所だというのに、空だけは雲一つなく晴れ渡っている。

遠くまで見渡せる空に向かって、焼け焦げて役目を終えた黄金樹が新たな生命の土台となっている。

 

 

「遅い。何年私を待たせるつもりだ?」

 

 

その人はそんな空を一望できるお気に入りのスポット。

王家の月見場で寛いでいた。

 

アイマスクをして、日光浴している姿はどちらかと言えば間抜けで威厳はない。

そばに控える執事服を着こなす亜人のボックが、お盆の上にグラスを乗せて控えている。

 

 

「なに?まだ半年だと?三年だ三年!こっちではもう三年立ってる!」

 

 

僕の些細な反応にも、大袈裟に怒る姿には安心感すら覚える。

 

 

「狭間の地はもう異界じゃないから時間の差はないはず?ええい、百年の時間のずれがそう簡単に揃うわけないだろうに。今は速くなったり遅くなったりして、落ち着いてきている方だがな」

 

 

その人はゆっくりと立ち上がり、僕の全身をなめ回すように視線を這わせてきた。

 

 

「それで、帰ってきたからには体は直したんだろうな。……は?百年?」

 

 

沈黙。

思案。

からの激怒。

 

 

「分かった。…ああ、分かった。いや、分かった振りじゃない!私はお前と違って賢いからな。ふふ、今夜は覚悟しておけ。私は我慢するのをやめるぞっ!」

 

 

感情を全身で発露するその元気な姿に、僕はたった半年の離別だったというのに愛おしさが溢れてしまった。

 

 

「ああ、うむ。こら、いきなり抱きつくな。ほら、涙も拭け。そんなに寂しかったのか?感極まって?ふふ、いいさ。とりあえず、だ」

 

 

「おかえり───」

 

 

 

僕とラニ様は、互いの輪郭を確かめ合うように強く抱き締め合った。

 

 

 

 

 

 

「───私は空気を読みませんよ!お姉ちゃんがあなたにとって特別なことはわかりました。なので姉になるのは諦めましょう。ですがお嫁さんの座は譲りませんよ!ベルセルグでは魔王を倒した勇者は王女か王子と結婚する決まりなんです!」

 

 

「いやーはは。ちょっとした伝手で移動用の神器を手に入れてね?だからみんなと一緒に来ちゃった。面白い話をしてたね?私も混ぜてよ!」

 

 

「オギャー!カズマさん助けて!いた、いたた!エビに挟まれてるんですけど!」

 

 

「そういやアクア。さっきのビーム見て思い出したんだけどザリガニって顔からションベン飛ばすんだよ。知ってた?」

 

 

「ふはは!我が爆裂魔法で塵になるがいいです!」

 

 

「ああ、いいぞ!いい一撃だ!もっとだ、もっと来い!カズマカズマ!この熊は屋敷に持って帰ろう!」

 

 

狭間の地へと転移してきた僕のあとを追うようにして現れた賑やかな集団に、ラニ様は形のいい眉をひそめる。

あるいはそれは、浮気をとがめるかのような視線な気もしたが、きっと気のせいだろう。

 

 

「お前、どんな冒険したらこんな知り合いが増える?」

 

 

「そうですね…最初は暇なしバンジーからですかね。というかなんで塔の前にクソエビとクソ熊がいるんですか?」

 

 

「ふ…アデューラをどこかの誰かが殺してしまったからな。その代わりだ。私の捕獲劇、聞きたいか?」

 

 

これは、この素晴らしくも残酷な世界で起こる、狭間の地から戻ってきた僕の間抜けで緩い日常をただ淡々とまとめた記録である。

あるいはエルデの王となった僕のただの後日談だ。

 

 

「…時間はあるんです。のんびりいきましょう」

 

 

「ああ、聞かせてくれ。お前の大好きな、愛している世界のことをな」

 

 

だからきっと。

旅の終わりは騒がしいくらいがちょうどいい。

 

僕は最愛の人を抱き締めなから、終わりを噛み締めるように口を開いた───

 

 

 

 

 

おわり!

 

 

 





この物語を最後まで読んで頂き、誠にありがとうございました。

今後は、プロットを用意していなかったせいで更新の止まっている番外編や、作者が書きたいだけシリーズの短編を思いつきで更新することはあるかもしれませんが、これにて本編完結でございます。

このすば原作面白すぎ問題というか、なんというか。
原作リスペクトを忘れないために、あと話を進めるために何度も原作を読んでは筆を折りかけました。
それでも最後まで書き続けることが出来たのは一重に読者の皆様のお陰です。
正直誰の目にも止まらず埋もれていくと思っていたのでこれ程たくさんの方に見ていただけるとは思っていませんでした。

改めまして、このような妄想マシマシ、オリジナル展開マシマシ、下ネタありな小説を受け入れてくださり、本当にありがとうございました!
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