このハザ   作:ひつまぶし太郎

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なんか当初の想定よりも悪役になってしまった過去編TSヴァンさん。
主役としての魅力はない気がしますが、せめて本編との対比で楽しんでいただけたらなと思います。

※これは過去編であり、現在はもう少しまともです。


もしめぐ④“決別の記憶#”

 

 

まぁこれでいいか、なんて声と共に与えられた新たな肉体は、美少女だった。

透き通るような青い瞳、艶のある黒髪。

魔術の素養も高く、幼すぎるという点を除けば完璧な素体だった。

 

が、残念ながら僕が乗っ取ったせいで青い瞳は濁り、顔も無表情になってしまった。

 

 

「ああ…僕の息子が……。師匠!どうしてイケメンにしてくれなかったんですか!」

 

 

「そういうな。探すのが面倒だったんだ。その代わり、一晩中いじめてやる」

 

 

「なら良いかぁ!」

 

 

肉体というのはやはり、ある種の檻のように作用することもあるようで、最初こそ自分の息子がないことに戸惑いはしたが、だんだんと違和感もなくなり、体も自在に動かせるようになった。

 

 

その後、以前とかわりなく動けるようになった僕はリハビリを終え、師匠の願いである三人の魔術師をなだめ透かし、時に誘惑し集めたところ、師匠が魔術師球になってしまった。

 

 

「まったく…師匠はおっちょこちょいですねぇ」

 

 

≪ふ…迷惑をかけるな≫

 

 

「とりあえず。師匠の新しい体探しますか」

 

 

どっか魔術の素養の高い女性歩いてないかな?

 

 

 

 

 

 

「…すまない、誰かいないか!俺だ、ブライヴだ…!ラニの影従…半狼のブライヴはここにいるぞ!」

 

 

「うわびっくりした。え、なに?ってああ…封牢」

 

 

僕が師匠の新たな肉体を求めてふらふらとリムグレイブをさ迷っていると、足元から声が聞こえてきた。

 

封牢にも気づかないとは…思ったよりも、トレントなしで歩き回っている疲れが出てしまっているらしい。

あんな大人のおもちゃみたいな目印もあると言うのに。

 

…休むか。

ああトレント。

肉体を変えてから一切呼び掛けに応じなくなってしまった君は今何をしてるのだろう。

 

 

「えーと、ブライヴ?声が変わって分かりにくいかもしれないけど、僕だよ僕。親愛なる隣人のヴァンさんだよ。そんなところでなにしてんの?」

 

 

「なに…?いや、生まれ直しか」

 

 

「うーん…うーん?まぁ、そんなものかな」

 

 

乗っ取った肉体のせいで、僕は生まれ直しができない。

というか大ルーンは僕の体と共にいまだにファルムアズラで燃えているので、出来ても完全にはできないだろうからやりたくない。

…が、あえて言う必要もないだろう。

 

 

「ああ、それで…なぜ俺がこんなことになっているかと言えばイジ爺に嵌められたんだ。俺がラニの災いになると。だが、そんなことあろうはずはない…!」

 

 

「なんだって!?許せねえなぁそれは!僕がイジーさんから鍵もらってきてあげるよ!」

 

 

僕は激怒した。

必ず、かの邪智暴虐の爺を除かなければならぬと決意した。

僕には政治がわからぬ。

僕は、ただの褪せ人である。

口笛を吹き、親友のセルブスに傀儡を差し入れしたりして暮して来た。

だからこそ邪悪に振る舞える機会に対しては、人一倍に敏感であった。

 

 

「あ、ああ…。───なぁ、お前はそんな怒り方をするようなやつだったか…?」

 

 

 

 

 

 

 

「はい開いた」

 

 

「助かる。しかしどうやって説得したんだ?俺を不意打ちで閉じ込めるほど切羽詰まっていたはずだが…」

 

 

僕が開いてあげた封牢から出てきたブライヴは、僕にそんなわかりきったことを聞いてきた。

 

 

「───いや、殺したけど?」

 

 

狭間の地は、意見が合わなければ殺し合う。

それが普通だ。

 

昔は多少抵抗もあったが、今は別にもう慣れた。

馴染んだなぁ、なんて呑気な思考をしている僕の頭を、ブライヴの大剣が凪ぎ払った。

 

 

「ひっどいなぁ…君が出してって言うから出してあげたんだぜ。まずはありがとう、だろ?」

 

 

「貴様…!」

 

 

ぐじゅぐじゅと音を立てながら再生する僕の頭部を見て、ブライヴが吐き気をこらえるような顔をする。

 

不滅の呪いが中途半端にこびりついた僕の原輝石は、魔力がある限り体を再生するコアと化している。

まるでゾンビだ。

 

 

「傷付くなぁ。こんな美少女フェイスにそのリアクションは」

 

 

「念のために聞いておくが、ヴァンを騙る偽物か?」

 

 

「あはは、ただの褪せ人の僕なんかを偽ってどうするのさ。ただ、体が変わっただけ───だよ!」

 

 

戦意を練り始めた、ブライヴを無力化するべく、僕は小柄な体を活かして飛び掛かった。

 

 

「そうか。…どちらにせよ、切り捨てるだけだ」

 

 

 

 

 

 

戦闘は一方的なものだった。

腐っても僕はエルデの王となる見込みのあった元男だ。

 

とはいえ使い熟していたロングソードもヒーターシールドももう手元にはない。

だから右手に師匠にもらった輝石のクリス、左手に輝剣の円陣をセットした冷気派生の泥人の銛を使って、僕はブライヴを穴だらけにしていた。

 

銛でお腹を貫かれて地面に縫い付けられたブライヴの胸元に、僕は女の子座りで腰かけている。

 

 

「ブライヴってさぁ…人形姫の従者のわりに冷気に弱いよね。向いてないんじゃないの?」

 

 

「黙れ…!」

 

 

「あっぶな」

 

 

つつ、とブライヴの鼻を撫でてみれば直後に咬み千切られそうになる。

引っ込めていたから僕の白魚のような指は無事だ。

 

 

「適正にあった職場が一番だぜ?僕のお婿さんとかどうよ!ね、ね?こんな美少女お嫁にできるんだぜ?悪くないだろー?」

 

 

まぁブライヴが欲しいと言うより、師匠の体になってもらいたいだけなんだけど。

 

 

「は…っ!死んでもごめんだ。俺はラニ一筋なんだ…!」

 

 

人形フェチかよ。

 

 

「えー?こんな具合のいい体、たぶんなかなかないぜ?」

 

 

「死体相手に興奮するような異常性癖は持ち合わせてなどいない」

 

 

死体って。

まぁ、間違っちゃいないけど。

 

 

「師匠、振られちゃいましたよ。こんなかわいい見た目なのに!」

 

 

≪だから言ってるだろう?お前は見た目も中身も腐ってるんだ。そして、そんなお前と共に歩めるのは私だけだとな≫

 

 

「うーん、やっぱりそうなのかぁ。師匠の体として良さそうだと思ったんですけどねえ」

 

 

≪要らん≫

 

 

「残念だなぁ…男になった師匠にハメられるってのも悪くないと思ったんですけど…」

 

 

振られた心の傷を師匠に癒してもらっていると、ブライヴが不気味なものを見るように、僕を見ていた。

 

 

「お前…誰と話している…?」

 

 

「ああ、そっか。端から見ると一人でしゃべってるように見えるのか」

 

 

よっこいせ、といいながら僕は自分のローブを持ち上げてお腹を見せつける。

真っ白なイカ腹は、その手のフェチが大興奮間違いなしだろう。

 

 

「なにを…!?」

 

 

別にストリップをしたかったわけではないので、僕は自分のお腹にナイフを突き立てる。

吹き出した血がブライヴの顔を濡らし、呻き声を漏らしているが無視。

 

僕は自分の胃の内側から、誰かに盗られないようにしまっていた師匠の原輝石を取り出す。

 

 

「これ…師匠です。とりあえず、じゃあなブライヴ」

 

 

僕はナイフを、ブライヴの心臓につき下ろした。

 

 

 

 

 

 

『貴公…変わったな。変わってしまった』

 

 

そうなのだろうか。

仮にそうだとして、戦士の血肉を自分の壺に詰め込んで強くなろうとする、生きた壺には言われたくないかな。

 

 

『生きる壺である俺にとって、他者を食い物にする在り方を否定するのは難しい』

 

 

『だが、それでも』

 

 

『戦士としての己が叫ぶのだ。貴公は間違っていると』

 

 

『だから止めよう。かつての友として』

 

 

放っておくのも友情じゃない?

 

 

『構えろ貴公。例え刺し違えてでも、討伐する…!』

 

 

あーあ。

めんどくさ。

 

 

 

 

 

『こないでくれ…!ああ、そんな…!』

 

 

『なぜ貴公が…密漁者などやっている!?』

 

 

ただの調べものだよ。

 

 

『ただの調べもの…?壺を砕いて、中身を冒涜することがか!?』

 

 

そう。

こいつらの心はどこにあるんだろうって思ってさ。

あるいは中身をそっくりそのまま入れ換えたら、別人になったりするのかな?

それとも外側が変わればそれはもう別人?

 

 

『外道に落ちたか。…ならば私は、もう逃げ出さない。ホスローは、血潮で物語る!うおぉぉぉぉぉ!』

 

 

うるさいなぁ。

 

 

『…ああ、これが報いか。すべてから逃げた、私の…。すまぬ、壺たちよ…』

 

 

 

 

 

 

『なんだ。毒効かねえのか』

 

 

まぁ、死体だから。

 

 

『悪いな。俺はお前のことを殺さないといけない』

 

 

それはまた大変だね。

 

 

『そう。大変なんだよ。だが、かつて友を見捨てた後悔を無駄にしないためにも、俺は道を踏み外した友を殺すくらいはしねえとな』

 

 

物騒だなぁ。

 

 

『ビック・ボギーの拳の重さを思い知れ』

 

 

うーん食事の邪魔。

 

 

 

 

 

 

「あー、久しぶりに夢見たと思ったらこれだよ」

 

 

まさか気持ちよく寝ていたら自分の恥ずかしい思い出を見ることになるとは。

結局あのあとしばらく旅を続けたが、師匠好みの良い入れ物は見つからず、僕の死体から燃え広がった巨人の火で狭間の地は滅んでしまった。

 

だからこうして外の世界に来たわけだけど。

 

 

「昔を考えるとずいぶん丸くなったなぁ」

 

 

≪要不用で判断してるだけだろうに。なにを悦に浸っているんだバカ弟子≫

 

 

「いやいや。こうやっていい人気分を味わうのも悪くないですよ。常に吐き気がするし、舌を噛みきりたくなる瞬間なんて最高です!」

 

 

≪わかったわかった…落ち着け。また壊れるくらいいじめてやるからそのどろどろした邪気を納めろ≫

 

 

「…はーい」

 

 

紅魔の里は師匠好みの入れ物は多いが、さすがに実力者揃いすぎて多勢に無勢となってしまう。

やるなら足がつかないようにする必要があるし、とりあえず善人なら理由なしに入れ物にしないことにしている。

 

本当に丸くなった。

 

まぁ目下師匠が魔術の探求をしたがっている以外特に目的もないのだ。

のんびりいこう。

 

 




今回も最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。

フロムゲーの悪役ロールプレイ(NPCの殺害等)の一環とはいえ、読むに耐えうる範囲内に収まっているのでしょうかこの主人公は。
悪役を主役にするのが初めてなので心配です。

実は最初はもっとひどくて、ならず者をエビの群れに放りこんでデスマッチに参加させたり、小壺にディアロスの頭とかをつめて人格を移して遊んだりと、邪悪の化身みたいになってました。
さすがに書き直しました。
出来上がったものがこちらになります。

これは僕が始めた物語なので、番外編もどうにかキリのいいところまではいきます。
でもその前に本編を書きます。
終わりまで普通に4話以上かかりそうです。

よろしければ評価や感想、ここすき等して頂けると作者が喜びます。
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