このハザ   作:ひつまぶし太郎

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いつにも増して作者が書きたいだけシリーズの短編第二弾です。
前回よりも短くてすいません。
次は番外編を進めるつもりです。

今回の時系列としては、アイリス様とエルロードに向かう道中です。

そして、誤字報告ありがとうございます。
初歩的なミスでお恥ずかしい限りです。
でもちょっとだけ、しっかり読んでくださってるんだなあという嬉しさもあります。
はい、反省してますすいません。

さらにご報告として、今更ながら燃えて苦しんでいる様を表現したかったのと、殺人表現を控えるために一番抽象化している“『いたみ』の記憶”についての解説を五話のあとがきに追加しました。




小咄②“指読みエンヤ”

 

 

夕飯時。

立ち塞がるモンスターはすべて王女様が凪ぎ払い、もっぱらただの案山子という不必要な役割に徹している日中と違い、飯時だけは僕の戦場だ。

 

唯一イキれる場所と言ってもいい。

 

 

「王女様ー。今日の晩御飯何がいいですか?」

 

 

持ち運べる屋敷とか言う金に物言わせたブルジョアアイテムのさらに内側、屋敷内に備え付けられた冷蔵庫を開けて適当な食材を眺めながら、湯汲みを終えてほかほかな王女様に尋ねる。

 

 

「うーん、そうですね…昨日食べたアンチョビパスタも捨てがたいですが…。やっぱり、新しいものを食べてみたいです」

 

 

ちなみに、ラッキースケベとかそんなものはない。

忘れられがちかも知れないがこれでも僕はとある高貴なお方…というかまぁ、ラニ様に仕える身。

 

女性の湯汲み前に着替えやらバスタオルの用意、湯加減の確認なんかを済ませて、呼び鈴がならない限り近づかないという対処法を僕は確立しているのだ。

 

 

「新しい物ねぇ」

 

 

普段毒味後に出される食事だからか、出来立てというだけで喜んでくれる王女様だが、食べたことのある料理のレパートリーはかなり多い。

王族だから当たり前だが。

 

そんな彼女に新鮮さを感じてもらうにはやはり、大衆料理が一番か。

 

 

「じゃあ今日はキノコクリームソースのニョッキで」

 

 

冷蔵庫の中でもことさら厳重に縛られたマッシュルームに弱火で軽く止めをさしながら、僕は冷蔵庫から他の食材たちも取り出した。

 

 

 

 

 

 

「美味しい…美味しいです!」

 

 

「ふふん、それほどでもある」

 

 

やはり料理はいい。

美味しいといってもらえると、心がむずむずして、こちらも笑顔になれる。

 

 

「ちなみに今日のデザートは、ふわふわのパンケーキですよ」

 

 

「パンケーキ…あれはいいものです」

 

 

「わかる」

 

 

「それにしても、弟君は最初からこんなに料理がうまかったのですか?」

 

 

「いや。最初はひどいものでしたよ」

 

 

弟呼びにはもう反応しない。

姉呼びを強要されるよりましだからだ。

 

 

そんなことはさておき。

そう、僕は料理なんて狭間の地に来る前はしたことがなかった。

 

病で床に伏せていた母と、生まれるよりも前に戦争で死んだ父。

身寄りがないわけではないが、実質的に家族という後ろ楯のなかった僕は、『なんかかっこいいから』とか『いかにもファンタジーっぽいから』みたいな頭の悪い理由で作られた騎士団に入れられた。

 

そこでの生活は訓練と警備の仕事がメインで、食事はノイズの科学者が開発していた機械のボタンを一つ押すだけで出てきたから、料理をしなくてはならないなんてことはなく。

 

 

───僕は五才の誕生日、狭間の地に拉致された直後、自分の腹を満たすために料理をしなくてはならない、という状況に追い詰められた。

 

 

『メリナ姉さん。姉を自称するなら料理教えてくれない?』

 

 

『ダメよヴァン。姉とは甘やかしてくれる者を指す言葉ではないのよ』

 

 

『…出来ないなら出来ないって言ってくれていいんだけど』

 

 

『…私の辞書に、自分で料理するという言葉はない』

 

 

『ダメだこりゃ』

 

 

ちなみに初料理は見る角度によって紫や黒、黄金にも見えるとても冒涜的な玉虫色のものが出来上がり、試食してくれたギデオンは数日間『テケリ・リ』という鳴き声しか出せなくなった。

 

 

『どうしてそこでシチューにコーヒーを入れるんだい!?』

 

 

『いや隠し味にいいかなって』

 

 

『バカだよあんたは!素人が余計なことをするんじゃあない!基礎ができてこその応用!基礎のない応用は、ただのゴミだよ!』

 

 

『ゴミて』

 

 

そんな僕を見かねて料理を教えてくれたのがエンヤ婆ちゃんだった。

彼女が見限ることなく僕に基礎を叩きこんでくれたからこそ、今の僕があるといってもいい。

 

 

『婆ちゃん出来た!ふわとろオムレツ!』

 

 

『やるようになったじゃないか』

 

 

『あむ。はふ…さすヴァン。美味しいわ』

 

 

『しれっとつまみ食いしてるんじゃないよあんた!』

 

 

そして彼女は、料理以外も僕に教えてくれた。

 

 

『いいかい?この縫い方を覚えていれば簡単なほつれも綺麗になる』

 

 

『婆ちゃん服なんて恥部さへ隠れてたらなんでもよくない?』

 

 

『あんたにはまず、そのふんどし至上主義がいかに間違っているかを教えないとみたいだね…』

 

 

『褪せ人のスタンダードなんだけどなぁ』

 

 

『あんたのその美少女顔でふんどし一丁だと見てるこっちの脳がバグるんだよ!』

 

 

『chu!かわいくてごめん』

 

 

『なに今のかわいい。ヴァンもっかいお姉ちゃんに見せて』

 

 

『…恥ずかしいからやだ』

 

 

そんな感じで、料理に始まり炊事、洗濯、掃除等々、僕のいわゆる執事的というか家庭的な能力は磨かれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「素晴らしい人だったのですね」

 

 

「…うん、そうだな。本当にいい人だった」

 

 

そんな人も僕のせいで…。

いや、よそう。

こういう暗い考えは、もうしないようにしたのだ。

 

 

「『あんたは、あんたの正しいと思うことを、やり遂げればいいのさ』」

 

 

「それは?」

 

 

「婆ちゃんの言葉さ。いい言葉だろ?」

 

 

この言葉があるから僕はまだ歩ける。

自分の選択に責任を持って、正しいと自分が信じたなら決して諦めない。

その果てしない道の終わりが、僕の末路なんだろう。

 

 

「ふふ…本当に。素晴らしい言葉だと思います。ならば、なおさら。この訪問は頑張らないといけませんね。我が国のためにも!」

 

 

「ああそうね」

 

 

───いざとなれば武力でどうにでもなるだろう。

そう思っていた僕は……まぁ、結論から言うなら正しかった。

 

普通、こういうのって考えが甘かったとか、やっぱり暴力だけじゃダメだな!みたいな教訓に繋がるもんじゃないんですかね。

 

 

…結局暴力が最強なんだなぁ。

 

 




今回も最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。

この小咄はエルデンリングのNPCを頭の中で思い浮かべてうちの主人公との会話を思い付いたら形にしていっているのですが、本編でガッツリ触れる予定の光落ちフラグが若干先走りました。
次の小咄はトープスさんかなぁとか考えているんですが、未定です。

また、感想を非ログイン状態でもできるようにしたので、もしよろしければ優しい感想などいただけたらなと思います。
ビビりなので明日には元の設定に戻っているかもしれません。
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