このハザ   作:ひつまぶし太郎

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本編ではなく小咄での更新になります。
時系列はシルビア討伐前の紅魔の里での話です。


作者が書きたいだけシリーズなのでいつか正当な評価として来るだろうと覚悟していたのにいざ星1がつくと半泣きになりました。
ですが同時に、いつも妄想小説にお付き合い頂いている読者の皆様への感謝は忘れないようにしようと改めて強く思いました。

いつも本当にありがとうございます。



小咄③“鈍石のトープス”

 

 

朝。

それは誰にでも平等に訪れる。

 

 

「やぁおはよう!いい天気だね!」

 

 

それが例え寝不足な人間であったとしてもだ。

 

 

「テンションたけー…これだからニートは」

 

 

眠い目を擦りながら、外の空気を求めてめぐみんの家の近くを散歩していたところ野生のニートに絡まれた。

 

 

「ニートじゃないよ小説家だよ!」

 

 

「はいはいそうねだいたいね」

 

 

どうやら僕は眠気と同時に、この元気溌剌なニート…もとい、小説家を相手しないといけないらしい。

 

 

「私の扱いがぞんざい過ぎやしないかい?」

 

 

「いやちょっと眠くて…」

 

 

「おや枕が変わると寝れない口だったかい?」

 

 

「いやなんか、カズマさんがめぐみんに夜イタズラしようとしたらしくて。その騒ぎで叩き起こされたんだよ」

 

 

まあ同じ屋敷で寝食を共にしているのだから、まあそういうこともあるだろう。

初手が相手の実家なのはどうかと思うが。

 

 

「それで進捗はどうなんだあるえさんよ」

 

 

「ふふん、聞いてくれよ!なんと私の小説家としての実力が認められて紅魔新聞のアルバイトに採用されたんだ!」

 

 

「おめでとうございます。これでフリーター魔女ですね」

 

 

「フリーター魔女!?」

 

 

「次は正社員魔女目指して就活頑張ってください」

 

 

「就活…なんて恐ろしい言葉だ…うん。やはり私は小説家が一番あっている。そう思わないかい?」

 

 

うーんこの。

まぁ怪我の危険性のある不安定な冒険者よりはいいのかもしれない。

ニートすらもアークウィザードな紅魔族が、そうそう怪我をするとも思えないが。

 

それにしても、ふむ。

 

 

「そんなに私を見つめるなんて…どうかしたかい?」

 

 

「就職祝に魔法使いと小説家の組み合わせで思い当たる話でもしてあげましょう」

 

 

「へぇ…魔法使いの小説家かかぁ。私のような美人かな?」

 

 

「いや禿げたおっさんですね」

 

 

「禿げたおっさん!?」

 

 

 

 

 

 

 

まず始めに大前提として、僕に魔法の才能はない。

だが、魔術の師がいなかったかと言えば、それはノーだ。

 

 

“僕がはじめて出会った魔術の師”は鈍石のトープスというおっさんだった。

 

 

『…そこの君、褪せ人かね?だったら、ルーンを恵んでくれんかね。こう見えて、かつてはレアルカリアの学院で、輝石の魔術を学んだ身。お前さんが恵んでくれたら、替わりにそれを教えたっていいんだ…』

 

 

師というか乞食じゃないかって?

まぁ確かにそうとも言うのだろう。

 

だが、彼は狭間の地では珍しい善良な人だった。

それに彼は学院では評価されていなかったが、間違いなく才能があった。

師としても、魔術師としてもだ。

 

 

『…お前さん、すまないね。お恵みを貰ったのに、大した魔術を教えられなくて…』

 

 

『おいおいその大した魔術すら使えないんですけど!詐欺か?お?詐欺か!?』

 

 

『いやいや!違うとも。そうだな、まずはこの杖をつかんで…これこうして…イメージはこうで…』

 

 

『おお…!すげぇ、おっさん天才だな!僕は全然できないけど!』

 

 

僕は全くもって魔術を使えるようにならなかったが、それでも諦めずに付きっきりで教えてくれたのは間違いなく彼の優しさだろう。

 

教えてくれる人が諦めないのに、僕が諦めるわけにもいかない。

そうして約一月。

ぶっちゃけ10ルピーじゃとてもじゃないが割りに合わないので、三食僕が用意したり、風呂を用意したり、かなり寝食を共にすることにしていた。

 

 

『うん、美味しい!』

 

 

『さすヴァン』

 

 

『肉と野菜がマッチしていてとてもいい!まさかその辺に生えていた草と歩いていた豚がこうも美味しくなるとは!まるでレアルカリアの宝箱や〜』

 

 

『いやなんかその例えの使い方違くない?ていうかキャラが違くない?』

 

 

『下手な例えをしてでも褒めたいくらい美味しいのよ。誇りなさい』

 

 

『…堪能するのはいいから早く食事を終えて風呂入ってくれませんかねぇ?洗濯物と洗い物早くしたいんだが!?』

 

 

その間に魔術以外にも学院のことや、そこに行くための輝石鍵というものについても教えてもらった。

 

 

『うん…セレンという人がいてね。私は彼女に憧れていた』

 

 

『急に恋バナ始まるじゃん。初恋もまだなガキに美人犯罪者に懸想する話されてもちょっとわかんない』

 

 

そんな生活を一月続けた僕は、ようやく一つの魔術を覚えた。

 

 

『見て見てメリナ姉さん!ルーモス…じゃないや、星灯り!』

 

 

『おお…すごい。ヴァンが魔法を使ってる…。今日はお祝いね?』

 

 

『夜は焼き肉っしょぉー!ふぅー!』

 

 

『まさか私に師の才能があったとは…ハハハ』

 

 

『よっ!天才!最強魔術師!』

 

 

『フフ…。自叙伝でも出してみようかな?タイトルはそう…学院を追放された私が最強の師匠になった件について、とかどうかね?』

 

 

『おっさん…最高じゃんそれ』

 

 

え、そのタイトルはダサい?

まぁそんなことはどうでもいいんだ。

大事なことじゃない。

大事なのは諦めなければ僕でも魔法を習得できたという美談だけだ。

例えばこれが、トープスさん以外の学院基準で優秀な魔術師に師事していたとしたら、僕は魔法を覚えることは出来なかっただろう。

 

そうして、トープスのおっさんへのお礼として、僕は二本見つけた輝石鍵のうちの一本をプレゼントした。

 

 

『ありがとう。本当に…本当にありがとう。君との一月は私にとって掛け替えのないものだった。これは私の考えた魔術の…その戦技さ。もっとも、これが君の役に立つかはわからないが───』

 

 

もし、あえて。

数えきれない後悔だらけの人生の癖に、それでも悔いるとするのなら。

僕は鍵を渡すべきではなかったのだろう。

トープスさんは学院に足を踏み入れたのちに、永遠の眠りについてしまったのだから。

 

 

 

 

 

 

「…私はこの話をどう受け止めればいいんだい?」

 

 

「さぁ?」

 

 

単に僕は眠気覚ましのコーヒー代わりに、ほろ苦い思い出話をしただけである。

 

強いて言うなら今もまだ僕は形見としてトープスさんのくれた戦技をスキルとして覚えて、愛用している。

魔法をパリィすることのできる戦技では、カーリアの返報というのもあるが、僕は魔力を消費せずに使えるこの戦技の方が好きだ。

 

 

「うん、でもインスピレーションは沸いたよ。好きだな私は、その思い入れは」

 

 

───物語は続いていく。

紡いで、伝えて。

巡り回って次の誰かへ。

 

僕が自分の物語を誰かに託す日は、そう遠くないのかもしれないな、なんて。

それはさすがに気取りすぎか。

 

 




今回も最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。
短いですが個人的に番外編主人公の魔法に関する部分の対比でいつか書いてみたいと思っていたものを形にしてみました。
皆様のささやかな暇潰しになれていたら幸いです。


そして最後に、作者の心に優しいお気に入り登録、評価、感想、ここすきをして頂けると作者がとても喜びます。
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