WAKE UP B子ちゃん!   作:竹林むつき

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飽きるまで続けます。
前半はアイドル物語です。
2023/08/25 冒頭書き足し


1/55 太陽と星が出会うとき

 とある年の末。東京でドームライブが開催された。

 会場を彩るのは、『B小町』が誇る絶対的エースを象徴する赤いペンライトを筆頭に、ピンク、オレンジ、緑に青、そして黄色と紫。

 七色の星海を飛び跳ねる赤兎様は、それはもう笑顔で、笑顔で。

心の底からホンモノの笑顔をむき出しに輝いていた。

『みんなーー! ライブに来てくれてありがと~~~~~~~~!』

 

 そして、目に宿った一番星がいっとう強く輝いて。

 

 

『─────』

 

 

 大声で、ステージを揺らした五音が、嘘から出た言葉か、はたまたそれとも。

 

 これは、そんな彼女の六年を振り返る、短い旅のお話です。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 いつの時代でもアイドルに夢を見る少女たちはごまんといる。

 

「ふぃ~。あっつ。東京暑すぎんやろまだあっちの方が涼しかったわ」

 

 親の東京出世を期にともに地元から上京した白鳥―――日向マコもまた、その一羽だ。書類審査に通って面接にまでいったはいいものの浮かれすぎて14時開始なのに一時間も前に到着してしまった。それでさてどうしたものかという状況。

 上京するまで幾多の事務所に応募してやっとのおもいで苺プロダクションという事務所から返事を貰えたというのに幸先が悪い。

 

 うだる陽光から安らぎを求めて日陰を見渡しても少女と同じ思考をしていた烏合たちが占有してしまっている。

 

 

 どこかどこかと見渡せど人人人の喧騒ガヤガヤ。

 そして耳をすましてあたりの雑音を聞けば。

 

「だ―ら、今――――ディションだっ――てんだろ」

「えーでも佐――長、私―関係な――しょ」

「―藤だ―――、大あ―――カ野郎。――も審査―――るんだよ」

 

「別――くない? 社――――に決めてよ」

「そうはいくかよ。――お――被害が―――ときゃ」

「もう、それ――しては気にしてな―――いいってば」

 

 ―――ん? なんやろ、あっちの方で言い争い? こんな真っ昼間から元気やなぁ。

 

 さすが都会は違う、だなんて見当はずれなことに頭を回す日向。だがさりとて言い争っているのは大人の男性の声。そしてもう一つは日向と同い年、中学生くらいの少女の声。

 これだけでも犯罪の香りがむんむんと。その上男性の方を見れば、第一印象でヤのつく人と関りでもあるのかという風貌。

 警察官の父親の下で育った日向として、見過ごすわけにもいかなかった。

 

 もっというなら見過ごすわけもなかった。

「ああそうかよ。まったく、クレープ食ったらさっさと」

 

「なぁ、ニイチャン」

 

 そうして、灰色のジャングルの中を一足飛びに駆ける緑色のミディアムヘア。

 アメジストのような彼女の瞳がギラリと煌めいた。

 

「ん? なん」

「未成年の女の子相手に手荒なマネすんなや!」

 

 轟音と共に、一足飛びの勢いそのまま男の股間にシュートを決めた。超エキサイティング、とでも言えば良かろうか。

 

 

 ―――……なにはともあれ決めて、しまった。

 見ていただけのおまけたちは思う。『手荒なマネはどっちだ』と

 威力はいかほどか。そんなたわいもないことは、倒れ伏してビクンビクンと気持ち悪く、みっともなく脈動してうずくまる男の姿を見れば言うまでもないだろう。

 

 男の短い金髪がアスファルトにこすられて、せっかくのスーツも小石がアクセントになれば紳士の風上にもおけない。

 

「いきなり、何、しや、が」

「何しやがって、ってこっちのセリフやわ。こんな白昼堂々女の子の手を引っ張って、どこ連れていく気やねん。警察呼んだろか」

「サツん呼ぶのはこっちの、セリ、フ、んがぁっ」

「ええから大人しくお縄に掛かりゃぁっ!」

 

「ちょっとちょっと」

 

 日向が男にサソリ固めをキメようと足を持ちあげた時に、どこか緊迫感の欠ける声。さらに肩をちょいちょいと。ただ、これだけだった。にもかかわらず、不自然なほどにその声は日向の鼓膜を震わせる。ふと日向が振り向くと、

 

「その人、私のプロデューサー兼社長さんだから、離してあげてよ」

 

 星が輝いていた。

 女性の風貌を見れば、長い黒上も相まって『夜』と形容する方が無難なはずなのに、どうしてか日向は気が付けば星と形容していた。

 

「プロ、デューサー?」

「うん、私、こう見てもアイドルやってるんだぁ」

「そう、なんや。勘違いしてスンマセン。あの、ニイチャン立てますか?」

 

 一挙手一投足に目が惹かれて仕方がない。だというのに、日向はどうしようもなく。

 

 ―――なんや、コイツ。

 恐怖、していた。それこそ、わざわざ目をそらすために自分が蹴り上げてしまった男の方に顔ごと向けてしまうほどには。

 

「ふざけっ! っておい、アイ今何時だ」

「今? 13時20分だけど」

「クソッ、こうしちゃいられねぇ。おいガキ、オレの玉蹴り上げたことは絶対許さねぇけど、こっちには大事な用があるんでな」

 

 ギッと睨む眼光はそこらの輩よりも迫力満点だった。

「警察にはひきわたさね、ぇでいてやるよ」

 

 内股に、生まれたての小鹿もかくやと震えていなければ、カタギには手を出さない極道の漢にも見えていただろうに。脂汗が輝いているのもマイナスポイントだ。

 

「佐川社長、全然かっこよくないね」

「斉藤だ、バカアイ」

 

 そうして二人でやいのやいのと、少女がガソリンを注いで、斉藤と名乗っていた男が良い反応を返す。漫才でも見せられているのだろうかと思ったら、日向は何に恐怖を抱いていたのだろうと毒気を抜かれてしまった。いつの間にか笑みまで一つ。

 

「あー、えっと、斉藤、さん?」

「んぁ? なんだ暴力少女」

「ぼうっ、いやまぁそうやけども」

 

 斉藤の言い草に少し眉間にしわが寄る。が、事実であるし、日向側が完全に悪い状況だ。何も言い返せなかった。

「……間違いとはいえ、蹴ってしまってスンマセン。お詫びと言っては何ですけど、なんかウチにできることありますか?」

 せめて何か奢らせていただきたく。と言葉を締めくくった。

 

「なんもねぇーよバーカ! 二度とオレに関わんな!」

 斉藤は、そうバッサリと切り捨てて、アイと呼んでいた少女と共に去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんながあって時は流れ、具体的に言うと一時間と少し流れて、今。

「えー本日は、苺プロダクション、『B小町』の加入メンバーのオーディションにお越しくださりありがとうございます」

 わなわなと怒気を隠す気もない男の声が、会議室に響き渡る。

 

「オレは、『B小町』のプロデューサー兼ここの社長」

 

 男が、受付に手渡された番号、45番のシールを胸に張り付けた日向をサングラス越しでも分かるくらい睨みつけている。

 

 

「そして、今回のオーディションの決定権を持っている斉藤だ、よろしくな」

 言葉の締めくくりに―――首を、掻っ切るジェスチャーをした。

 

 

 そんな彼を見て、日向は心の中で一言。

 

 ―――あ、終わったわ。

 




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2023/05/26 原作を読み返したところ、斎藤ではなく斉藤だったので編集いたしました
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