WAKE UP B子ちゃん!   作:竹林むつき

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続きです。さぁみんなも太陽の子に脳を焼かれるがいい!
感想評価、よろしくお願いします


ジョウズニヤケマシターー!!!


6/55 太陽の子と約束。そして星の子たち。―――新生『B小町』始動

 

 読者の皆様は、親に怒られたことはあるだろうか? 『こっぴどく』とまではいかないモノの、おそらくほとんどの人は『ある』と回答するだろう。

 

 その時、父や母はどんな風に怒っていましたか?

 

 激情に? 諭すように? 寄り添うように優しく?

 

 あるいは、日向マコの母親である、日向ヒヨリのように詰める感じだっただろうか?

 

「なぁマコ。おかあさん言うたよな? マコが何しても応援するけど、アイドルだけはアカンって」

 

 机の上には合格通知と、それにともなって契約書のいくつか。

 最後に―――親の同意書が一枚。

 

「…………そうやっけ?」

「こっちに引っ越してきた三月の二十八の午後六時十六分の―――」

「なんでそんな細かく覚えてんのん⁉」

 

 びっくりして思わずテーブルを叩いて立ち上がってしまう。実は、なんて言わなくともマコだってちゃんと母との約束は覚えている。たしか日が落ちたころぐらいだったかどうか。

 しかしヒヨリは何の苦もなく分単位でスラスラと。ボイスメモなんて取っていないから、正解しているか確かめるすべはない。とはいえさすがにちょっと怖かった。

 太陽の子といえども、母であるヒヨリと距離を開けてしまうのもしかたない。

 

「愛する娘との大事な約束を忘れるわけないやろ」

「おかーちゃんっ! 大好き!」

 

 まぁ、三十秒もしないうちに飛びつき抱き着いてのゼロ距離に、というところはさすがマコではあるが。

 

「はいはい。おかあさんもよ」

「えっへへへぇ」

「んで、話戻すけど」

「戻さんくても……」

「なんか言うた?」

「イエナンデモナイデス」

 

 優しく撫でながらニコリと、良い笑顔の母にはさすがに勝てなかった。包むようにマコの身体にまわされていた腕は、既にじゃじゃ馬娘を離さないようにしっかりと腰に。

 次またはぐらかしたり、嘘をつきようもんなら愛の鉄拳が下されるだろう。

 

「どうしてそこまでアイドルになりたいの?」

「……」

「やっぱり、宮崎のおばあちゃんとの約束?」

 

 ギュッと、母に抱き着くマコの力が強くなる。

 丁度、二年と少し前に米寿も超える大往生でこの世を去った父親の方の祖母。住んでいる場所は東京とは比べるまでもなく超田舎。お盆と正月、あとはたまに長期休暇くらいにしか会えなかったが、それでも芝生のように柔らかなあの祖母が大好きで仕方なかった。

 

 今に思えば下手な似顔絵だったものでも『上手ね』と一杯褒めてくれた。

 仲のいい姉と一緒に泣いて困らせることもあった。

 夜中一人で祖母のお誕生日のためにと遠出をした日には心配したとたくさん怒られた後に『ありがとう』とめいっぱい抱きしめてくれた。

 なにより、初めてダンスを人前で披露して、『すごい』と言ってくれた。

 

 

『マコは太陽の子だから、たくさんの人を照らしてあげなさい』

 

 

 死の間際、白い病室で紡がれた遺言は今もマコを突き動かす原動力になっている。

 

「それもある、けど一番は」

「一番は?」

「ウチが『なる』って、そう決めたから」

 

 初めて見たアイドルのライブは何だったか、マコもよく覚えていない。たしか家にあった一枚のディスクを姉に頼んで見せてもらったもののはず。

 そこは小さな、ほんとうに小さな舞台で、父母、姉そしてマコの四人暮らしのこのマンションの部屋よりも狭かったはずだ。でもそこには輝きがあった。笑顔があった、ファンの笑顔を照らすアイドル()があったのだ。

 

『おねーちゃん!』

『どうしたぁ?』

『ウチ、これになる!』

 

 あんなふうになりたくて、あの人以上になりたくて、今ももがいているのだ。

 朝起きてから寝るまでの一日中、ただそれだけを目指して必死こいて、人にみっともないといわれようが前に進むためにバタ足をし続けているのだ。

 

 もちろん、親であるヒヨリがソレを知らないわけがない。擦り減って使い物にならなくなった靴と、穴ぼこになった靴下を何度買い換えたことか。

 

「アイドルは、本当に大変よ。仕事での過度なストレスやいわれもないバッシングで心を壊した子を何人も知っている」

 

 あまりにも優しい声だった。

 

「望んでもない接待、身内同士での足の引っ張り合い、他にもたくさん辛いことはある」

 カウンセラーとして働くヒヨリだからこそ。いや、それとも……。

 

「正当に評価されることなんて、万に一つでもあったらいい方」

 

 いつしかヒヨリの話し方は、感情が揺さぶられた時にしか出ない関西弁から、いつもの標準語になっていた。もちろんマコにとって母は母で、どちらも好きだが。

 

「おかあさんは、マコに不幸になってほしくないだけなの」

 怒りとは違った感情。でも震えた声は少しだけイントネーションが戻っていた。

 

「ありがとうな、おかーちゃん」

「ならッ」

「それでも」

 

 母が本気で心配しているのが分かったからこそ、目尻に涙が。こんなにも愛されていていいのだろうかと、子供ながらに思ってしまうほど。

 でも、どうか安心して欲しい。今はまだ、巣立ちの準備を始めたばかりだから。遠くに行ってしまわないから。ちゃんと帰ってくるからと、

 

 

「それでもウチにとって、アイドルであり続けることが『幸せ』やから」

 

 

 貴女が心配してくれているから、帰り道に光が灯るのです。そう、想いを込めてとびっきりの笑顔をおみまいしてやったのだ。

 

 

「何度言っても、やめるつもりはないのね?」

「うん、ごめん」

「……わかりました。そこまで本気なら、私からは何も言わない」

「ホンマっ⁉」

「その代わり! 過度な無茶をしたら首根っこ止めてでも辞めさせるからね」

 

 こんな笑顔を向けてくれる娘に、ヒヨリは何も言えない。アイドルになりたいとマコが言い始めてから七年だ。七年間何度言っても変わらないのなら、もう仕方ないだろう。

 根競べで、生まれて初めてマコは己の母から白星を奪った。

 

「あと、こういう特はごめんじゃなくてなんて言うんだっけ?」

「―――ありがとうおかーちゃん、大好きっ!」

「よくできました。あと、勉強を疎かにしたらダメよ?」

「……はぁ~い」

 

 詰めるところはきちんと詰める。でもそれ以外なら好きにしなさいと、いつものマコ大好きな母親。

 

「わかったら離れなさい」

「えー、もうちょっと、もうちょっとだけぇ」

「ダーメ。みんなが帰ってくるまでに夕飯の準備終わらせるの」

「んならウチも手伝う! なんかやることない?」

 

「そうねぇ。それなら―――」

 

 その日、家族全員四人で囲った夕食はいつもより美味しく感じたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 そうして夜が来て、また朝が来る。

 

 オーディションの時よりもいっとう夏の日差しが降り注ぐ、七月第四週の土曜日。苺プロダクションの最寄り駅の改札にマコの姿が。

 

 ウズウズ

 ウズウズウズ

 ウズウズウウズウズ

 

 

 何も言っていないのに、四方八方鳴り響くセミよりもうるさい。

 と、遠目に見慣れた人影が一つ。日向に負けじと人懐っこい黄色のショートが手を振っている。こちらに駆けてくる女性は、ちょっと前にも日向とカラオケに行ったメイだった。

 

「メイさん、メイさんメイさんメイさぁぁーーーん!」

 

 もう辛抱溜まらんと改札出てすぐのメイに日向は抱きつきにいった。メイとは彼女から合格通知が来たというメールが送信されて、自分もと日向が返してから来る日も来る日も連絡を取り合っていた仲。

 はてには合格祝いカラオケパーティも家族ぐるみでの大騒ぎだった。

 

 すっかり日向にほだされてしまったメイもまたかといった様子でよしよしと。

 

「またせてごめんね。コンビニの中で待っていてよかったのに」

「すぐにでも会いたくて待ちきれんかった!」

「もうっ」

 

 ただでさえ暑いというのに抱き着かれてはとも感じるが、メイも顔を見るにまんざらでもない様子だった。このまま踊りだそうかといった様子の二人。

 

 の横をひょいと影。

 

「あのぅ」

 

 高身長の日向に負けず劣らずの身長。優し気なエメラルドの瞳が不安そうに二人を見つめていた。日向の記憶が正しければメイとともに電車に降りてきたはず。

 

「マコちゃん、この子も実は『B小町』に受かった人で、電車が分からなかったみたいだから一緒に来たの」

「伊熊ルミカと申します。よろしくお願いしまぁす」

 

 ペコリと一礼。それだけなのにも関わらず、整いすぎた所作。

 

「日向マコって言います。よろしゅーに!」

 

 最近、姉から勧められた漫画の中に出てきた『深窓の令嬢』という単語が日向の脳裏によぎった。実際、この年で線路に迷うとなると、元々他の所に住んでいたか、普段から電車を乗らない生活のどちらかだ。

 ともなると、もしかすればやんごとなきお方なのかもしれない。

 

 今更ながら、こんなフランクに接してよかったのか? と日向は少し不安になった。

 

「ルミカちゃん、地図読めないらしいからさ一緒にって思うんだけど、良い?」

「もっちろんよ! ほんなら三人で行きましょ!」

 

 しかしそんなことならすぐにと元気よく日向はにっこりと。なによりこののほほんとしたルミカを街の仲に独り置いてされば、どんなことに巻き込まれるのかひやひやしてたまらない。

 じゃじゃ馬娘の太陽ちゃんならば持ち前の身体能力で何とかなるだろうが、線の細いルミカでは無理そうだ。日向にはもう見捨ておく、置いていくという選択肢は消えていた。

 

「い、良いんですかぁ?」

「かまへんかまへん! それに三人での方が楽しそうやん?」

「ありがとうございまぁす。フフッ、本当にメイさんがおっしゃっていた通りのお方なんですね」

「ちょっ、ルミカちゃん⁉」

 

「え、なになに? ウチのこと、なんて言ってたんです?」

「マコちゃんも別に聞かなくていいの!」

「えぇ、電車の中ではあんなに―――」

 

 あぁ、もう。早く行くよ! と元気はつらつな火の鳥は顔から火を噴きだしそうなほど赤い顔をごまかすように二人の手を引くのだった。

 

 楽しく三人仲良しこよし。マコに振り回されるメイ、それに相槌やガソリンを放り込むルミカ。三人は駅から苺プロダクションの事務所まで一度も会話が途切れることなく姦しく。

 

 

 

「では、社長が来るまで、このレッスン室でお待ちください」

 

 受付を済まして通されたのは、一つの部屋。壁一面が大きな鏡であることから、ダンスの練習室らしい。マコたちが恐る恐る入ると、既に三人の人影が。

 

「これで全員なんやろか」

「いや、まだあの人がいない」

 

 マコの疑問にメイが素早く返す。ルミカはのほほほ~んといつの間にか練習室の床に座っていた。マイペースが過ぎる。

 二人も中に入って……沈黙。

 

 

 ―――えぇ、気まずぅ。

 

 

 オーディションの時よりもはるかに『話してはいけない』という沈黙のルールを敷かれた空間。マコは、うんと身体を伸ばす。

 

「とりあえずストレッチしとこ。メイさん、一緒にします?」

「そうだよね。マコちゃんはそういう子だよね」

 

 マイペース、方向性は違えどマコもルミカと同種の人間だった。

 

「?」

「そのままのマコちゃんが素敵だってこと」

「メイさんも素敵やで! この前歌ってた姿なんてめちゃくちゃ綺麗で」

「はいはい、わかったからやるよ」

 

 ほら、口を開けばすぐこれだ。別に篭絡させるためにとかではなく、ナチュラルで褒め殺ししてくるのだから本当にタチが悪い。心臓に悪い。心の底で思っていることをそのまま口にしてくるのだから、慣れることがないぶん余計に良くない。

 そうして五分しただろうか。

 

「おまったせ~。星野アイ、ただいま参上」

 

 またマイペースの権化が部屋の中に。ヒーローは遅れてなんとやらと言わんばかりに星はギンギラギンに煌めいている。

 

 

「?」

 一瞬、黒い星がこちらをみたような。なんて日向が首をかしげた。

 

「よーし。全員そろってるな」

 

 が真意と問う前に斉藤もアイと共に部屋に。

 ヒリつく感覚。自分は今、舞台に上がったのだと何ともなしに。

 

 ―――意識切り替えやな。こっからや。こっから、やっと始まるんやから。

 

 太陽の子はいっそう強く熱を溢れさせる。瞳から隠しきれないほどに、数千度にも及ぶ熱が漏れ出ていた。

 

 

「そんじゃ、これから第一回、新生『B小町』のミーティングを始める」

 

 

 

「「「「「「「よろしくお願いします!」」」」」」」

 




プロローグ終わるまで六話かかるとか、マ?

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