WAKE UP B子ちゃん!   作:竹林むつき

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更新遅れて申し訳ありません。


9/55 Deadly sins: Ft. Wrath / 太陽ちゃんはお星さまをみるのです

 

 はてさて、太陽ちゃんと火の鳥ちゃんが人外レッスンを開発して二週間。全体レッスン以外で『B小町メンバー』が揃うこともなく。なんなら練習が始まるまで仲良くみんなでおしゃべり、なんてこともあるはずもない。

 

 レッスン開始まで準備運動をする日向マコと赤星メイ。

 の二人がやっている人外運動を見てドン引きする渡辺キタホと高峯メイカ。

 そんな様子を遠目で見る伊熊ルミカと、四ノ川カナン。

 そしていつも仕事の関係でギリギリに来る星野アイ。

 

 チームで団結なんて鼻で笑うレベルの壊滅的関係だった。

 しかし、不和や不仲があるというわけでもなく、あくまでビジネス上のライクができる程度の亀裂に留まっていた。空気が悪い、とは言い難いが決して良くはない。無関心、という言葉が適切だろう。

 

 さて、そうして着々とお披露目ライブへの準備が整い、本番まであと四日。今回のお披露目ライブの目玉はもちろん新メンバー……ではなく、新メンバーが加わったことで絶対的センター様がどう輝くか、だ。

 

 もちろんひと悶着はあった。なんせ新メンバーよりもアイの方がセンターに居座る時間が長いのだ。いくら『アイのためのグループ』といはいえ、これではお披露目ライブという名の、ただのいつもの『B小町』のライブでしかない。

 

『斉藤社長、これではせっかく入ってくれた日向さんや赤星さん、伊熊さんに四ノ川さんも可哀そうです』

 

 全体レッスンが終わった後、斉藤壱護に苦言を呈したのは―――意外や意外、ツインロールが揺れる渡辺だった。人が少なくなった事務所の喫煙所で一服していた斉藤はダルそうに、噛みついてきた飼い犬を、見下して、タバコの火を消した。

 

『ファンが求めてんのはあくまでアイだ』

『知ってますよ。そんなこと』

 

 胸を抉られるほど、よく知っている。

 

『じゃあ言わなくてもわかんだろ。客が求めている商品を出す、ビジネスの基本だ』

『でもっ!』

『なぁ、そこそこの地下アイドルの新メンバー目当てに来る奴がどれくらいいると思う?』

 

『―――』

 

『ラジオや地方のキー局で宣伝した今でも、小さなファンコミュニティで話題になっている程度だ。新しい客なんて物珍しさに来た冷やかしか、新メンバーの身内のどっちかだ』

 

 地下ライブのチケットはそう安いモノでもない。数も少ない。少ない売り上げで次のライブ上、交通費、人件費、衣装代、エトセトラを捻出しなければならない。勿論そんな大金、たった一度の小さなライブでは到底足りるわけがない。

 

『それによぉ、そういうことは、稼ぐ立場になってから言えよ』

 

 なら、足りない分はどこから補填しているか? 言うまでもない。『B小町』の絶対的エース様のタレント料だ。

 渡辺は疑問に思わなかったのだろうか? アイはいつもギリギリにレッスンに顔を出している。いつもはがれかけのコスメを顔にしたまま、みんなと踊っている。終われば、すぐに次の現場。

 こんなハードスケジュールをこなしているアイにおんぶにだっこに飽き足らず、さらに文句なんてどの口が言えるだろうか。

 

 無論、アイを目当てにライブに足を運ぶ客が増え、それによる知名度の増加が新たなタレント起用を呼び、それによってアイ目当てのファンが、なんていうサイクルは悪循環でしかない。しかし斉藤はアイの光に目がくらんでいるから気付いていない。

 

 いや、気付いていないふりをしているが、負債は後回しに。いつか必ず、どこかで、思いもよらない形で返済を迫られることはわかっているが、やめられない。

 なんせ事実として知名度は跳ね上がり、金は生まれている。

 

 そしてビジネスの世界において利益は絶対の正義だ。

 おどろくほど目に見える、嘘だらけの世界で唯一の真実の勝者。

 

『話は終わりか? んならライブ当日も頑張んな』

『……はい』

 

 敗者は、ただ頭を垂れるしかないのだ。

 去り行く背中に震える声が虚しく散る。

 いつもは気高い彼女、しかしどうにもロールのツインテールが心細い。

 拳の握る力が強くなる。肉に食い込む爪の痛さは、彼女しか知らない。

 

 

 

 知ることはできないが、今までの会話を階段下から聞いていた日向は、―――どうしようもなく怒っていた。

 

 

 

「いよいよ今週末だね。日向ちゃん」

「うん」

「どうしたの? 元気ないね。何かイヤなことあったの?」

「いんや、ただ絶対負けられへんなって思ってるだけ」

「よくわからないけど、日向ちゃんがここまで真剣なのって見たことないから。相当なんだね」

「うん」

 

 放課後、同じクラスの高峯クラハとともに帰る日向に、いつものような快活さはなかった。ただ、そこには燃え滾る熱があった。燻ぶる烽火があった。

 いまにも爆発しそうな、焔の気配が濃密に。

 

 クラハが知る限り、こんな状態がもう三日は続いている。

 授業中も何かを考えているのか、先生にあてられても上の空。放課後の付き合いも格段に減り、ファンクラブでも何かあったのかと大騒ぎだった。

 

 いつも賑やかな日向様はどうされたのだ? でも、そんな寡黙な日向様も好き。

 あの方が笑顔じゃないなんて、明日世界は終わるのか? でも真剣な横顔素敵だわ。

 もしかして会員ナンバー一番の会長が言っていたアイドル加入に何かあったのでは?

 

 ちょっとまて、アイドル? 我らが日向様はアイドルになられたのか? デビューはいつだ? どこのグループだ? チケットはいつ入手できるのだ?

 と、熱狂する鎮静させるためにクラハが労した時間はすさまじかった。なんせメッセージアプリの通知が昼夜問わず鳴りやまなかったのだ。その上、加入するアイドルグループが分かった瞬間にチケットを買い占めようとするバカまで現れた。

 

 そのファンメンバーに対しては小一時間ほど説教した。自分もしたかったのに、断腸の思いでクリックする指を止めたのに。という邪念はない。ないのだ。ないと言っている。

 

「ウチ、頑張る」

「―――」

「だから、特等席で視といてな。クラハん」

 

 ―――あぁ、この人は、ホントにっ。

 

「ずるいよ」

「ん?」

「日向ちゃんはずるいよ。そんなこと言われたら、ずっと、ずっとずっと見ていたくなちゃう」

「そう? んなら、もっとウチは頑張れるわ。だって、クラハんが見てくれるって言うたからな!」

 

 よぅし! 元気めっちゃ出たーーーっ! これからもっと練習するでぇ! とどこまでも照らす声が木霊する。いきなり叫び駆けだした日向のどこの琴線に触れたのかはわからない。分からないが、クラハはいつもより、いつも以上に久々の笑顔を浮かべた日向の姿を見れば、そんなことはどうでもよくなった。

 

 それに、自分のために、なんて遠回しなプロポーズにも聞こえることを大声でのたまったのだ。なんの文句が言えようものか。

 やっぱり、日向の尽く灰燼に帰す灼熱も好きだが、皆を等しく照らしてくれる温かな光の方が、クラハは好きだった。今の方が、ずっとずっと、人らしい。振れる距離に彼女がいると感じられるから。そんな、エゴの気持ちも少しだけ。

 

「この後、またレッスン行くんだっけ?」

「せやで!」

「今はまだ言うしかできないけど。頑張って、応援してる」

「うんっ! チケット、あげるから絶対に来てな」

 

「もう買ってる」

「えぇッ⁉ ウソォッ」

 

 ほんと、いいリアクションをしてくれる。こんなににぎやかなんだから、愛くるしくてたまらないのだ。クラハも、誰もかれもを巻き込んで笑顔にしてくれる。なんでもない街道でこれだ、ステージに立ったらどうなってしまうのだろう。楽しみでならない。

 

「ほーら、練習あるんでしょ? 早く行かないとだよー」

「あー、クラハんはぐらかしたな今ァ」

「えー? どうかな?」

「ぐむむむ」

 

 休憩時間、時間を潰すためだけに読んできた本も嫌いではないが、クラハは今の方が断然好きだ。それこそ、いつか彼女の全てを動画に納めて、自分のカメラで撮って、編集してみたいと思うくらいには。

 アメジスト色の焔が、クラハを包み込んでくれる。

 

 それが、どうしようもなく心地よかった。

 

「はぁ、また明日聞くからな」

 

 むくっと頬を膨らませる日向に惹かれてしまう。

 

「また明日ね」

「うん、明日。―――クラハん!」

「なーに?」

 

 駆けだした日向、遠くに行っているのに、近くに感じられる不思議。沈む夕日にも負けないほど彼女は明るかった。

 

「行ってきます!」

 

 とても、とても明るくて、目を細めてしまう。

 顔も、赤くなってしまう。

 

「行ってらっしゃい!」

 

 隠すように大声を返すしか、クラハはできなかった。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「日向ちゃんって、バケモノだよね」

 

 クラハと、聞いているだけでも心が温まる『またね』をして三日。

 一日ごとに、ジリジリと『B小町』の新メンバーたちのボルテージが、マイペースオブマイペースのルミカはさておき、上がってきている。さてやっと明日だと、誰かが息飲んだ時だった。そんな大事な時に、一番星さまは太陽ちゃんに向かってそんなことをのたまいやがったのだ。見てみろ、レッスン室が『えぇ……』の困惑で一杯だ。ルミカは欠伸をしているが、まぁいい。

 

「何言うてんねどつきまわすぞ」

「えー、こわーい」

「はぁぁ?」

 

 メイも含めて全員がまた、『えぇ……』と困惑した。ルミカは(以下略)。

 レッスン前後にすぐにいなくなるとはいえ、日向もアイとは休憩時間にちょくちょく話していた。日向が話に行っていた。人を知るためにコミュニケーションは欠かせない。『おはよう』から人間関係は始まるのだ、というのは日向家の家訓。もちろん日向マコもその家訓に準じていた。なんなら家族の仲で一番実践している。

 

「だって、レッスン中に息切れしているところ、わたし見たことないし」

「仕事もあんのに、みんなについてきてるアイさんの方が十分バケモンやで」

「要領がいいって言って欲しいな」

 

 しかし、何回か会話する中で、日向はアイに対しての言葉使いは雑になっていった。敬意がなくなったからではない。いや、むしろ彼女を知るごとにそれは増していく。増していったからこそ、親近感がわいた。

 

 それに敬語で話すと一瞬悲しそうな顔をする。

 だから、日向はアイに対して敬語は止めた。

 届かぬお星さまではなく、ただ一人の先輩アイドルとして接することに決めたのだ。

 

「全員いなくなった後に隠れて練習するバイタリティーがすごい言うてるんよ」

「……見た?」

「? フローリングとか見たら分かるやろ。一か所だけやたら磨かれてるんやから」

 

 分かるかバーーーーカ。日向以外の心が一致した。

 

「よく見てるんだね。すごいなぁ」

「見るよ。だって、追い抜かしたいもん」

 

 斉藤の傍にいつもいる女性、ミヤコといただろうか。『B小町』のマネージャーとしても働いている、かどうかは微妙だがとにかく、日向は彼女に今までの『B小町』のライブ映像を貸してもらったことがある。

 

 敵を知ればなんとやらという言葉があるように、日向はまず知ることから始めた。アイも含めた渡辺キタホと高峯メイカのこれまで、あ、高峯ってクラハんと同じ苗字や、関係あるんかな? とも今さら。

 

「だってアイさんも、キタホさんも、メイカさんも、毎回毎回、新しいライブごとにめちゃくちゃすごくなってた」

「もしかして過去のライブ映像でも見た?」

 

「うん。自分のことどう見えてるかもそうやけど、基礎的なダンスの伸び方がすごかった。めちゃくちゃ練習したんやと、見ただけで分かった」

「照れるね」

「すごいんはすごいって認めないと、何も始まらん」

 

 それができないから妬み嫉みに恨みつらみが湧きあがるのだが、日向には知ったこっちゃない。ちなみに、夜〇時から始めて、気が付いたら朝陽が昇っていた、といういらない話があったりする。もちろん、ヒヨリにゲンコツを喰らった。

 

 いや、今はそんなこと舞台袖にでも置いておこう。

 

「でも、目が悪けりゃ、何がすごいんか、どれくらい時間かけたんかが分からんなる。他人の『すごい』が見えんくなるのは、損や」

 

 日向の言い分はある意味的を射ている。

証拠に、目の良い人は速く成長するという言葉を聞いたことがある。

目が良いとは、つまるところ第三者から見た評価の具体性が上がるということだ。特に創作者であれば自分は今、目標としている作品と比べてなにが劣っているか、逆にどこが優れているか。たどり着くまでに何日かかるか、どのような訓練をすればいいか。

 

 評価の具体性は、ゴールまでの道筋を明瞭にすることと大差なく。

 

 ゆえに、日向は『視る』のだ。喰らうべき獲物の全てを、燃やす対象の全てを見る。

 というかそもそも、他人のことすら正しく見れぬ輩が、自分の動きを見て修正なんてできるはずがない。

 日向にとって、『みる』ことは己の最大の武器なのである。

 

「だから、アイさんの努力も、強さも、全部見るんよ」

「わたしの、全部」

「うん。そんでいつかはセンター、奪うんで覚悟しといてや」

 

 力強くうなずく日向。反対に、アイはどこか挙動不審に、でも嬉しそうに笑った。例えるなら、親にバレて欲しいことを楽しみにするイタズラ大好きな小さな子供のよう。

 

「そっか、それは楽しみだな」

 

 笑顔は、星のまたたきなんて遠く及ばない、普通のものだった。

 だけど、そんな顔を、キタホも、高峯も見たことがない。

 それはただのおさなごみたく笑った、少女の素顔だった。

 

「でも、負けないよ」

 

 でもそれはまばたきすら許さない一瞬の出来事。

 今はまだ、今はただ、陽炎が魅せた幻想なのかもしれない。

 

「ぽっとでの太陽なんかに、わたしは負けない。―――だって、私はさいきょーのアイドルなんだから」

 

 それでもいつか、今さっき垣間見た少女とおしゃべり出来たらな。なんて、日向は願う。

 そのためにもまずは、兎のぬいぐるみを被った一番星さまを地に堕とさなければならない。だって太陽は、夜空に座する貴女の手を握りたい。

 

 それに、虚空に独りで輝くだけなんて寂しすぎるでしょう?

 

 

 

  あぁ、怒りが沸き立って仕方ない。

 

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