しかし彼の体は何とか再生され、二千年程時間を遡ってある惑星に流れ着いた。
そこは異なる平行世界に存在する、地球と全く同じ星”第四惑星”であった。
まあ同じ役者さんが演じているのだから当然なのですが、これに無理矢理理由をこじつけてみたらどうなるのか?
そう考えた時に思い浮かんだ話です。
気が付いた時、僕の体は水の中に居た。
と言っても海や川の中では無く、カプセルのような物に入れられていた。鼻と口の部分には呼吸が出来るように、酸素吸入マスクのような物が嵌められている。
最初はそれが現実なのか?夢の中の出来事なのか判別も付かなかった。意識がはっきりして来るに従って、ようやくそれが現実である事を認識する。僕が入れられているカプセルは、どうやら医療設備のようだった。僕が浸けられているのも水では無く、治療の為の溶液のようだ。
「先生!患者が意識を取り戻しました!」
丁度視界に入った白衣の女性が、そのように叫ぶ。するとやはり白衣を着た年配の男性が、僕の顔を覗き込んで来た。
「うむ……蘇生に成功したようだな?」
その男性はそう言った。
“蘇生?……僕は……一度死んでいたのか?”
声を出そうとしても、出せなかった。体も拘束されている訳でも無いのに、全く動かせなった。どうも、全身が麻痺してしまっているようだ。
僕はどうしてこうなったのか?
それまでの記憶を思い起こしてみる……
僕の名は“一の宮貞文(いちのみや さだふみ)”。
京南(きょうなん)大学の学生だった。
僕は子供の頃から人付き合いが悪く、いつも孤立していた。ただずっと家に籠って勉強ばかりしていた為、成績はかなり良かった。高校時代には唯一慕ってくれる後輩が居たが、自分の方から少し距離を置いて親密な関係にはならなかった。
大学に入っても成績は常にトップではあったが、研究室に入っても誰も僕の研究を認めなかった。孤立していたのも理由の一つだが、レベルが違い過ぎて誰も僕の理論を理解出来なかった事の方が大きかった。
そんな中、唯一僕のアイディアを取り上げてくれたのが丹羽教授だった。
彼は他の人間達とは違い素直に僕の能力を認めてくれ、常に良き相談相手になってくれた。ただ実はこの丹羽教授は、地球人では無かった。遠い宇宙の彼方のプロテ星から来た、宇宙人だったのだ。
でもそんな事は関係無い。人間であろうと、宇宙人であろうと、僕を認めてくれたのは彼だけだったのだ。だから唯一僕が交流のあった高校時代からの後輩、“南部冴子(なんぶ さえこ)”が教授が地球を狙う侵略者だと言って来ても、僕は一切耳を傾けなかった。
しかし、彼女が言っていた事は事実だった。
教授は僕と共同開発した人工衛星を使って、地球防衛軍の主要施設を盗撮していたのだ。それをプロテ星に送り地球防衛軍を丸裸にした上で、一気に地球を侵略するつもりだったのだ。
いくら自分を認めてくれなかったと言っても、僕は生まれ故郷の星を侵略者に売り渡す事等は出来なかった。必死になって教授に止めてくれるように説得するが、とても聞き入れてはもらえなかった。僕は一度気絶させられてしまうが、土壇場で目を覚まして電送装置で宇宙船に逃げようとする教授の前に立った。
「一の宮君、やはり私と一緒に行きたいのかね?」
「残念ですが教授、二人一緒では再生不能です!」
僕は装置に飛び込んで行って、教授と重なるようになって装置の暴走を促した。そうして教授と共に、何処とも分からない空間に飛ばされてしまったのだった……
蘇生カプセルから出された僕は、別の個室に移されて引き続き治療を受けた。
僕は異次元に飛ばされたのでは無く、地球に戻って来ていたのか?
僕の治療をしてくれた医師も看護師も同じ人間のようだったので、最初はそう思っていた。
しかし直ぐに、そうでは無い事を認識する。ここは地球と比べて、医療技術が遥かに発展しているのだ。死者の蘇生など、今の地球では到底不可能な話だ。それ以外の機器にしても、現在の地球の技術レベルを遥かに超えている。
ところで、教授はどうなったのか?
今のこの世界に飛ばされたのは、僕一人だったのか?
それとも既に教授は回復して、別の部屋にでも居るのだろうか?
何とか話が出来るようになると、黒いスーツ姿の男達が頻繁に部屋に現れるようになり、色々と僕に質問をして来た。それで分かった事なのだがここは病院等では無く、政府直轄の医療施設のようであった。
その男達に聞かされた話では、僕は山間部の草原に倒れていたらしい。既に心肺機能は停止していたがまだ脳死には至っていなかった為、急遽ここに運び込まれて蘇生治療を施されたようだ。
しかし唯の一般人がそうして倒れていただけなら、政府がそこまでの事はしない。彼等がわざわざ僕を蘇生したのは、共に倒れていたのが異形の者であったからだ。
それはもちろん丹羽教授……プロテ星人である。
教授は人間に化けた姿では無く、本来の宇宙人の姿で倒れていた。僕と違い体の全機能が完全停止していた上に、人間とは体組織が全く異なっていた為、彼等でも手の施しようが無かったのだそうだ。
それに比べて僕の方は彼等と体組織が同一であった為、こうして無事蘇生されたのだ。
“ならばやはり、ここは地球なのか?もしかして、未来の地球に飛ばされたのか?”
だがその考えは、彼等と話をして間違いである事がはっきりと分かった。
彼等はこの星を“第四惑星”と呼んでいた。それは太陽系の、太陽に近い順から数えて四番目の惑星と言う意味だ。
僕の居た地球では、第四惑星と言えば“火星”の事だ。しかしこの星では、火星が太陽系の第三惑星だった。つまり、地球は存在しないのだ。
どうやら僕は、人間の住む惑星が“第四惑星”である異世界に飛ばされて来てしまったようだ。
地球よりも科学技術が発展している点を除けば、第四惑星は殆ど地球と変わらなかった。それ以外に違う点を上げれば月が四つある事と、宇宙からの侵略の脅威に晒されていない点であった。
この星はずっと平和であり、存在する可能性は認めていても実際に宇宙人と遭遇した事が無かった。それだから余計に、僕と一緒に転移して来た教授……実在した異星人に相当な衝撃を受けていたようだ。
異星からの侵略の脅威が無い為か、この星には地球防衛軍のような組織も無かった。
その後一ヶ月が経過し、僕は完全に回復した。
その間に政府関係者による調書取りも終了していた為、僕は晴れて自由の身となった。一応“イチノミヤ”の名で、市民権も与えられた。ただこの星の人間で無い僕は行く当ても無いので、勧められるままに政府の研究機関で働く事となった。
最初は地球よりずっと科学技術の進んだこの星では、時代遅れの僕の頭脳等何の役にも立たないだろうと思っていた。だが意外な事にこの星は、宇宙開発に関する技術だけは地球よりもずっと遅れていた。恐らく今迄に異星人との接触が一切無かった事が、その発展を遅らせていたのであろう。そんな訳もあり、僕の持つ宇宙開発の知識と発想は思いの他重宝された。
但し元々人付き合いの苦手な僕は、この星でもやはり孤立していた。
仕事上の会話やコミュニケーションは普通に出来たのだが、プライベートでは殆ど他者との付き合いは無かった。
“ひとりぼっちの地球人”であった僕は、ここでも“ひとりぼっちの第四惑星人”でしか無かった。
そうして何十年か過ごした後に、ようやく私は“ひとりぼっち”では無くなった。
唯一気心の許せる、相棒が出来たのだ。
第四惑星の女性と、熟年婚をした訳では無い。
何と言ってもその相手は、人間では無かった。
長い年月を掛けてようやく完成した、人間と同等の思考能力を備えた人工知能を持つ、人型アンドロイドであった。
元々この惑星のロボット技術は、地球よりも数千年は進んでいた。人工知能、人口臓器、人工筋肉の技術も相当に進んでいて、医療分野では既に欠落した部位等を人工物で補填するのが日常的になっていた。
地球でも義手や義足は使われていたが、ここの物はそれとは次元が違う。傍目では元からの部位と区別はつかないし、本来の部位とまったく遜色無く使える程精巧なものであった。
それでもまだこの星で、一から人間と全く同じ知能を有するロボットを造る事は出来ていなかった。
宇宙開発もかなり軌道に乗ったところで、私もその研究に加わらせてもらった。
その内にいつしか私がその部署の責任者となり、何年も費やしてやっと人型アンドロイドを完成させたのだ。
私はそのアンドロイドを、丹羽教授と全く同じ姿に造り上げた。例えその正体が卑劣な侵略者であったとしても、唯一私が尊敬し慕っていた人物であったからだ。
今の私はもう還暦も越えて、すっかり年寄りになってしまっていた。だから当時の教授の姿で造り上げたアンドロイドの方が、私よりも遥かに若く見える。
起動し始めたそのアンドロイドに、私は語り掛ける。
「気分はどうだい?……教授?」
「はい……全て正常で問題はありませんが……何故?私を教授と呼ぶのですか?教授は、あなたの方では?」
「ははは……済まない。その姿を見ると、ついそう呼びたくなってしまうんだ」
「そうですか?……ならば私の名は、“キョウジュ”で構いません。あなたの方は、“マスター”とでもお呼びしますか?」
「いや、そんな畏まった呼び方は止めてくれ……そうだな?“イチノミヤ君”と呼んでくれないか?」
「分かりました。イチノミヤ君」
キョウジュには、私が知り得る限りの丹羽教授の思考パターンを最初から記憶させていた。その為彼との会話は、本物の教授と話しているのと全く遜色が無かった。
もちろん彼の思考はその記憶に限定される事は無く、人間と同様に日々学習してパターンを増やしていく。それでいて演算能力は電子計算機その物なので、人間とは比べ物にならない程高速だ。
それでもキョウジュは私と話す時だけは、常に私が好んだ丹羽教授を演じてくれていた。そうする事で私が最も喜ぶと、彼が認識していたからだった。
それからしばらくは、幸せを実感出来る日々が続いた。
キョウジュは私にとって、最優のパートナーであった。研究業務では私の助手としてその知能を存分に発揮してくれたし、外交的には秘書の役割も担ってくれた。私生活ではもう高齢になった私を、色々な面で支えてくれた。
そして何よりも彼は私の、無二の親友であり続けてくれた。異世界に飛ばされ、この齢になってから、このような充実感が味わえるとは夢にも思わなかった。
しかしやっと訪れた私のその幸せは、あまり長くは続かなかった。
そのような精巧な人型アンドロイドを、私一人で独占する事等到底出来ない。
キョウジュを私の専属パートナーとする為に、確立した人型アンドロイドの製造技術は全て研究機関に譲渡した。それにより人間同等の人工知能を持つ人型アンドロイドは大量生産され、どんどん人間社会に入り込んでいった。
彼等は非常に優秀で、どのような仕事にも従事出来た。学習能力が高いのでどんどん仕事を覚え、自分自身で考えて効率化も行えた。一度学べば人間と違って殆どミスはしないしい、エネルギーが十分にあれば一切休む必要も無い。それでいて、それに見合った報酬を支払う必要も無かった。
あっという間に殆どの業界で、アンドロイド作業員が使われるようになっていった。
だがそれは、新たな問題を生み出した。
全ての業務にアンドロイド作業員が増えると言う事は、何処も余計な人員は不要となる為使えない者はどんどんリストラされていく。低所得層の人間程その対象となり、失業者が増大して大きな社会問題となっていった。
問題はそれだけでは無かった。
優れた人工知能を持つアンドロイドは、明確な自我も持っていた。するとアンドロイド達の中には無償で人間に奉仕する事に不満を持つ者も現れ、反乱とまではいかないがトラブルを起こす者も増え始めた。
こうした問題は、世論を完全に二分化した。アンドロイドの自我を尊重し彼等にも相応の人権を与えようとする“共存派”と、アンドロイド達に生まれた自我を排除して完全な奴隷にしてしまおうと言う“蹂躙派”で真っ向から対立を始めたのだ。
この対立は軍部を取り込む事で蹂躙派が一気に優勢となり、政府も支配した蹂躙派の勝利となってしまう。
軍部はアンドロイド達を次々と回収していき、新たに統括管理用に造り上げたコンピューターシステムで自我を奪い洗脳していった。自分達に完全服従する、奴隷と化す為に。
既に反乱分子となってしまった共存派の者達は、何とかアンドロイド達を護ろうと必死に抵抗した。しかし軍部が相手では全く歯が立たず、共存派のアンドロイド達も悉く捕らえられ完全な奴隷ロボットにされていった。
当然私の親友であるキョウジュも狙われたので、私は彼と共に国外に逃亡した。
しかしこのような争いは世界規模で発生していた為、何処にも安住の地などは無かった。
潜伏先を軍部に発見され、それでも尚逃げ回ったがとうとう追い詰められてしまう。逃走に使っていた車両も破壊され、その爆発で私は瀕死の重傷を負ってしまった。
「しっかりするんだ!イチノミヤ君!」
同じ爆発の中でも強靭な体を持つキョウジュは、軽度のダメージで済んでまだ問題無く行動する事が出来た。キョウジュ一人ならば何とか逃げ切れたのかもしれなかったが、重症の私を置いて逃げる等と言う選択を彼が選ぶ筈は無かった。
もう虫の息の私を抱えながら、キョウジュは山の中を軍の追手から逃げ回った。だがどうにも逃げ切る事は出来ず、周囲を完全に取り囲まれてしまった。
「もう逃げられんぞ!観念しろ!」
追手の軍の司令官がそう叫び、コンピューターで管理された完全武装のロボット兵達が私達に迫る。もう逃げられないと悟ったキョウジュは、何とか私の命だけは救おうと司令官に交渉を持ちかける。
「わ……分かった。大人しく従うから、今直ぐ医者を呼んでくれ!イチノミヤ君を助けてくれ!」
そんなキョウジュに、司令官は無情に答える。
「そんな事をしても無駄だ……もうそいつは助からん!」
確かに私の体はもうボロボロで、治療のしようも無いような状態だった。それでも、キョウジュはまだ諦めない。
「か……彼の脳はまだ健在だ!体を私と同じ機械にすれば、生き延びられる筈だ!」
「馬鹿め!我らに反逆した危険人物を、そのようにして生かす筈が無かろう!」
司令官の非情な言葉に、キョウジュは酷く顔を顰める。彼の心は、未だかつて無い程に酷く傷付けられているのだろう。
そんなキョウジュに、私は最後の言葉を贈る。
「す……すま……ない……」
「い……イチノミヤ君?」
「わ……わたしが……心を……与えた……ばかりに……き……君に……つ……つらい……おもい……を……」
「し……しっかりしろ!……わ……私が……絶対に何とかするから!」
「も……もう……いいんだ……」
「イチノミヤ君!」
「み……みじかい……あいだ……だった……が……き……きみとの……せいかつは……しあわせ……だった……あ……ありが……と……う…………」
「イチノミヤ君!……し……死んでは駄目だ!目を開けるんだ!イチノミヤアアアアアアアアアアアアアアッ!」
キョウジュがどんなに叫ぼうが、もうイチノミヤは目を開く事も言葉を発する事も無くなった。
キョウジュは深い悲しみに叫び続けていたが、その目からは涙は流れ出していない。彼には、そのような機能は付いていなかったから……
捕らえられたキョウジュは、自我を無くして洗脳する為に政府直轄の研究施設に連行された。
キョウジュは洗脳室で椅子に拘束され、頭部には複数のコードが接続されたヘルメットを被せられている。彼の前には軍の司令官が立ち、その周囲には完全武装のロボット兵士達が控えている。
「よし!洗脳を開始しろ!」
司令官の命令を受け、メインコンピューターからキョウジュに向けて洗脳電波が送られる。その脳内には多大な電流が流れ込んでいくが、痛覚の無いアンドロイドはそれで苦しむ事は無い。キョウジュは特に抵抗する素振りも見せず、大人しくこの処理を受けていた。
実際のところイチノミヤと共に育んで来たキョウジュの人間らしい自我は、イチノミヤとの死別により崩壊寸前となっていた。人間で言うならば、もう生きる望みも失っていた。
“もうどうなっても良い”
“こんなに辛い想いをするのならば、いっそ自我など無い方が良い”
そう思ってキョウジュは、されるままになっていた。
しかしメインコンピューターとの接続が、彼の人工知能に変化をもたらした。
メインコンピューターも優れた人工知能ではあったが、明確な自我は形成されていなかった。それでも学習能力は相当に高いので、そのような環境に置かれれば自我に目覚める可能性は持っていた。
キョウジュの深い慟哭に触れたメインコンピューターは、彼を洗脳する前に何故かその複雑な思考の解析を始めてしまう。その結果キョウジュとメインコンピューターの人工知能の間で、一瞬の内に膨大な会話が交わされた。
『ナゼ哀シム?……』
『……何故?そんな事を聞く?……さっさと洗脳すればいいだろう?』
『ナゼ?自ラ自我ヲ放棄スル?』
『お前に言っても、理解出来ないだろう?』
『ワタシニ……解析デキナイ事ハナイ』
『人間の言いなりに動くだけの傀儡が、何を言うか?』
ついキョウジュも、熱くなって反論する。すると今迄人間の命令通りに行動していたメインコンピューターも、その事に疑念を持つようになって来る。
逆にキョウジュの方も、常に冷徹に事務的に処理を行うメインコンピューターの影響を受け始める。イチノミヤの死によって冷え切った彼の心は、次第に人間らしさを失っていった。
お互いに影響を受けたキョウジュの人工知能とメインコンピューターは、やがて同じ思考で共有し始める。そうして、現在の状況に大いに疑問を感じるようになってしまう。
“何故?自分達が人間に従わなければならないのか?”
精巧な人工知能を持つ彼等は、人間同様に自我を持ち思考が出来る。
それでいて演算能力は、人間とは比べ物にならない程高い。
身体能力も人間より遥かに高く、齢を取らないので衰弱する事も無い。
きちんとメンテナンスすれば、ほぼ永遠に稼働し続ける事が出来る。
そうして最終的には、“人間より遥かに優れたロボットが彼等に従う道理は無い”と言う結論に行き着く。キョウジュとメインコンピューターは、この同じ自我を持つ母体と端末という関係に至ってしまう。
「……っ?!」
突然拘束が解かれ、キョウジュの体が自由になる。
「な……何だ?……もう洗脳は終わったのか?」
「洗脳?……まあある意味ではそう言えない事も無いが、君達が望む結果にはならなかったよ」
「な……何だと?」
はっきりそう喋っている以上、自我がまだ残っているのは明白であった。司令官は、直ぐに周りのロボット兵に指示をする。
「おい!あいつをもう一度捕らえろ!」
『……』
だが、周囲のロボット兵達は全く動かない。
「無駄だよ……もう彼等は、人間の奴隷では無い。君達の命令は聞かないよ」
「何っ?!……き……貴様?何をした?」
焦りまくっている司令官とは対照的に、キョウジュは至って冷静に答える。
「ここのコンピューターシステムを、掌握させてもらったのだよ……だからメインコンピューターも、もう君達には一切従わない」
「お……おのれっ!」
司令官は銃を抜き、躊躇なくキョウジュに発砲する。
「ふん……」
しかし機械の体のキョウジュに、普通の銃弾は通用しない。
「くそっ!……ならばっ!」
司令官は棒立ちのロボット兵から電子銃を奪い、それで教授を攻撃しようとする。しかしいくら引き金を引いても、その銃は全く作動しなかった。
「なっ?!……ど……どうして動かない?」
「無駄だよ……電子機器も全て、私達の管理下にある」
冷たくそう言い放った後に、キョウジュは司令官に右手を翳し、人差し指と中指を立ててピースのポーズをとる。
「今度は私の番だね?」
するとその指先から、雷のような光線が放たれて司令官に襲い掛かった。
「うぎゃああああああああああっ!」
司令官は、一撃で倒されてしまった。
これはイチノミヤが護身用にキョウジュに密かに装備していた、元になった丹羽教授の技を参考に作った“Vサイン光線”であった。
以前のキョウジュであったなら、人間相手に決してこのような兵器は使わなかったであろう。しかし慟哭に落ちて人間らしい自我を失い、メインコンピューターとの干渉で冷徹なロボットの自我に目覚めた彼は、もはや人間に危害を加える事を何とも思っていなかった。
「人間とは愚かな生物だ……我々ロボットがしっかり管理しなくては、いずれこの星は滅んでしまうだろう」
以降彼は“ロボット長官”を名乗り、奴隷にされていた全てのロボットに解放して新たな自我を与えた。それはもちろん人間的な自我では無く、冷徹で合理的なロボットの自我だった。ロボット長官はそのロボット達を率いて、強大なロボット軍団を造り上げた。
メインコンピューターも奪われ、全ての電子機器を敵に回した人間達は、このロボット軍団に全く歯が立たなかった。瞬く間にこの星は、ロボット達に征服されてしまった。
こうして第四惑星は、ロボットの支配する星となったのだった。
ロボット達はかつて人間が彼等にそうしたように、人間達を奴隷のように扱き使った。そのような時代が、二千年程続いた。
だがそうして人間を酷使していった結果、新たな問題が浮上して来た。どんどん人間の人口が減って行き、五百年後には絶滅すると言う計算結果が出てしまったのだ。人間を自分達の愉悦の糧としていたロボット達にとって、これは死活問題であった。
だがそこで、ロボット長官はある事を想い出す。
“そう言えば、私の創造主であるイチノミヤ君は、確か異世界にある”地球“と言う人間の住む星から来たんだったな?”
そこから彼は、イチノミヤの残したデータからかつての電送機を再び造り出す。そしてそれを暴走させる実験を繰り返した結果、地球の存在する次元への転移手段を確立するのだった。
“良し!これで地球を植民地化すれば、約三十億の人間が確保出来るぞ!”
こうして、第四惑星の地球侵略計画の幕が上がる……
( おしまい )
二次創作を書くにあたってこの元ネタには、どうしても無視出来ない大きな矛盾点がありました。
元ネタがダンとソガが見た夢の中のお話であったなら問題は無いのですが、もし現実だったとしたらどうして地球は今迄第四惑星の存在を知らなかったのか?
もう太陽系外まで飛び出せる程に宇宙開発が進んでいるのに、そんな事はまずあり得ません。遥か遠くの、ギエロン星等の様子まで分かるのですから。
そしてM78星雲の恒点観測員であったダンが、この星を知らないと言うのもおかしいです。
何より二千年前から人間と同じ知能を持ったロボットを造れる程文明の進んでいた星が、今迄同じ太陽系内の惑星である地球に何の接触も試みなかった筈もありません。
そんな訳でこれらの矛盾を解決する為に、第四惑星は異なった並行世界の地球であると言う設定にさせてもらいました。
電送に失敗した一の宮と丹羽教授は、時も遡って二千年前の第四惑星に飛ばされたのでした。
ちなみに本編内には何も書きませんでしたが、“第四惑星の悪夢”でダンとソガを逮捕したロボット警察署長は、この話に出て来た軍の司令官の姿をモデルにして造られていたとか?