ワクが死んでから数日の間、僕は自分がどういう存在かを改めて確認した。
僕の使命、それはこれから地球に来るであろうあのロボットたちと戦って勝つこと。
しかもそれが15回行われることになる。
その内の2回が既に行われ、残りはあと13回。
だが、ワクの一件もあるから、あと13人も犠牲を出すことになってしまう。
それも彼と一緒にいたあの少年少女たち14人の中から。
どうやら彼らは僕の操縦者として契約して、ランダムで選ばれることになるらしい。
しかもその契約は、僕を操縦する代わりに、戦いが終わればその時に選ばれたパイロットの命が動力源として僕に吸いつくされてしまって、死んでしまうことだ。
誰かはわからないけど、ワク以前に既に誰か一人死んでる。
ワクが死んだ時、皆は呆然としていた。
皆ワクが死んだことを受け止めれてないようだった。
あれからまだ操縦者がいないから誰とも話せないから皆が今どうしているのかはわからない。
僕としては、こんな存在とわかった以上、一刻も早く彼らを死なせないためにも契約を破棄したいが、それができないようになってる。
恐らくこれは戦いが終わるまで切れない仕組みになってるんだ。
何とかならないかと思ってると。
「…っ、次は俺か」
と、少年の声が聞こえた。
メガネを掛けた少年だ。
契約した名前の中にあった。
確か名前は。
『…次のパイロットは、君か小高 勝』
「コダマで良いよ。
ワクが戦ってるときに気になってたけど、お前がワクにこうして話しかけてたんだなジ・アース」
『驚かないのか』
「別に?
俺が選ばれたってことは、俺が次の戦いでお前を操縦するパイロットなんだってことだし、お前のこともただのナビゲーターと思えば大したことないよ」
コダマは椅子の背もたれにもたれながら、手にしたモデルガンを触る。
『聞きづらいが、あの戦闘が終わってから、ワクは見つかったのか?』
「見つかったよ、案の定死んでたって。
死体も親元に返されて、島から帰ったあと俺たちは皆で集まって葬儀に出たんだ。
警察からの尋問もあって大変だったけどね。
一応死因も聞いたけど、海に落ちる前にワクのやつ死んでたらしいよ。
落ちたときの骨折はあったけど、それは死因とは関係なくて、命が空っぽだったからはっきりとわからないんだってさ。
…あれ、ウシロじゃなくてお前が原因なんだろ?」
『そうだな。
…もう一つ、聞いてもいいか?』
「なんだよ」
『君は、僕のことを恨んでないのか?
ワクは、僕のせいで死んだようなものだし』
「ワクはあの時犠牲となる命だったんだ。
そういう運命にあったんだよ。
それにお前はワクが念じて動いてただけ。
でも俺は違う、選ばれた命だから、死ぬことはないんだ」
『選ばれた命?』
「そ、俺たちはお前のパイロットになって、あいつらと戦うんだ。
地球上に存在する100億の命から選ばれた存在、だから選ばれた命なんだ。
でもワクはそんな存在なのに死んだ。
俺たちの中じゃ、あいつはそういう運命にあったってだけの話さ。
お前だって、ワクがそんな運命にあったから殺したんだろう?」
『それは違う、僕はそんなつもりじゃ…』
「ふっ、別に過ぎたことだ。
もうこの話は終わりにしよう。
これから俺はパパのところに行くんだ」
『パパ?
君のお父さんのことか?』
「当たり前だろ、他に誰がいるんだ」
コダマはそのお父さんがいるという会社に向かいながら色々と話してくれた。
お父さんは建設会社の社長をしてるらしい。
成り上がりの建設業者で、人に勝つことしか考えず人を見下してケチつける人らしい。
それはお父さんが選ばれた人間だからと思ってるらしい。
お兄さんもそこで専務をしてるが、そんなお父さんに対して仲が悪く、会議でもよく言い争ってるそうだ。
…俺は人間じゃないし、価値観も違うだろうから、どう言ったら良いかはわからないが、お兄さんの気持ちも、わかる気がする。
それはコダマも同じらしい。
でもコダマはその上で、お父さんのことを尊敬し、憧れてるそうだ。
コダマからすれば、確かに愚かしい人だが、それでも選ばれた人なんだから、何をしたって良いと思ってるらしい。
それにその人を逆撫でする言動一つ一つが計算されてるからと。
それにお兄さんのことは、お父さんの所で働くのが嫌なら会社を辞めて別の所で働けばいいと思ってるそうだ。
会社に着いて、予め予約してたから、受付の人が社長室に通してくれたが、そのお父さんはまだ会議中らしくいない。
代わりに隣の部屋で怒鳴り声が聞こえてきた。
『ここの隣ってまさか』
「会議室だよ、パパたちは今そこで会議してるんだよ」
『…その割には、随分と穏やかじゃないな』
「いつもこんなだよ。
主に兄さんがパパと討論してるんだけどね。
それ以外の皆はパパを恐れて何も言わないんだ」
『…そうか』
それから数分後。
「もういい、着いていけませんっ!!」
と、スーツを着た青年が会議室を出て行った。
「待て真一!お前はここの専務だろっ!!
…全く」
真一と呼んだ青年を引き留めようとする初老の男が会議室から顔を出すが既に出ていったこともあってやれやれといった感じだった。
恐らく、彼がコダマのお父さんなのだろう。
「んっ、おぉ勝!来てくれてたのか!
お前、あの怪獣を見たんだって?
どうだった?」
「うん、すごかったよ」
「はははっ、そうかそうか!
じゃあもうすぐ会議が終わるから、そこで待っていなさい」
「うん、わかった」
彼は笑顔でそう言うと会議室に戻ったタイミングを見て、再び声を掛ける。
『…お兄さんにはあれだけ怒鳴っていたのに、君には優しいんだな』
「兄さんと違って、俺は逆らわないからね。
それに俺はパパの息子であってまだここの社員じゃないから、兄さんみたいに衝突することもないし」
『…そうか。
なぁコダマ、君は選ばれた命は何があっても死ぬことはない、結局上手くいくんだと思っているのか?』
「そりゃそうだよ。
現に俺のパパは、そうやってずっとこの会社の社長をやってるんだから」
『なるほどな。
…これは僕が言えた訳じゃないけど、これだけは覚えてほしい。
選ばれた人も結局死ぬよ、ワクと同じように。
ワクだけじゃない、前回の戦いで巻き込まれて死んだ人たちの中にだって、君の言う選ばれた人がいたはずなんだ。
だから…』
「その時はその時で、彼らはそういう運命にあったと思えばいいよ。
それに死んだなら選ばれた俺たちの糧になればいいんだから」
『…そうか。
そこまで言うなら、僕は君のことでとやかく言うつもりはない。
でも、後悔だけは、しないでくれ。
僕から君に言えるのは、それだけだ』
「ははっ、変な奴。
ま、せいぜいお前も、戦うときに足引っ張るなよ」
『ああ、努力はするさ。
君たちを死なせないためにも』
それから、戦うまでの間に僕とコダマは会話をすることはなかった。
話してる限りコダマは非情で冷徹な少年だけど、彼は彼なりの持論を話してくれただけだし、まだそんなに日が経ってない、こんな乗って戦えば死ぬような僕程度の意見じゃ、曲げるつもりもないのだろう。
でも、だからこそそれだけ真剣にそう考えてるからこそ、後悔してほしくなかった。
そして間もなくして、次の戦いが始まった。
戦場は街中だ。
相手は丸い体から触手を生やしたロボットだ。
「来るぜ、最高のショーの始まりだ!」
『コダマ、気をつけろ。
足元には逃げきれてない人たちがたくさんいる』
「ふっ、そんなの見りゃわかるよ」
コダマは念を送り、僕を歩かせる。
ゆっくりと、足を上げながら高いビルを壊し、民家を踏みつける。
「おいコダマ!
迂闊に動くな、家を壊してる!」
「別に構わないよ」
「え?」
「それで死ぬのなら、そいつの運命なんだから」
「ひどい…!」
皆の非難を物ともせず、コダマは僕を歩かせる。
建物もそれに伴って破壊されていく。
「コダマっ!!」
「コダマっ、もうやめてくれ!」
「やめない、だって俺が戦えば、パパの仕事が増えるんだ」
「ちょっとあんた!いい加減にしなよ!」
「それに100億の命を救うためなんだ。
1万人が死ぬことなんて安いことだろ?」
「そんなことない!
一人ひとりの命のことも考えて」
「もちろん、俺だって考えるさ。
でもそれは、自分の次に、だろ?」
『…いや、そう言うわけにも行かないらしいぞコダマ。
足元を、よく見てみろ』
「えっ?」
彼は僕の足元を見ると、そこには渋滞で動けない車があって、その中に赤い高級車があった。
そしてそこに乗っていたのは。
「パパっ!!」
『コダマ、僕は君の意見に対してとやかく言うつもりはない。
君がさっき言ったように、これで死ぬのがその人の運命なら、もな。
だが、その運命の中に、君が尊敬しているお父さんが含まれようとしている。
君は、それを許容できるのか?』
「くっ…、じゃあどうすればいいんだよ!
動かずに戦えって言うのかよ!」
「ワクの時と同じく、さっきから誰に話しかけてるのか知らないが、どうやらそれがごもっともな意見だな」
そこにコエムシが割って入り、視界に入った敵の様子の違和感を覚えた。
敵はまるで、足元の人や建物を極力避けてゆっくりと歩いてきていた。
「何か、様子が変ね」
「何が?」
「街を壊すを躊躇ってるの、あっちのほうじゃない?」
互いに距離を置いてるが、敵と対峙した。
どんな攻撃が来るのかわからないが、コダマも僕を身構えさせる。
すると、相手はその丸い体から一本の触手を伸ばして僕の右手に巻き付いてきた。
すごい力だ、今はまだ耐えれてるが下手をすれば引っ張られそうだ。
するとダメ出しにもう一本触手が伸びて、今度は僕の右肩に巻き付き更に力を込めて引っ張られる」
「うわっ!」
「きゃあっ!!」
『くっ、踏ん張れコダマ!』
「うっ、うぅ!!」
コダマの強い念により何とかその場で踏ん張れてるが、それでも引き摺られて足元の家を壊してしまう。
「コダマ!家を壊してるぞ!」
「じゃあ、一体どうすればいいんだよ!?」
『とにかく、今は踏ん張らせてくれ!
どっちみち、迂闊には動けないぞ!』
だがやはり相手が強いからか、僕の体が前のめりに倒れそうになり、今度は左手にも触手が巻き付けられる。
「何やってんだ!」
「横からごちゃごちゃ言うからだ!」
「コダマ、足を取られたらまずいぞ!」
「…え?」
大人しそうな少年の言葉に呆気を取られたコダマ。
彼の忠告通り、触手が左足に巻き付き、勢いよく引っ張られたことにより、体が後ろに倒れようとしている。
「う、うわっ、倒れる!」
「慌てるな、コクピットはフローティング構造だ」
「コダマッしっかりしろ!!」
「お、俺は…」
『今だコダマ!
巻き付いてる触手を引っ張れ!』
「えっ」
『僕の体が倒れようとしてる力を利用して、触手を引っ張るんだ!』
「くっ、うぅっ!!
俺は、選ばれた命だぁぁぁ!!!」
彼の強い念が、倒れそうになりながら、腕に巻き付いた触手を強く引っ張る。
倒れようとする力と、強く引っ張る力の相乗効果により、相手の丸い巨体が勢いよく引っ張られて宙を舞い、僕の後ろに叩きつけられ、体に巻き付いた触手が解かれ自由となる。
「よ、よし!」
『コダマ、足元には気をつけろ!
腕で支えるんだ!!』
「…!」
今まさに倒れようとした僕の体は、建物を腕で潰しながら完全に倒れないように支える。
足元にあった車たちも、その中にあったコダマのお父さんの乗る車も無事だ。
だが僕を支えたコダマは、お父さんを失うかもしれなかった恐怖と焦燥から、大量の汗を垂らしていた。
「はぁ…はぁ…!
パ、パパ…!」
『大丈夫だ、彼は無事だ。
…それよりもまだ行けるか?
起き上がらない内にトドメを指すんだ!』
「あっ、あぁ…!
…うぉおおおおおお!!」
勢いよく起き上がった僕の体は、叩きつけられ丸い体が裏返って動けない敵に馬乗りして、両手を装甲の隙間に突き刺し、引き剥がしていく。
やがて見えた白い球体、敵の急所を手に取り、そのまま握り潰した。
急所を握り潰されたことにより、相手の光も消えた。
「…見事なモンだ」
「かっ、勝ったんだ…俺が」
コダマの心情を現すように、僕の体は脱力するようにその場に膝を付いた。
「…ジ・アース」
『何だ?』
「どうして俺に、足元にいるパパのことを教えてくれたんだ?
いやそれだけじゃない、何で助けるように」
『…僕には、君が言う選ばれた命について、正直よくわからない。
実際、こんな巨大な僕からすれば、その選ばれた命も、そうでない命も、皆同じにしか思えない。
でも、それでも君のその考えは尊重したいと思ったし、何より後悔してほしくなかった』
「え?」
『選ばれた命についてはともかく、君は君のお父さんのことを尊敬していたんだろ?それなのに、自分の父親を救うことが出来なかったら、きっと君は一生そのことに囚われてしまうかもしれない。
君が他の人たちのことをどう思っていても、僕からすれば君は僕のパイロットだ。
だから君にそんな思いをさせたくはなかった』
「……ふっ、全く余計なお世話だよ」
そう言いながら見上げたコダマの顔は、まるで憑き物が落ちたかのように晴れやかだった。
『…それとすまない。
戦いが終わった以上、君はもう』
「わかってるよ、今から死ぬんだろ俺は?」
「えっ、ちょっとコダマ、今何て?」
「あんた、これから死ぬの?」
僕に向けて呟いた言葉を聞いた皆が、動揺を隠せずにいる。
『…本当にすまない。
こうなる前に、何とかしたかったんだが』
「気にするなよ、俺もまたそういう運命にあったってだけさ。
…それに、選ばれた人であるパパも助けられたんだ、悔いはないよ」
『それもまた、運命と受け入れるんだな』
「あぁ……。
じゃあな」
晴れやかな表情のまま、コダマの体はまるで糸が切れたかのように前のめりに倒れ、彼との契約も、彼から流れたエネルギーも、全て消えた。
つまり、コダマは、小高 勝はたった今死んだのだ。
「コ、コダマァ!
おい、しっかりしろ!」
「…っ、死んでる」
「でも、何で」
倒れたコダマに駆け寄る皆。
そこへあざ笑うかのようにコエムシが躍り出る。
「あれぇー?
言ってなかったっけか?
これはパイロットの生命力が動力源なんだ。
だから、戦いが終わると同時に、パイロットは死ぬんだよ」
「えっ、うそ?」
「そ、そんなわけ無いだろ!?」
あまりにも残酷なことを告げられた少年少女たちは、絶望と動揺を露わにする。
彼らの絶望も分からない訳では無い。
戦いに勝ったのに、その勝ったパイロットが死ぬんだ。
つまり勝っても負けても、死ぬ運命には変わりない。
僕の声は彼らには届かない、まだ次のパイロットが選ばれていないから。
いや、仮に聞こえたとしても、僕は彼らにどう声をかけていいのか分からなかった。
…すまないワク、コダマ、皆。
僕がこんな存在だったから、君たちをこんな運命に巻き込むことになってしまった。
今更悔やんでも仕方がないが、せめてもの償いとして、今は彼らの行末を見届けることしかできない自分を呪った。
ジ・アースの見た目について
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