ぼくは    作:ガンダムラザーニャ

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愛憎

コダマの死を機に、コエムシから告げられた残酷な宣告。

 

この僕、ジ・アースと契約しパイロットに選ばれた者は戦いの後に僕に生命力を吸われて死ぬ。

 

少年少女たちが絶望する中、一人の少年がそれならジ・アースに乗って戦わずいれば良いんだと言った。

 

少年の名は加古功、皆からはカコと呼ばれていた。

 

だが、そんな彼の希望を打ち砕くように、コエムシからあることを告げられた。

 

それは戦闘が始まって、48時間以内に決着がつかないと、この世界が消滅すること。

 

皆の絶望もそうだが、カコはそれに加えて錯乱し、皆に八つ当たりし始めた。

 

それから暫くの間解散となったが、その間に次のパイロットが選ばれた。

 

そのパイロットがカコだ。

 

当然彼が選ばれたことにより、僕も彼に話し掛けることができるようになったが、死の恐怖により錯乱し、自暴自棄となったカコには僕の声が何一つ届かなかった。

 

だから僕は、彼を見守ることしかできなかったこと。

 

それと、僕の体に、誰かが入ってきた。

 

話すことはできなかったが、会話から察するに、政府の人間なんだと思った。

 

子供たちの誰かが、政府と関わりがあって連絡したんだと思う。

 

きっと、この世界と彼らを助けるために。

 

外側じゃ僕の体がどんな風にできてるのかって皆が装甲の一部を採取しようとしてるけど、まず触ることもできないみたいだ。

 

電波も、僕の体から発するジャミングのせいでそれができない。

 

…彼らは僕を解析して、あの子たちを助けたいと思ってくれてるのがよくわかるが、僕の体がそれに応じてくれそうになくて、申し訳ないと思った。

 

内側では一人の女性が子供たちと共に入って、中の様子を調べていた。

 

パイロットにしか聞こえない僕の声を聞こうと、コミュニケーションを取ろうとしてたけど、パイロットではない彼女に、僕は話すことができない。

 

僕が会話できるのは、今のパイロットであるカコだけなんだから。

 

しかし、そこで最悪なことが起こった。

 

結論から言うと、カコは死んだ。

 

敵が来た日に、当時水族館にいた彼の元に本田千鶴、皆からはチズと呼ばれた少女が駆け寄った。

 

ずっと連絡が取れなくなっていた彼のことを探していたんだ。

 

しかし、カコはチズを襲おうとした。

 

僕は何度も彼にやめろ、やめてくれと声を掛けるが、やはり一切僕の声は彼には届かない。

 

世界が消滅するとか、最早彼の中ではどうでも良くなっていたんだ。

 

だからどうせ死ぬならと、豹変した彼は逃げる彼女を捕まえようとしたが、抵抗されて、階段から突き落とされた。

 

彼はそれで死ぬことはなかったが、気を失ってしまった。

 

突き飛ばしてしまった彼女は、自分が殺してしまったと勘違いし、動揺していた。

 

僕はそんな彼女に違う、君は彼を殺していない、まだ生きてるんだと叫ぶが、パイロットではない彼女には届かなかった。

 

その直後に、外に現れた敵による攻撃で、水族館が崩れようとしていた。

 

チズは急いでその場から脱出したが、カコは気を失ったままだ。

 

僕はカコに何度も呼び掛けたが、一向に起きない。

 

やっと目を覚ましたと思ったら、瓦礫に埋もれてしまい、彼との契約も切れてしまった。

 

コクピットに転移させられた時には、彼はもう変わり果てた姿で横たわっていた。

 

カコの死体を見た子供たちは悲鳴をあげ、コエムシも面白くねぇと呟いていた。

 

コエムシはパイロットがいなくなってしまったからと、次のパイロットを選ぶために椅子が回る。

 

そして次に選ばれたのが。

 

「…私、なんだ」

 

チズだった。

 

「私が選ばれたから、私が戦えば良いんだよね?」

 

「そういうことになるな」

 

「チズちゃん…」

 

皆が彼女を心配そうに見る中で席に座り、改めて変わり果ててしまったカコを見る。

 

「コエムシ、カコくんを」

 

「片付けとくか?」

 

「……お願い」

 

コクピットから、カコの体は消えた。

 

恐らく元あった水族館だった瓦礫の山に戻されたのであろう。

 

「…カコくんが死んだのは私のせいよ。

 

だから彼の代わりにあいつを倒して、罪を償う」

 

『チズ、それは違う。

 

確かに君はカコを突き飛ばした。

 

でもあの時彼はそれで死んだんじゃない、気を失っていただけだ』

 

「…ジ・アース、私を庇ってるの?」

 

僕の声が聞こえた彼女は、淡々としながらも質問する。

 

『事実を言ってるだけだ。

 

君もさっき見ただろ、彼の遺体を。

 

あれは瓦礫で潰されてしまったからであって、君のあれは関係ない。

 

だから、自分を責めないでくれ』

 

「それでも、原因を作ったのは私。

 

だから償いはする。

 

でも、その前にやっておきたいことがあるから、力を貸して」

 

『やっておきたいこと?』

 

一体何だろうと思ってると、コクピットから周りの光景が見え始める。

 

周囲の街が瓦礫になって、大変なことになっていた。

 

そしてその中で、敵が見える。

 

大きな魚のヒレにも見えるそれは、よく見ると巨大な丸鋸になってる上半身で、下半身の四本脚で、それを支えてるような姿をしている。

 

周りには政府のヘリや戦闘機が飛んでミサイルを撃ち込まれてるが、全くビクともしていない。

 

だが、僕の姿を確認した相手は、その巨大な丸鋸を回転させ、近付いてくる。

 

近付いてくる敵に皆の表情が強ばる中、チズが取った行動は。

 

「…」

 

彼女の念により、僕の体はまるでそっぽを向くように、敵に背を向ける形で移動し始める。

 

「チズ、足元気をつけて」

 

「うん」

 

足元を見ながら慎重に、建物を壊さずに僕を移動させるチズ。

 

だが、敵とは違う方向に歩かせるチズの行動に違和感を覚えた皆は。

 

「チズ?どこに行くの?」

 

「まさか逃げるつもり!?」

 

「おいおいそりゃあねぇだろ!?」

 

「…償いはちゃんとする。

 

けど、死ななくても良い人が大勢死んで、許せない人が、生きてる」

 

そう言いながら彼女は、敵から背を向ける形で僕を歩かせる。

 

だが相手はそれを許すはずがなく、僕の後ろから丸鋸を回しながら着いてくる。

 

そこまでして優先すべきことは何なのか、含みのある彼女のセリフに違和感を覚えるが、直後にモニターに拡大されたいくつもの場所が映し出され、最終的に一つだけ残ったのは。

 

『ここは、学校か?

 

チズ、まさかと思うが君は』

 

「…」

 

チズは何も喋らない。

 

代わりにモニターから様々な映像が映し出される。

 

校庭、体育館、女子更衣室。

 

そしてその更衣室の中で一人、ロッカーの上にあるダンボールを漁る男の姿が。

 

「…この人、何してんの?」

 

「……っ、まだ、そんなことをやってるのね」

 

静かではあるが、彼に怒りを覚えるチズ。

 

「ねぇ、この人誰なの?」

 

「…僕たちの、先生、だよ」

 

「えぇっ!?」

 

『何だって?』

 

太った少年が、辿々しく言ったことに、皆も僕も、呆然とする。

 

そして、これまでの彼女の言動で理解してしまった僕は。

 

『チズ、君は彼に、復讐でもしたいのか?』

 

「そうだよ。

 

だから、あなたの力を使わせてもらう」

 

念じられた僕の腕は体育館の角へと向けられる。

 

そこから放たれたビームが、体育館の角を斬り落とす。

 

中にいた男は、僕の姿を見て恐怖し、そのまま外へと走り出す。

 

それを逃さないとばかりに、チズは僕の腕を振るう。

 

逃げ惑う男を追い回すように、破壊した体育館の瓦礫が降り注ぐ。

 

「チズっ!!」

 

「いいよ、私のこと、軽蔑してくれても」

 

「そういう話じゃないでしょ。

 

こんなことをしても」

 

「敵は待っちゃくれねぇみてぇだぜ?」

 

「えっ」

 

『チズ、気をつけろ!

 

敵が来てる!』

 

僕の後ろで敵が巨大な丸鋸を回しながら背中を攻撃してきた。

 

僅かながら、僕の背中が削られていく。

 

「うっ…、邪魔しないでっ!!」

 

振り向きざまに、僕の腕は裏拳の要領で敵の丸鋸の側面を叩き込まれる。

 

強い衝撃だったこともあり、敵はそのまま倒れた。

 

だがその足元にあった街が、平たい敵の体に押し潰されてしまった。

 

その惨状に、皆は目を伏せてしまう。

 

「チズ!

 

わかってるんでしょ!?

 

自分の今しなきゃいけないことを!」

 

「わかってるよ。

 

私は敵と戦って、そして死ぬの」

 

「…」

 

まるでもうこの先のことなんか知らないとばかりの、チズの言葉に皆は言葉を失う。

 

彼女の言う通りだ。

 

僕と契約してる以上、パイロットに選ばれたら最後、勝っても負けても死ぬ運命にある。

 

カコもそうだ。

 

彼は戦えずに死んでしまったが、パイロットとして繋がってる間は彼の絶望が錯乱と一緒に伝わった。

 

その末にどのみち死ぬのならと、死ぬまでにやっておきたいことをしようと、あんな凶行に出てしまった。

 

チズも、今そんな心境なのだろうということが、会話せずとも伝わる。

 

「ずっと考えてた。

 

どうして私は死ぬの?

 

どうして私が死ぬの?

 

偶然?事故?必然?因果?」

 

「チズ…」

 

『チズ…』

 

唇を噛み、悲しげに眉を寄せるチズ。

 

「もう…っ、どうせ死ぬなら、少しぐらい好きにさせて。

 

…さぁ、隠れてないで出てきて、先生」

 

崩れた瓦礫の後ろから、身を隠しながら姿を見せる男。

 

そのまま逃げようとすれば、行く手を阻むように、彼女は僕の腕を突き立てる。

 

別の方向に逃げようと、突き立てる。

 

そんな光景を見ていられず、皆も目を伏せる。

 

「何があったかわかんないけど、もう良いんじゃねぇか?」

 

「もうやめてっ」

 

「…わかった」

 

地面に突き立てた僕の腕を上げて、彼の体を貫こうと振り下ろされる。

 

『待てチズ!

 

誰かが彼の前にいる!』

 

「…っ」

 

既のところで、今まさに貫こうとしていた腕が止まる。

 

何故なら、男の前に誰かが盾になろうと手を広げていたからだ。

 

チズがそのまま大人になったかのような見た目をした女性だ。

 

「お姉ちゃん…」

 

『…君のお姉さんか』

 

「そうだよ…。

 

馬鹿なお姉ちゃん、先生がどんな人なのかも知らないで、庇ったりして。

 

どいてよっ」

 

どくように、僕の指先で促すが彼女のお姉さんは動かない。

 

彼には指一本も触れさせないとばかりに、その手をめいいっぱい広げて守ろうとしている。

 

どうあってもどかないと悟った彼女は、強い念を込めて僕の腕を振り上げ、突き立てた。

 

地面を穿つ音が周囲に響く。

 

「お人好しなのは、変わらないんだから。

 

本当に、何もわかってない」

 

僕の腕は、確かに突き立てられた。

 

でもそれは、彼と彼女の体を貫くことはなかった。

 

何故なら彼女が僕に突き立てさせた場所は、二人のすぐ隣の地面なのだから。

 

「でも、私も同じだ…。

 

私も、お人好しなんだ…っ。

 

どうして、ここまで来てできないんだろう…っ。

 

どうしてっ、私はいつもこんな中途半端なの…っ!?」

 

そんな自分を責めるように、彼女は声を荒げながら涙を流す。

 

『チズ、それは君が、優しい人なんだからと思う』

 

「え?」

 

『僅かな間だけ君と繋がっていたけど、伝わってくるよ。

 

君の怒りと、悲しみも、全部。

 

でも、それでもなお踏み切れなかったのは、それは君の中にある優しさが、それを止めてくれていたんだよ、きっと』

 

「私の……中?」

 

『あぁ。

 

君と彼の間に何があったのかは知らない。

 

パイロットに選ばれた君はどうせ死ぬならと、復讐のために僕を動かした。

 

でも、非情に徹しきれなかった。

 

だから、君は自分が思っているよりも、本当は悪い人間じゃないんじゃないかな?』

 

「違うよ、私はただ、あの人が許せなくてっ」

 

そう言いながら彼女は、自分の両手を見つめる。

 

その手は僕の腕ではなく、彼女自身の両腕だった。

 

震える手は、いくら抑えても止まらない。

 

『…これは、僕の推測だし、君にとっては的外れなことかもしれないけれど。

 

本当は、復讐じゃなくて、死ぬ前に彼を一目見ておきたかったんじゃないのか?』

 

「……っ」

 

図星と言わんばかりに、彼女は顔を歪ませる。

 

『君は、今でも彼が憎いかもしれない。

 

でもこうなってしまった以上、戦って死ぬ前に彼が何をしているのかを見ておきたかった。

 

でも先程の彼の行動が、君にとって許せなかったから、あんなことをしてしまったんじゃないのか?』

 

「…そんなの、もう私にはわからない。

 

初めこそは、先生のこと、好きだった。

 

いつだって心身に付き添ってくれた先生が好きだった。

 

でも、裏切られた。

 

憎いのに、私は中途半端なせいで、憎みきれない。

 

もうどうしたらいいか、わからないよぉ…!」

 

その言葉を最後に、彼女は泣き崩れる。

 

だがそれで感傷に浸らせてくれるほど、現実は甘くなかった。

 

倒れた敵は起き上がって、丸鋸で僕の背中を斬り裂き始める。

 

『…チズ、どうしたらいいか、わからないって言ってたよね?

 

だったら、君に選んでほしい』

 

「え?」

 

背中に大きな斬り傷を作りながら、僕は彼女に問い掛ける。

 

『このまま復讐に徹しきれずに死ぬか、復讐よりも償いのため二人を守るために戦って死ぬのか。

 

君はどちらを選ぶ?』

 

「わ、私は…」

 

皆が心配そうに見る中で、彼女は今先程僕に突き立てさせた地面を見る。

 

二人はもういない、どこか遠くへ逃げたのだろう。

 

「……私は、戦う。

 

戦って、そして死ぬ。

 

それが、私に残された最後の道だもの」

 

『……わかった』

 

「……ねぇ、最後に一つ聞いていい?

 

ワクくんとコダマくんとカコくんが死んだ時、あなたはどう思ったの?

 

あなた、私に声を掛けてる時でもすごく悲しそうだったわよ?」

 

『僕は最初、ワクが死んだときに自分がどれだけ最悪な存在かって思い知ってしまった。

 

だから一刻も早く、戦うまでに契約を絶ち切って、こんな運命から君たちを助けたかった、何とかしてあげたかった。

 

コダマも、カコも、そしてチズ、君もだ。

 

でも、僕にできるのは、戦いが終わるまで君たちと寄り添うことだけ。

 

…本当に、すまない』

 

「…ふふっ、何それ。

 

私のことを優しい人って言う割には、あなたも大概じゃない。

 

…でも、それなら約束して」

 

『約束?』

 

「うん。

 

私はこれから敵と戦って死ぬ。

 

だからこれ以上、私たちみたいな犠牲を出させないためにも、皆のことを助けてあげて」

 

『…あぁ、そうしてあげれるように、努力するよ』

 

「……ありがとう、ジ・アース」

 

その椅子には、復讐と葛藤に苛まれた彼女はもういない。

 

そこには一人の、勇敢で心優しい少女が座っていた。

 

『……さて、行こうか』

 

「えぇ」

 

チズの強い念が背中を斬り刻む丸鋸を弾き、敵の側面を叩き込む。

 

一度ならず二度、三度、幾度となく殴っていく。

 

彼女は命の限り叫ぶ。

 

憎かった男と、そんな彼を庇ったお姉さんがいるこの世界を守るために、己の命を焼き尽くすように叫ぶ。

 

その叫びは、誰よりも強く、勇ましく、そして美しかった。

 

やがて巨大な丸鋸が大きく歪んだことにより敵は止まった。

 

だがそれで終わりではない。

 

急所を見つけていないのだから。

 

「さぁ、急所はどこなの!?」

 

動きが止まっただけで、装甲を引き剥がせていないので急所が見つからない。

 

「…わかった」

 

でもチズには、それがどこにあるのかわかったらしく、足を後ろに振り上げる。

 

「ここが、急所でしょっ!!」

 

僕の足が、敵の四本脚の中央を蹴り潰した。

 

奇しくもそれは、彼女が憎んだ男の急所を蹴り潰したようにも思えた。

 

どうやら本当に急所だったようで、敵はそのまま倒れた。

 

「圧勝だったな」

 

コエムシは彼女の周りを飛びながら言うが、当の彼女はやり切ったように、自らの下腹部を擦りながら、天を仰ぎ見る。

 

「…私、これから死ぬんだよね」

 

『そうだな』

 

「でも、仕方ないよね。

 

私、悪い子だから」

 

『君は、悪い子なんかじゃないよ。

 

優しい、ただ一人の女の子だよ』

 

「ふふっ、お世辞がいいよね。

 

もしあなたが人間だったら、私あなたのこと好きになっていたかもね。

 

…ねぇジ・アース、お姉ちゃんが幸せに生きていけるように、この世界を守って」

 

一滴の涙が、下腹部に触れる手に落ちた。

 

それっきり、彼女は動かなくなった。

 

チズは、本田千鶴はこの世を去った。

 

『…おやすみ、チズ』

 

僕は、動かなくなった彼女にそう囁やき、改めて皆を守ろうと決意を固めた。

ジ・アースの見た目について

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