ぼくは    作:ガンダムラザーニャ

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残酷な真実

戦いが終わってから、僕はモジが言っていたことや気になったことを考えていた。

 

僕が生み出された意味。

 

敵はただの機械ではなく、心を持った生き物。

 

それから田中や関、皆が覚えたここ最近の戦う場所の違和感。

 

思えば、敵の信号も不思議と僕の顔と似ていた。

 

それに、モジの心理戦に嵌まるなんて、多分感情を持たないただの機械じゃあり得ないと思う。

 

だから相手は中に人のような心を持った生き物が操縦してる存在の可能性も考えられる。

 

つまり、僕を操縦してる皆と同じ存在。

 

確信はないがその可能性が高い。

 

でも、それだとすると、皆がこれまで覚えた戦場に対するあの違和感は一体?

 

そう考えていると、誰かが次の僕のパイロットに選ばれたのを感じた。

 

短い髪が特徴の少女、マキだ。

 

「…っ、あたしが、次なんだ」

 

『…どうやら、そのようだね』

 

戦えば死ぬとわかっているから、彼女は思い詰めた表情となる。

 

「…もうすぐ弟が生まれるのに、ついてないよ」

 

『弟?君のお母さん、妊娠してるの?』

 

「うん、あと二週間なんだって。

 

お父さんとお母さんが18年間ずっと待ちわびた初めての子供なんだ」

 

『初めて?

 

ちょっと待ってくれ、初めての子供は君じゃないのか?』

 

「ううん違うよ。

 

あたし、養子なんだ。

 

本当のお母さんが、幼かったあたしを育児放棄しちゃったらしくて、餓死寸前のところを助けられたんだ。

 

それで、今のお父さんとお母さんに引き取られたんだ」

 

彼女の話を聞きながら、僕は衝撃を受ける。

 

まさか彼女が養子だったとは。

 

『そんなことが……。

 

ごめん、辛いことを思い出させてしまって』

 

「ううん、気にしないで。

 

本当の子供じゃなくても、二人はあたしのこと本当の子供のように育ててくれたし、今は二人とも大好きだもん。

 

ただ……」

 

『ただ?』

 

「もし、弟が生まれたら、二人とも今までみたいにあたしのことを本当の子供のように見てくれるのかなって、時々思っちゃうんだよね」

 

彼女の言葉を聞いて、僕は思わず言葉を詰まらせる。

 

確かに、本当の子供が生まれてしまえば、多分親にとってその子の方が大事になるだろう。

 

それは仕方のないことだ。

 

だが、彼女はそのことに不安を感じているのだ。

 

きっと彼女は自分が本当の子供じゃないことを気にしているのだ。

 

家族を愛してるからこそ、家族の愛を失うことを恐れている。

 

『…僕は、君のお父さんでもお母さんでもないから、それはよくわからない。

 

でも、君の両親はきっと、君のことを愛してくれてる筈だよ』

 

「そうだといいなぁ……。

 

ねぇ一つ気になってたんだけど、モジが消える前に、あんたに頼んだって言ってたけど、何の話をしてたの?」

 

モジの言った言葉が気になったようで、彼女が質問してくる。

 

『…確証がないから何とも言えないけど、もしかしたら、これまで死んでいった皆を生き返らせることができるかとしれないってことさ』

 

「えっ!? どういうこと!?」

 

彼女は驚いている。

 

当然の反応だ。

 

死んだ人間が生き返るなんて、普通では考えられない。

 

『あくまでモジが仮説なんだけど。

 

僕の中には、これまでパイロットになった皆の体がそのまま時間が止まった状態で安置されてるんだ。

 

それに、皆から引き抜かれた生命力も。

 

うまく行けば、体も生命力もある皆を生き返らせることができるってことなんだ。

 

コップに水を入れるようにね。

 

…でも、流石に体がないワクとモジ、戦う前に死んでしまったカコは無理なんだ』

 

「あ、そっか…。

 

ワクの体は火葬されちゃったし、モジも手術でドナーになった。

 

それにカコは戦う前に死んじゃったから生命力がないもんね…」

 

『そういうことさ。

 

どちらも欠けちゃだめなんだよ』

 

「……」

 

彼女は黙り込む。

 

そしてしばらくすると、口を開いた。

 

「どうして、こんなことになっちゃったんだろ…」

 

彼女の目に涙が浮かぶ。

 

『マキ……』

 

「パイロットになったのだって、本当はただの遊びのはずだったんだ。

 

ロボットを操作して遊ぶコンピューターゲームだって思ってたのに、まさかそれが現実で大勢の人たちを巻き込んで戦うことになるなんて、しかもパイロットに選ばれたら最後、パイロットが死ぬなんて、知らなかったんだ…!」

 

彼女の目からは涙が溢れる。

 

『コンピューターゲーム?

 

一体何があったんだ?』

 

膝を抱える彼女はポツポツと経緯を話してくれた。

 

元々自分たち15人は、自然学校に来ていたらしい。

 

そう、ワクが僕を操作して戦った、あの島だ。

 

ある日浜辺で皆で遊んでいると、洞窟を見つけて、中に入るとその先にはコンピューターなどの様々な機材が置かれた場所で、そこで皆はココペリという謎の男に会ったらしい。

 

彼から良かったらコンピューターゲームをしていかないかと誘われて、カナを除く14人で登録したという。

 

ちなみにカナが登録しなかったのは、兄のウシロからお前はやらなくていいって、止められたからだそうだ。

 

そこで一人足りないからと、最初は自分がやるからよく見るようにとココペリが言った途端に洞窟の外に出されて、そこで目にしたのが、僕だったらしい。

 

当初の僕には自我がなかったからわからなかったけど、それでもココペリが皆をコクピットに転送して、実際にどう戦うかを教えたそうだ。

 

そして、戦いが終わり、皆を転送する直後にこう言い残した。

 

君たち、本当に済まない、と。

 

…当時は皆にもその意味ははっきりとわからなかったけど、僕がどういう存在なのかを知って、その言葉の意味を知ったみたいなんだけどね。

 

…でも待てよ。

 

『マキ、今の話を聞いて思ったけど、何で僕の名前がわかったの?

 

ココペリも、一度も僕のことをジ・アースなんて呼ばなかったみたいだけど』

 

「え?

 

…えーと、最初ワクがパイロットになって、初めての戦いのときに、コエムシにあんたの名前を聞いたら、名前なんてないって言うから、あたしが名付けたの。

 

地球を守る究極の戦士、ジ・アースってね」

 

『…そっか、じゃあ君が僕の名付け親なんだね』

 

「うん、そうなるかな。

 

何か、照れくさいな」

 

彼女は顔を赤くする。

 

僕は、彼女にお礼を言った。

 

『ありがとう、マキ』

 

「えっ?な、何で?」

 

『だって、君は僕の名付け親だろ?

 

そんな人にお礼を言うのは当然のことさ』

 

「……うん!どういたしまして、ジ・アース!

 

じゃっ、もうそろそろ家に戻らないとね!」

 

『うん、そうだね』

 

マキが家に戻って、中に入ると、彼女の母親らしき女性が倒れていた。

 

よく見ると、お腹が膨らんでいた。

 

「うぅ…!」

 

「お母さんっ!?どうしたの!ねぇ!?」

 

『まさか、陣痛?

 

…マキ、もしかしたら子供が生まれるかもしれない!

 

すぐに病院に連絡するんだ!』

 

「う、うんっ!」

 

マキが病院に電話すると、数分後に救急車が来た。

 

そして母親は運ばれ、マキも同行することになった。

 

それから検査で分かったことだが、どうやら明日産まれるかもしれないようだ。

 

それを証拠に陣痛の感覚が短くなってきている。

 

「まさかこんな早くなるなんて。

 

お母さん、大丈夫?」

 

「えぇ、今は大丈夫よ。

 

ありがとう、マキ」

 

「…うん。

 

っていうかお父さん何してんの!?

 

連絡したのにまだ来ないよ!?」

 

様子が落ち着いた母親と話をしていると病室にスーツを着た小太りの男がやってきた。

 

手には何かのグッズが入ってるらしい袋を持ってる。

 

「いや~遅くなってすまんすまん!」

 

「お父さんっ、こんな大変なときにどこ行ってたの!?」

 

「ん?

 

あぁ、連絡来る前にな?

 

今日発売の模型を買いに行ってたんだ、ほら」

 

中身を見ると、戦車や戦闘機などの模型があった。

 

しかも、よく見てみると、何だか僕に似た模型もある。

 

「お父さん、これって?」

 

「これか?

 

最近巷で有名になってるだろ?あの黒いの。

 

それで、模型にして売ろうってなってたんだが、これがまたすごそうだったんだ。

 

題して、『黒い怪獣』ってな」

 

ハハハ!と、元気良く笑うマキの父親。

 

…まさか、僕が模型として売られてるなんて。

 

「もう、今はそれどころじゃないよ!

 

模型と初めての子、どっちが大事なの!?」

 

「初めての子はマキだろ?

 

なぁお母さん」

 

「えぇそうよ。

 

二人目だから、慣れたもんよ」

 

「…っ!」

 

マキは驚き、そして泣きそうになるのを抑える。 

 

「…嘘ばっかり。

 

二人とも調子良すぎ!」

 

「ハハハ!」

 

「ふふっ」

 

二人とも本気でマキは自分たちの血の繋がった子供と思い笑う。

 

しかも、即答ってすごいな…。

 

「あっ、そうだ。

 

ねぇあなた、家からバッグ取ってきてくれる?」

 

「あぁ」

 

「そ、それならあたし行ってくるよ!」

 

「マキ、いいの?」

 

「うん。お母さん、今は大事な時期だし。

 

だからあたしが行ってくる」

 

「そう、ありがとうマキ」

 

そう言って母親は微笑む。

 

そして、マキは病室を出るときに、一度足を止めて。

 

「お父さん、お母さん。

 

ありがとね」

 

と、礼を言い、マキは病室を出る。

 

「…」

 

『君の家族、凄い人たちだね。

 

初めての子は君だって、即答で』

 

「うん…、あたし、ちゃんとお父さんとお母さんに、愛されてたんだ…っ!」

 

マキは、涙を流す。

 

それもそうだ。

 

彼女はずっと不安だったんだ。

 

血の繋がりのない自分のことを愛してくれてるけど、実の子供が生まれたら、もう自分のことを愛してくれないじゃないかって。

 

でも実際は違ってたんだ。

 

あの二人は、即答できるくらい心の底から彼女のことを実の娘だと思ってくれてたんだ。

 

『マキ、良かったね』

 

「……うんっ!」

 

そして、マキは母親のためにバッグを取りに行こうと足を向けた途端、景色が変わりコクピットに転送されていた。

 

「…え?」

 

『何で…、このタイミングで』

 

すでに皆も集まって、コエムシが周りを見る。

 

「よーし、全員いるな?」

 

「この人でなし!

 

もう少し待ってくれても良いじゃない!」

 

『そうだそうだ!

 

もうすぐ彼女の弟が産まれるのに、立ち会いすらもさせないのか!』

 

あまりの無慈悲さに、どうせコエムシに僕の声なんて聞こえないだろうが、マキに合わせて僕も非難する。

 

確かにマキは今回のパイロットだけど、それでも待つことも空気を読むこともできないのか!?

 

「あ?俺様が決めてるんじゃねぇから文句言うんじゃねぇよ!

 

ったくよ…」

 

不貞腐れるコエムシを他所にコクピットが起動する。

 

するとマキは両親が気になるのかモニターで病室にいる二人を映し出した。

 

母親は陣痛に苦しみ、父親はオロオロしながら母親を励ましていた。

 

「あれって陣痛?

 

もうすぐ産まれるの?」

 

「うん、間隔も短くなってきてる」

 

古茂田孝美、皆からはコモと呼ばれてる気品そうな少女に返事をするようにマキは今の状況を答える。

 

確かに、あの状況だと産まれるのも時間の問題だね。

 

そこへコエムシが遮るように前に出て。

 

「おいこらっ!真面目にやれ!

 

お前が敵を倒さねぇと、ガキが産まれた所でしょうがねぇだろ!?」

 

「そ、そうだけど……」

 

コエムシの言葉にマキは言葉を濁す。

 

『…マキ、悔しいけど彼の言葉にも一理ある〜。

 

ここで僕たちが負けると、地球が危ない。

 

そうなったら、両親も、これから産まれる君の弟の命が危ない』

 

「ジ・アース…。

 

…うん、わかってる。

 

もうこの際、立ち会えなくても、守らなくちゃ!」

 

モニターが展開し、周りの景色と同時に目の前の敵が見える。

 

場所は電灯の明かりを照らす夜の街だ。

 

そして目の前にいる敵は小さな二本脚を垂らす体を、巨大な四本脚で支えるクモみたいな見た目のロボットだ。

 

「これって、ココペリが最初にやっつけたやつじゃん!?」

 

『えっ、じゃあ最初の敵が何で』

 

と、思わず疑問の声を上げるけど、そこへ吉川寛治、皆からはカンジと呼ばれる高身長の少年が敵を見て違和感を覚える。

 

「いや、微妙だが違うやつだぜ、ありゃ」

 

「え?」

 

嫌な予感がする。

 

そんな時、敵が動き始めた。

 

小さな二本脚を地面につけて立ち上がり、巨大な四本脚をまるでプロペラみたいに四方向に構える。

 

「うわっ、キモ…」

 

敵のそんな姿に嫌悪感を覚えるアンコ。

 

『マキ、あの構えから敵が何を仕掛けてくるかわからない。

 

でも、そうされる前に攻撃を』

 

「うん、任せて!」

 

マキが僕を動かそうとした途端、後ろから攻撃を喰らった。

 

『なっ!?』

 

「うわっ!?

 

こ、攻撃?どこから!?」

 

「どうして!?」

 

「わかりません!」

 

皆が困惑する中、今度は前方から何かが高速で飛んできて、そこから飛び出したミサイルを撃ち込まれた。

 

僕にはダメージは一切ないけど、今のは一体何なんだ?

 

急いでその正体をモニターに映すと、変わった形をした戦闘機が飛んでいた。

 

「なに、あれ?」

 

『マキ?』

 

「あたし…、お父さんがよく戦闘機の模型とか持ってたからある程度戦闘機は知ってるけど、何なのあれ?

 

あたし、あんなの知らない。

 

あんな戦闘機、あたし知らないっ!!」

 

マキが叫ぶ。

 

田中も関にあの戦闘機に心当たりはないのかを聞くも二人とも知らないようだ。

 

そこでマキはコエムシに聞いた。

 

「コエムシッ、ここは、どこなの!?」

 

「…ふっ」

 

歯をむき出しにして、皆を見下ろしながら口を開く。

 

やっと、ようやくそこに気付いたかと言わんばかりに。

 

「─────地球だよ。

 

てめぇらの地球じゃねぇけどな」

 

「…え?」

 

『は?』

 

今、何て言ったんだ?

 

地球だけど、自分たちの地球じゃない?

 

彼は一体、何を言ってるんだ?

 

「はっ、流石のお前らも言葉は出ねぇか。

 

お前ら猿には到底理解できないだろうよ」

 

「ここが私たちの地球じゃないって、どういうことなの?」

 

「様々な異なる可能性や未来、つまり枝分かれした無数の時間軸の地球。

 

ここはあくまでも違う地球だが、違う道を歩んでるだけで元は同じさ。

 

お前らに取っちゃ、平行世界と言ったほうがしっくり来るだろうよ」

 

『平行世界……』

 

つまり、ここは僕たちは自分たちの地球とは別の世界で、僕たちはその平行世界に連れてこられたのか。

 

「何で俺たちが、そんなややこしい所に連れてこられたんだ!」

 

「ホームゲームとアウェーゲームみたいなもんさ。

 

んで、これはお前たちにとってはアウェーって訳さ」

 

「…だから連絡もモニターもできなかったのね」

 

「出来る訳がない、平行世界に連れてこられたんじゃ」

 

皆はまだ理解できてないけど、連絡が取れないことに納得する田中と関。

 

「でも、私から見たらここも同じ地球に見えるけど…」

 

「あくまでも違う地球、なのよね?」

 

「違うの?同じなの?どっちなの!?」

 

「…同じか違うとかの問題じゃない。

 

考えなきゃならないのは、あっちにも俺たちと同じ人間が乗ってるだろうってことだろ!」

 

『…!!』

 

カンジの言葉に、僕はモジの言葉を思い出す。

 

相手は機械じゃない、自分たちと同じ心を持ったなんだと。

 

これで合点がいった。

 

これまで足元の建物や人に気を遣う敵もいたし、心理戦に嵌った敵がいる。

 

こんなの、人間でなきゃこうはならない。

 

「言うまでもねぇ。

 

お前らも薄々気づいてたんじゃねぇのか?」

 

そんな話をされても、皆は信じられないと表情を浮かばせる。

 

でも、それが本当だとしたら、僕は、地球を守るために、大勢の人たちを殺したことになる。

 

『…!』

 

一瞬、目眩がした。

 

信じたくない、信じられない。

 

僕は皆と一緒に、地球に攻めてくる敵を倒してきたのに、その敵の正体が平行世界の人たちだなんて、信じたくない。

 

そう思っていると、敵が動き始めた。

 

プロペラみたいに構えた巨大な四本脚を回し始めた。

 

小さな二本脚は、最初は覚束ないが、次第に速度を上げ、回転も速くなる。

 

しかもどんどんこっちに近づいてる。

 

「言っとくが、ここでてめぇらが死ねばてめぇらの地球は失われるからな!

 

手抜きはなしだぜ?」

 

「失われる?

 

具体的にはどうなるの?」

 

「てめぇらの地球が消滅する、つまりなかったことになるんだ。

 

それだけじゃねぇ。

 

てめぇらの地球の時間軸に囚われてる宇宙全体が消滅するのさ」

 

『…は?』

 

何だって?

 

負けたら地球とその地球と同じ時間軸の宇宙が消滅?

 

何で、何でそんなことが!?

 

「そんな、何のためにこんなことを!?」

 

「地球の未来の淘汰、いや宇宙のだな。

 

膨張しすぎた宇宙を間引く、要は植木みたいなもんだ」

 

「それが、この戦いの目的なの?」

 

「無茶だ!」

 

「でも、もうここまで来たら、信じるしかなさそうね」

 

「ふんっ、お前らは気楽なもんだな。

 

今までだってそうだったのによ。

 

これまで色んな世界を消滅させて、お前たちはここにいるのさ。

 

強いやつが生き残る、それがルールだ」

 

コエムシのまるで人を嘲笑う口調から告げられた残酷な真実に、皆は絶望し呆然としてしまう。

 

僕もそうだ。

 

今までのことを思い返し、絶望した。

 

僕は、今までパイロットになった皆を支えて、地球を守るために皆と一緒に戦った。

 

でも、まさか、地球を守るために他の平行世界の地球を消滅してきただなんて、思いもしなかった。

 

戦うたびにパイロットも死ぬけど、負けた側の平行世界が消滅するなんて、そんなのあまりにも残酷で、救いがないじゃないか!

 

でも、それ以上に。

 

『僕は、今まで君たちに、何度も世界を消滅させて、その上で君たちの命を奪ってきたのか…。

 

…そうだとしたら、僕はっ、君たちになんてことを!』

 

「ジ・アース…」

 

パイロットのマキにしか聞こえない慟哭に、彼女は何も言えなくなる。

 

皆も、マキの反応から、僕がどういう心情かを察して、目を伏せる。

 

だが、そんなことをしてる間に敵が回転しながらこちらに接近する。

 

『…っ、マキ!

 

急いで後ろに下がれ!』

 

「えっ、わかった!!」

 

急いで僕を後ろに下げさせるマキ。

 

巨大な四本脚のプロペラが胸元を掠めたが問題はない。

 

だが、その下には逃げ遅れた人たちが。

 

「あっ、まだ逃げ遅れた人たちが!」

 

「ハハハッ!

 

どうせ敵が死ねば消滅する世界の人間たちなんだ!

 

てめぇらが気にする必要はないだろ?」

 

「くっ…!」

 

視界の端に、建物の屋上に多くの人たちが集まってるのが見える。

 

しかも、その多くが掲げてる看板にこう書かれていた。

 

『私たちの地球を消さないで』

 

『勝てないで』

 

『この星はまだ生きたいと叫んでいる』

 

『私たちは、まだ生きていたい』

 

そう書かれた看板を掲げていた。

 

そんな彼らに、僕は絶望した。

 

……やめろ、やめてくれ!

 

僕も皆も、君たちを消滅させたくないんだ!!

 

でも、そんなことを思っても、状況は変わってくれない。

 

それどころか、回転する敵がもうすぐそこまで来ていた。

 

『──────!?』

 

敵のプロペラが、容赦なく僕の左腕を斬り飛ばした。

 

僕の腕が、近くに突き刺さる。

 

痛みはないから問題ない、だがこのままだと近付けば腕だけじゃすまない。

 

マキは何とか僕を後ろに下げさせてるけど、斬り刻まれるのも時間の問題だ。

 

そこへ、田中がマキに声を掛けた。

 

「阿野さん!

 

迷っていては保たないわ!

 

まずは相手の動きを止めましょ!」

 

「…っ、うん!」

 

気付けになったのか、マキは僕を動かす。

 

残った右腕を盾にしながらその場に伏せる。

 

腕で防げたが、掠めた肩の一部が斬り飛ばされる。

 

「うっ!」

 

「どうするつもり?」

 

「…周りは歯が立たないけど、中心部を抑えられれば」

 

「そうだ!

 

斬り飛ばされたジ・アースの腕を使え!

 

あれをあいつの中心部に突き立ててやるんだ!」

 

「わかった!

 

ジ・アース、斬り飛ばされちゃったけど、あの腕使っていいよね?」

 

『…!

 

あ、あぁ、もちろん良いよ』

 

さっきの残酷な真実を聞かされたあとなのに、田中の声に皆も呆然としていた思考が戻ったようだ。

 

…それなのに、僕は。

 

いや、こうなったらやるしかない!

 

マキたちも頑張ってるんだ、僕も頑張って支えないと!

 

僕の体は敵の攻撃に当たらないように、突き立てられた僕の左腕を取りに行く。

 

残された右腕を伸ばし、先端の爪を開いて掴んで持ち上げ、敵に狙いを定める。

 

「…」

 

「ワンチャンスだぞ!」

 

「落ち着いて!」

 

「思いっきり投げるんだ!」

 

「うん!」

 

「…やぁぁぁぁ!!」

 

皆が見守る中、槍を投げる要領で勢いよく、僕の左腕が投げられる。

 

まっすぐと、回転する敵の中心部に突き刺さり、プロペラになっていた巨大な四本脚も止まる。

 

『動きが止まった…。

 

マキ、今だ!』

 

「たぁああ!!」

 

チャンスを見逃さず、マキの念が僕を敵にタックルさせ、組み敷く。

 

身動きが取れなくなった敵は、完全にその場で停止した。

 

「…ふぅ」

 

「勝負あったな」

 

マキが椅子の背もたれにもたれ、コエムシはそのようにつぶやく。

 

「…あたしたちの地球とこの地球は何も違わない。

 

どうしてこんなに似通っているの?」

 

「そりゃあ剪定後の対応性を保持するために、なるべく近い分岐の地球を潰し合わせてるからな」

 

「もう勝負は着いたでしょう?

 

なら、その操縦者に逃げてもらって「それは駄目だ」…え?」

 

小馬鹿にするコエムシにしては珍しく、真剣にそう断言した。

 

「敵の急所、つまりコクピットを潰すことが勝利条件ってわけじゃねぇんだ。

 

本当はその担当パイロットを殺す、それが条件だ。

 

第一、負ければ宇宙ごと消えるんだ。

 

逃げても意味ねぇよ」

 

直後に、戦闘機からの攻撃が飛んでくる。

 

全然ダメージにはならないけど、それでもこの星を守るため、生きたい消えたくないという抵抗が感じられる。

 

「…敵も必死ね。

 

この地球の人たち、今までどれくらい戦ってきたんだろ?」

 

「目の数を見ればわかるだろ?」

 

コエムシに言われて、顔にある目の光の数を見る。

 

目の光は5つだ。

 

つまり敵は10回も戦ってきたんだ。

 

「…戦ってきたんだよね、自分たちの地球を守るために」

 

敵の爆撃が続く中、マキは一人思案する。

 

「違う。

 

ここの地球と、あたしたちの地球は違う。

 

だってここには、お父さんもお母さんも弟もいないもの。

 

だからあたしは、お父さんとお母さんと弟が暮らす地球を守るために戦うよ」

 

「何も違うものか。

 

ここの奴らだって、そう思って「シッ!」…」

 

反論するウシロだがそこへ町洋子、皆からはマチと呼ばれたおかっぱ頭の少女に止められる。

 

『…マキ、本当に良いのか?』

 

「良いよ、あたしがそう決めたんだもの」

 

「…わかった」

 

僕の片足を上げて、敵に容赦なく膝蹴りを食らわせる。

 

それに伴い敵の一本の巨大な脚が千切れ、同時に敵もその場に倒れ込む。

 

「…ごめんなさい」

 

『すまない…』

 

これから命を奪うことに、マキと僕は敵に謝る。

 

そこへ、幾度と敵に腕を突き立てる。

 

これまでの敵を倒すのとは変わらないけど、敵の命を奪って世界を消滅させてしまうことを知ってしまったから、皆悲しい目でその一部始終を見る。

 

「皆目を閉じてて、あたし一人でするから。

 

ジ・アースも、辛かったら何も話さなくて良いから」

 

『僕は、君を一人になんてさせたくない。

 

最後の最後まで、君に寄り添うよ』

 

「私はちゃんと、見届けるよ」

 

「…ありがとう」

 

皆に見守られながら突き立て、敵の装甲を剥がし終えて、敵の急所、いやコクピットが見えた。

 

抵抗できなくなった敵のコクピットを掴んで、コードを伸ばしながら持ち上げる。

 

「…」

 

「どうした?このまま48時間「黙ってて!」…チッ」

 

動きを止めたマキにコエムシは声を掛けるが、何か考えがあるのか制止する。

 

すると持ち上げたコクピットを、地面に置いた。

 

「な、何をするつもりなの!?」

 

コクピットの表面に、展開した爪で突き立て、切り開いていく。

 

「やめたほうが、良いよ」

 

嫌な予感がして、キリエが止めるけど、彼女は止めない。

 

僕も、彼と同じように嫌な予感を感じながら、切り開かれたコクピットの中を見る。

 

『─────ッ!!』

 

中には五人の人間がいた。

 

それも大人と寸分違わない見た目をした人間だ。

 

並んでる椅子は違うけど、それでも円を囲うように並んだ配置は僕のコクピットに酷似している。

 

切り開かれた天井越しに僕を見る彼らの目は、僕に屈しないとばかりのものだった。

 

まさか、本当に人間が乗ってたなんて…!

 

「…くっ!」

 

指先を収納して、先端からビームを撃ってコクピットを破壊する。

 

爆炎と煙に巻かれながら、中の人間たちは跡形もなく消し飛んだ。

 

戦いが終わり、呆然としてる中、コエムシはまるで良い絶景が見れるぞと笑う。

 

「ヒッヒッヒ!

 

すぐに始まるぜ、見ていくか?」

 

『…!』

 

敵の機体が光とともに消えると同時に、光が差し込んだ。。

 

そして夜だったのに、周りはまるで太陽が出てるように明るくなった。

 

その瞬間、強烈な光と共に、街が、人が、地盤が、消し飛んだ。

 

『あ、あぁ…っ!』

 

その文明を、歴史を、人を、何もかもが一瞬にして、消し飛んだ。

 

そして間もなくして、僕は宇宙空間に放り込まれた。

 

コクピットにいる皆は無事だけど、地球が消滅する様を見せられて呆然としている。

 

周りには輝く星星があったが、それすらも消えていく。

 

「星が、消えちゃう…!」

 

「嫌ぁっ!!」

 

『あっ、そんなっ、何でっ!』

 

こんな光景を、信じたくなかった。

 

嘘だと、何度もそう言い聞かせるけれど、僕の心が、現実を受け止めろと言わんばかりに伝えてくる。

 

「あたし…、大変なことをしちゃった…」

 

呆然と自分を責めるマキに田中が付き添う。

 

『違う、それは違うよマキ!

 

これは全部、全部、僕のせいなんだ…!

 

僕がこんな存在だったから、だからこんなことにっ! 全部、僕が……!』

 

僕に人間の体があったら、きっと涙を流していただろう。

 

この自分への怒りと悲しみに、この僕の心は震えていた。

 

「違う、ジ・アースは悪くない! 悪いのは、あたしよ……」

 

マキがそう言って、僕の心はますます震える。

 

『でもっ、でも僕は、戦うために生まれたんだ!

 

戦って、敵を倒して、死にゆく皆と寄り添って、何とかしてあげたくてっ! それなのに、なのにっ!』

 

「ジ・アース……」

 

『戦いが終わればパイロットを死なせて、その上で相手の宇宙を消すことしかできない、こんな自分が嫌いになりそうだよ……。僕を生んだ人が憎いよ……。

 

いや、憎いのは自分自身だ……!

 

僕は、何のために生まれてきたんだ……!

 

こんなことならっ、こんなことならいっそ、意志なんて芽生えなきゃ良かったんだ…!』

 

「ジ・アース」

 

『こんなっ、こんな僕なんて……!!』

 

「ジ・アース!!」

 

マキが、僕の言葉を遮る。

 

彼女の瞳は、潤んでいた。

 

「……ありがとう」

 

『え?』

 

僕は、言われた意味が分からなかった。

 

そんな僕に彼女は優しく語りかける。

 

「あんたが支えてくれてたから、あたしはあたしたちの地球を守れた。

 

確かに、あたしはこの後死んじゃうし、これからも地球を守るために他の地球と戦って消滅させることになるかもしれないけど、これは運命だとあたしは受け入れるよ」

 

『マキ……』

 

「こんな、こんな素敵な出会いがあったんだもの。

 

ジ・アース、あんたはやっぱり、あたしたちの最高のパートナーだよ」

 

『……っ』

 

そんな彼女の優しい言葉に僕は涙しそうになるけど、それはできない。

 

僕に涙腺なんて存在しないから。

 

「それにほら、周りを見て?」

 

『え…?』

 

周りを見渡すと、真っ暗だった宇宙空間に星が一つ、また一つとキラキラと輝き始めた。

 

『星の、光だ…』

 

「これって、星が生き返ってるの?」

 

「違う、敵の宇宙は消滅した。

 

お前らの宇宙に戻ったんだよ」

 

輝く星星、そこに命の尊さを、そして暖かさを感じた。

 

「ねぇ、ジ・アース。

 

今あたしね、命のあるところが、わかる気がするんだ」

 

指を指した方向に、一際輝く2つの星があり、そしてすぐにまた新しくそれでいて強く光る星が見えた。

 

「あれがお父さん、あれがお母さん…。

 

そしてあれはっ、あんなにきれいに輝いてるあれは」

 

モニターを切り換えて、マキの両親がいる病室が映される。

 

彼女の両親と、そして今さっき産まれてきた、彼女の弟がいた。

 

小さいけれど、確かにそこにある新しい命。

 

二人はそんな小さな命を、優しく見つめていた。

 

「…ジ・アース、あたし弟を抱き締めたいんだ。

 

だから、さ?

 

戦いが全部終わったら、皆を、生き返らせてね?」

 

『…わかった。

 

でも出来るかどうか、わからないよ?』

 

「そこは、できるって言いきって欲しかったなぁ~」

 

『ご、ごめん』

 

「……フフ、冗談よ」

 

そう言って僕から目をそらして、またモニターを切り替えた。

 

「それにこの戦いが終わっても、きっとあたしたちはまた会うことになる、そんな気がするの」

 

『そんな、気だけなんて不確定な事言わないでよ』

 

「わかるの、あたしは感じるから。

 

だから約束して?

 

戦いが終わったらあたしたちと会うって」

 

『…わかった、約束する』

 

「ありがとう」

 

そこへ会話を聞いてる皆が声を掛ける。

 

「ね、ねぇマキ?

 

ジ・アースと今どんな話をしてるの?」

 

「生き返らせるって、まさかこれまで死んでいった皆を?」

 

「うん、そうだよ。

 

ジ・アースは約束してくれたんだ」

 

「まさか、そんな事が可能だなんて信じられないけど……。でも、その約束は信じて良いのよね?」

 

「うん、あたしはジ・アースを信じるよ。

 

ねっ、ジ・アース?」

 

『うん、任せといて』

 

「……なら、私も信じるわ。

 

ジ・アースが私たちを生き返らせてくれることを」

 

「何か話は見えねぇが、そこまで言うからには、やってもらわねぇとな」

 

「…そんな都合のいい話なんてあるかよ」

 

「ま、まぁまぁ」

 

ウシロが不満げに言うのも無理はない。

 

僕自身も半信半疑だし、マキにだってできるかどうかわからないと言ってる。

 

だけど、マキは僕を信じてくれた。

 

だから僕も、それに応えないといけない。

 

「じゃ、そろそろお別れだね」

 

『あ……。

 

マキ……』

 

パタリと、彼女は背もたれに力なくもたれ掛かる。

 

彼女の体はピクリとも動かない。

 

この瞬間、マキという一人の少女の命が消えた。

 

僕は、自分という存在を呪いながら、皆を生き返らせるという約束を、果たさなければならなくなった。

ジ・アースの見た目について

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