「チチチチチッ!ミュリア殿の料理はどれも素晴らしい!心のこもったもてなしといい、グロムはよい方を娶られた!」
「食事中くらい静かにしてくれよ、カロロ。大体お前、昨日も同じことを言ってたじゃないかい?」
「あはは、褒めてくれてありがとうございます。おかわりもあるので、いっぱい召し上がってくださいね」
カロロが隠れ里に着いてから二日後。俺たちは朝食を食べながら仲良く談笑していた。
昨日、里長は使者を出すという決断をしてくれた。とはいえ、すぐさま出発することは出来ない。里長は里の皆の同意を得たいと言い、俺もそれに納得したからだ。悠長な話だが、そこが気に入ってる所でもある。仕方ないだろう。
「ご馳走様でした!いやぁ、美味しかった!気力が漲り、遥か彼方まで休まず飛んでいけるような気分です!」
それも昨日言っていた。まぁ、カロロはお喋りだが嘘つきでは無い。ミュリアちゃんへの称賛は本当のことだろう。彼女が褒められて、悪い気はしないしな。
「そんな、大げさですよ。前も言いましたけど、里の人達なら誰でも作れるでしょうし・・・・・・」
「ご謙遜なさらず!今、ワタクシが食べたのは他ならぬミュリア殿の料理!どうか誇ってください!」
「え、えへへ・・・・・・」
褒め殺しに照れつつ、助けを求めるように俺に視線を向けるミュリアちゃん。カロロの言い分はかなり大げさだけども、俺としても彼女の料理は好きだ。頷きながら、口を開く。
「ミュリアちゃんは出来た人だよ。俺も、ありがたいと思ってる。この歳でこの甲斐性、大陸広しと言えどもそうそういるもんじゃあない」
「ちょ、グロムさん・・・・・・!」
「チッチチチ!羨ましいものですなぁグロム!運命の出会いとは、何処に転がっているか分からない!どうかこのまま、仲睦まじく暮らしてほしいものですとも!」
騒がしい朝食の席は、正直嫌いではない。俺は楽しげに微笑みながら、野菜スープを飲み干した。そして、カロロに目を向け言う。
「で、だ。カロロ、話がまとまった後、俺を首都に連れていくことは可能なんだな?お前は、それでいいんだな?」
真剣な目つきに、カロロは居住まいを正す。ベーコンのかけらが口の端に付いているのがどうにも締まらないが。
「勿論ですとも!今のグロムならば、三人揃っても運べます!雀の亜人は本来非力ですが、ワタクシにかかれば余裕ですとも!!」
少しズレた答えだが、まぁいい。こいつは単純だからこそ隣人に親しく出来る。きっと、俺や隠れ里の為に心から協力してくれるだろう。良心が僅かに痛み、抑えることもなくそのまま吐き出した。
「なぁ、カロロ。本当にいいのか?何があるかも、起きるかも分からん。最悪死ぬぞ」
「これは異なことを!元より冒険者稼業も生死と隣り合わせ、この程度の危険朝飯前の体操程度ですとも!それに、久々にグロムと協力出来るのです!この件から降りろと言われても絶対に引き下がるものですか!!」
カロロは情に篤く、だからこそ悪人に騙されることも多かった。だが、何度騙されてもこの雀人は言ってきたのだ。自身の行いに一点の曇りも無い、と。今回も、それに似た何かを感じる。言葉通り、絶対に引き下がらないだろう。
「はぁ・・・・・・分かった、分かった。頼りにさせてもらうよ、カロロ」
「うむ!存分に頼るとよろしい!」
満足気に頷くカロロ。苦笑を浮かべながらそれを眺めていると、ぼーっとした視線を感じた。ミュリアちゃんだ。
「どうした、ミュリアちゃん?」
「・・・・・・あっ、いえ、その・・・・・・親友とは、お二人のような関係を言うんだなって、少し思っていただけです」
羨むような、少し寂しそうに言うミュリアちゃんは、何故か儚げな様子を漂わせていた。俺、なんかやっちまったか?
「いやいや、親友ってよりは古馴染みの腐れ縁だよ。ま、それなりの場数を一緒に踏んじゃいるがな」
「なんと、グロム!我々は鉄より固い絆で結ばれた朋友ではありませんか!共に命を預けたことは数知れず!たとえ火の中水の中、我々で力を合わせ乗り越えてきたというのに!」
「いちいち大げさだっての。ミュリアちゃん、こいつの言うことは大体十分の一くらいで受け止めてくれりゃいいからさ」
俺の言葉に曖昧に頷くものの、彼女の表情は晴れない。事情を聞こうと口を開きかけた直後、家の扉が荒々しくノックされた。次いで、不気味な声が響いてくる。
「グロム、いるか」
名無し殿だ。わざわざ家を訪ねてくるのは初めてじゃないか?というか不味いな、カロロとは初対面になるし面倒事の予感が・・・・・・。咄嗟の思考が名無し殿に伝わるはずも無く、がちゃりと扉を開き巨体が立っているのが見えた。
「持って、来たぞ。サイズ、合うか、確認しろ」
名無し殿は家の前に立ったまま、長い腕で何かを突き出してくる。戸口が小さく中まで入ってこれないらしい。と、カロロが興奮気味に囀り出した。
「チッ、チチッチチチ!おやおやおやもしやこの方が守り神殿ですか!?いやあ話には聞いていましたがなんたる威容!まさしく神に相応しき風貌でございますな!おっと申し遅れました、ワタクシグロムの朋友にして空駆ける一陣の旋風!カロロ=ティターヌ=エンデーリと申します!以後お見知りおきを!」
津波のように浴びせかけられる言葉の奔流。不安だったが、事前に話していたからかカロロは好意的な反応をしてくれていた。・・・・・・というか、目をキラキラさせていることから純粋に興味が暴走しているだけかもしれない。
名無し殿は妙な表情を浮かべてこちらに目を向ける。まるで、狩りの最中に逆立ちして歩く兎を見つけた猟師のような、絶妙な表情。思わず吹き出しそうになりながら、名無し殿から品物を受け取った。
「こいつは・・・・・・」
「飛び筒の、装備だ。ありあわせ、だが、整えた」
それは、腰に巻くタイプの獣皮のポーチだった。幼子である今の俺に配慮してか比較的小ぶりで、中は三つの区切りがされている。一つは油紙で包まれた魔石の粉末と鉄の弾。一つは獣の胃か何かを加工したような水袋、のようなもの。一つは数種類の工具のようなものが入っていた。以前に説明を受けていた俺は、なんとなくだが使い方が分かる。
「こんなすぐに用意してくれるとは、ありがたいことで」
「分からん、ことが、あったら、聞きに来い」
言葉少なに背を向け、立ち去ろうとする名無し殿。と、そこに当然のようにカロロが話しかけた。
「お待ちを!ワタクシ守り神殿と親交を深めたいのですが!それに飛び筒についても!どうか、どうか!!」
「・・・・・・」
無視を決め込む名無し殿に、カロロがピーチクパーチク喋りながらまとわりつく。傍から見ると随分面白い光景だが、残念ながら他人事じゃない。カロロの肩を掴み、引き剥がそうとする。
「おい、カロロ。流石に迷惑になるからやめろって。って力強いなおい!」
「ははは!以前ならば押し負けたでしょうがワタクシは雀人一の剛力!今のグロムに負ける道理はありませんとも!さぁ名無し殿、是非ともワタクシと語らいましょう!さぁさぁさぁ!」
俺を引きずるような形でまとわりつくカロロに、名無し殿は明らかに鬱陶しそうな顔をしている。下手に怒らせたら面倒だってのに、このアホ雀・・・・・・!と、
「カロロさん、守り神様のことなら私も知っています。食後のお茶も用意してますし、どうですか?」
おぉ、流石だミュリアちゃん。カロロの性格を既に心得ている。カロロは一方的に喋るのも大好きだが、会話を交わすことを一等好むのだ。
「おぉ、本当ですかミュリア殿!であれば名無し殿、仲良くするのは改めて、貴方のことをより深く知った後にしましょうぞ!その日が来るのが楽しみですとも!では!」
くるりと矛先を変え、カロロは名無し殿から離れ家に戻っていく。俺は肩で息をしながら、相変わらずな古馴染みに溜め息を一つ吐いた。名無し殿はずっと無言でいたが、カロロが家に入った辺りでぼそりと呟く。
「・・・・・・ふん。上手く、手綱を、握れよ」
「あー、まぁ。なんだかんだ善人だけど、暴走癖はどうにかコントロールするよ。気を悪くせんでくれ、誰にでもあぁいう奴なんだ」
「味方なら、いい。裏表が無い、のは、悪く、ない」
おや。存外に悪い印象では無いようだ。見た目に似合わず、随分と寛容らしい。っと、俺も戻らんと。カロロの相手はミュリアちゃん一人じゃ手に余る。
「んじゃ、飛び筒の練習はしておくよ。分からんことがあれば聞きに行く。それでいいだろう?」
むっつりと頷いて、大股で去っていく名無し殿。その背は、おぞましい姿だというのに妙な親しみを覚えてしまった。
うおぉフリントロック式ピストル最高!