TS羊娘は楽園の夢を見るか   作:てぬてぬ@TSF

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いざエリンド

「こりゃあ・・・・・・ちと大き過ぎないか?」

 

目の前の巨大な竹籠は、所々鉄で補強され羊毛を被せられている。立派な造りだが、俺一人が乗るには大きすぎる気がした。

 

「ご安心を!どれほど大きくとも、ワタクシにかかればちょちょいのちょいですとも!」

 

「そ、そうですね。カロロさんは凄い冒険者さんみたいですから」

 

今、俺たちはカロロに運んでもらう為の輸送道具を確認していた。里の人達の殆どは使いの者を送ることに同意。さらには快く協力してくれて、貴重な鉄材も惜しげなく使って頑丈な竹籠を作ってくれたのだ。まぁ、カロロが運べる重さにも限界があるので、ここまで立派なものを造ることは無かったように思えるけども。

 

「ふぅむ・・・・・・ま、苦労するのはカロロだからな。そこは任せるよ」

 

「えぇお任せを!何せ空の安全はワタクシの両翼にかかっているのです、渾身を以て羽ばたいてみせましょう!!」

 

いつも以上に興奮しているのか、頬が紅潮して目の輝きが二割増しになっている。こいつは顔立ちだけなら美少年のように整っているので、まるで絵画の切り抜きのようだ。紅顔の美少年にしては実際の歳はいってるし、無限に喋り続ける様は見た目と大きくズレているが・・・・・・ま、美しさって点では中々だろう。

 

実際、こいつはかなりモテるのだ。俺とは違って、陽気で話好きだからだろう。本人は付き合う気が無いらしく、涙を呑んだ女は星の数程いる、という噂もある。

 

「では、試しに重しを乗せて飛行するとしましょうか!里の皆様方、お願いします!」

 

近くで緊張しながら待機していた羊人達は、言われた通り籠に土嚢を積んでいく。・・・・・・積み過ぎじゃないか?

 

「ちょいちょい、流石にこれは積みすぎじゃあ・・・・・・」

 

「あ、グロムさん!ちょっと相談があるんですけど、いいですか?」

 

指摘しようとしたところで、ミュリアちゃんが慌てたように割り込んできた。なんか、妙な様子だな。

 

「どうした、ミュリアちゃん。ちと変な感じが」

 

「えっと!実は、私も飛び筒?を使ってみたいんです!里周辺も物騒になりそうですし、私に戦う力は無いから」

 

俺を遮って言うミュリアちゃんの言葉に、ピクリと片眉が動いた。飛び筒を、ミュリアちゃんが、か。うむ・・・・・・。

 

「・・・・・・ふぅむ。そうならないに越したことは無いが、可能性は0じゃない。俺が全部を守ると断言出来るような英雄なら良かったんだがね、生憎そうもいかん。ただね、ミュリアちゃん」

 

「は、はい」

 

真っすぐに、彼女の新緑に染まっている瞳を覗き込む。羊人特有の黒目の形もあって、吸い込まれるような気分になりながらも言い聞かせた。

 

「飛び筒を撃つ、ということは他者を害するということだ。武器を向け、打ちかかるのと変わらない。これは俺のわがままだがね、ミュリアちゃんには武器を取ってほしくないんだよ。君に出来ることは、他に必ずある」

 

彼女は聡明で、誠実だ。成り行きで俺なんかの妻になったってのに、健気に尽くしてくれている。あぁ、嫌だな、二重の意味で。ミュリアちゃんに危険が及びかねない現状も、それでも武器を持たせたくない自分のエゴも。もし彼女自身が危機に陥った時、助けられる確信は無いというのに。

 

「武器を持っていれば必ず、それを使うという選択肢が頭に浮かぶ。それを選べば選ぶ程、どんどん扱いが軽くなっていくんだ。人を傷つけるって行為が、さも当然のように出来るようになる。俺はもうなっちまった」

 

「グロム、さん・・・・・・」

 

「ミュリアちゃんにゃあ、そうなってほしくないんだよ。元はくたびれた傭兵だからね、手を汚すのは元から汚れてる奴らだけで十分だ」

 

そう。だから、俺は里の皆には直接戦いの場に立ってほしくない。まったく、一介の傭兵が随分と夢見がちになったもんだ。今まで殺してきた兵士達に笑われるな。と、重くなった雰囲気を飛ばすような声が空から響き渡る。

 

「快調、好調、絶好調!流石ワタクシ、この程度ならば一昼夜飛び続けられますとも!チチチチッ!」

 

見上げると、普段よりかなり鈍重な動きだがそれでも軽快に飛び回るカロロの姿が見えた。雀の亜人は非力ではあるが、あいつは別格らしい。僅かに口角を上げながらミュリアちゃんに向き直り、優しげに言う。

 

「ま、今のところは俺たちに任せてくれ。その代わり、里で何か起こった時は」

 

「これならばグロムにミュリア殿を安全に都市まで運べますなぁ!いやぁミュリア殿に自分も乗っていきたいと頼まれた時はほんの少しだけ不安になりましたが、お二人の体重は前のグロムよりも低い!いやぁよかったよかった!」

 

着地しながら、カロロがとんでもないことを口走った。瞬間、ミュリアちゃんが凄い勢いで頭を下げる。

 

「ごめんなさい!私、グロムさんの気持ちに逆らうようなことを・・・・・・!」

 

・・・・・・どうやら、俺はミュリアちゃんの気持ちにも気付かずこっぱずかしいことを言ってしまったようだ。

 

 

 

 

 

頭を下げ続けるミュリアちゃんと得意げに語り続けるカロロに話を聞いたところによると、どうやらミュリアちゃんは俺にギリギリまで気付かれないようにしながらついてくる気だったらしい。いや、ここに至るまで気付かなかった俺も随分間抜けだ。

 

「本当にごめんなさい!でも、私はグロムさんについていきたいんです!外の世界のことを知って、里の為に役に立ちたいって思いもあります!少しでも、里の皆とグロムさんに・・・・・・!」

 

「分かった、分かった。あのミュリアちゃんが隠し事してた程の想いだ。俺も無下には出来ないよ」

 

「で、でも、さっき・・・・・・」

 

申し訳なさそうな表情で呟くミュリアちゃんに、俺は出来る限り優しく見えるように微笑んだ。

 

「怒ってるわけじゃあない。俺は過保護なんだろうな、ミュリアちゃんの意志を無視して言い募っちまった。すまん」

 

「あ、謝らないでください!グロムさんが言ったことは、きっと真実なんだと思います。私も、自分の手を血で汚すことは考えていませんでした。私は臆病だから、想像すら出来ていなかったんです」

 

「それは君の長所だからな、自分を責めることは無い。ま、ついていくことと武器を持つうんぬんのことは別の話だ。俺としちゃあ止めたい所だが・・・・・・」

 

言いつつミュリアちゃんの表情を確認すると、彼女は決意を秘めた瞳で俺を見つめてくる。こりゃ、説得は無理だな。

 

「私、私は・・・・・・グロムさんを手助けしたいんです。おこがましいのは分かっています。でも、それでも!一人より、二人の方が何かと便利だと思うんです。あっ、カロロさんを入れて三人ですね、はい」

 

「・・・・・・うーむ。ミュリアちゃん、人が沢山集まる都市ってのは、相応に危険もある。だから、俺やカロロから絶対に離れないって約束出来るんなら、連れていくのもやぶさかじゃあない」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

花が咲くような表情を浮かべるミュリアちゃんに、俺は苦笑しながら頷いた。存外に強情な娘だ、口八丁で丸め込むことも出来ないだろうからな。

 

「あぁ。ミュリアちゃんは聡明だし機転も利くし、交渉の助けになる可能性も高い。今の俺はこんな見た目だから、多少なりとも年上の君が来てくれれば相手の心証も稼げるさ」

 

そう言うと、ミュリアちゃんはぱぁっと明るくなった顔付きで俺を抱き締めてくる。ミュリアちゃんの柔らかさと俺自身の柔らかさが触れ合って、絶妙な感触を与えてきた。

 

「わた、私頑張りますから!よろしくお願いします!」

 

「んぐ、ちょっとミュリアちゃ、苦しいって」

 

「いやぁ仲睦まじいですなぁ!丸く収まったようで何よりですとも!チチチッ!」

 

こっちの苦労も知らず、カロロは自身の羽根を手入れしながら笑っている。ったく、まんまとハメられた。いや、カロロ本人に俺を騙した意識は無いだろうが。

 

「カロロ、今度からはちゃんと俺にも説明してくれ。本来は俺一人で行くはずだったんだぞ?」

 

「・・・・・・はて?そうだったのですか?」

 

前言撤回。何も知らなかっただけらしい。こいつ、よく今まで冒険者やってこれたな・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

翌日。着替えや保存食、その他諸々の荷物を籠に積み込み、準備を整えた俺たちは出発しようとしていた。広場にはほぼ全員の羊人達が集まり、俺たちを心配そうに見つめている。

 

「無事に帰ってきてくださいね!」

 

「外は怖いらしいから気を付けろよ」

 

「どうか、ご無事で」

 

異口同音に俺たちを案じてくれている様子に、俺はにっこりと笑って返す。

「あぁ、任せてくださいなっと。なにせミュリアちゃんがいるんだ、万事順調にいくさ」

 

多少の不安を覆い隠し、自信たっぷりに胸を張った。純粋で優しい里の羊人たちは、ほっとした顔をしてくれる。改めて思う。善良な隣人は、守らないとな。

 

「チッチチチ!それにワタクシもおりますよ!この青空の騎士をお忘れなく!ワタクシがいる限り、旅路は常に明るく照らされていますとも!」

 

カロロが里に滞在していたのは僅か数日だが、このお喋りスズメはそれだけで里の皆と打ち解けたらしい。羊人達と別れの言葉を交わしながらも、いつも通り騒がしくしている。

 

「お父さん、お母さん、ありがとう。私がついていくことを許してくれて」

 

「いいのよ。私達には、何が起きているか分からないけれど・・・・・・それでも、あんなに真剣な娘の頼みを断れるものですか」

 

温和に微笑むのは、ミュリアの母親だ。彼女がそのまま大人になったかのような穏やかな顔立ちで、娘の頬を撫でている。

 

「うむ。どうか、ミュリアのことをよろしくお願いします、グロムさん。外は危険と聞きます、どうかお気をつけて」

 

たくましい腕で俺の肩を掴み、頭を下げる父親。今までにも交友はあったが、寡黙な彼がここまで感情を面にするのは初めて見た。俺はそっと顔を上げさせて、胸を叩いて答えた。

 

「任せてください、お義父さん。必ず、全員無事で帰ってきます」

 

目尻が少し赤くなっている彼は、無言で何度も頷く。俺は笑顔のまま、気付かれぬよう拳を強く握った。絶対に、約束は果たす。

 

「それでは!参りましょう、グロム!ミュリア殿!」

 

カロロに促され、籠へと乗り込む俺たち。カロロが翼を広げると、ふわりと籠が持ち上がりぐんぐん高度が上がっていく。

 

「お父さん、お母さん!みんな!またねー!」

 

ミュリアちゃんがどんどん離れていく里に向かって手を振っている。と、名無し殿が彼らの人混みから離れた場所に見えた。こちらを見て、八本の腕を掲げている。見送りのつもりらしい。

 

「俺たちがいない間、頼んだぞ名無し殿!」

 

声を張り上げるが、今の俺ではそれほど大声は出せない。果たして届いたかは分からないが、豆粒のように小さく見える名無し殿が頷いたように、俺には見えた。




カロロは鳥人の中でもかなりの上澄みです。そうじゃなきゃこれだけの重りをぶら下げて飛ぶことなんか出来ません。スゴイぞー!カッコいいぞー!
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