TS羊娘は楽園の夢を見るか   作:てぬてぬ@TSF

110 / 112
接敵

落雷による影響を確認しにいったオーギスが戻ってきた時、俺はミュリアちゃんに色んなレシピを教わっていた。しかし、予想外の報告に一気に思考が引き締まる。

 

「瘴気を纏った落雷、か・・・・・・分かった、オーギスはひとまず休んでくれ。『鏡像』にも考えがあるはずだ、下手に手助けしても逆効果だろう」

 

「り、了解です・・・・・・」

 

「そう気を落とさないでくれや。あんたがミーを引っ張ってきてくれたおかげで無事に撤退出来たんだ。これからも頼むぜ」

 

「そうですよ、オーギスさん。はい、これタオルです」

 

ミュリアちゃんから渡されたタオルで体を拭きつつ、オーギスはしんどそうな表情で椅子に腰を下ろした。多分、無力感に苛まれているんだろう。気持ちは分かる。俺もよく思い悩むからな。

 

「オーギス。今はただ休息することだけ考えるといい。働き所はこれから嫌って程ある。もし自分が無力だとか考えてるんなら、それはお門違いってもんだ」

 

「・・・・・・すいません。頭じゃ分かっちゃいるんですが、どうにも・・・・・・あいつらのリーダー失格だな、こりゃ」

 

俯いて弱音を漏らすオーギス。肉体の疲労が精神にも影響しているようだ。つくづく気持ちが分かる。俺はこうなった度に、周囲のみんなに助けられてきたんだが。

 

「弱音を吐くには早いさ。それに、俺も同じだ。みんなに任せっ放しで、小屋の中でぬくぬくしてる。無力感が湧いちまうのは止められない。辛いよな」

 

「い、いや、グロムさんは違うでしょう!全体の指揮を執ってるんですし、私などとは全然・・・・・・!」

 

「いいや、同じだよ。もっと役に立てたはずだ。もっと、みんなに負担をかけないように動けたはずだ。俺も、ずーっとそう考えてる。だけどな、だからって自分を責めるのはやめた方がいい。そいつは、俺達を信じて頑張っているみんなに対する冒涜だ」

 

「っ・・・・・・!」

 

この里で暮らし始めて、何度も何度も味わった無力感。だけど、その度に俺は周囲に救われてきた。だから、まだここにいられるんだ。オーギスにも改めて気付いてほしい。俺達は、一人で生きてるんじゃないってことを。

 

「互いに助け合う。それがこの里の掟だ。頼むよ、オーギス。俺達は孤独に生きてる訳じゃない。傍には必ず仲間がいる。だから、今はゆっくり休め。オーギスの力が必要な局面が来る前に、へばられたら困っちまうからさ」

 

「そうですよ、オーギスさん。はい、これスープです。体を温めてください」

 

「・・・・・・。分かりました、休ませてもらいます。あいつらが帰ってきた時、情けない姿は見せられないですし。ありがとう、グロムさんにミュリアのお嬢ちゃん」

 

頭を下げて椅子に体を預けるオーギスは、少しだけ目に光が戻っただろうか。ほんの僅かでも、彼の気を安らげることが出来たのなら幸いだ。

 

さて、言った手前俺も休もうか。俺の体力じゃあ不眠不休で動くことは出来ない。落雷の件は『鏡像』に任せ、チャロや旦那が戻ってくるまでは休息に努める。それが、今俺が出来ることだ。焦れる気持ちを抑えつつ、全身をリラックスさせながら目を閉じる。待とう。みんなを信じて。

 

 

 

 

 

 

 

「す、すみませんカロロ様。何から何までしてもらって・・・・・・」

 

「チチチッ、気にする必要はありませんよチャロ。今はただ体力の回復に努めてください」

 

簡易的なテントの中。申し訳無さそうに言うチャロに、カロロはにっこりと微笑んで答えた。現在の場所は、謎の存在から出来るだけ離れた森の中。人型の魔物に見つからないよう気を付けつつ、休息を取っているところだ。

 

「この後はまた過酷な飛行が待っていますからな。共に里に帰還出来るよう、英気を養いましょうとも!」

 

「それなんですけど、本当にいいんですか?エリンドに戻らなくて」

 

「伝えるべきことは伝えました。後はニェーク殿とジエッタ将軍が上手くやってくれるでしょう。それよりも、今まさに侵攻を受けている隠れ里の方が心配です」

 

そう言って、カロロは腰の細剣を鞘から引き抜く。濡れた刀身を丁寧に拭いて状態を確認しつつ続けた。

 

「一度、里に戻る前に人型の魔物に接触するべきですな。我らと敵対しているのか、そうだとして戦闘力はどれ程か。確かめるに越したことはないでしょうとも」

 

「・・・・・・明らかに、友好的では無さそうだけど。僕も賛成です。持ち帰れる情報は多ければ多い程、後が楽になると思うから」

 

「その通り。ですが、無理をして帰還出来ずが最もよろしくないのも事実。孤立した個体を見つけられればいいのですが・・・・・・」

 

雨と風の音に負けないように、二人は積極的に言葉を交わす。両者共に、暗く激しい嵐の中を数日間飛んできたのだ。他者との交流は、何より心の癒しになる。

 

「うーん・・・・・・僕が確認出来た限りだと、隊列を組んで進んでるようには見えなかったので、もしかしたらはぐれがどこかにいるかも。疲れが取れたら探してみましょうか?」

 

「いえ、ここはワタクシが単独で。瘴気を吸って万全ではないチャロに、無理をさせるわけにはいきません。オーギスに怒られてしまう」

 

「でも、足手まといにはなりたくないんです。だから僕も一緒に」

 

「落ち着きなさい、チャロ」

 

焦りが滲む声を遮り、カロロはそっとチャロの手を握った。手のひらの温もりがじわりと伝わり、再び張りかけていた緊張の糸がほぐれていく。

 

「ただの偵察ならともかく、魔物の実力を推し量る威力偵察です。体調が万全でない状況で行うのは悪手。体調が改善した後、貴方の出番はいくらでもありますから。幸い今はワタクシが共にいます。任せてくれますね?」

 

「・・・・・・ごめんなさい。分かってるはずなのに、気持ちばかりが急いちゃって。お願い出来ますか、カロロ様」

 

「えぇ、勿論!何かあったらこの魔道具を空に打ち上げてください、では!」

 

言うが早いか、簡易テントを飛び出し両翼を広げるカロロ。振り向きざまに笑みを零し、鋭く飛び立っていった。その姿を見送りつつ、チャロは深く息を吐く。情けない。理性では、この判断が正しいと理解している。それなのに感情で反論してしまった自分が憎らしかった。

 

いや。こういう気持ちになるのはよくない。カロロの言う通り、体調を万全にしてから働けばいいのだ。今はただ休む。それがやるべきことである。

 

「・・・・・・ふぅ・・・・・・」

 

雨と風の音。カロロが去ったテントの中に、孤独感が蔓延する。一人とは寂しいものだ。だけど、必ず再会出来る。カロロにも、オーギス達にも、隠れ里のみんなにも。だから、今は休め。何度も何度も己に言い聞かせ、全身の力を抜いていく。時間過ぎるのを酷く遅く感じながら、チャロは浅い微睡みを繰り返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「さて」

 

木々すれすれを飛行しながら、カロロは嵐吹く闇に目を凝らす。簡易テント付近にはいなかった人型の魔物だが、それは隠れ里の方向から外れた位置にテントを建てたからだ。その証拠に、少し飛ぶだけで人型の魔物をちらちら見かけ始める。森の中に満遍なく存在しているようで、凄まじい数だ。ここで仕掛ければ周囲の魔物に気付かれ、乱戦になるかもしれない。それは危険過ぎる。

 

何処かに孤立した魔物はいないか。のろのろと隠れ里の方向へ進んでいく魔物の群れ、その流れから外れてカロロは羽ばたいた。膨大な数がいる魔物達、その中から仕掛けても良さそうな位置を選別していく。

 

「・・・・・・おや、あれなら」

 

見つけた。草木の生い茂った緩やかな斜面を、人型の魔物が進んでいる。よく見れば、両足を動かして歩いているというよりも、まるでナメクジか何かのようにゆっくりと這い滑っているようだ。周囲に他の魔物は見当たらない。カロロは魔物の後方に回り込み、音を立てないようそっと着地した。細剣を引き抜き、構えながら忍び足で近付く。と、

 

ぐるんっ

 

なんの前触れも無く魔物がこちらを向いた。体表と同じぬらりとした顔面には、目鼻や口といった器官が付いていない。魔物は両腕を真っすぐ向けながら、のろのろと近付いてくる。鋭い目つきで警戒するカロロに、突如両腕が伸びて鞭のように襲い掛かった。

 

「チチィッ!」

 

伸びた腕を斬り払い後方に飛びのく。斬り落とされた部分はすぐに霧散し、魔物は再び腕を伸ばした。動きは速くないが軌道が読み辛い。しかし、カロロは攪乱される事無く迎撃し続ける。5、6度腕を斬り落とした後、一気に懐に飛び込み魔物の首を刎ね飛ばした。すぐさま距離を取ると、予想通り頭部も腕と同じく再生する。

 

「核を叩け、ということですな」

 

斬撃を無効化する再生力に、しかしカロロは慌てず呟いた。この手の魔物との戦闘経験はいくらでもある。無限に再生し続ける存在など、この大陸にはいない。再生の核になっている部分を正確に破壊する。それが正しい対処法だ。

 

問題は、外部から核の場所を確認するのが難しいこと。既知の魔物であれば核の場所を判別することは容易だが、目の前の相手は今まで見たことの無い種類だ。どこに核を有しているのか予測も出来ない。

 

「さぁて」

 

ぺろりと唇に付いた雨粒を舐め、カロロは姿勢を低くして細剣を構え直す。彼が選んだ方法はごく単純だ。一切合切、魔物の全てを斬り刻む。手応えのあった所が核のある場所だ。

 

「ふっ!」

 

鋭い呼気を吐いて再び飛び込むカロロ。嵐の中にあっても細剣が煌めき、無数の斬撃が魔物を襲う。一撃、二撃、三撃、四撃。淀み無く放たれた剣閃は瞬く間に魔物をバラバラにしていき、やがて妙な音と共に何かが砕け散る感触がカロロの腕に走った。魔物の足、人間であれば膝辺りの部位だ。

 

どちゃりどちゃり。斬り刻まれた魔物がぬかるんだ地面に落ち、消えていく。再生はもう起こらなないようだ。念の為距離を置いた後、カロロは細剣を鞘に戻し息を吐く。

 

「ふうぅ・・・・・・膝に核とは、随分と珍しいですな。あるいは、ガスト種のように個体によって核の場所が違う可能性も・・・・・・」

 

考察しつつ少し迷う。核の場所が固定なのか違うのか、確定させる為にもう何体か魔物を攻撃するべきか。いや、止めておこう。これ以上の危険は許容出来ない。チャロと共に里に戻り、今まで集めた情報を共有する方が先決だ。

 

そう判断したカロロは、翼を広げ飛び立った。それなりの時間が経ってしまったがチャロは回復しただろうか。重量の関係で、瘴気を散らせるポーションを持っていなかったのが今は悔やまれる。

 

チャロの体調が治り次第、隠れ里に向かおう。単独で里に行くことも出来るが、この状況下で単独行動は避けたい。ここまでは偵察が最優先だった為やむを得なかったが、今は自身とチャロが無事に帰還する方が大事だ。

 

飛行速度と休息する時間の見当を付けながら、カロロは簡易テントの場所に戻っていく。最善を尽くす。その決意を新たにしながら。




病み上がりの強さじゃないぞカロロ・・・・・・。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。