TS羊娘は楽園の夢を見るか   作:てぬてぬ@TSF

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堰き止める一撃

「それでは、よろしくお願いします」

 

「どうも。こちらこそ、よろしく頼みます」

 

城塞都市エリンド。正門以外では唯一の出入り口である通用門に、俺たちは集まっていた。

 

「チチチッ!成果があったのは大変素晴らしいことですが、飛んで帰れぬというのは残念ですなぁ。いっそワタクシ達だけで先行すればよいのでは?」

 

「そうもいかんだろうよ。視察団の方々を置いていくつもりか?下手に名無し殿が勘違いして、射撃でもされたらことだ」

 

「ふぅむ・・・・・・ま、仕方ありませんな。籠は馬車で運んでくれるようなので、また機会があればいつでも羽ばたきましょうとも!」

 

ニェーク伯爵との会談から数日後。視察団の面々と挨拶を交わした俺たちは、早速隠れ里に帰ることにした。俺、ミュリアちゃん、カロロの三人に、20名の視察団。さらには馬車が五台。かなりの大所帯になっちまったな。

 

「ぐ、グロムさん・・・・・・馬車ってこんなに大きいんですか?エリンドに来る時、オーギスさん達と一緒に乗った馬車とは全然違うんですけど」

 

「あー、確かにそうさな。これは人を乗せて移動する用の馬車じゃなくて、荷物を沢山積んで運ぶ為の馬車なんだ。ま、今回は俺らも運んでもらえるが」

 

「そうなんですね・・・・・・!これ、車輪に何を巻いてあるんですか?」

 

俺の言葉に頷きながら、ミュリアちゃんは馬車の車輪に注目する。木材を鋼で補強してある車輪には、地面に当たる部分に何かが巻き付いていた。

 

「ほーぅ、珍しいですな!ミュリア殿、これはグミイワヘビという魔物の皮ですとも!弾力に富み、こうして車輪に巻き付けることで振動を抑えることが出来るのです!しかしまぁ、金がかかっていますなぁ!どうやら本気で取り組んでいただけているようです!」

 

カロロの言葉通り、視察団の面々は誰もが優秀そうな感じだ。服装も馬車も、金こそかかっていそうだが実用性に割り振っている。内心でニェーク伯爵に感謝をしつつ、俺たちは馬車に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

道中はなんの問題も無く、快適な旅路を送ることが出来た。視察団の人間に賓客のように扱われるのは慣れないが、それ以外の文句は全く無い。野営の準備さえ任せっきりにさせているのは、どうにも座りが悪かった。

 

「いえ、貴女方を無事に送り届けるのも我々の務めですので。申し訳ありませんが、我慢していただけるとありがたい」

 

一度こちらも手伝うと、視察団のまとめ役に提案してみたのだが。このような台詞で丁重に断られてしまった。いやはや、一介の傭兵が貴族お抱えの視察団に守られるとは。人生は何が起こるか分からんな、本当に。

 

まぁ、そのまとめ役に対する印象も悪くは無い。名前はラソン。辺境出身の犬の亜人で、出自もあってか今回の視察団リーダーに抜擢されたらしい。視察団には他にも数人程亜人が混じっているが、軋轢が起きている様子は無さそうだ。万事順調だな。この時は、そう思っていた。

 

 

 

 

 

五日目。馬車での移動ということもあって、今日の夜くらいには隠れ里に着けるだろうという距離まで来れた。視察団の人達ともそれなりに仲良くやれている。この調子なら、里の保護も不可能ではないだろう。そう思っていた矢先、とんでもない出来事が起きてしまった。

 

「っ!?グロム、あれを!」

 

真っ先に気付いたカロロの指差す先に、球状の何かが空に浮かんでいる。水か何かで出来ているようだ。相当距離があるはずなのに、一帯を覆い尽くす程の大きさを誇るそれはゆっくりと地上へ落下していく。

 

「なんだぁありゃ!?」

 

目を剥いて驚く俺の声に、視察団の者達も以上に気付いた。ざわざわと動揺が広がる中、俺は思考を回す。あんなもの、今までに見たことも無い。魔物の仕業か、あるいは魔術の類か。どちらにしろ、この情勢で何かが起きているということは隠れ里に危険が及んでいる可能性が高い。と、地上に着弾したらしい水の球体が大爆発を起こした。全方位に津波を引き起こし、一帯を飲み込んでいく。

 

「っ皆さん馬車の中へ!」

 

ラソンが叫び、馬車の踵を返そうとする。津波がここまで到達する可能性は低いが、正しい判断だ。しかし、俺はそれに反しカロロに言った。

 

「カロロ、俺を連れてってくれるか!?」

 

「そう言うと思っていました!お任せあれ、チチチチッ!!」

 

カロロが俺を抱き上げ、翼を羽ばたかせ飛び上がる。何かが起きている。隠れ里を脅かす何かが。俺はカロロの首筋に抱き着きながら、ミュリアちゃんと視察団に告げた。

 

「すまん、ミュリアちゃんを頼む!!」

 

「グロムさん!?」

 

ミュリアちゃんが叫ぶが、彼女を連れていくことは出来ない。俺はぐんぐんと上昇する中、力強く頷いて答える。

 

「必ず帰ってくる!ちぃとばかし待っててくれや!」

 

言葉が届いたのかも分からないまま、俺たちは空へ舞い上がり遥か遠くの爆心地へと向かった。

 

 

 

 

 

「酷い有様だな・・・・・・」

 

空中から見下ろす景色は、信じられないほど悲惨なものだった。押し流された草木があちこちに散乱し、それを泥水が覆っている。この辺りはエリンドへ向かう時に籠の中から眺めていたが、その頃とは見る影も無い。

 

「どうしますグロム、このまま里まで飛び抜けますか?」

 

「いや、これをやりやがった奴が近くにいるはずだ。幸い、これだけ距離がありゃあ里の方にも被害は出てないだろう。それなのにここにあの水を落としたってことは、きっと迎撃に出てる者がいたからだ」

 

名無し殿の顔が脳裏をよぎる。彼は生きているだろうか。この惨状だ、どんなことになっていても驚きはしない。だが。

 

「頼む、カロロ。今の俺の視力は大して良くない。人間や魔物がいないか、探してくれ」

 

「了解!このワタクシの目から逃れられる存在はいませんとも!」

 

軽快に声を上げ、カロロは僅かに高度を落とし目を凝らし始めた。お姫様抱っこの状態で抱えられている俺も、無駄と分かりながら地上をじっと見つめる。敵か、あるいは名無し殿を探す為に。

 

「何かが光りましたな!人ではありませんが、あれは・・・・・・」

 

しばらくして、何かを見つけたカロロが高度を下げ地上へ降りていく。大地は酷くぬかるんでいる為、半分埋まっている巨木の残骸に着地したカロロは俺を降ろしつつ言った。

 

「ここでしばしお待ちを!さっきの物、確認してきましょう」

 

「頼む」

 

カロロの背を見ながら、俺は悔しさに歯噛みする。正直、今の俺では足手まといに近い。あぁクソ、自己嫌悪している場合じゃない。出来るのは考えることだけなら、それをやり続けろ。敵は攻撃の意思を持って侵攻してきている。里の手前で水球を落としたのは、前進を阻む邪魔者がいたからだ。恐らくは、名無し殿。それ以降大きな動きが無いということは、敵は邪魔者を排除したと認識している、ということか。

 

「名無し殿・・・・・・!」

 

あの得体も底も知れない奴が、あっさり死ぬとは考えたくない。しかし・・・・・・。取っ散らかる思考に苦慮していると、カロロが颯爽と戻ってきた。

 

「グロム!これが転がっておりました!」

 

「これは・・・・・・飛び筒、か」

 

泥だらけのそれは、名無し殿が所持していた飛び筒の一つだ。泥や小石が詰まり、時間をかけて整備しなければ使い物にならないだろう。そして、ここにこれがあるということは。

 

「・・・・・・ふぅ」

 

俯て息を吐き、思考を切り替える。一度、隠れ里に戻った方がいいかもしれないな、こりゃ。胸が痛むような感覚を振り払い、俺は口を開こうとした。その瞬間、

 

ドォン!!!

 

遠くから音が響いた。間違いない、飛び筒の発射音。咄嗟に顔を上げ叫ぶ。

 

「カロロ!!」

 

俺の意を汲んだカロロが、俺を一瞬で担ぎ上げ羽ばたいた。さっき以上の速度で猛然と飛び、音のした方向へと向かう。俺は懐の飛び筒をギュッと握り締め取り出した。揺れと風が吹き荒れる中、危険を冒して装填をする。出来ることを、やるだけだ。

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

突然の襲撃者に、しかし『水禍』の魔術師は的確な判断をした。魔石の割れる音と共に水の壁を展開し、そこに身を寄せる。襲撃者、おそらくは鳥の亜人の速度はとてつもない。こうして水の壁を盾にしていれば、減速出来ず一度は通り過ぎるだろう。その間に異形の怪物を始末し、体勢を立て直せばいい。

 

「チィィィィァァアアッッ!」

 

怪鳥音を上げ、鳥の亜人は水の壁の上スレスレを通り抜けた。すれ違いざまの攻撃に身構えていた魔術師の気が、一瞬だけ緩む。その瞬間、羽ばたく亜人に抱えられた幼子と目が遭った。頭から二本の巻角を生やした彼女は、小さく短い手で杖のようなものを構えこちらに向けている。魔力の発生を感じ、咄嗟に魔術を行使しようとするが遅い。さっきと似た爆音が響き渡り、『水禍』に再びの衝撃が襲い掛かった。

 

ドォン!

 

「なぁっぐふっ!!?」

 

自身が形成した水の壁に叩き付けられ、飛び筒の射撃によって抉り取られた太ももの肉から血が噴き出す。それでも『水禍』は杖を構え直し、霞む視界を飛び去る亜人に向けようとした。が、

 

「ぐぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」

 

異形が渾身の雄叫びと共に突進する。飛び筒による一撃で魔術師の集中が途切れたのを、彼は見逃さない。千切れぬはずの水の鎖を引き千切り、杖を構えようとしている『水禍』にそのままブチ当たった。盾にしようと構えられた杖を容易くへし折り、水の壁が霧散すると同時に地面へと叩き付ける。拳を振り上げ殴りつけようとした所で、異形は『水禍』が意識を失っていることに気付いた。

 

「───ふ、ぅ」

 

ゆっくりと身を引き、気絶した魔術師の横で胡坐をかく。激痛に消耗、倦怠感が全身に蓄積して今にも溢れ出しそうだ。しかし、まだ生きている。

 

「名無し殿、大丈夫か!!」

 

カロロに抱えられていたグロムが近くに降り立ち、駆け寄ってくる。手には未だに薄く煙を上げている飛び筒。彼らの乱入が無ければ、確実に死んでいただろう。

 

「怪我、は、ある。が、問題、は、無い」

 

「そんなわけ無いように見えるがねぇ!?ええい、ちょっと待ってろ応急処置だけする!」

 

異形の腕を握り、焦ったような様子でまくし立てるグロム。カロロは休む間も無く再び翼を広げ、飛び立ちながら高らかに叫ぶ。

 

「ワタクシが隠れ里に行き人を連れてきましょう!どうかそれまで持ちこたえてくだされ!」

 

「私は、いい。こっちを、先にしろ。情報、吐かせる」

 

異形は魔術師を指差し言った。こいつから情報を得ることが出来れば、この後の状況をある程度有利に進めることが出来るかもしれない。

 

「っ・・・・・・!あぁクソ分かったよ!全く見上げた根性だねぇ名無し殿は!」

 

言葉とは裏腹に罵るような口調でグロムが言い放ち、魔術師の止血にかかる。その背に何かを問おうとしたが、言葉が出てこなかった。異形は胡坐をかいたまま、空を見上げる。今朝とは違い、曇り空が晴れよい天気だ。

 

「ふ・・・・・・」

 

安堵か、あるいは緊張の糸が切れたのか。異形は口元に微かな笑みを浮かべ、流れていく雲と飛んでいくカロロを眺める。化け物と怪物と迫害され、長い流浪の果てに得た安息の地。大型の動物や魔物を追い払い、密猟者を殺し。隠れ里を守り続けた。里の者は優しく温和であり、争いごとには決して向いていない。だからこそ、これまでもこれからも一人で戦い続けるものだと思っていたが。まさか、絶体絶命の窮地に助けに来る者達がいるとは。感慨深いような、変化が恐ろしいような、妙な気分になりながら異形は目をつぶった。

 

100年以上、味わえなかった感覚が湧き上がってくる。最早擦り切れ思い出すことの出来ない、脳が痺れるような眠気。何故それを感じることが出来るのかも分からぬまま、異形はゆっくりと意識を手放すのだった。




戦闘描写書くの難し過ぎない??????
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