TS羊娘は楽園の夢を見るか   作:てぬてぬ@TSF

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飲めや騒げや

「それじゃあ、乾杯!」

 

「「「かんぱーい!」」」

 

里の外れ。異形の旦那の小屋近くに集まった俺たちは、俺の声に合わせて盛大に木製ジョッキをぶつけ合わせる。運び込んだテーブルに並べられた料理はかなりの量で、食べきれるか怪しいくらいだ。

 

「チッチチチチチチ!いやぁ最高ですなぁ!目的を達成した上に被害は0!全員で掴み取った結果ですとも!」

 

「いやぁカロロさんの言う通りだ!これほど酒が上手いのも久しぶりですよ!」

 

カロロとオーギスが肩を組んで言い、ジョッキに注がれた果実酒を一気に呷る。初っ端からロケットスタートだなおい。

 

「ふん。偶然が重なったお陰でもあるがな。まぁ、だとしても犠牲が出なかったのは喜ばしい限りだ」

 

澄ました顔で川魚のパイ包みをつついている『水禍』は、しかし嬉しそうな様子だ。そこに、『鏡像』殿が近付き背中を叩く。むせる『水禍』。

 

「あんたのお陰でもあるだろう?もっと素直になりゃあどうだい!そら、ニェークの所からくすねてきた火酒だ、たっぷり飲もう!」

 

「ごっほ・・・・・・!?貴様、既に酔っているな?顔が火だるまのようだ。ええい、かの『鏡像』の魔術師が絡み酒とは、育ちが知れるというものだなごぼぼっ!?」

 

「はっはっは、いいから飲みなって!あんたみたいな奴は、一度前後不覚になるまで酔っ払ってみるといい!そうすりゃ胸のつかえも取れるかもしれないよ?」

 

「がぼぼぼ・・・・・・」

 

透明な瓶を口の中に突っ込まれ、無理やり酒をふるまわれる『水禍』。匂いだけでも酔ってしまいそうな程強い酒のようだ。あそこに近付くのはやめておこう。

 

「あ、グロムさん!これも絶品ですよ、川で冷やしながら壺で漬けてたので、味が奥まで染み渡ってるんです!」

 

「おー、こりゃ美味そうだ。兎の肉かな、これは」

 

「はい!先日守り神様が獲ってきたものです。って、わっ!?」

 

「わーいグロムちゃんにミュリアちゃーん!私も頑張ったからさぁ、ご褒美ちょうだいご褒美!」

 

美味しそうな肉料理を持ってきたミュリアちゃんと話していると、俺たち二人をイニマがまとめて抱きしめてきた。酒精の匂いは感じないが、まるで酩酊しているような頬の赤さと態度。言ってしまえば、いつも通りな気もする。

 

「あぁ、うん。イニマもよくやったよ。誰一人欠けちゃあ成し遂げられないことだった」

 

「はい!オーギスさんからも聞きました、敵を千切っては投げ千切っては投げの大活躍だったって!凄いです、イニマさん!」

 

二人して彼女の頭を撫でる。すると、まるで液体のようにふにゃふにゃの表情になって抱き締める手に力が入った。いや、その顔どうなってんだ?魔術?なんかの魔術なのか?

 

「えへっ、うふふふふひひっ・・・・・・!幸せぇ・・・・・・!」

 

奇声を漏らすイニマに捕獲されている間、テーブルの向かい側では異形の旦那が黙々とジョッキを空け、料理を口に放り込んでいる。そこにチャロがやってきて、おずおずと話しかけた。

 

「あの、守り神様、でいいんだっけ?」

 

「好きに呼べ。どうした?」

 

「その・・・・・・空から見ていたけど、あなたの飛び筒は凄かった。あれ、どういう原理なんだ?」

 

「・・・・・・ふむ」

 

手を止めて考え込む素振りを見せる旦那に、チャロは慌てて言う。

 

「あ、いや、教えられるものじゃないなら、別にいいんだけど」

 

「いや、いいだろう。俺たちはもはや戦友だ。だが、他言無用で頼むぞ」

 

「っ、分かってる!」

 

新鮮な組み合わせだが、仲が良さそうで何よりだ。はは、嫉妬しちまうな。

 

「皆さん、追加の料理を持ってきましたよ!」

 

ここで、両手に沢山の皿を持ったラソンがテーブルに次々と並べていく。空いた皿を片付ける手際といい、見惚れる程の速度だ。お、カワゴオリウオの塩焼きもあるじゃないか。兎肉を食べた後にいただこうかな。

 

「相変わらずの職人芸だねぇ、ラソン!ニェークの下で働くよりも有名レストランとかで働いた方がいいんじゃないの?」

 

『水禍』の口に瓶を突っ込んで固定しつつ、さらにヘッドロックをかましている『鏡像』殿がヤジを飛ばす。人は見かけによらないな。どっちも、色んな意味で。

 

「生憎、主に仕えるのが私の喜びですので。ほら、酒も持ってきたので好きに飲みなさい」

 

「気が利くじゃないか、ありがたく受け取ろう!ほら、『水禍』殿。飲め飲め!」

 

「ま、待て『鏡像』、私はもう結構がぼぼぼぼ」

 

・・・・・・目を逸らし、俺は兎肉のつけ焼きを頂くことにした。無礼講、無礼講だからな。うん。

 

「ほれ、イニマも何か食べな。折角の宴会だ、俺らに抱き着いてるだけってのもよくないだろう?」

 

「そ、そうですよ。イニマさんは何か好物ありますか?持ってきますよ」

 

「わぁ、両耳が幸せ・・・・・・二人が好物だよもう!」

 

よく分からんことを叫ぶイニマは、しかし後ろからオーギスに担ぎ上げられた。しかし、彼女は俺たちを離さない。

 

「おいイニマ、いい加減離してやれっての。ヒック」

 

「えーやだー!リーダーだって酔っ払ってるじゃないですか、私もグロムちゃん達で酔いたいもん!」

 

「まぁまぁイニマ殿、一旦こちらに来てください。ワタクシの手元にある毛糸玉、実はこれ、グロムがエリンドに滞在中に自分の毛から紡いだものでしてな。ヒック」

 

「えっほんと!?くれるんですか!?欲しいです!」

 

テンションに反して俺たちをそっと降ろした後、オーギスを跳ね飛ばしカロロの元へ瞬間移動するイニマ。出会った時や馬車を防衛してる時も思ったが、やはり彼女は相当の実力者みたいだ。奇行もかなり目立つけど。

 

「さぁ、異形の飛び筒使い!これは私のお気に入りの火酒でね、飲み比べといこうじゃないか!」

 

「いいだろう。外の酒は殆ど飲んだことが無いからな。楽しみだ」

 

『鏡像』殿は、早々に潰れたらしい『水禍』を放り出して旦那に絡んでいる。旦那も旦那で鷹揚に頷いているが、案外呑兵衛なのか?酒を飲んでいる所を見るのは、今日が初めてなんだよな。チャロは酒が苦手なようで、こっそりとカロロの元へと離脱していく。

 

「あ、グロムさん。私ちょっと、『水禍』さんを介抱してきます」

 

「あー、そうだな。俺も行こうか?」

 

「いえ、大丈夫です!グロムさんはこのまま楽しんでてください!」

 

そう言って、ミュリアちゃんはテーブルに突っ伏している『水禍』に駆け寄っていった。ちょいと気になるが、まぁいいか。そういえば、里の皆も楽しんでいるだろうか。里長が気を回して場所を分けてくれたんだが、あちらの様子も覗いてみるか。心地良い喧騒の中、俺は立ち上がり歩き始めた。

 

 

 

 

「ん、ぐ・・・・・・」

 

「あ、目が覚めましたか?」

 

酒精が抜けず頭が揺れる中、『水禍』がゆっくりと目を開けると、そこには心配そうに覗き込むミュリアの顔があった。

 

「・・・・・・すまん、どういう状況だ?」

 

「えっと、『水禍』さんが『鏡像』さんにお酒を飲まされて、それで」

 

「いや、そういうことではなくてだな」

 

なんとか起き上がろうとする『水禍』だが、視界がぐわんぐわんと揺れている。あれだけ飲ませされれば当然だ。どうやらここは広場から離れた場所のようで、遠くから馬鹿騒ぎの音が微かに聞こえてきていた。

 

「あっ、駄目ですよ。もう少し休んでいてください」

 

やんわりと抑え付けられ、寝かされてしまう。後頭部に当たる柔らかな感触は、恐らくミュリアの太ももだろう。

 

「・・・・・・里の者に、お嬢さんはグロム殿の嫁だと聞いたが」

 

「はい、そうですよ。同族化の術をグロムさんに・・・・・・」

 

「事情は知っている。だが、いいのか?このようなことを」

 

「・・・・・・?えっと、どういうことですか?」

 

可愛らしく首を傾げるミュリアに、『水禍』は別の意味で頭が痛くなってきた。いや、この里では当然のことなのだろうか?酒精に浸った脳で考えながら、問いを投げかける。

 

「本来、こういうこと・・・・・・膝枕は、親しい相手にするものだ。それこそ、恋仲の相手などにな。それを、私にしてもいいのかと聞いている」

 

「でも、固い木の椅子に寝かせられたままよりも、こっちの方が楽じゃありませんか?」

 

「いや、それはそうなんだがな・・・・・・」

 

いつもの『水禍』ならば皮肉めいた言葉を返す所だ。しかし、酒のせいで頭が回らない。思ったことを、そのまま零してしまう。

 

「無知で無垢なのは結構だが、それはグロムにしてやれ。私は大丈夫だ」

 

「駄目ですって、まだお酒が抜けていないですよね?真っすぐ歩くことも出来ないと思います」

 

「・・・・・・。はぁ。お前といい、里の奴らといい。優しいに過ぎるな、ここの亜人達は」

 

苦笑を浮かべ、ミュリアの言葉に甘えて体の力を抜く。

 

「私は貴様らを平穏を破壊しにきたというのに、その相手にこのような施しか。里の外では食い物にされるだけだ」

 

「それは、はい。分かってます。グロムさんやカロロさんの話を聞いたり、実際に里の外に行ったりしてみて。今まで、私達はとても恵まれていたんだなって。それでも、出会う人達は優しい方々ばかりで。『水禍』さんも、命を賭けてこの場所を守ってくれましたから」

 

「そういう契約だ。捕まった時点で、殺されても文句は言えなかった。礼ならグロムに言うがいい。そも、お嬢さんは私のことが嫌いなのではなかったか?」

 

訊ねながらも、徐々に思考が鈍化していくことに気付いた。視界が少しずつぼやけ、微睡みが近付いてくるのを感じる。

 

「それは、今もそうですよ。守り神様を傷付けて、里を、えっと、食い物にしようとして。謝ったからといって、今でも許せません。でも」

 

柔らかな、争いを知らぬ綺麗な手が『水禍』の頭を撫でた。心地良い。

 

「『水禍』さんは、里の為に力を尽くしてくれた。里を襲った事実が変わらないように、里を守ってくれた事実も変わりません。だから、ありがとうございます」

 

真摯な想いが込められた言葉に、『水禍』はなんの返答も出来なかった。この里に来て、幾度も貰った感謝の言葉。それは、過酷な世界で虚勢を張り続けていた彼にとって、何よりもかけがえのないものだったのだ。

 

しかし。だからこそ、彼は懸念している。彼らの善意は、里の外の悪意にあまりにも弱い。そして、共和国に場所が知れた以上多かれ少なかれ悪意に晒されるだろう。脆く、触れただけで崩れ落ちそうな平穏。果たして、これから先どうなるのか。

 

「お嬢さん。無知は罪だ。このままでは、里は持たぬ」

 

「『水禍』さん?えっと、何を・・・・・・」

 

「私や、グロム・・・・・・いくら里を守ろうとも、それは庇護に過ぎん。本当に、この場所を守りたいのならば・・・・・・里の者達が変わるしかない」

 

酒精と眠気で渦巻く頭の中、『水禍』は己でも何を言っているのか分からぬままに言葉を紡ぐ。

 

「ミュリア。お前は、里の当事者だ。お前が変われば、里の者も変われるだろう。グロムや、異形は反対するだろうが・・・・・・」

 

彼らは過保護過ぎる。彼はそう思っていた。ただ守られるだけでは、里は永遠に脆弱なままだ。いつか、綻びが出来てしまうだろう。

 

「私も・・・・・・ここは、気に入った・・・・・・だから、頼む・・・・・・」

 

微睡みへと落ちていく中、『水禍』は最後に願いを吐き出した。祈るような、あるいは縋るような声色で。

 

「お前たちも守るのだ。この、楽園を」

 

 

 

 

「おや、おかえりなさいグロムさん。里長達の方に行っていたのですか?」

 

「あぁ。あっちもあっちで盛り上がってるみたいで何よりだ。名目を隠してるのが申し訳無くなるね」

 

戻ってくると、ラソンが空き皿を片付けている所だった。カロロは冒険者三人組と一緒に何やら豚の丸焼きを解体している最中で、異形の旦那は『鏡像』殿との飲み比べに勝利したようだ。むにゃむにゃ寝言を言っている彼女を長椅子に横にしつつ、こちらを見て聞いてくる。

 

「ん・・・・・・ミュリアは一緒ではなかったのか?」

 

「いや、ミュリアちゃんは酔い潰された『水禍』の介抱をするって言ってたが・・・・・・見当たらんな」

 

「あぁ、彼女なら『水禍』殿を背負って少し離れた場所へ行きましたよ。静かな方がいいだろうとのことで。一応、見張りは付けてますから危険なことにはなっていないでしょう」

 

さらりと言うラソン。この乱痴気騒ぎの中でも警戒を忘れてないとは、頭が下がる思いだ。というか、一段落したせいか俺も気が抜けてたな。いかんいかん。

 

「ちょいと様子を見てくるか。っと、噂をすりゃあ・・・・・・」

 

ミュリアちゃんが一人でこちらに歩いてくるのが見える。なんだろう、どこかぼぅっとしたような様子だけども・・・・・・。

 

「おぅ、ミュリアちゃん。『水禍』の介抱ありがとうな。奴はどうしたんだ?」

 

「あ、えっと、ぐっすり寝てしまったので、ベッドまで運んでおきました」

 

返答も、なんだかぎこちない。何かあったな、こりゃ。場合によっちゃあ『水禍』に飛び筒をブチ込まなきゃいけなくなるが、さて。

 

「ミュリア、何があった」

 

「い、いえ、ただ『水禍』さんとお話をしただけで・・・・・・。ちょっと、考えなきゃいけないことが、あって」

 

歯切れが悪い口調で、彼女は視線を落とす。いや、本当に何があったんだ?

 

「あーっと。そいつは俺らには話しにくいことかい?」

 

「そう、ですね。きっと、私だけで答えを見つけないといけないんだと思います」

 

神妙な態度のミュリアちゃんは、澄んだ瞳で俺たちを見つめて言った。なんというか、付け入る隙が無い剣士のような雰囲気を感じる。

 

「・・・・・・そうかい。じゃ、これ以上は聞かないさ。なんかあったら、いつでも相談に乗るからな」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「むぅ・・・・・・」

 

異形の旦那は納得してなさそうだが、それでもミュリアちゃんの意志を尊重してるのか、黙り込んだままジョッキを呷った。まだ飲めるのか、凄いな。と、

 

「グロムちゃんにミュリアちゃーん!お肉切り分けたから食べてー!」

 

「特に顎の部分の肉が絶品でしてな!さぁさぁ食べてくだされ、チチチチチッ!」

 

イニマにカロロが肉を乗せた皿を持ってきて、後ろにオーギスとチャロも続いていた。まだまだ、祝勝会はたっぷりと続きそうだ。

 

 

 

・・・・・・尚、翌日に『水禍』を旦那と俺の二人で詰めたんだが。彼は酒で記憶が飛ぶタイプらしく、有用なことは何も聞き出せないのだった。




『鏡像』が一番酒癖悪いです。ストレス溜まってるんでしょうね。
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