TS羊娘は楽園の夢を見るか   作:てぬてぬ@TSF

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通じ合うためには

「・・・・・・」

 

俺たち三人は無言のまま、小屋の中で向かい合っている。とてもじゃないが気まずくていけない。沈黙が痛くなってきた所で、異形の旦那がおもむろに口を開いた。

 

「グロム。ミュリア。想いは、伝えきったのか?」

 

「ん、んん?」

 

突然のそんな言葉に、変な声が出てしまう。ひょっとして、旦那は何か勘違いしてるんじゃないか?

 

「いや、旦那、俺たちは・・・・・・」

 

「分かっている。言い争っていたのだろう。意見をすり合わせるのでは無く、想いをぶつけ合う。よくあることだが、本当に心からぶつけ合える相手とは得難いものだ」

 

しみじみとした口調で旦那が言い、暖炉にかけていた鍋からお湯を掬ってコップに注いだ。

 

「時には激しくぶつかることも、悪いことではない。お前たちは仲がいいが、互いに遠慮している部分があるからな。伝えられる気持ちは、伝えた方がいい」

 

白湯の入った木製のコップを、俺たちに差し出す旦那。異相だというのに、穏やかそうな雰囲気を感じる。

 

「あ、ありがとうございます。守り神様も、そういうことがあったんですか?」

 

「遠い昔、一度だけな。だから、お前たちも存分に言い争え。時には喧嘩をするのも、悪いものでは無いぞ」

 

おずおずとコップを受け取りながら、俺は旦那とミュリアちゃんを交互に見た。ミュリアちゃんは戸惑ったような表情で、白湯を吹いて覚ましつつ口を付けている。どうにも、言い争うって空気じゃない。所在無く、俺も白湯に口を付けた。

 

「しばらく、外に出ていよう。終わったら呼んでくれ」

 

旦那が立ち上がり、声をかける間もなくさっさと出ていってしまった。残された俺たちは顔を見合わせて、しかし沈黙する。ど、どうすりゃいいんだ。

 

「・・・・・・ごめんなさい、グロムさん。私、グロムさんの気持ちも知らずに勝手なことを言ってしまって」

 

暫くして、ミュリアちゃんが口を開くと共に頭を下げる。心が、ズキリと痛んだ。

 

「違う、違うんだミュリアちゃん。謝るのは俺の方だ。俺が勝手に、ミュリアちゃんや里の皆を争いから遠ざけていたんだ。良かれと思って、そういう建前で・・・・・・」

 

「でも、守ってくれていたのは事実です。グロムさんも、守り神様も、カロロさんも、他の皆も・・・・・・命を賭けて私達を守ってくれた。だから、謝らないでください」

 

「ぐ、むぅ。俺のエゴなんだよ、結局。誰を犠牲にしようと、楽園をそのままの形に保とうってさ。自分勝手な本性だと思うだろ?」

 

「思いませんよ。だって、グロムさんは皆が生きて帰れるように作戦を考えてたじゃないですか。そして、皆が無事に戻ってきた。里も、守れた。悪いことなんて、何一つ無いんです」

 

ミュリアちゃんに言い切られ、俺は居心地悪げに頭を掻く。もこもこの髪の毛は、今の自分が否応無く弱い存在だということを伝えてきた。と、彼女は俺から目を逸らし、深く俯く。

 

「私は、正直分からなかったんです。シリュートって人を殺してまで、やらなきゃいけないことなのかって。でも、それはグロムさん達に対する侮辱だった。もう、自分で自分が分からないんですよ。何を考えて、何をするべきなのか。ぐちゃぐちゃで、ぐるぐるして、それでも分からなくて。どうすれば、いいんでしょうね」

 

切実な、苦悩が伝わってくる言葉。あぁクソ、孫ほども歳が離れているミュリアちゃんに励まされて、それなのに彼女の苦悩を救えなくて。一体どうしたいんだ俺は!情けなさに奥歯を噛み締める。さっきの旦那の言葉が脳裏をよぎり、俺は思いっきりぶつかる覚悟を決めた。

 

「ミュリアちゃん。俺は、君の苦悩を解決することは出来ん。俺も、悩んでる真っ最中だから。精々、傍にいてうんうん唸れるだけだ。それは、すまん」

 

「ぐ、グロムさんは悪くないですから」

 

「待ってくれ、続きがある。だからさ、一緒に悩もうや。答えなんざ見つからないかもしれないけど、さ」

 

「え?」

 

呆けたような顔のミュリアちゃんに、俺は続けて言う。思考は纏まってないが、知るものか。

 

「俺とミュリアちゃんの悩みや考えは、相反するものかもしれない。だけど、俺たちは相手を否定したい訳じゃ無いだろ?だから、一緒に悩もう。互いの考えや悩みをぶつけ合って、答えを探していこう。それぞれのエゴを、尊重しようや」

 

「そ、それは・・・・・・でも、いけないことなんじゃ」

 

「いけないなんてことは無い。我が儘を通そうとした俺も、悩み続けているミュリアちゃんも。なんも悪くない。いや、悪かったって構わないじゃないか。誰に迷惑をかけるでも無し、俺たちの間で済ませておけばなんの問題もありゃしないよ」

 

胡乱気味な言葉が、次から次へと溢れてくる。止まらん。

 

「だから、正直に言わせてくれ。ミュリアちゃん達羊人は、直接戦うのにゃあ向いてない。精神的な話だが、攻撃性が薄過ぎるからな。下手に訓練を重ねたとしても、敵を殺さなきゃいけない場面になったら必ず躊躇してしまう。そういう、優しい人達だ」

 

「・・・・・・だ、だったら私達はどうすればいいんでしょう。このままじゃ、いけないのに」

 

「多分、だけどさ。『水禍』が言おうとしたのは、もっと抽象的な意味だと思うんだよ。直接戦うとか、そういうことじゃなくて。なんて言ってたか、改めて思い出してくれないか?」

 

俺が問いかけると、戸惑っていたミュリアちゃんは目をつぶり考え始める。やがて、ポツリポツリと話し始めた。

 

「そういえば・・・・・・戦え、とは言ってなかった気がします。無知は罪だから、変わらなきゃいけない。羊人達も里を守れ、と。確か、そんな感じです」

 

「あぁ、そういうことかい」

 

ミュリアちゃんの言葉に、俺は『水禍』の言わんとする所を理解した。それは俺にとって、あまり歓迎するべき考え方じゃない。だけど、伝えないとな。

 

「『水禍』らしいな。ミュリアちゃん、あいつが言おうとしたことは多分、責任を持てってことだ。里の現状を羊人達が理解して、抗う為に行動しろってことだよ」

「えっと、つまり、どういうことなんでしょう?」

 

「簡単だ。先日から、里周辺まで流されてきた木々や土砂を撤去したりしただろう?やることは、あれと大して変わらない。ただ、表向きはただの片付けだったが、実際は違った。防衛用の結界を張る為に、片付けることが必要だったんだ」

 

「それは、何が違うんですか?」

 

ミュリアちゃんは少し首を傾げて言う。確かに、分かり辛いよな。

 

「つまり、何のために行動しているかを理解しているべきってことさ。例えば、里の近くに見張り台を建てるとする。敵が近付いてきた時に見つける為だ。羊人達が見張り台を建てる時、その事実を教えてもらっているかいないかで意味合いが変わるんだよ。知った上で、里を守る為に見張り台を建てるのと、何も知らずに建てるのと。ミュリアちゃんは、どっちがいいと思う?」

 

「え、っと・・・・・・知っていた方が、いいんじゃないかと思います。何をするのか分かっていた方が、なんとなくですけど、気持ちが違うと言うか」

 

「うん。要は、覚悟の問題だ。羊人達が里の現状を知り、その上で守る為に行動を起こす。それは意思の力だ。実際に前線で戦わなくとも、戦っているのと同じだよ」

 

俺は知っている。兵士が前線で戦う為には、その数十倍の人間が必要だということを。武具を作る者、食材を育てる者、それを運ぶ者、運ぶ道を整備する者。何より、兵士達が帰るべき、日常を形作る者達。誰かが欠ければ、兵士は全力で戦うことは出来ない。

 

「で、でも、それじゃあ結局グロムさん達に任せっ放しにしているのと同じじゃ・・・・・・」

 

「いいや、違う。そもそも俺は、現状を伝えることにも抵抗があるんだ。そういう、争いごとの実感を持ってほしくない。知ってしまえば、考え方も変わる。きっと、里全体がここを守ろうと奮起してくれると、そう信じてる。それは、俺が思い描いていた楽園からは離れるものだ。でも」

 

じっと、ミュリアちゃんを見つめた。彼女は、強い娘だ。どれだけ悩んでも決して諦めず、思考を放棄することも無かった。だったら、俺も覚悟を決めよう。

 

「それは、戦うということだ。立ち向かう意思を持って生きること、それ自体が戦いの本質なんだよ。だから、俺はミュリアちゃんの考えを否定しない。戦いたい、共に里を守りたいという想いを否定することは出来ない。本当は、争いを知らない穏やかな存在でいてほしいけど・・・・・・それはあくまで、俺の問題だ。ミュリアちゃん達の問題じゃないからな」

 

「グロムさん・・・・・・それじゃあ、私が皆に今の里の現状を伝えたら、貴方は悲しむんじゃないですか?」

 

「かもしれない。だけど、遠慮はせんでくれ。頼むよ。ミュリアちゃんにだったら、俺は理想を壊されてもいいんだ」

 

そう。命を助けられてから、今に至るまでの間。いつのまにか、ミュリアちゃんの存在は俺の中でそれ程に大きくなっていた。恋愛とも親愛ともつかぬ、妙な感情。俺は、ここに至ってようやく自覚した。

 

「やっちまってくれ、ミュリアちゃん。俺の浅ましい考えをぶち壊して、隠れ里が未来へ進んでいけるように。今を乗り越えて、その先へ歩んでいけるように」

 

幼い声で言う。俺の、真っすぐに歪んでいる願いを。

 

「・・・・・・グロムさん。分かりました。私は、私が正しいと思うことをします。きっと、貴方が望まないことを。それでも、私と夫婦でいてくれますか?」

 

「当たり前だ。俺はもう、ミュリアちゃんのことが大好きだからな。家族として、絶対に別れたくない」

 

「よかった、私もです。グロムさんは兄みたいで、妹みたいで、お父さんみたいで。それでも素敵なお婿さんですから」

 

俺たちは、小屋で向き合いながら笑い合う。この在り方は、普通の夫婦とは違うんだろう。でも、これでいい。俺たちは、これがいい。心の内の隅々まで、全てをさらけ出しながら。俺とミュリアちゃんは、優しく抱き合ったのだった。

 

 

 

 

「・・・・・・上手く、いったか」

 

小屋の外、丸太が積まれている所に座りながら、異形はぼそりと呟いた。経験から研ぎ澄まされた聴力は、意図せずとも小屋の中の会話を拾ってしまう。もしも最悪なことになりそうなら再び割り込むつもりだったのだが、その心配は杞憂だったようだ。

 

里がこれからどうなっていくか。それは、二人に任せよう。自身は、やるべきことをやるだけだ。そう思いながら、異形はふと昔のことを思い出した。異形が異形となる前の、遥か過去の記憶を。

 

かつていた、数少ない友の一人。勇壮な剣士だった彼とは、何故か馬が合った。鍛錬で鎬を削り合いながら、絆を深め合う。旅の最中に語り合い、下らぬ話で笑い合う。ある日、些細なことで大喧嘩した時には数時間に及ぶ取っ組み合いと罵り合いの末、互いに大の字になって夜空を見上げた。その時に交わした会話で、仲直りしてより絆が深まったのだ。

 

あの頃は、とても楽しかった。他の二人の友と一緒に、四人で大陸を巡ったあの日々。かけがえの無い、大切な記憶。

 

「・・・・・・ふ」

 

口角を歪め、苦笑を浮かべる。実の所、この思い出は最近まで忘れてしまっていた。一睡も出来ぬ呪いの影響か、古い記憶は全て霞んでしまっていたのだ。なので、思い出せたのはグロムのおかげということになる。感謝に堪えないな。そう思いながらも、異形は夜空を見上げた。今日も、よく眠れそうだ。

 




僕はねぇ!恋愛感情以外で繋がっている男女が好きなんだよ!片方か両方TSしてるとなおヨシ!
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