TS羊娘は楽園の夢を見るか   作:てぬてぬ@TSF

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それぞれの思惑

カロロに正しい情報を教え込んだ後(数時間かかった)、俺は改めて訊ねてみた。つまり、共和国側の対応を。

 

「対応ですか?ひとまず軍は動かさず、冒険者に調査依頼を出してましたな。ワタクシ以外の受けた者は知りませんが。ワタクシのように勇壮な冒険者は早々いませんからねぇ!チチッ!」

 

「あーそうだな、お前みたいな考え無しはそうはいねえよ」

 

空を飛べるとはいえ、何があるか分からない方角にひたすら進み続けるのは勇者かアホしか出来ない。こいつはまぁ、両方だろう。

 

「んー・・・・・・よし。とりあえず、俺は名無し殿の所に行ってくるとするわ。下手に冒険者を攻撃して、関係性が険悪になるのはよくない」

 

「チチチッ、ではワタクシも一緒に」

 

「いや、カロロはここにいてくれ。名無し殿は騒がしいのが苦手だからな、あんたがいたら眩暈を起こしちまうよ」

 

カロロにも名無し殿のことは説明したが、実際に会ったらどういう反応をするか未知数だ。今、これ以上の混乱は避けたい。

 

「それは残念。まぁワタクシの声は遥か彼方まで届きますので!致し方ありませんな!」

 

「・・・・・・ミュリアちゃん、すまんがカロロを頼む。口うるさいけど根はいい奴だからさ」

 

出来るだけミュリアちゃんに迷惑はかけたくないが、ここは頼らせてもらおう。

 

「はい!お任せください!」

 

「チチチチッ、お任せを!何が起ころうとも、グロムの妻であるミュリア殿の身は守りますとも!」

 

まぁ、何も言うまい。俺は軽く頷いて、家を出て名無し殿の小屋へと急いだ。

 

 

 

 

 

「ねぇ、カロロさん。昔のグロムさんのこと、詳しく知ってるんですか?」

 

「えぇ、よく知っておりますとも!初めて出会ってから、もう20年近くの仲ですからな!」

 

グロムが家を飛び出した後。ミュリアは、興味津々といった様子でカロロに訊ねる。カロロもカロロで意気揚々と答えるので、二人の会話はどんどん弾んでいった。

 

「───そして間一髪!ワタクシの手に掴まり、グロムは敵の要塞から脱出したのです!」

 

「わぁ、凄い!お二人とも、カッコいいです!」

 

「でしょう!?ワタクシは当然として、我が友グロムも歴戦の戦士!我らの手にかかれば、王国軍など敵ではないですとも!」

 

カロロの口から語られるグロムの過去は、まるで寝物語に聞かされる英雄譚のようで。ミュリアは感嘆する傍ら、少しだけ不安になった。なんというか、急にグロムが遠くの世界の人物に思えてしまったのだ。

 

「おや、どうされましたミュリア殿?なにやら浮かない顔をしているようですが」

 

「あっ、ごめんなさい!なんでもないので!」

 

慌てて取り繕うが、鳥頭とはいえカロロは百戦錬磨の冒険者だ。声のトーンを落としながら、ミュリアに言う。

 

「ふむ。何か不安を抱えているので?ワタクシでよければ相談に乗りますよ、チチッ」

 

「いえ、本当に大丈夫ですから!それよりも、もっとグロムさんの話をしてくれませんか?」

 

咄嗟に誤魔化してしまったが、カロロはそれ以上追及せず、そのままグロムの武勇伝及びやらかした話を始めた。恐らく、何かに気付いた上で聞かなかったのだろう。

 

「そして!その助けた相手が変身能力を持つ魔物でして!半ば気付きつつも、グロムはあれこれ世話を焼いたのです!あいつはお人好しですからなぁ!」

 

「あはは。でも、きっと最後まで助けたんですよね?」

 

「全く以てその通り!性根が優しいと見抜いていたんでしょうなぁ、追っ手相手に斬った張ったの大立ち回りで!ワタクシはその時故郷に帰っておりましたので伝聞ですが、それはもう凄まじかったようですよ!」

 

カロロの話に相槌を打ちながら、ミュリアは自身の感情を整理する。きっと、自分は不安なんだ。これ以上、グロムに危険が降りかかってほしくないから。過去の話ですら、彼が危ない橋を渡ってきたことは分かる。だからこそ、今は穏やかに暮らしてほしい。偶然と流れで夫婦になってしまった相手だが、ミュリアにとってグロムは、既に大切な人物の枠に入っていた。

 

カロロのとめどない話を聞きつつ、ミュリアは無意識に考える。どうすれば、彼を支えながら危機を乗り越えられるのかを。

 

 

 

 

 

「・・・・・・てな訳だ。すまんね、名無し殿。あんたの負担が増えるが、頼めるかい?」

 

小屋の中、腕を組みながら胡坐をかいている名無し殿に事情を話すと、彼は重々しく頷いた。

 

「・・・・・・仕方、無いな。冒険者は、殺さぬ。それで、いいのだろう?」

 

「あぁ、そうだ。隠れ里にとって、頼れるのは共和国だけだからなぁ。冒険者を殺して悪感情を持たれるのは避けたい。そうすれば、交渉の余地も生まれるってもんさ。幸い、カロロも協力してくれそうだしな」

 

カロロを窓口として、共和国と交渉する。それが、現状で考えられる最高の案だ。幼子になってしまっている以上、俺では信用されないだろう。カロロを利用するのは申し訳ないが、ある程度の実績がある冒険者の言葉なら共和国も聞く耳を持つかもしれない。

 

「それで、その後は、どうする。里を、兵士に、守らせるのか?」

 

「うーむ・・・・・・まだ、そこまでは見えんなぁ。仮に共和国が守ってくれるとして、王国がどれだけの戦力を差し向けてくるかが読めない。地理的には意味が薄いけども、あくまで国境線上の土地だ。相応の軍隊を送ってくる可能性が高い」

 

「ならば、どうする。使者は、誰がゆく?」

 

名無し殿が厳しげに言葉を放つ。使者、か。隠れ里の羊人達は外交的な知識がまるで無い。俺は聞きかじった程度の知識はあるが、何せ見た目が幼女だ。まともには取り合われないだろう。となるとカロロに頼るしか無いが、あいつは良くも悪くも腹芸が出来ない。その上酷いお喋り好きだから、想定しない方向に交渉が転がっていく可能性もある。

 

「俺が元の体なら良かったんだがなぁ。ま、どうにかするさ。共和国のお上さんだって馬鹿じゃない。大体、共和国が掲げてるお題目は人間と亜人の共存だしな」

 

その言葉に、名無し殿はジロリと睨んでくる。どうやら共和国に対して思う所があるようで、ただでさえ怖い顔をしかめているようだ。

 

「ふん。共存、か。くだらん。自身と、違う者。異なる者。遠ざけるのは、当然だ」

 

・・・・・・隠れ里に受け入れられるまで、余程のことがあったんだろう。重々しい声には、並々ならぬ失望と諦観が滲んでいた。

 

「だからといって、諦めるわけにゃあいかん。全てを諦めて何もかも投げ出すのは、やることやってからにしようや」

 

「うるさい。分かって、いる。わざわざ、あいつらを、見捨てるか。敵は、殺す。それだけだ」

 

吐き捨てて、名無し殿は飛び筒を手にし手入れを始める。もう話すことは無いと言わんばかりの態度に、俺は肩をすくめて立ち上がった。

 

「また来るよ。精々、守る為に頑張ろうや」

 

無言を貫く名無し殿を背に小屋を出ていく。彼にも抱えている事情は多いのだろうが、名無し殿がいなければ里を守ることなど到底不可能だ。さて、割り切ってくれるといいんだが・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

石造りの重厚な部屋の中。紙にペンを走らせつつ、男は長い息を吐いた。横に立つ副官が小声で訊ねる。

 

「どうされました、司令官。最近、何か考え込んでいるようですが」

 

男・・・・・・司令官が感情を面に出すのには必ず意味がある。それを知っていた副官は、事情を聞かれたいのだろうと察した。予想通り、司令官はすらすらと言葉を並べ始める。

 

「いや、先日送った将校斥候のことでね。申し訳ないことをしたな、彼には」

 

「何か連絡が?しかし、戻ってくるには・・・・・・」

 

副官の疑問に、司令官はあっさりと答えた。

 

「戻ってこないだろうな、おそらく」

 

「・・・・・・どういうことでしょう?」

 

「言葉通りの意味さ。共和国の陣地にしろ、強大な魔物が潜んでいるにしろ、どのような事情があるにしても、だ。今まで、栄えある王国軍が気付かなかった、いや、我らの目から隠れ続けてきた何かがある。国家の脅威が、確実に存在しているだろう。そんな脅威が、みすみす斥候隊を逃すはずが無い」

 

「では、ジド候補生を送ったのは」

 

「彼には王国の礎になってもらった。見習いとはいえ将校が失われる程の脅威がある。我らがラオ要塞にも、危機が訪れるかもしれない」

 

言葉とは裏腹に、司令官はとても楽しそうだ。ペンを置き、軽く伸びをする。

 

「そうなれば、共和国が増援を送り込んでくる可能性も高まる。我らは王国の護りの盾、常に盤石でなくてはならないからね」

 

「成程。ご慧眼、恐れ入ります」

 

口ではそう言いながら、副官は内心嫌気が差していた。つまり、ジド候補生と斥候隊を犠牲にする代わりに、自らの指揮下の兵力を増やそうとしているということだ。共和国との最前線にいながらも、司令官には策謀の匂いが染み付いている。だが、だからこそ、10年以上国境を守り続けることが出来ているのかもしれない。

 

いずれにせよ、自分にはどうしようもない。嫌悪感を抱きこそすれ、要塞の司令官としては優秀なことに違いは無い。副官に取り立てられた恩もある。内心の不快感を押し殺しながら、彼女は言葉を紡いだ。

 

「司令官に尽力していただいた『水禍』の魔術師との交渉も順調です。彼もラオ要塞に招聘出来れば、未知の脅威とて相手にもならないでしょう」

 

「うむ、その通りだ。国家の安寧を保つには、未来を見据え行動しなければならないからね」

 

満足気に頷く司令官を見ながら、ふと思う。自分も、世辞を言うのが上手くなったものだと。それは、決して好ましい変化ではない。しかし、受け入れるしかない変化でもあった。

 

「さて。では、第二中隊の隊長を呼んできてくれるかな?ジド候補生の犠牲を無駄には出来ない、彼にも働いてもらわないと」

 

「・・・・・・仰せの通りに」

 

酷薄な笑みを浮かべる司令官に、慇懃に敬礼をする副官。その姿は、上官に忠実な部下にしか見えない。彼女は部屋を後にしながら、内心で盛大に溜め息を吐くのだった。




登場人物多くねえか????(自業自得)
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