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『……なんで泣いてるんだ?』
木に背を預けて啜り泣いている少女にそう問いかける。
『……お父さんと、お母さんとはぐれちゃったの…』
泣いている少女はそう説明する。
『なんだよそんなことで泣いてるのか!』
『そんなことじゃないよ!…もう会えないかもしれないんだよ…?』
そう言って顔を上げた少女の瞳にはいっぱいの涙が溜まっている。
『じゃあ、見つかるまで俺が一緒に探してやるよ!』
『え…?い…いいの!?』
その少女はさっきまでの悲壮感は無くどこかキラキラした瞳をしていた。
『あたりまえだろ!じゃあ行くぞ!』
俺はその少女の手を引っ張り上げて駆けようとする。
『あ、まって!あなた名前は!?』
『俺?俺は一条幸!お前は?』
「わたしは───」
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「……飯、作らないと」
俺は寝ている頭上で鳴り響く目覚まし時計を叩くように止め、ゆっくり立ち上がる。
「(…久々に見たな。あの夢…)」
学校指定の制服に着替えながら俺はそんなことを考える。
「(どうせ見るならもう少し先も見たいのになあ…。もうちょっとで名前、思い出せたのかもしれないのに…!)」
俺はキッチンまで移動してエプロンをつける。冷蔵庫からあらかじめ用意していた食材を取り出してそれぞれカットしていく。
「(まあ、夢に文句言っても仕方ないよなあ…。くっそモヤモヤするな…。……あー、そう言えば学校に行ったら小野寺に俺と桐崎のことと…どう説明するんだ…。はあ…朝から気が思いやられるぜ…)」
「じゃあ、行ってくる」
「坊ちゃん!!今日は車は!?」
「要らねえ」
朝の用事を諸々終えた俺は家を出る。今日は何故歩いて学校に行っているかと言えば小野寺に登校中に会えるかもしれないからだ、口止めなら学校に着く前のほうが良い。……。まあ、小野寺がそんなことをする奴にも思えないんだが…念には念をと言う奴だ。
「ちょっとそこのもやし!こっちよこっち!」
そんな声が聞こえて俺はその声の主に目線を移す。
「…おはようダーリン」
「お前…どうしたんだ?なんか、やつれてないか?」
そこには鞄を肩に回した制服姿の桐崎がいた。しかしその姿は昨日や学校で見られたものでは無くげっそりしたような様子だ。
「一昨日のデートの後でね…デートのことで質問で目にあって…」
「…。ああ…お前もか…。お互い大変だな…」
「本当よ!コレじゃあ家でも休まる場所がないじゃない!!」
「…、唯一気が抜けるのは学校くらいか…」
俺と桐崎は靴を靴箱に直し、上靴を履く。
「ああ…なんでこんな事に……いつまでこんなことが続くわけ?本当に3年?冗談でしょ?」
「…今現状で一番危険なのはあのメガネだな。アイツだけは俺たちの関係を疑っているようだ…。さっき木の上で俺たちの事見てやがった」
「はあ!?……と、と言うことは…私たち…学校でも恋人のフリしなくちゃいけないってこと!?」
「…。どうやら、そうらしいな…」
桐崎は盛大にほおを引き攣らせながらそう言った。俺はそれに肯定すると桐崎は落ち込んだように猫背になる。
「わ…私が一体何をしたって言うのよーーーーー!!!!」
そんな叫びが学校中に響き渡った…。
俺と桐崎は2人で教室の前に立つ。
「……良いか?監視されている以上、恋人を演じないと結局疑われて終わりになるんだからな」
「……。分かってるわよ…。ああ…私の楽園が…」
「はいはい…。もう行くぞ」
「あ!待ちなさいよ!」
─ガラガラ…
「おおっとーーー!!一条と桐崎さんじゃねえかーーー!!!」「おーいみんな!2人が来たぞー!!」「よっ!待ってました!」
「「……は?」」
俺と桐崎は突然名指しで呼ばれ、そして待っていたと言われた事に意味もわからずに唖然とした。
「「「おめでとー!!!!」」」「お前ら付き合う事になったんだってな!!」「末長くお幸せにーーー!!」
呼ばれた理由を理解した俺たちは小声で話し合う。
「ちょっと!なんでこんな事になってんのよ!!!」
「さあ…小野寺が他人に言った…、て言うのは無いとは思ってるんだが…多分だが先日のデート、誰かに見られてたんじゃないか?」
「え!?じゃ、じゃあどうすんのよ!」
「どうするって…やる事は変わらねえだろ。『恋人を演じる』それだけだ」
桐崎との話を終えた俺はふう…と少し困った風に息を吐く。周りに聞こえるようにわざとらしく。
「バレちまったものは仕方ねえな!そう!俺たちは!」
「ちょっと前から付き合い出した!」
「ラブラブカップルだっつーの!!!!」
そう言い切った俺と桐崎の周りからはヒューヒューと口笛や祝福の声が聞こえてくる。
ほんと…最悪だ………。
「あーもう!結局こうなったじゃない!!どーしてくれんのよ私の高校生活…!」
「知らねえよ…。絶対に俺のせいじゃねえ…!」
「そんなこと知ってるわよ!愚痴ぐらい言わせなさいよ!気が利かないもやしね!」
「あーあー…そらあ悪うござんしたねえ…」
俺は桐崎の無駄に大きな声が聞こえないように耳を塞ぐ。横から「何耳塞いでるのよ!」などと言う叫び声が聞こえてくるがそれらも無視する。
「じゃあ…私やる事あるから先に帰ってて!」
「あん?何するn「うるさい!」─
─ガン!!
─理不尽だろ!!」
コイツ倫理観どうなってんだよ!
桐崎に何故か殴られた俺は少し機嫌を損ねながら帰路についていた。
「(帰りにスーパーでも寄ってアイスでも買うか…)」
「お!幸じゃねえか!」
「兄貴…どうしたんだ?こんな所で」
俺がさっきのストレスを治める為に甘いものでも食べようと画作していたところ突然兄貴に声をかけられた。
「俺か?俺は今から帰るとこだぞ。幸もそうだろ?」
「ん…。まあそうだな…。帰りにスーパーに寄ろうと思ってたくらいだな……。…一緒に帰るか」
「おう!」
兄貴は俺と一緒に帰ることが目的で俺に声をかけたのだろう。そんなことをするくらいなら小野寺に声をかけたら良いものを…。
「それで?なんで今日は一緒に帰ろうなんて言い出したんだ?いつもはそんなこと言わないだろ?」
「あ、あー…実はだな……─」
兄貴は頬をぽりぽりとかきながら話し出した。
「…で?要するに小野寺は兄貴の約束の人かも知れないってか?」
「あ、ああ…。まあまだ確証は無いんだが…」
「ほーん…で?それがなんなんだよ。もしかして『お前は俺の約束の人なのか!』…とか聞きづらくて話せないとかか?」
「うっ!」
「図星かい」
な…情けねえ…!くそ……。この兄貴、恋愛が絡むと途端にヘタレやがる…!
「…兄貴はよお。小野寺が約束の人じゃなかったらその恋を諦められるのか?」
「はあ!?そんなわけねえだろ!!!」
「じゃあ、もう答えは出てるだろ。兄貴はただ小野寺にアタックを続ければ良い。その約束の子かどうかは置いておいてな」
「幸…。さんきゅ」
兄貴は鼻の下を指で擦る仕草をする。顔は手で隠しているが少し笑っているように見える。
「……。そんなに感謝してるならアイス奢ってくれよ」
「ああ!良いぜ!」
「おはようダーリン!!早く会いたかったわ!!」
「おはようハニー!!俺もだよ!!」
…。まあ知ってたさ…コイツらが1日で満足するたちじゃ無いこともな!!!
「(くっ…やはり耐え難い屈辱だわ…)」
「(はあ…コイツらが飽きてくれるまで、もうしばらくコレをしなくちゃいけないのか…。ついでにアイツの目もあるしな…)」
俺は窓際をチラッと盗み見る。するとそこにはこちらを望遠鏡で覗いているクロードがいた。俺は今すぐ閃光弾を起爆させてアイツのメガネをかち割ってやりたい欲求を抑えながらワーワー騒いでいるクラスメイトたちを捌いて行った。
「(ふう…流石にあれだけの人数を相手にするのは疲れたな…)」
俺はトイレで洗った手をハンカチで拭きながらそんなことを考えていた。
「(ん?あれは)」
そうして自分の教室に戻ろうと足を進めようとすると少し先に桐崎とその友達?が話しているように見えた。
「じゃあまた誘うねー」
「うっ…うん。また今度ね…………フゥ」
「…。お前何もじもじしてるんだよらしくないな…」
「なっ…!!う…うっさいわね!!」
「…?(…なんかいつもと違う気がするな。何か隠そうとしてるのか?)」
俺と桐崎は落ち着いて話せる場所…屋上まで来ていた。屋上には最低限のベンチが備え付けられているだけで実に殺風景だ。
「ハァ〜〜〜〜〜…どうしてこんな事になるのよ…」
「…せめてあのメガネをどうにか出来たらな…」
「それはムリ、あーなったクロードは人の話なんて聞きやしないもの。あ、そうだ一応あんたにも教えといてあげるけど…クロード今日は放課後にはいなくなるみたいよ?何かの取引とかで」
「……。取引って俺が聞いて良い奴なのか?」
「さあね、私うちの事情なんて全然知らないし…」
「そうかい…」
「………。ハァ…。これじゃあいつまでたっても…」
「…(やっぱコイツ何か隠してるよな)」
こっそり聞き耳を立てていた俺には桐崎の小さなぼやく声もしっかりと拾った。それで予感が確信に変わった俺は少し掛けることにした。
「…なあ、俺たちの関係別に秘密を守れる“友達”なら言っても良いんじゃないか?2人じゃ大変でも信頼できる“友達”がいればだいぶこの状況もマシに…「…ああそうならあんたはそーすれば良いんじゃない?」…」
「おい、やっぱおm「うっさいわね!!話しかけないで!!」…」
「私放課後やる事あるから、あんたはさっさと帰ってよね!!」
「おい!桐崎!!」
─バタンっ!!
屋上の扉を強く閉めてここから離れた桐崎に俺は上手く掛かったなと思っていた。明らかに機嫌が悪くなった桐崎を見たら一目瞭然だ。
これで全てが繋がった。さっきの桐崎のよそよそしい態度、ぼやき、友達というキーワードへの過剰反応、コレら全てが物語っていた桐崎には…友達がいない事を。
「(コレ…やっぱ俺のせいか…)」
一条幸の恋人というレッテルが桐崎の友達作りの行動に制限をかけてしまっている。
この俺一条幸にはこの学校で二つの仕事を持っている一つは親父からの頼み。もう一つは個人的な事。まず親父から頼まれた事は一条楽の護衛。そして俺が個人的にしている事は……──。
─放課後─
─スタスタ
「……ガン…ガン…カ?…いわ…あ、岩下!もー音読み訓読みってほんと謎だわ。岩下さんがポニテの子…テニス部で…活発で明るくてよく話しかけてきてくれる…。スポーツの話なら興味持ってくれるかも」
「……(そう言えば俺って学校であんまりコイツのこと気にしてなかったな…)」
「すずも…鈴木さんは茶髪で園芸部の人おっとりしてて優しくてカフェオレが好き…。次はこっちから話しかけてみせる…!」
『絶対にみんなと友達になってやる…!』
「…!」
─コト…
桐崎は物音に気づいたのか後ろに振り返ってきた。そして俺に気づいたのかガッシャァァン!という音を立てながら慌ててノートを自分の胸に抱いて隠す。
「なっ……ナナナナなんであんたがここに…!!いつから…!!」
「……あー、なんつーか…悪い」
「み…見たの…?聞いてたの…?」
「…まあな」
─グワっ!!
「待て待て!タンマ!」
殴りかかろうとしてくる桐崎をなんとか収める。
「…フン!何よ!笑いなさいよ!仕方ないでしょ…!?こーしなきゃみんなの事まだ覚えられないんだから…。どーやって話しかければ良いかもわかんないし…友達の作り方とか…私分かんないんだもん…」
「…は?(コイツ友達作ったことないのか?てっきり友達くらい作った事はあるのかと思っていた)」
俺の疑問に答えるように桐崎は話し出す。
「……クロードっているでしょ?小さい頃から良くしてくれてるんだけど。知っての通り過保護でね…。学校に行く時も護衛だの出かけ先でも銃持ってうろうろしたりしまいにゃ私の交友関係までチェックし始めて…」
「!!」
「あいつのせいで友達を作るのにもどれだけ苦労したか─」
「!」
「──…本当は…普通に友達作って、普通の暮らしがしてみたかった。日本に来ればこんながギャングの娘だって知らないからチャンスだって思った…。でも…やっぱり上手く行かなくて………。…なっ…!なんで私があんたなんかにこんな話…!!」
「……。俺、お前のことちょっと勘違いしてたわ。似た境遇で育った奴ってやっぱ思考も似るのかねえ…」
「…?」
「俺も持ってるぞ。そのノート。…まあ俺が作ったやつではないけどな…」
「なっ…」
「俺と兄貴もなちっせえ頃からヤクザってんで、小さい頃からクラスや学年が変わるたびに色々言われてな…俺はそういうの気にしなかったんだが…兄貴はそういうの作って頑張ってたんだ」
「…」
「俺は兄貴のそういうところカッコいいし、尊敬してるんだ。……岩下はいいやつだぞ?スポーツの話をすると熱いんだ。鈴木は勉強できるから分かんねえことは聞けばいい。森谷なんかお前と相性良さそーだな、確か話たがってた筈だ」
「…!!」
「俺、兄貴がそんなの書いてるのみてさ、すげー応援したくなったんだ。だから思いついたのは俺だけが一条のヤクザとして名前を広げること…。兄貴は弱っちいとかいう噂も流してな。正直嫌われることも覚悟してたんだ…でもさ兄貴はなんて言ったと思う?」
「え?……さ、さあ?」
「『お前にこんな事させてごめん、ありがとう』だってさ。笑っちまうだろ?それでそのノートを渡されたんだ。早くみんなに馴染めるようにってな…。まあ…俺が結局何を言いたかったかと言うとな…──
──俺はお前がそうやって努力してるの嫌いじゃないぜ」
「……!!」
「まあ…そのノート作るの手伝ってもいいぞ?クラスのことは大体わかるようになったし…お前は嫌なやつでもそこは尊敬できる奴だからな」
そう俺は言うと桐崎は少し気恥ずかしそうに顔を俺から背けて言った。
「…あーそう!!そこまで言うなら手伝わせてあげなくもないけど?」
「……本当に…かわいくないよなお前って…」
「当たり前でしょ!?なんで私がホントの恋人みたいにかわいくしなくちゃいけないわけ!?しょせんあんたとの仲なんて演技なんだから…!!」
「分かってるわ!」
俺は無理やり桐崎が持っているノートを取り上げてそのノートを読んでみた。……ん?
「おい!なんで俺のは悪口ばっかなんだよ!!」
「うっさい!乙女のノートを無許可で見るな!!」
「くっそ…!こんなの書いてるならさっき褒めなきゃよかったぜ!」
「なによ!!」
「なんだあ…?!」
俺と桐崎はメンチを切りあう。…やっぱコイツのこう言うところは好きになれねえ!!!!
…
寝ます〜。テスト山勘はダメだよ?