ゲヘナ1年生の連邦捜査部活動   作:watazakana

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Irregular from Gehenna

ドローンで投影された行政官は、私にも挨拶をしてきました。

 

『シャーレでの活動、お疲れ様です。有馬ウレイさん』

「アコ行政官……」

 

その声の調子は、とても労りには聞こえません。どちらかというと、脅しです。彼女が現れたことで、風紀委員会の方々に乱れがなくなり、ますます軍隊然とした動きになったことが、何よりの威圧になっています。あのチナツ先輩も縮こまっています。この人とは初対面ですが、トリニティじみたものを感じてとても不快です。この場に引き摺り出したい。

 

『さて、先ほど申し上げましたように、我々はゲヘナ学園の校則違反者を逮捕しに来ただけです。こうなってしまったことは残念極まりませんが、そちらの違反者を引き渡しさえすれば、我々はすぐにでも退去いたします。風紀委員会の活動に、ご理解ご協力をお願いできませんか?』

 

……条件としては、破格です。一個中隊の風紀委員会ともあれば、行政官の号令一つで私たちを圧殺できるでしょう。未だに生殺与奪の権はあの行政官の手にあります。彼女ができるであろう最大限の譲歩、そして自治区への尊重をしているように見えます。しかし、アビドスの皆が選んだ答えは、「拒否」でした。いかなる条件も飲まず、無条件の撤退要求です。

 

「どうして?行政官の気分次第でどうにでもできるんですよ!?そんな相手がここまでしてくれるんです、便利屋への弁償請求だなんていつでも……」

「ウレイ。あの子たちは、アビドスだよ」

 

先生の言っている意味がわかりません!アビドスだから何ですか!?

 

「今は全員の安全を考えるべきです!結果は同じです。痛い目見て便利屋を奪われるか、便利屋を引き渡すか!この相手がチンピラ風情ならわかりますよ、でも目の前にいるのは風紀委員会じゃないですか!」

「ウレイ、それは違うわ」

『ここは私たちの土地です。他校の武力組織よる無断の戦術的活動は、明確な自治権の違反。私たちは断固抗議します!アビドスで犯罪行為をした便利屋も、アビドスが処遇を決めます!そして、風紀委員会の皆さんには即時退去を要請します!』

「ん……相手が違反行為をしているなら相手がゲヘナだろうと、私たちはアビドスのために抵抗する」

 

私とは真逆の反応をするアビドスに、行政官は少し驚いた素振りを見せます。が、すぐに平静を取り戻しました。

 

『ウレイさんの忠告は正しいです。これだけの兵力を見せつけておけば、普通折れるはずですし。ですが、ここまで強気になれるとは……これも、先生のおかげなんでしょうか?』

「……」

 

先生とゲヘナ風紀委員会行政官。どちらも指揮職。これまでの相手は、指揮官がいませんでしたから、苦戦したのは便利屋程度でした。根本的に私たちが有利だったわけです。ですが、今回相手になるであろう組織は、明確に指揮官がいます。役職面では火砲を持たない私たちが圧倒的に不利、数の面では絶望的に不利、勝てる見込みがありません。いくら先生でも……

 

「ウレイ、やるよ。私たちなら勝てる」

「先生……」

「大丈夫。信じて」

 

先生の顔には、不安の色がありません。先生は信じているのです。生徒を、私たちを。そして、自身の指揮で勝てることを。それは、風紀委員会を舐めているわけではなく。

 

「……これで負けましたなんて、絶対許されませんから」

 

だったら。私は先生を信じます。信じてくれた人には、同じく信じることで返したいから。それに、ここまで来たらあの横乳には脳天に一発榴弾をぶち込まないと気が済みません。

 

『どうやら、ヤるしかなさそうですね?』

 

風紀委員会との戦いが、幕を開け───

 

「ぐぁっ!?」

「っ!?」

 

死角からの狙撃、風紀委員会の背面からの攻撃。イオリ先輩も動揺しているようです。

 

「な、何だ!?」

「許せない……」

「は!?」

 

イオリ先輩の背後に立つ伊草さん、怖すぎる。気づいたらショットガンのバレルがこちらに密着していたとか考えたくない。マガジンひとつ分、弾切れになるまで撃たれたイオリ先輩は気絶します。いつのまにか、便利屋さんは包囲を抜けていたようです。

 

「その前に、天雨アコ。聞きたいことがある」

 

そう言ったのはカヨコ先輩。

 

「偶然というのは嘘。私たちを相手取るにはあまりにも多過ぎる戦力は、他集団との戦闘を想定していたのは容易に想像がつく。でもあなたたちはアビドスなんかに興味はない。だったら、その組織というのはシャーレに他ならない。最初からシャーレの二人を狙っていたんだ。そのどちらがより重要なのかは知らないけど」

『……さすが、カヨコさんです。確かに、私はシャーレとの戦闘を最悪の状況として想定していました』

「けど、部隊運用としては非効率。風紀委員長はこんな運用をしない。アコ、これはあなたの独断?」

『さて、どうでしょう?聞きたいことはそれだけですか?』

「……シャーレを狙ってどうするつもり?」

『保護です。トリニティが掴んだシャーレという組織の情報、チナツさんが提出した報告書、この二つを鑑みて、シャーレはこれから結ばれる条約に際して及ぼす影響が未知数であるという懸念があります。それと、ウレイさんにはシャーレから退部をしていただきます』

 

退部?私が?急に矢面に立たされた私は、不意打ちに動揺します。

 

「えっ、ちょっと待ってください。退部って」

『トリニティとの条約において、シャーレは不確定要素。超法規的組織にゲヘナ生が在籍するという事実は、トリニティとの関係に悪影響を及ぼしかねません。二大マンモス校の高度な政治的活動に深刻な影響を与えることの重大さを、ご理解いただきたいものです』

「だからって、生徒の進退をアンタが決められるんですか?」

 

彼女は全く私を意に介しません。ああ、これはアンタの決定事項か。どんな形であれ、私からシャーレを奪うつもりなんですね。

 

『……さて、雑談に興じる時間も無くなってきましたので、一気に畳み掛けようかと思います』

『っ……!!さらなる兵力を、周囲全域に確認!』

「は……?」

 

風紀委員会、何人いるんですか?中隊通り越して一個大隊とかいうレベルじゃなくないですか?

 

「やるわよ!!」

 

私の不安とは裏腹に、こんな状況でも噴き上がる声が聞こえます。

 

「あんな扱いをされておいて、逃げるなんて選択肢は無いわ!!あの風紀委員会に一発ぶちかまさないと気が済まないのよ!!」

「社長!?」

「よっし、便利屋!挟み撃ちするわよ!この風紀委員会、コテンパンにしてやらないと!!!」

『……まあいいでしょう。第三中隊、第六中隊───』

 

行政官が号令を下す瞬間、立ち上がったイオリ先輩を、再び爆発がノックアウトしました。

 

『っ……今度はなんですか!?』

「6時方向に展開中の第八中隊より報告!『万魔殿』の超無敵鉄甲『虎丸』です!現在、包囲を突破し、こちらへ進行中!止められません!」

『……こちらも、6時の方向、3km先にこちらへ爆走する戦車を確認!ティーガーⅠです!』

『チッ、万魔殿……!!』

『あー、マイクテスト。マイクテスト……はぁ、聞こえますか』

 

気だるげな声とダウナーな見た目をした、癖っ毛赤毛のゲヘナ生の投影映像がドローンと共に乱入します。

 

『反応的に大丈夫そうですね。私はゲヘナ学園の「万魔殿」に所属する棗イロハです。天雨アコ行政官、今の状況について説明を求めます』

『イロハ……さん。見てわかりませんか?私は、校則違反者を逮捕するために───』

『他校の自治区を侵犯し、戦術的活動を行い、あまつさえ武力で治外法権をも通そうとしていた』

 

ぐう、という音が適切な程に典型的なぐうの音を出す行政官。しかし……万魔殿って何でしたっけ。

 

『その活動は明確な自治権の侵害、不祥事となります。マコト先輩に知られたら、予算減額は間違い無いでしょうね』

『……脅しのつもりですか?』

『はい。脅しです。マコト先輩から、有馬さんとシャーレの関係を保護するようにと命令されているので。有馬さんの意思ではないシャーレ退部は許容できるものではありません。風紀委員会の即時撤退、先生や有馬ウレイの活動の容認を、「万魔殿」は求めます』

 

何でもかんでも喋るこの人の言っていることが半分もわからないですが、援軍、なんでしょうか。

 

『誰が万魔殿の言うことなんか聞きますか!減額してみなさい、委員長にまた乗り込まれてボコボコですよ!!』

『その委員長も連れてきました』

 

イロハ先輩に代わって、風紀委員会の委員長、空崎先輩が登場します。行政官、文字に起こせない悲鳴をあげました。

同時に、私たちのすぐ後ろで止まった戦車から、イロハ先輩と空崎先輩が飛び降ります。

 

「アコ。説明して」

 

急にしおしおと萎縮する行政官。それだけでも、空崎ヒナの威力がわかります。キヴォトスの頂点の一人が姿を現したことで、この場の空気が一変するのですから。

 

『それは、その……』

「……まあ、状況は察したわ。先生と有馬ウレイを抑えることで、今後の条約に関する不安要素を排除する。そうした政治的活動の一環」

 

ため息をつくのは戦車組。

 

「そういうのは、そこに居る『万魔殿』に任せておけばいい」

「確かにこちらの領分とはいえ、さらっとこっちに仕事を振らないでもらえますか」

「そんなこともできないなら、いよいよ『万魔殿』の価値は無いわね。解体するなら私がタダでやるわ」

「わかりましたよ、めんどくさい……」

「じゃあ、アコ。ここから先は『万魔殿』に任せて、撤退。しばらく謹慎しておいて」

『……っ、わかりました……』

 

行政官は映像を切り、風紀委員会も撤退していきます。便利屋さんは……さっきのゴタゴタでどこかにトンズラこきましたね。こういうところで生き延びているんでしょうね……したたか……

しかし、対策委員会の皆はすでに空崎先輩とイロハ先輩に対して戦う気満々です。流石に待った方がいいと思うと言いかけた時、アヤネさんがストップをかけてくれました。

 

『委員長は、この状況を理解していますでしょうか?』

「もちろん。他校自治区における事前通達なしの無断兵力運用。及び他校生徒との衝突」

「ですが、公務妨害をしていたことが帳消しになるわけではないかと。……規律を武器にするなら、そういう理屈になりますが」

「それはそうかも」

 

もしかして、風紀委員会を下がらせたのは、この場は空崎先輩とイロハ先輩で十分だから?……反論はできません。イロハ先輩の「ティーガーⅠ」、それはゲヘナ学園に存在する「模範的な」戦車の手本。戦車操縦演習では、読書しているイロハ先輩の車両になす術もなく5両も撃破されたという逸話もあります。加えてキヴォトス最強の一角。組めば向かう所敵なしなのは言うまでもありません。おそらくこの二人で正義実現委員会と互角の戦いができるのではないでしょうか。

 

『うう……!便利屋の人たちもいない、ヒナ委員長と「万魔殿」の虎の子の戦車に、こちらが勝てる保証はない……こ、こういう時にホシノ先輩がいたら……!』

 

ホシノ、という言葉にぴくりと反応するのは空崎先輩。

 

「……ホシノ?」

『?』

「アビドスのホシノって、もしかして小鳥遊ホシノ?」

「知り合い、なんですか。空崎先輩」

 

先輩は目を伏せます。言いにくいのでしょうか。少し静かになりましたが、すぐに気の抜けた声が背後から聞こえました。

 

「うへ〜、こいつはまた何があったんだか。すごいことになってるじゃーん」

「……」

「はぁ、めんどくさい……」

「風紀委員会に、『万魔殿』まで……便利屋を追ってきたにしてはやり過ぎじゃない?」

 

空崎先輩は立ち尽くして、黙ったまま返答がありません。

 

「……委員長、やりますか?」

「…………一年生の時とは随分変わった。人違いじゃ無いかと思うくらいに」

「ん?私のこと知ってるの?」

 

ああ、ホシノ先輩は3年生。空崎先輩も3年生。だとしたら、知っていても不思議ではありません。かなり遠いとはいえ、一日のうちで往復ができる学区間ですから。

 

「情報部にいた頃、各自地区の要注意生徒たちをある程度把握してたから。そうか、だからシャーレが……」

 

空崎先輩は何か合点の行くような顔をして、今度は私たちに頭を下げました。

 

「委員長……」

「事前通達なしでの無断兵力運用、そして、他校の自治区で騒ぎを起こしたこと。このことについて、私、空崎ヒナより、ゲヘナの風紀委員会の委員長として、アビドスの対策委員会に対して公式に謝罪する」

「!?」

「頭を……」

「今後、ゲヘナの風紀委員会がここで無断侵入することはないと約束する。どうか許してほしい」

「……公式の意味、わかってますか?」

「……もちろん」

「はあ、めんどくさいですね……」

 

空崎先輩の目は、私の方へ向かいました。

 

「有馬ウレイ。今回の件について、風紀委員会があなたに退部を迫るようなことは起こらない。あなたの進退はあなたが決めていい。あなたへの進退についての干渉は、この私が絶対にさせないと約束しよう」

「……ありがとう、ございます」

 

うーん、寵愛と受け取られないか不安ですし、あの行政官に撃てなかったのは少し不満です。が、まあ行政官ならいつでも会えるでしょうし、これで収まるならよしとしましょうか。今日はオフの日だったはずなのに、なんでこんなことに……

 

「どうしてこういう人は自ら仕事を増やすんでしょうね……」

「あなたたちや部下のお節介のおかげよ」

「はいはい、では帰りますよ。早く寝たいです」

「少し待って」

「……早めに済ませてくださいね」

 

空崎先輩は先生に用があるみたいで、先生に色々と話しているようです。それが終わると、先生は私を呼びつけました。

 

「どうしましたか」

「うん、ヒナとイロハはウレイと話したいんだって」

「……断ったらどうなりますか」

「さぁ……?でも、何かあるとしても私が守るよ」

「……わかりました。じゃあ、行ってきます」

 

まあ、そう言われたなら行くしか無いでしょう。ゲヘナでツートップを相手に逃げ続けられるわけがありません。逃げたって損しかないのなら、ワンチャン虎子を得るために虎穴に入らざるを得ない時だってありましょう。

 

「意外とあっさりしてるね……」

「先生が信じてって言ったからには、私はとことん信じますよ。何かあったら連絡します。まあ、酷いことはされると思いませんし、先生は別行動で大丈夫ですよ」

「まあ、そう言うなら。気をつけてね」

 

と、いうわけで。私はひと足先に先輩たちに囲まれることにしました。

 

あの、これって何の罰ゲームですか?

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