おはようございます、有馬ウレイです。今、信じがたい光景を目にしています。
「ちょっ、まだ話の途中……んっ!ちょっと!?」
先生が、風紀委員の足を舐めていました。頭をフル回転させて考えた結果、先生がこのような変態行為に及んだ理由がわかりませんでした。
「先生……何してるんですか?」
「ああ、シャーレの1年生か……!先生を離してくれ!」
「イオリ先輩なんかしました!?」
「して……ない……!大人のプライドとかないの!?」
先生は尚も、頭を下げ続けています。
「昔はあったんだけどね……あっウレイそんな目で見ないで今ほんとに時間がないのわかってくれると助かるんだけど」
「あ、もしかして」
「……こいつ、委員長に会いたいって……そんな簡単に会えるわけないだろ!!」
やっぱり。大方、できないことを要求して門前払いをしようとしたイオリ先輩のことを馬鹿真面目に聞いたんでしょう。
「先生それ多分比喩です!すみませんほんと先生が」
「それでも、急がないと」
「急ぐのはそうですけど、もう少し落ち着かないと」
先生をイオリ先輩から離して、諭し合いという名の口げんかが始まろうとしていたところ、第四の声がします。
「なんだか楽しそうね?」
「い、委員長!?」
「ウレイに、先生……自分の為ではなく、生徒のために跪く人というのは、初めて見たわ。教えてくれる?私に、何をして欲しいの?」
「いえ、その、委員長、先生は跪いたんじゃなくて、脚を……」
「…………」
最初はイオリ先輩の言っていることがわからないようでしたが、空崎先輩はすぐにその意味を理解して、赤面しつつ絶句しました。空崎先輩そんな顔するんですね。意外。
ともかく、これでゲヘナの戦力を確保できました。これで、一応「戦争」ができるはず。アヤネさんに一報入れて、奪還作戦の開始です。
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『遊撃部隊を、美食研究会の皆さんが引き付けてくれています!北方では、ゲヘナ風紀委員会の方々が!続いてファウストさんの率いるトリニティの砲兵隊が火力支援によって後方部隊に打撃……!!』
ここまでの道のりは、私たちだけでは突破できなかったでしょう。PMCの動きは先生の指揮に勝るとも劣らないものでした。しかし、差は出てきます。先生と私、そしてアビドスがかき集めた、人と人のつながり。それは二つのマンモス校の戦力をアビドスの名のもとに集わせることができたのです。
「なぜだ、何故だ!!ずっと貴様らが邪魔だった!目障りだった!だから苦しめた!徹底的に搾り上げた!なのに、貴様らは楽しそうに、カビのようにへばりつく!!『シャーレ』が居るからか?だから強気になれるのか!だとすれば、先生、貴様が居なければ……!!」
「違うよ」
自ら姿を見せた理事の怨嗟を、先生は静かに否定します。
「私は確かに、大人としてできることをやってる。でも、一番希望を持っているのは、生徒たちだ。生徒たちが諦めなかったから、アビドスがアビドスであることを誇りに思っているから、そして、そんなアビドスの諦めない姿勢が、皆の心を動かした。だから、今がある」
先生の前に、私たちが立ちます。マガジン内は全弾装填済み。
「だから、どいてほしい。PMCの現状じゃ、私たちには勝てないよ」
「……私の……私の計画がぁあああああっ!!よくも!貴様ら全員、無事では────」
「死んでください……」
「なっ……!?」
ゆらりと動く紫色の影が、理事に向けて発砲します。執拗に、何度も。
「伊草さん……ってことは」
「ふん、こっそり助太刀しようと思ったのに、そう上手くはいかないみたいね」
『便利屋68の皆さん!』
「ぐっ……敵はたかだか10人程度だ!囲い込め!」
「ここは私たちに任せて、先に行きなさい!仲間を助けるために!」
ノリノリの便利屋は最強、これは以前にも見た通り。よし、勝ちましたね。なんだかムツキ先輩は戸惑ってるしカヨコ先輩は頭を抱えてますが。
「……別に、礼は言わないからね!でも、終わったら……一緒にラーメンでも食べに行くわよ!」
セリカさんの粋な呼びかけに、無言で答える便利屋さん。最初舐め腐ってごめんなさい、今のアル先輩はかっこいいです。大将さん、多分次の日くらいには大忙しですよ。
「セリカさんも繁忙期が近いですね」
「上等、全員もてなしてやるわよ。それと……」
「はい?」
「同級生なんだから、ちゃん付けで呼んでも構わないわよ。いつまでもさん付けだと、距離感じるのよ」
「……わかりました。セリカちゃん」
「よろしい」
シャーレ=アビドス連合軍は、ホシノ先輩のいる建物の中に突入し、敵を蹴散らし、研究員を締め上げて、ホシノ先輩を解放します。
「よっしゃ、開いた!!」
爆撃に次ぐ爆撃の末、重厚な扉を破壊して、シロコ先輩と私が、ホシノ先輩の肩を持って、そそくさと逃げました。
「みんな、どうして……」
「ホシノ先輩、まだ先生の印鑑をもらってなかったじゃないですか」
「それに、私達もまだ了承してない」
「先生……」
施設から出る私たちに、先生が呼びかけます。
「ホシノ」
「ああ、みんなと、先生が……大人が、ね……」
呆然自失だったホシノ先輩は、得心がいったように、生気を取り戻していきます。
「夢なんかじゃないですよ。それに、私も先輩に言いたいことありますし。謝りたいことだってありますから。でも、その前に……」
「お、おかえりっ、先輩!」
私の言葉は、セリカちゃんに奪われてしまいます。
「ちょっと、私が言いかけたでしょうが!」
「あっ、セリカちゃんに先を越されちゃいました!言わないって言ったのに、ずるい!」
「順番なんかどうだっていいでしょ!?」
「……無事でよかった」
それから、思い思いに始まるおかえりなさい。先生まで、おかえりなさいと言います。
「おかえりなさい、ホシノ先輩」
「……うへぇ、この期待に満ちた表情……もしかして、アレを待ってる感じ?」
「わかってるなら焦らさないでよ!」
「言った人の気にもなってください、意外と恥ずかしいんですから」
「うへ~……まあ、可愛い後輩たちのお願いだし、言ってあげるとしますかぁ」
そうして、この事件を締めくくる、一言が放たれました。
「ただいま」
実はエピローグがあるんじゃよ