こんにちは。有馬ウレイです。先生からトリニティへの長期出張の話を聞いて2週間が経ちました。
ゲヘナの件も先生に軽くお話して、「流石にトリニティに先生がいる間、D.U.でしかできない業務を私と当番の方の二人で処理するには流石に無理がある」と思い至った私たちは、シャーレの当番を一時的に増員することも考えました。が、当番を請け負ってくれる生徒は暇ではないので、当番も連日となると厳しいです。情勢も考えて、仲の悪い生徒同士(ゲヘナとトリニティの組み合わせは最悪ですし、ヴァルキューレとゲヘナ、トリニティとレッドウィンターも相性が悪く、喧嘩になりかねません)の組み合わせも避ける、となると、結局当番は一人だけのほうが効率が良いということもわかりました。
結局、リン先輩やアユム先輩に頼りがちになってしまいますし、あの人たちにも山ほど仕事があります。……苦肉の策ですが、シャーレの業務を一部他部署に負担してもらうことにしました。防衛室に治安維持任務の一部を肩代わりしてもらい、運動室と文科室に教務の補助を、調停室には学園の一部の動向を注視してもらい……というように、関係部署に少しずつ業務を振り分けていきます。
「とりあえず、他に任せられるのはこのくらいかな……ありがとう、ウレイ」
日もすっかり暮れて、エンジェル24で買ったお弁当とお茶を執務室で頂きます。
「いえ……むしろすみません、私がもう少ししっかりできていれば」
「一年生でよくやってる方だと思うよ?見習ってほしいなあ、交通室の誰かさんには」
「……はぁ、お世辞なんてしても何も出ませんよ」
「いやいや、世辞抜きなんだけどね?」
今日の弁当はコロッケ弁当。さくふわなコロッケと付け合わせのレタスが私のお気に入りです。しかし、黙ったまま食べるのも居心地が悪いので、エデン条約のことについて話をすることにしました。
「先生、エデン条約について、トリニティで動きはありますか?」
「んー、まあ、色々外聞を取り繕ってる最中かな」
「なんか、いかにもな感じですね……」
「そっちは?」
「トリニティと仲良くするってことが暴れる理由にはなっていますが、みんなそんなに関心を持っているわけではないです。風紀委員会はトリニティに迷惑が掛からないように少し締め付けを強くしてます。『万魔殿』は、今日お話した通りです」
『万魔殿』は、何かを企んではいるけれど、表面的には危険を全部排除したい……ということ。企んでいる内容はイロハ先輩曰く「エデン条約の独占」であること、実現可能性はそんなにないこと……つまり、マコト先輩が思いつきで何かやってるということ。
「ウレイは、『万魔殿』をどう思う?」
「イロハ先輩はまともですけど、どうにもマコト先輩の底がわかりません。イロハ先輩曰く『馬鹿で単純』だそうですが、間違いなくあの風紀委員会の行政官と同じ系統だと思います」
「そんなに難しく考えなくていいよ。注意した方が良いのかどうか、とか、そういうレベルでいい」
「なら、一応注意しておいた方が良いと思います。空崎先輩も目を光らせているでしょうから、警戒まではしなくてもいいかなと思いますけど……マコト先輩が何を考えてるかわからないので」
「なるほどね……」
丁度食べ終わったころ、会話も途切れます。
「ウレイ、もしヤバそうだったら私に言ってね」
「はい。なるべく情報は共有しようかと。先生も、エデン条約直前にトリニティへ行くのですから、危ない真似はしないでくださいね」
「どちらかというとそれはこっちの台詞かな……」
来週から、忙しい日々が始まります。先生は私を見送って、私はゲヘナ自治区へと帰ります。スラムを抜けて、住宅街へ。すると、見慣れない白い制服を着た生徒が視界に入りました。私の存在を認知したら、そそくさと逃げていきましたが……連邦生徒会かトリニティの生徒でしょうか。
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「でも、その立派な志を、誰もが理解するわけじゃない。それどころか、理解したうえで悪用する人間もいるわ。そうした人たちが、ウレイを害するかもしれないということは、留意しておいて」
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ふいに空崎先輩の言葉が脳裏をよぎりました。
「まさか、ね……」
連邦生徒会あるいはトリニティの生徒がゲヘナで悪さを働くなんて、トリニティならまだしもこんな時期でそんな荒唐無稽なこと……そうだ、きっと見回りだ。私が突然現れたから、驚いただけ……
なんて、言い聞かせるには怪しすぎて、もやもやは残ります。
結局その日は、別の学校の生徒だと思うことにして、眠りにつきました。